第百五十八話 力を求めて

「葵、なのか?」


 葵の姿を目にした瀬戸は、半信半疑のようだ。

 当然であろう。

 葵は、神懸かりの力を発動し、光黎は、葵の中に入っていったのだ。

 その影響により、葵は、神々しい姿となった。

 本当は、信じたいところだが。


「うん。ちょっと、待っててね。瀬戸」


 葵は、瀬戸の問いに答え、瀬戸に背中を向ける。

 妖達は、葵達に迫ろうとしている。

 戦わなければならないのだ。

 葵は、震えそうになる手に力を込める。

 まるで、感情を押し殺すかのように。


――行くぞ、葵。


「うん」


 葵は、妖立ち向かって飛びあがる。

 瀬戸を守るために、妖達を解放する為に。

 妖達は、次々と葵に向かって襲い掛かるが、葵は、それを素手で弾き飛ばす。

 神懸りを発動できたからだ。

 そうでなければ、手に傷を負っていただろう。

 葵は、光を放って、妖達の目をくらませる。

 それでも、妖達は、ひるむことなく、一斉に、葵に迫った。


「はあっ!!」


 葵は、まばゆい光を発動する。

 それは、光焔が発動した神の光のようだ。 

 神の光に包まれた妖達は、浄化され、消滅していった。


「す、すごい……」


 瀬戸は、あっけにとられている。

 葵が発動した美しい光を目にしたからなのか。

 妖が、浄化されたからなのか。

 どちらかは、不明だ。

 葵は、静かに、地に降り立った。

 うつむいたまま……。


「ごめんね。こうするしか、助けてあげられなくて」


 葵は、一筋の涙を流す。

 あれほど、妖達を憎んでいたというのに。

 妖達の心を理解したからなのかもしれない。

 自分達に対する憎悪を感じ、とらわれてしまったと悟って。

 今は、浄化する事でしか、救えない。

 葵は、嘆いていたのだ。

 妖達を理解し、救えたらどんなにいい事かと。

 涙を流した葵に対して、瀬戸は、心配そうに、歩み寄った。


「葵……大丈夫か?」


「うん。瀬戸、怪我は?」


「私の方は、大丈夫だ」


「良かった……」


 瀬戸は、葵に問いかける。

 なぜ、葵が、涙を流しているのか、わからないからだ。

 葵は、手で涙をぬぐい、うなずく。

 話せないのだ。

 妖達の事を。

 本当は、話したいのに。

 その代り、葵は、瀬戸に大丈夫かと問いかける。

 火傷の事を心配しているのだろう。

 瀬戸は、うなずき、葵は、安堵した。

 しかし……。


「っ!!」


「どうした?葵」


 葵は、突如、屋敷の方を振り向く。

 それも、何かを感じったかのように。

 瀬戸は、不安に駆られ、葵に問いかけた。


「妖達が、屋敷に」


――迫っているようだな。


「え?」


 葵は、遠くからでも、わかるようになったようだ。

 妖達の気配を。

 おそらく、神懸かりの状態だからであろう。

 光黎も、気付いているようで、瀬戸は戸惑った。

 屋敷には静居がいる。

 だが、静居一人では、負担がかかってしまう。

 このままでは、城家の者も、奉公人も、女房も、命を落としてしまう。

 全滅してしまうのではないかと。

 だが、葵は、突如、瀬戸を抱きしめる。

 瀬戸は、驚き、戸惑った。


「瀬戸、ごめん、このまま、連れてくよ!」


「えっ!!」


 葵は、瀬戸を抱きかかえたまま、飛び立った。

 すぐさま、屋敷へ戻る為に。



 そのころ、静居は、神懸かりの力を発動し、夜深と共に、妖達を討伐していた。


「ちっ」


――このままだと、まずいわね……。


 妖達の数が多すぎる。

 それに、静居も、まだ、体調が万全ではない。

 静居も、夜深も、それに気付いている。

 ゆえに、このままでは、自分達の命も危ういと、察知していた。

 だが、妖達を野放しにしておくわけにもいかず、静居は、体に鞭を打って、妖達と戦いを繰り広げた。

 だが、妖は、静居の背後に迫り、静居は、目の前に妖ばかりに、気をとられていたがために、反応がわずかに遅れ、妖は、静居の喉へ迫っていた。。


――静居!!


 夜深は、力を発動したいところであるが、さらに静居に負担がかかってしまう。

 命にかかわる可能性もあるだろう。

 ゆえに、夜深は、どうするべきなのか、戸惑っていた。

 妖が、静居の喉を捕らえようとする。

 引き裂こうとしているのだ。

 だが、その時であった。


「はあああっ!」


 間一髪で、葵が、瀬戸を抱きかかえたまま、屋敷に帰還する。

 それと、同時に、光を放ち、妖達の目をくらませた。

 静居は、黒い光を発動し、目の前の妖を討伐する事に成功した。

 葵は、瀬戸を降ろし、静居の元へと向かった。


「静居、大丈夫!?」


「葵、だな?」


――あら、契約したのね。


 静居と夜深は、葵の姿を目にして、一瞬で見抜いたようだ。

 葵が、光黎と契約し、神懸かりの力を発動したのだと。

 夜深は、静かに、ほくそ笑む。

 自分の思い通りに事が進んでいると確信して。

 光黎は、ただ、静かに、夜深をにらんでいた。


「なぜ、お前は……」


「守りたいからだよ、皆を」


「参ったな。こうなっては、仕方がない」


 静居は、葵に問いかける。

 なぜ、聖印をその身に宿してしまったのか。

 なぜ、葵が、戦わなければならないのか、理解できないからであろう。

 愛しい妹を巻き込みたくないというのに。

 だが、葵は、堂々と答えた。

 皆を守りたいと思っているからだ。

 それは、静居も、瀬戸も、夜深も、光黎も、城家の者も、和ノ国の人々も、そして、妖達も含まれている。

 葵は、全てを守りたいと思っているのだ。

 葵の意思を感じ取った静居は、ついに、観念した。

 葵と共に戦うと決意して。


「静居、やろう!!」


「そうだな!!」


 葵と静居は、妖達を戦いを繰り広げる。

 迫りくる妖達に対して、葵が、光を発動して、妖達の目をくらませる。

 その隙をついて、静居が、黒い光を発動して、妖達を討伐していった。

 だが、倒しても、倒しても、妖達は、出現する。

 キリがない。

 それでも、二人は、戦い続けた。

 皆を守るために。


「あの二人、やるではないか」


「だが、静居の方が……」


 外に出ていた城家の者は、あっけにとられている。

 あんなに静居の事を恐れていたというのに。

 だが、静居の動きが鈍くなっている事に、瀬戸は、気付いているようだ。

 無理をしているのだろう。


「ぐあっ!!」


「静居!!」


 静居が、不意打ちを喰らい、地面にたたきつけられそうになる。

 体に限界が来ているようで、体勢は、崩されたままだ。

 瀬戸が、静居の元へ駆け寄り、受け止めた為、無事だったようだ。

 葵は、静居の身を案じ、静居の方へと視線を向けるが、その隙に妖が、葵の背後に回り、迫ろうとしていた。


――葵、後ろだ!!


「っ!!」


 光黎が、葵を呼び、葵は、後ろを振り返る。

 妖は、容赦なく、葵を殺そうと、襲い掛かった。

 葵は、すぐさま、光を発動し、妖の目をくらます。

 続けざまに、妖を吹き飛ばし、妖達と距離をとった。


――よそ見してはならぬぞ。


「わかってる。けど……」


 光黎に、忠告される葵。

 わかっている。

 今、目の前にいる妖達に集中しなければならない事は。

 だが、静居の事も、心配だ。

 静居が不意打ちを喰らったという事は、それほど、限界が来ていたのだろう。

 もしくは、とうに、限界を超えていたのかもしれない。

 静居は、何度も、神懸かりの力を発動し、休む間もなく、戦いを続けていたのだから。

 だが、葵は、妖達を戦わなければならない。

 静居や、瀬戸、人々を守るためにも。

 そして、妖達を救う為にも。

 夜深は、静居の為に、静居の体から出る。

 そうでもしなければ、静居に負担がかかってしまうだろう。

 静居は、荒い呼吸を繰り返している。

 よほど、無理をしていたに違いない。


「大丈夫か?」


「……なんとか、な」


「駄目ね。力を使いすぎたみたい」


「どうすれば……」


 瀬戸は、静居に問いかける。

 静居は、うなずくが、どう見ても、大丈夫ではない。

 相当、無理をしているようだ。

 夜深は、静居の力を感じ取るが、やはり、限界を超えていたらしい。

 これでは、静居は、戦うことは、不可能だろう。

 瀬戸は、葵を助けたい所だが、自分では、どうすることもできない。

 無力な自分を呪い、こぶしを握りしめた。

 その時だ。


「うっ!!」


「葵!!」


 葵のうめき声が聞こえる。

 静居達は、葵の方へと視線を向けると葵は、妖達に囲まれていたのだ。

 あの神の光を発動しているのだが、妖達は、再び、出現し、葵に襲い掛かったのだ。

 葵も、窮地に陥ろうとしていた。


「私にも、力があれば……」


 瀬戸は、こぶしを握りしめる。

 自分にも力があれば、葵を助けられるのにと、嘆いて。

 瀬戸の心情を読み取ったのか、静居は、瀬戸へと視線を移し、不敵な笑みを浮かべていた。

 まるで、何かを企んでいるかのように。

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