坊主は上手に屏風に何を書く?



「しー……」


颯真が珍しく寺に天領を手招いた。法事の真っ最中だ。


ぺたぺたぺた。


(あ、おまえ、裸足か!)


(うん。酒屋らしいだろ、はっはっは)


ごん。


振り回した笏の鈴が本堂に小さく響く。


「おまえが変なことを言うから、呼んだんだ。静かにしろ」

「へいへい。えんどうおおたにそうま。へーんななまえ~」


ヒタヒタ。

ぺたぺた。


「どうしてそう、足音をベタベタさせるんだよ。親父に聞こえるだろ。……もうちょっとだ」




……そうまー。坊主って上手に屏風に絵を描かなきゃいけないんだってさー。ウチの親父が言ってたー


……なんだって?


……マジマジ。俺、見届けてやるよ。


……む。



天領悠斗の言葉が離れない颯真は、こうして寺に天領を呼び寄せた。


坊主になれないとは一大事。


颯真は、父のような坊主に憧れている。僧侶服は憧れだし、旅の行きずりの坊さんからは笏を貰った。

こうして、静かに世の中を斜め上から窘めたい。特に天領。


「これが屏風だ」


お堂の裏に回り込んで、颯真は天領に屏風を見せた。金襴緞子の衝立のような屏風は、かつての年代物で、白川からの譲り受けし品だ。


「こうやってくねくねに折れてるだろ。これが屏風」



――さて、こいつに如何に自分が坊主に相応しいかを見せつけなければ。


颯真は正座すると、鞄から墨と筆を取りだした。


屏風は広い。墨絵を描こうと言うわけだ。


「では行く。ええと、坊主を書けばいいんだな?」


坊主は頭が丸い。ちょこりんと座っている。傍に木魚……。木魚ってどらやきみたいでよかったっけ?

で、座布団。お経を読んでいるから口を開けているだろう。



できあがった絵は、まるで「ムンクの叫び」



「……墨って垂れるんだな」


天領の一言にがっくりとしたところで、親父に見つかった。


***************


その夜、「喝!」の声が二つお堂に響いた。


「なんで俺まで!!」


「喝!」




「すいませえん。はちまんぐうのなつまつりのお知らせでーす」

「しまのチラシでーすー」


 二人のチビ巫女がチラシを持って縁側にやって来た。

 

 天領と颯真は気がそぞろになった。


 颯真は思った。



(女の子、めっちゃ可愛い。僕に妹が生まれたら、ばかみたいに可愛がろう――)と。




「喝!」



★おわり★




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