あの子に決めた。後ろの正面.....

***


 ――これで、一つ解決。


「今、連絡しました。ラインですけど。鈴音に」

「ご苦労」


 長柄に王領寺が煙草を咥え、話しかけて来た。


「おい、長柄、だっけ?」


 名前を呼ばれて、ぎくりと背中を震わせる。


「呼び捨てヤメロ。ここは禁煙でお願いしたいんだけど」

「――電子煙草だ。俺を教授と見ない女なぞ、そこらへんの苔と同じ。おまえも巫女か。和宮の謎は深い。子供が知るもんじゃねえ。それでも俺を捕まえるような挑発は姉貴のためか?」


「それもあるよ」


 ん? と王領寺が煙草を指に挟み込み、長柄を見下ろした。


「――八幡宮に置かれた意味を知りたいんだ。今、どうして、ウチ、なのか。誰が置いたのか。左手がない。足のパーツも足りない。そこまで再現しているなら、考えられるはひとつ」


 王領寺がニィと笑った。


「呪い、だな。昔はそっくりな人形を作り、それを本人に見立てて殺す。五寸の釘より邪悪な人形呪いがある。神道はヒトガタを敬遠するだろ。しかし、仏教はヒトガタに念を封じ込める。その八幡宮に人形を置いたバカ。はは、――確かに興味、出て来たぜ」


 ちら、と流し目されて、長柄は目元を熱くした。頬に続いて、目元。手。これはやっぱり。


 ――長柄ちゃん、好きな相手は苛めるタイプだ~……やっぱり親友の指摘は正しい。


「おう、付き合ってやるよ。ちょうど花粉症も治まって、気分もいい。六月は暇でね。講義も骨のある学生いねぇし。日本考古学の発見は低迷している状態だ。次の学説本でも書いてやら。買え」


 思わず笑顔が零れて、声が上ずった。


「買うよ。面白そうだ。読んでみたい」


王領寺がにっと笑った。


(う、笑顔、可愛いじゃないか……っ)


 しどろもどろは一瞬で仕舞って、長柄はびし、と持っていた扇子を王領寺に突きつける。


「――約束しろ。謎が解けるまで、あたしに付き合うって」


 お? と王領寺が目を見開く。


「あと、電子でも煙草は煙草。八幡宮内は――禁煙だよ」


 長柄は王領寺の煙草を奪い取って、さっと唇に挟み込もうとした。やっぱり煙草だ。匂いが既に苦い。


「長柄ちゃん? 未成年だよな。駄目だよ?」と冷静な天領に窘められて、はっと気付いた。


 ――やべ、ざーとらしく、間接キスしようとしてた? 


(なにやってんだろ、あたし。動転している。完全に)


「煙草の味が知りたいなら、方法あるが」


 とんとん、と唇を叩いて見せられて、ぼぼぼぁっと顔から毘沙門天が飛んでいった。



 ――からかわれている。くっそ。



 唇を引っ込めた前で、王領寺は天領と頷き合った。


「天領、とことん付き合ってやるか。流水大学の名を届かせて、この生意気巫女に「教授さま、さすがですわ」と指揃えての土下座させてやらにゃ、気が済まねー」


「だれが土下座だ。あたしゃそんな性格じゃないよ」


 斜め下から見上げた王領寺の逞しさと、大人の狡猾さ。年齢は多分三十路か。手も、腕も鎖骨も、声も。全てが大人な男の色気に取り巻かれている。


 優しさを、狡猾さが凌駕している。完璧。


 そうだ。あたしは、この大人の教授にときめいている。


 ……長柄ちゃんて、好きになると一直線……脳裏の鈴音、うるっさい。



 ――姉に勘づかれただろうか。人形にとりつかれそうな姉の前で、恋遊びしている場合か。


(いや、こいつが悪いんだ。大人で、――格好良くて、強い、から……)


 駄目だ。

 弁解も変になってきた。


 姉がスタスタと歩いてきた。


「すみません、妹も頑固なんです。よろしくお願いします。王領寺教授、天領先輩」


 姉は、らしくなく、二人に頭を下げた。上げた顔は、人形と同じ、強い瞳に変わっている。


 ――何かを伝えたい。人形がそう思っているのなら。姉を通して何かを伝えようとしている? 万物愛する姉は、その想いを受け止めたに違いない。


「……お願いします。王領寺」

「おまえ、俺が好きだろ」


 天領がずっこけた。


「俺は謎解き嫌いなんだよ。結論が見えればすぐに解決しねェと気持ちが悪ィ。さっさと言え、ガキ巫女。答えたら、名前で呼んでやる。おまえさっき、名前で呼ばれて肩を震わせた。――面白い反応だったぜ?」


 長柄はまっすぐに王領寺を見、睨む以上に眼球に力を込めた。



「そうだよ。あんたが好きんなった」




〝あの子に決めた。後ろの正面、だぁ~れ………………〟

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