第十四章 覚醒と式神

第百七十六話 目覚めの後

 葵と瀬戸、そして、光の神・光黎の壮絶な過去を見た柚月達。

 まさか、黄泉の乙女が、葵であったとは、誰が、予想できたであろうか。

 母親に救われていたなんて……。

 朧は、意識を取り戻した目を覚ます。

 千里が、朧の様子をうかがうかのように、覗き込んでいた。


「朧、起きたか」


「うん……」


 朧は、起き上がると自分が涙を流している事に気付いた。

 理由は、わかっている。

 柚月の両親の過去を見たからだ。

 まさか、静居のせいで命を落としていたとは思いもよらなかっただろう。

 それに、柚月を守るために、命を捧げていたとは。


「大丈夫か?」


「……今回は、さすがに堪えた。なんで、あの二人が」


 千里は、朧の身を案じるが、さすがに、堪えたようだ。

 朧は、涙を止められない。

 柚月の事を想うと、心が痛むのだ。

 今、柚月は、どのような想いでいるのだろうか。

 九十九は、朧が起きた事に気付いたようで、朧の元へと歩み寄り、頭を撫でた。

 九十九も、千里も、目が腫れている。

 涙を流したのだろう。

 涙を流したのは、朧達だけではない。

 葵達の過去を見た者、全員が、涙を流していたのだ。

 葵達の事を想って……。


「許せねぇよな。静居の奴」


「ああ。あいつが、全ての元凶だったとはな」


 九十九は、こぶしを握りしめる。

 全ては、静居のせいだからだ。

 静居が、深淵の門を開けたがために、自分達、妖達も、巻き込まれた。

 そして、人々も。

 朧は、涙をぬぐう。

 今、一番、辛いのは、柚月のはずだ。

 泣いてなどいられなかった。


「兄さんは?」


 朧は、あたりを見回し、千里に問う。

 柚月の姿が、見当たらないからだ。

 外に出てしまったのだろうか。

 千里は、指を指し、朧は、視線を変える。

 柚月は、瀬戸が、眠っていた場所に立っていた。

 彼の背中は、寂しさを物語っているように見える。

 柚月は、全てを受け止めているのだろうか。

 それとも……。

 朧は、不安に駆られ、ゆっくりと、柚月の方へと歩み寄った。


「兄さん……」


「起きたんだな。朧」


「うん」


 朧は、柚月に呼びかける。

 柚月は、ゆっくりと、振り向いた。

 目は、腫れていない。

 泣いていないようだ。

 だが、それは、無理をしている証拠だ。

 本当は、柚月が、一番、泣きたいはずだ。

 実の両親が、静居のせいで、命を落としたのだから。

 朧は、心が痛んだ。


「大丈夫?」


「……正直、わからない」


「うん……」


 朧は、柚月に問いかけるが、柚月は、正直、自分が、どのような感情を抱いているか、不明のようだ。

 混乱しているのであろう。

 全てを受け入れるのは、難しく、時間がかかるのかもしれない。

 朧も、自分の出生を受け入れるのは、少し、時間がかかった。

 今回は、両親の過去が壮絶だ。

 ゆえに、朧も、どうしていいのか、わからなかった。

 だが、その時であった。


「ん……」


「光焔……」


 光焔が、目を覚ましたようだ。

 柚月と朧は、光焔の元へと歩み寄る。

 光焔は、涙を流していた。

 忘れてしまっていた過去を思いだし、少しの時間ではあったが、過ごしてきた葵と瀬戸の事を想うと、涙が、止まらなかった。


「涙が、止まらないのだ。葵と瀬戸が……」


 光焔が、涙をぬぐうが、とめどなくあふれてくる。

 光焔の様子を見ていた柚月は、ついに、耐えられなくなり、涙を流し、光焔を抱きしめた。


「なぜ、あんなことを……。俺は、二人に、生きててほしかった」


 柚月は、自分が、抱いてきた想いを打ち明けた。

 本当は、二人に生きててほしかったのだ。

 たとえ、自分の身がどうなってもよかったから。

 朧達も、涙を流す。

 もう、嗚咽さえも、止められない。

 柚月達は、涙が枯れるまで、泣き続けた。



 泣き終えた柚月は、手で涙をぬぐい、深呼吸をする。

 まるで、心を落ち着かせるかのように。

 すると、柚月の前に、瀬戸が、現れた。

 柚月達の心が落ち着くまで、姿を消していたようだ。


「父上……」


――全て、見てきたのだな。


「ああ」


 柚月は、瀬戸の事を初めて、「父上」と呼んだ。

 呼ばれた瀬戸は、察した。

 柚月が、自身の出生を知り、自分達の過去を見たのだと。


「俺は、皇城家の力を解放したい」


――月読に頼めば、解放されるであろう。葵が、託した力が。


 柚月は、瀬戸に皇城家の聖印を解放したいと懇願する。

 今後の戦いに必要となると感じたのであろう。

 静居に対抗するには、皇城家の聖印を解放し、光の神・光黎と契約を結ぶ必要があると。

 葵と瀬戸の意思を引き継ぎたいと望んだのだ。

 瀬戸は、柚月に教える。

 聖印隠しの術の発動に成功した月読なら、解放することができるであろうと。


「瀬戸、わらわは、光黎に会いたい。光黎は、どこにいるのだ?」


――それは、笠斎が知っているはずだ。聞いてみるといい。


「うむ」


 光焔は、瀬戸に尋ねる。

 自分を生み出してくれた光黎に会いたがっているようだ。

 瀬戸は、光焔に父親のように優しく教えた。

 光黎の事は、笠斎が、知っているらしい。

 光焔は、うなずいた。


「まずは、月読様にお会いしないとね」


「そうだな」


「私も、共に行ってもいいか?」


「ああ。頼む」


 まずは、柚月の聖印を解放することが先決であろう。

 綾姫は、一度、鳳城家に戻ることを提案し、柚月は、承諾する。

 もちろん、瀬戸も、連れていくことを決めて。

 柚月達は、鳳城家に戻り、月読に聖印を解放してもらうよう依頼することにした。


 

 鳳城家の屋敷に戻り、月読に葵と瀬戸の過去を明かし、自分の聖印の封印を解いてほしいと懇願した柚月。

 月読は、承諾し、すぐさま、聖印を解放する為、術を発動した。

 柚月の右腕に刻まれていた聖印が、変化する。

 鳳城家の紋であった鳳凰と月に加えて、皇城家の紋である龍と太陽の紋が浮かび上がった。


「皇城家の聖印が……」


「兄さんは、俺と同じ二重刻印の持ち主だったんだな」


 朧達が、見守る中、柚月の聖印は、完全に復活した。

 わかってはいたが、柚月も、二重刻印の持ち主だったのだ。

 朧も、千里も、改めて、感じ取っていた。

 朧や餡里と同じだったのだと。


「どうだ?柚月、体の方は」


「はい。問題ありません」


 柚月に問いかける月読。

 体に影響が出ていないか心配なのだろう。

 問題ないとうなずき、立ち上がろうとする柚月。

 しかし……。


「っ!!」


「兄さん!」


 柚月は、ふらつき、倒れかける。

 朧、千里、九十九が、柚月を支え、光焔が、心配そうに柚月を見ていた。

 柚月は、荒い息を繰り返している。

 まるで、体力を奪われたかのようだ。


――無理をしているようだな。


「無理などしていない。俺は……」


 瀬戸は、柚月が、無理をしていること指摘した。

 やはり、柚月の父親だからであろう。

 彼も、心配なのだ。

 柚月は、葵達の過去を見る為に、夢の力を発動し続けた。

 それは、夢で誰かに会うよりも、力を使う。

 ゆえに、体力が予想以上に奪われていたのだ。

 それでも、柚月は、無理をしていないと言い張った。


「無理してんだろ。休めって」


「そういうわけにはいかない。早く、静居を止めなければ、あいつは……」


――奏。


 九十九は、柚月に休むよう促す。

 だが、柚月は、休もうとしない。

 焦燥に駆られているのであろう。

 早く、静居を止めなければと。

 その時だ。

 瀬戸が、彼の名を「柚月」ではなく、「奏」と呼んだのは。

 柚月は、目を見開き、瀬戸を見る。

 初めて呼ばれたのだ。

 自分の真名を。


――九十九の言う通りだ。休みなさい。


「わかった」


 瀬戸は、柚月に休むよう促す。

 父親として。

 柚月は、心を落ち着かせたのか、瀬戸の言う通り、休むことに。

 朧達は、安堵した。



 翌朝、光黎に会いに行くこととなり、綾姫、瑠璃、夏乃、美鬼は、千城家の屋敷に戻った。


「柚月、大丈夫かな……」


「そうね。心配ですね……」


 瑠璃と夏乃は、柚月を心配しているようだ。

 当然であろう。

 柚月の両親の過去を見たのだ。

 柚月の事を想うと心配になるのだろう。

 無理をしないだろうかと。


「大丈夫よ。私達が、支えればいい。皆が、いるんだから」


「わたくしも、そう思います」


「うん。そうだね」


 綾姫は、自分達が柚月を支えればいいと助言する。

 柚月には、多くの仲間達がいるのだ。

 決して、一人ではない。

 だから、大丈夫だと言えるのだろう。

 美鬼も、同じことを思っているようだ。

 二人の話を聞いた瑠璃は、うなずいた。

 柚月なら、大丈夫だと信じて。



 時間が立ち、夜になる。

 千里は、朧の部屋にいた。

 今日は、いろいろあり過ぎた。

 過去を見ただけなのだが、そんな気がしてならない。

 千里は、心を落ち着かせるかのように、息を吐いた。

 その時だ。

 朧が、戻ってきたのは。


「朧、光焔は、どうした?」


「眠ってる。疲れたんだよ」


「いろいろあったからな」


「そうだな」


 朧は、柚月の部屋で眠っている光焔の様子を見に行ったようだ。

 光焔は、眠っているらしい。

 つかれてしまったようだ。

 光焔にとっても、葵達の過去は、衝撃的だったのだろう。

 それは、朧達にとっても言えることである。

 壮絶過ぎたと言っても過言ではないからだ。

 彼らは、柚月の事を心配していた。



 しばらくして、柚月達は、眠りについた。

 柚月は、夢の中へと入る。

 無意識に夢の力を発動したのかもしれない。

 柚月の目の前には、黄泉の乙女が、立っていた。


「また、会えたね」


「母上……」


 柚月は、黄泉の乙女の事を母上と呼ぶ。

 ついに、自分の母親と再会を果たした。

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