第十五章 聖印神話の終結と新たな始まり

第百八十九話 月への道

 柚月達は、光城の屋根に上り、月を見上げている。

 いよいよ、決戦の時が来た。

 もう、後戻りはできない。

 それでも、柚月達は、決して、振り返ろうとはしなかった。

 全てを守る戦いに身を投じる事を決意したのだ。


「頼んだぞ」


『わかった』


 柚月は、光黎に懇願し、光黎、空巴、泉那、李桜は、月への道を作り上げる。

 巨大な黄金の道は、曲線を描きながら、月につながった。

 柚月達は、その道を駆けていく。

 目指す場所は、ただ、一つ、静居達がいる月だ。

 だが、彼らの前に、妖達が、出現した。


「妖達か!?」


「静居の奴、俺達を確実に殺すつもりみてぇだな」


「だが、ひるむつもりはないぞ!!」


 全ての妖が式神に戻ったというのに、なぜ、妖達が、いるのだろうか。

 それは、静居と夜深が、生み出したからだ。

 柚月達の体力を減らし、確実に、魂事殺すために。

 九十九も、千里も、刀を鞘から抜く。

 ひるむつもりなどなかった。

 妖達が、一斉に柚月達に襲い掛かり、柚月達は、構える。

 だが、その時であった。

 柚月達の後方から、術が飛び、妖に直撃したのは。


「っ!!」


 柚月達は、驚愕し、振り向く。

 すると、柚月達の背後には、深淵の界にいた式神達がいた。

 彼らも、柚月達と共に戦う為に、ここへ来たのだろう。


「俺達が、あいつらの相手になる!!」


「さっさと、静居を倒して来い!!」


「ありがとう!!」


 式神達は、妖達の相手になると告げる。

 このまま、柚月達を静居達の元へ行かせるためであろう。

 彼らも、和ノ国を守ろうとしているのだ。

 人間と共存するために。

 誰かに命じられたからではない。

 自分の意思でだ。

 柚月達は、式神達にお礼を言い、先へ進んだ。

 式神達は、一斉に、妖達へと向かっていく。

 まるで、大戦のようだ。

 彼らも、ひるまず、突き進んでいく。

 だが、妖達は、危険を察知したのか、式神達の間をすり抜けてしまった。


「しまった!!」


「このままだと!!」


 式神達は、焦燥に駆られ、振り向こうとするが、次々と妖達が、迫ってくる。

 妖達は、和ノ国を滅ぼそうとしているのであろう。

 このままでは、和ノ国に住む人々や式神達が、殺されてしまう。

 式神達は、助けたいところだが、目の前に現れた妖達のせいで行く手を阻まれてしまった。

 妖達が、聖印京や平皇京にたどり着こうとしている。

 だが、その時だ。

 聖印寮の隊士達や平皇京の隊士達が、妖達を討伐していったのは。


「必ず、ここを守り通すぞ!!」


「あいつらが、帰ってこれるようにな!!」


 聖印京では、月読と虎徹が中心となって、妖達と交戦している。

 和ノ国を守ろうとしているのは、柚月達だけではないのだ。

 月読も、虎徹も、そして、聖印一族も、一丸となって、和ノ国を守るために、戦おうとしていた。


「あてらも、協力するで」


「頼んますよ。信じてます」


 平皇京でも、撫子、牡丹が、中心となって、妖達と戦いを繰り広げている。

 平皇京の人々も、和ノ国を守るために、命がけで戦っているのだ。

 柚月達が、静居達を止めてくれると信じて。

 柚月達は、月へ向かいながらも、式神達や月読達が、影で支えてくれていると感じ取っていた。


「皆、協力してくれるんだな」


「ああ」


 自分は、一人ではない。

 大勢の人々が、支え、共に戦ってくれる。

 それを感じとった柚月達は、式神達や月読達に心の中で感謝し、月へと向かった。


「このまま、突っ切るぞ!!」


 自分達が、やるべきことは、ただ一つ。

 静居達を止める事だ。

 月を目指す柚月達。

 だが、ここで、予想外の事が起こる。

 突如、道は遮られ、岩のようなものが、宙に浮き、柚月達の前に現れたのだ。

 それも、巨大な岩が。

 柚月達は、知らないのだ。

 その岩が、惑星と呼ばれるものであり、それを動かしたのは、村正である事に。

 惑星が、柚月達の前に現れると、千草と村正が、惑星に降り立ち、柚月達の行く手を阻んだ。


「ここは、通さないよ?」


「千草、村正……」


 千草は、唸り声を上げ、村正は、無邪気に語りかける。

 もちろん、静居の命令だ。

 柚月達を殺せと。

 柚月と朧は、草薙の剣を鞘から引き抜こうとする。

 だが、その時だった。

 綾姫が、柚月達の前に出たのは。


「綾!!」


「行って!!ここは、私達が……」


「しかし……」


 綾姫は、柚月達を先に行かせようとしているのだ。

 静居に対抗できるのは、柚月、朧、九十九、千里、光黎。

 彼らは、ここで立ち止まらせるわけにはいかないと。

 だが、柚月は、綾姫の身を案じ、躊躇してしまう。

 綾姫の事を想っているからこそであろう。

 ここで、瑠璃と美鬼が、前に出た。


「大丈夫、綾姫は、私達が守る」


「ですから、行ってください!」


「瑠璃、美鬼……」


 瑠璃達も、綾姫と同意見のようだ。

 柚月達を先に行かせるため、千草、村正と対峙する決意を固めた。

 朧は、二人の身を案じる。

 だが、同じ想いを抱いているのは、綾姫、瑠璃、美鬼だけではない。

 柘榴達も、前に出たのだ。

 空巴、泉那、李桜も。


「安心してよ、絶対、勝つしさ」


『私達も、ここに残ろう。こいつを倒さなければならないからな』


 柘榴達は、宣言する。

 いずれにせよ、千草も、村正も、倒さなければならない相手だ。

 それに、聖妖大戦時に、柘榴達は、惨敗してしまった。

 柘榴達にとっては、悔しい過去なのだ。

 その過去を払拭するために、もう一度、再戦しようとしているのだろう。


「兄さん、行こう」


「わかった」


 綾姫達の想いと気持ちを汲んだ朧は、柚月に先に行くよう促す。

 柚月もうなずき、前を見据えた。


「行くぞ!!」


 千草、村正の事を綾姫達に任せ、柚月、朧、九十九、千里、光黎は、先に進んだ。

 だが、千草も、村正も、柚月達を止めようとはしない。

 ただ、呆然と立っていただけなのだ。

 おそらく、千草と村正は、静居から綾姫達を食い止めるよう命じられていたのかもしれない。

 万が一、柚月達が、先に行くことになっても、後追いするなと。

 綾姫達は、宝器を取り出し、構えた。

 

「ふうん、ボク達を倒せると思ってるんだ?」


「思ってるんじゃなくて、倒すのよ、何が何でも!!」


 千草は、無邪気な笑みを浮かべ、問いかける。

 聖妖大戦では、惨敗したというのに、勝つ気でいるのが、おかしくてたまらないようだ。

 神々が、味方に付いたとはいえ、自分達には、勝てないと思っているのだろう。

 だが、綾姫は、宣言する。

 思っているのではなく、勝つのだと。

 たとえ、この身が、どうなってもだ。

 その覚悟でなければ、二人には、挑めないのだろう。


「だって、千草」


「ユルサナイ……オマエタチ……コロス……」


「さあ、殺し合いの始まりだよ!!」


 千草も、村正も、殺気を瞳に宿す。

 綾姫達を殺すつもりなのだ。

 綾姫達は、一斉に、千草と村正に向かっていく。

 だが、千草と村正は、動じることなく、ただ、立っているだけであった。


「これでも、喰らえ!!」


 村正は、鬼を生み出した。

 それも、何体も。

 もちろん、戦力は、自分達の方が上回っていると思い込んでいる。

 だが、確実に殺すためであろう。

 鬼は、綾姫達に襲い掛かった。


「ちっ。鬼を生み出しやがったか」


「厄介だね、これ」


「さて、どうするかな?」


 千草と村正だけでも、厄介だというのに、鬼を生み出されては、苦戦を強いられてしまうのは、確実だ。

 時雨も、和巳も、舌を巻く。

 村正は、無邪気に笑みを浮かべていた。

 もう、彼らは、打つ手がないと、確信を得て。

 だが、その時であった。

 空巴、泉那、李桜が、一斉に、鬼を討伐し、消滅させたのは。

 これには、村正も、驚きを隠せなかった。


『私達が倒せないとでも思った?』


『たとえ、相手が、鬼でも、一瞬で、消すことくらいできますよ』


 村正は、神々の力を見くびっていたようだ。

 鬼さえ、生みだせば、勝利は、確実だと思っていたのだろう。

 計画が狂ってしまった。

 だが、村正は、怒りを露わにすることも、焦燥に駆られてもいない。

 この状況さえも、楽しんでいるかのようだ。


「ふうん、やるじゃん。だったら、千草の出番だよ!!」


 村正は、千草に命じ、ついに、千草は、綾姫達の前に出る。

 綾姫と初瀬姫が、結界を張り、透馬と和巳が、聖生の力で、宝器を生み出し、行く手を阻む。

 だが、千草は、爪で、宝器を破壊する。

 雄たけびを上げながら、突進するかのように、迫ってくる千草。

 そこへ、和泉、時雨が、麗線と葉碌で、千草を捕らえ、景時が、天次の力を借りて、風の矢を放ち、千草の心臓を狙う。

 千草は、麗線と葉碌を振り払い、矢を破壊する。

 次に、高清、春日、要が、一斉に、千草に斬りかかり、千草は、それを薙ぎ払う。

 すると、夏乃が、時限・時留めを発動し、一瞬だけ、時を止めた。

 瑠璃が、美鬼を憑依させた状態で、千草に、斬りかかるが、千草は、それすらも、はじいてしまう。

 だが、ここで終わりではない。

 柘榴は、真登を憑依させた状態で、霧脈を発動して、姿を消していたのだ。

 そして、千草の背後に周り、槍で、心臓を貫こうとする。

 だが、千草は、それすらも、振り払い、危機を感じたのか、柘榴から、遠ざかった。

 村正は、一人、空巴、泉那、李桜と相手をしていたが、少し、追い詰められてしまったようだ。

 村正は、後退し、千草の肩に飛び乗った。


「やるねぇ。前とは、全然違うや」


「当たり前です!」


「油断してると痛い目に合うぜ」


「はは、そうだね。なら……」


 千草と村正は、感じ取ったようだ。

 今までと動きが違うと。 

 それもそうだ。

 彼らは、幾度となく、戦いを繰り広げ、生き抜いてきた。

 確かに、一度は、千草に惨敗してしまったが、千草の能力が、不明であったことと、千草が、元聖印一族であり、殺す事を躊躇してしまったからだ。

 だが、今は、違う。

 躊躇してなどいられない。

 彼を救うには、殺すしかない。

 綾姫達は、そう、察していたのだ。

 夏乃と透馬は、構え、村正をにらみつける。

 村正は、不敵な笑みを浮かべ、千草に命じた。

 すると、千草は、聖印能力を発動し始めたのだ。


「千草の聖印を味わってもらうよ」


 村正は、千草に本気を出させようとした。

 今度こそ、綾姫達を殺すために。

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