第百八十八話 最終決戦へ

 九十九、千里、美鬼、真登は、別の部屋で、酒を酌み交わしているようだ。

 式神達だけで、話すのは、初めての事だ。

 不思議な気分ではあるが、悪くない。

 妖の時は、仲間意識など持っていなかったというのに。

 人間と関わった事で、お互いを理解し合えたのだろう。


「やっと、ここまで来たか」


「そうだな」


 ついに、明日は、最終決戦だ。

 もう、後には引けない。

 それでも、九十九達は、逃げるつもりはなかった。


「長かったようで、短かったような気がするぜ」


「そうっすね。おいらにとっては、短かったのかもしれないっすね」


「そうですね」


 九十九は、これまでの事を思い返すが、長かったようで、短かったような気がしてならない。

 それは、真登も、美鬼も、同意見のようだ。

 長いときを過ごしてきた彼らにとって、あっという間の出来事のように思えたのだろう。


「……この戦いが終わったら、わたくし達は、人間と共に暮らせるのでしょうか?」


「ったりめぇだろ。暮らせるに決まってる。俺は、信じてるぜ」


「そうだな。もう、俺達は、命を奪う妖じゃない。人間を支え、守る式神だ」


 ふと、美鬼が、不安げな表情を見せる。

 戦いが、終わったら自分達は、どうするのだろうかと、不安に駆られたのだろう。

 人間と共に、生きていけるのか。

 だが、九十九と千里は、信じているようだ。

 自分達は、式神だ。

 人間の命を奪う存在ではない。

 人間を守る存在だ。

 ゆえに、共存できると信じているのだろう。


「心配する必要、ないってことっすね」


「そうみたいですね」


 九十九と千里の言葉を聞いた美鬼と真登は、安堵しているようだ。

 戦いが終われば、自分達は、人間と共に暮らせると確信を得たのだろう。


「明日、ぜってぇ、勝ってやる」


「ああ。和ノ国を救う」


「頼んだぜ」


「任せろ」


 九十九達は、必ず、静居と夜深に勝ち、和ノ国を救うと誓った。

 柚月達と共に生きていくために。

 いや、全ての人間と式神の為に。



 朧は、別の部屋で、庭を眺めている。

 過去の事を思い出しているのだ。

 幼い頃、柚月、椿と共に、蛍を見た事、特殊部隊の仲間達と暮らした事、あの時は、朧は、まだ、幼く、体が弱かった。

 だが、今は、違う。

 柚月達と共に、戦う力を手にしたのだ。

 静居と夜深を止めるための力も得た。

 九十九と千里を同時に憑依させる力だ。

 朧は、この力で、柚月を守ると決意していた。

 瑠璃も、朧の隣で、庭を眺めている。

 こうして、二人で、穏やかな時を過ごせるとは、思いもよらなかった。

 瑠璃は、命を差し出すために、生まれてきたと思い込んでいたのだから。

 だが、朧に助けられ、隣で、同じ時を過ごせている。

 それは、とても、些細な事だが、幸せな事だ。 

 瑠璃は、ずっと、こうしていたいと感じていた。


「いよいよ、だな」


「うん。なんだか、怖い」


「大丈夫。俺が、ついてる」


「そうだね」


 瑠璃は、恐れを抱いているようだ。

 決戦の話になると、ふと、不安に駆られた様子を見せる。

 怖いのだろう。

 皆を失ってしまうのではないかと。

 命を奪われてしまうのではないかと。

 そんな瑠璃に対して、朧は、そっと、瑠璃の手に触れる。

 恐怖を取り除くかのように。

 瑠璃は、安堵したのか、穏やかな表情を浮かべた。


「なぁ、瑠璃。この戦いが、終わったら、瑠璃色の海、見に行かないか?」


「え?」


 朧は、瑠璃に、海を見に行こうと提案する。

 もちろん、瑠璃色の海をだ。

 瑠璃は、戸惑ってしまった。

 いきなり、どうしたのかと、思ったのだろう。


「ほら、約束、したから、さ。いや……かな?」


「行きたい。朧と一緒に、瑠璃色の海を見に行きたい」


 朧は、以前、約束したことを覚えていたのだ。

 静居が、和ノ国を支配しはじめた為、瑠璃色の海を見られなかったのだ。

 その約束を果たしたいと思っているのだろう。

 瑠璃も、瑠璃色の海を見に行きたいと告げる。

 もちろん、朧と一緒にだ。


「約束、だな」


「うん」


 朧は、改めて、約束を交わす。

 約束があるのなら、負けるはずがない。

 いや、命を落とすわけにはいかないのだ。

 瑠璃は、改めて、必ず、生きて帰ることを決意し、微笑みながら、うなずく。 

 すると、突然、朧が、瑠璃を抱きしめた。


「お、朧?」


「俺、絶対に、守るから、瑠璃の事」


「私も、だよ」


 抱きしめられた瑠璃は、困惑しているようだ。

 突然、どうしたのだろうと。

 朧は、瑠璃に告げた。

 必ず、守ると。

 もちろん、瑠璃も、同じだ。

 朧を守り、生きて帰ると、決意を固め、朧を抱きしめた。



 柚月と綾姫は、別の部屋で、夜空を眺めている。

 夜空には、赤い月が、浮かんでいる。

 そう思うと、柚月達は、いよいよ、静居達と決戦が始まるのだと、感じていた。


「明日は、決戦だな」


「ええ……柚月……大丈夫?」


「ん?何がだ?」


 綾姫は、恐る恐る柚月に問いかける。

 だが、柚月は、何が大丈夫なのかとわからないようだ。

 突然、どうしたのだろうと、疑問を抱いたのかもしれない。

 なぜなら、綾姫は、不安に駆られた様子であったから。


「ほら、いろいろ、あったから……」


「そうだな」


 綾姫は、柚月を気遣ったようだ。

 聖印京を取り戻してから、今日まで、様々ことがあった。

 勝吏の死、実の両親の過去、そして、葵と瀬戸、光焔の別れ。

 柚月にとっては、辛く、重い事だ。

 心が、砕かれてしまうのではないかと思うほどに。

 柚月は、うなずくが、落ち着いているようだ。

 その辛さを乗り越えてきた証のように、綾姫は、思えた。


「もう、大丈夫だ。ありがとう」


「ええ」


 柚月は、綾姫に感謝の言葉を述べる。

 自分は、支えられているのだと察して。

 綾姫は、うなずき、微笑んでいた。

 二人は、ふと、夜空を見上げる。

 夜空には、赤い月が出現している。

 大戦時に、傷つけ、眠っていた柚月と朧が、目を覚ましてからずっとだ。

 血のように染まった月を目にした綾姫は、ふと、不安に駆られ、うつむいていた。


「ねぇ、柚月」


「ん?」


「本当に、私達、戦わないといけないのかな?勝てるのかな……」


 綾姫は、いつになく、不安に駆られた様子で、柚月に問いかける。

 いつもなら、強気なのに。

 柚月は、察したのだ。

 綾姫は、本当は、怖いのだと。

 恐怖に押しつぶされてしまいそうなのだと。

 だが、綾姫は、我に返ったようで、突然、柚月に背を向けた。


「ごめんなさい。私……」


 綾姫は、体を震わせる。

 ずっと、恐怖に耐えていたのだろう。

 柚月や朧は、静居と対峙する。

 それは、あまりにも危険だ。

 静居は、魂までも、消滅させようとしているつもりなのだから。

 そう思うと、怖くて、怖くて、たまらなかった。

 だが、その時だ。

 柚月は、綾姫を後ろから抱きしめたのは。


「綾、大丈夫だ。絶対に、勝つから」


「どうして、言いきれるの?」


「母上と父上が願ってるからだ。生きてほしいって。それに、皆がいてくれる」


 綾姫は、なぜ、柚月が、勝って、帰ってくると言い切れるのか、わからなかった。

 これから、熾烈な戦いが待っているというのに。

 柚月が、言い切った理由は、葵と瀬戸の為だ。

 葵と瀬戸は、自分の幸せを願い、命がけで戦った。

 支え、守ってくれた。

 だからこそ、絶対に、勝つと言い切ったのだ。

 それに、朧達が、柚月と共に戦おうとしてくれている。

 一人であったら、負けていただろう。

 だが、朧達や皆がいたからこそ、柚月は、ここまでこれたのだ。


「だから、俺は、生きる。綾と朧達と、皆で」


「約束よ。守らなかったら、ひっぱたいてやる」


「参ったな。本当に、生きて帰らないとな」


「もちろんよ」


 柚月と綾姫は、約束を交わす。

 そして、柚月は、綾姫から離れ、綾姫は、柚月の方へと体を向ける。

 柚月と綾姫は、口づけを交わした。



 光黎、空巴、泉那、李桜も、光城から、夜空を眺めている。

 あの赤い月に静居達がいる。

 そう思うと、いよいよ、決着がつく時が来たと考えているようだ。

 千年越しの決着が。


『もうすぐ、決着がつくのね』


『私達は、守りきれるでしょうか……』


『もちろんだ。皆が、託してくれたのだからな』


 空巴達にとっても、負けられない戦いだ。

 当然であろう。

 空巴達は、この時の為に、復活し、柚月達と共に戦ってきたのだ。


『葵、瀬戸、光焔、笠斎、私は、必ず、守るぞ。全てを』


 光黎は、誓った。

 命を落とした葵、瀬戸、笠斎、そして、柚月達を守るために、自分の中に還っていった光焔の為にも。

 負けられない戦いなのだ。

 和ノ国に住む人々や式神達、命を落としていった人々を救うための戦いでもあるのだから。

 そして、これまで、命がけで戦ってきた柚月達のためにも。

 光黎は、強く、強く、誓っていた。

 和ノ国を救うと。



 翌日の夜、柚月達は、光城の大広間に集まった。


「皆、集まったな」


「うん」


 柚月達は、気を引き締める。

 これが、最後の戦いだ。

 そして、今までの中で、最も、危険で、激しい戦いとなるだろう。

 だが、ついに、ここまで来たのだ。

 引くつもりもない。

 柚月達は、静居達がいる月を見上げた。


「行くぞ!!最後の戦いだ!!必ず、勝って、生きて帰るぞ!!」


「おう!!」


 柚月達は、そろって大広間を出る。

 月へと向かう為に。

 こうして、和ノ国の存亡をかけた最終決戦が幕を開けようとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます