冬のキスと想い出の橋

八幡宮に続く橋を渡りながら。


「先輩 ありがと」

自転車を押しながら悠斗はチラッと雛嶋香を見やる。


冬の飛騨は聳え立った山脈の冷気で冷え込みが激しい。


はふ、と嶋香は白い息を吐いて、買い出しのお饅頭を3箱抱えて歩いている。


「おまえさんとこ 年末年始は大変だもんな」

「掻き入れ時ですよ~」


嶋香は告げるとにこっと微笑んで、「ねえ」と店の前で足を止めた。


ほかほかの肉まん。


「半分こ しよ!」ともう並んでいる。嶋香は絶対にひとつを分け合おうとする。

(足りない)とは言わない。ぱふっと食む表情は湯気に火照って可愛らしい。


「おーいしーいv」


「ああ 温かいな」


「うん? ふかしたてがいいよ」


「じゃなくって」


ふくっとした頬を片手でさする。

.......ラブシーンするには無邪気すぎる17歳の巫女。


「か 川が冷えて綺麗だよっ」


わたわたと橋を覗く巫女の耳は真っ赤だった。


-------キスしたんだっけ?


ああした。冬の白い息を交換しながら、ゆっくりと。


**********



「この橋通ると思い出すよねー」


数年経って お腹の膨れた巫女とやっぱりこの橋を渡っている。


「なにを?」聞くと嶋香はやっぱり「川が冷えて綺麗だよっ」と耳を赤くさせていて。


ああ こういうのが幸せというのか?


やがて一緒の場所に帰るようになるのだろうか。


普通にキスできるようになった巫女は合格。「変わらないね」と言いながら、冷えた手をポケットの中でそっと握る。


風花散りそうな空を見上げると冬の雲は綺麗に橋を渡していて。


澄んだ空気の中で二人でやっぱり白い息を交換しながら寄り添った_____。

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