夏の前触れ

鬱々とした湿度が高まる

今にも泣き出しそうな空は

鈍色にびいろの心を写し取って

雲は暗澹と垂れ籠める


寒々しい色なのに

不快な蒸し暑さに苛立ち

僕の隣でネクタイを緩めたきみは

小さな舌打ちと共に呟く


──勘弁してくれよ…


思わず洩らしたのだろう言葉に

微かな既視感デジャヴが重なり

僕は息を呑んで

きみの横顔を盗み見た


あれは、いつのことだった。


滴る汗と共に目元に滲んだ悔しさを

ぐい、と拭った腕を振り

きみは夢ごと捨て去った

青春の終わりを睨み据えて


あの眩しかった夏を前に

梅雨空は燻る想いを吸い上げて

鈍色に染まる過去を

洗い流す雨を降らせているのか


美しい十代の思い出を

一層、鮮やかなものとするため


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