第百四十五話 正体を暴いて
柚月を殺そうとした成平であったが、柚月に防がれてしまう。
これは、成平にとって予想外だ。
成平は、体を震わせたまま、柚月を見ていた。
「き、貴様、謀ったのか!!」
「いいや。そうではない」
「何!?」
「少し、考え事をしていただけだ!」
戸惑いながらも、柚月に問いただす成平。
柚月は、騙したつもりはなく、考え事をしていただけだと、答え、成平の霊刀をはじき、さらには、異能・光刀を発動して、成平が、発動していた術を全て切り裂いた。
「術が!!」
術から解放された朧達。
だが、試練は、まだ、終わっていない。
柚月は、異能・光刀を発動したまま、成平に斬りかかる。
成平は、柚月の光速移動に反応し、柚月の斬撃を全て防ぎきり、柚月と成平は、刀をぶつけ合うようにつばぜり合いを始めた。
斬撃を全てはじかれたというのに、柚月は、冷静な反応だ。
彼は、何を知ったのだろうか。
「この程度で、私に勝てると?」
「いいや、思っていない。試しただけだ」
「何?」
「俺の聖印能力は、異能・光刀。光の刃を身に纏い、光速で敵を斬る。この能力を持っているのは、俺一人だ。ゆえに、鳳城家であっても、同じ聖印能力を持つ者はいない。ましてや、俺の光速移動に反応できるわけがない」
「っ!!」
柚月は、成平の秘密を見抜いていた。
だが、その秘密を暴く方法を見つけられなかっただけだ。
黄泉の乙女と会話を交わしたことにより、柚月は、秘密を暴く方法を見つけた。
柚月と成平が、同じ鳳城家であり、聖印能力が異なる。
ゆえに、柚月の光速移動に反応できるわけがない。
同じ光速移動を成平が発動できるわけがないのだから。
柚月は、成平が、自分の光速移動に反応できるか試した。
成平が、本物の成平だとしたら、異能であるがゆえに、光速移動に反応できるわけがない。
もし、反応したとしたら、それこそ、違和感でしかない。
つまり、目の前にいる成平は、成平ではないという証拠であった。
「もし、反応できるとしたら、それは、静居と夜深から創造主の力を与えられたものか、夜深に付き従う神々どもだけだ!!」
柚月は、成平の正体を暴いた。
彼は、静居側に着いている人間、または、神々だと。
柚月は、成平の霊刀をはじき、突きを放った。
光速移動で。
成平は、すぐさま、間合いを詰められ、反撃する隙さえ見いだせなかった。
「ちっ!!」
「っ!!」
「兄さん!!」
成平は、衝撃波を放った。
それは、静居と夜深が発動したものだ。
成平が、それを発動できるという事は、本来ならあり得ない。
柚月は、とっさに、八尺瓊勾玉を発動し、衝撃波を吸収し、後退する。
衝撃波は、吸収しきれたようだ。
朧達は、慌てて、柚月の元へと駆け寄り、構えた。
『なるほど、知られてしまったようですね』
「やはり、お前だったか。幻帥」
成平は、不敵な笑みを浮かべながら、正体を明かす。
なんと、柚月達の前に現れたのは、幻帥だ。
だが、柚月は、驚きも戸惑いもしない。
なぜなら、見抜いていたからだ。
幻帥が、成平に、化けていた事を。
「兄さん、気付いてたんだな」
「そのようだな」
朧達も、成平が、本物の成平ではなく、幻帥が化けていたと見抜いていたようだ。
これは、幻帥が、最も得意とする技、
幻術で、別の姿へと化け、相手をほんろうする。
これを見抜いた者はいない。
この技を見抜いたのは、柚月達だけだ。
それでも、幻帥は、驚きはしなかった。
柚月達なら、あり得ると思ったのだろう。
自分の技を看破するのではないかと。
『まさか、見破っていたとは、いつからですか?』
「戦えと言った時からだ。お前の目は、俺を殺そうとしていたのは、わかったからな」
『なるほど。表情が出てしまいましたか』
柚月は、成平から試練を与えられた時に気付いたようだ。
今、目の前にいる成平は、偽物だと。
なぜなら、成平の目に殺意が宿っていたからだ。
本気で、試練を乗り越えさせるためではない。
殺すためだと。
成平は、そのような男ではない。
柚月は、そう、察していた。
ゆえに、幻帥が、成平に化けていたのだと悟ったのだ。
一瞬だったとはいえ、見抜かれてしまった幻帥は、残念がっている。
感情を押し殺しておけばよかったと。
「成平は、どこだ!」
『その前に、彼女の事は、よろしいのですか?』
「彼女?まさか!!」
成平の居場所を問いただす柚月。
だが、幻帥は、答えようとしない。
それどころか、「彼女」に関して尋ねたのだ。
綾姫は、「彼女」とは、誰のことなのか、察してしまったらしく、顔が青ざめていくのを感じた。
綾姫の反応をうかがっていた幻帥は、不敵な笑みを浮かべ、術を解く。
すると、奥に、傷だらけになって、倒れている泉那が姿を現した。
「泉那!!」
「私の邪魔をしようとしたので、眠らせてあげましたよ。あなた方が、現れてしまったので、殺せませんでしたが」
どうやら、幻帥は、柚月達が、地下に入る前に、ここへ現れたようだ。
夜深に命じられたからなのかは、わからない。
いや、答えるつもりはないだろう。
おそらく、柚月達が、瀬戸に会いに行くのを知り、瀬戸を殺そうとしたのであろう。
だが、幻帥の行動にいち早く気付いたのが、泉那だ。
泉那は、幻帥から、瀬戸を守るために、死闘を繰り広げたのだ。
幻帥の幻術を見抜けず、倒れてしまったのだろう。
幻帥は、泉那を殺そうとしたのだが、自分が、予想していたよりも早く、柚月達が、ここへ到達してしまったのだ。
ゆえに、幻帥は、柚月を殺すために、成平へと姿を変え、柚月達の前に現れたようだ。
成平の魂が、ここにいる事を知っているがゆえに、その状況を利用したのだろう。
綾姫は、泉那の元へ向かおうとする。
だが、彼女の前に、幻帥が立ちはだかり、柚月が、綾姫を守るように前に出た。
『おっと、通しませんよ?』
「幻帥!」
幻帥は、柚月達を泉那の元へ行かせるつもりはないようだ。
なぜなら、泉那までもが、戦闘に加われば、圧倒的に、不利になってしまうからであろう。
いくら創造主の力を授かった幻帥であっても、柚月達の戦力には、敵わない。
それほど、柚月達は、幻帥にとっても、厄介なのだ。
「許せないのだ!!絶対に!!」
「その通りだぜ」
「なんとしても、こいつを倒すぞ!」
卑劣なやり方で、柚月を殺そうとした幻帥に対して、光焔は怒りを覚えた。
そして、泉那でさえも、殺そうとしたのだ。
これは、許されないことであろう。
光焔は、こぶしを握り、体を震わせた。
九十九も、同じことを思っていたようで、怒りを露わにして、紅椿を鞘から引き抜いた。
柚月達も、武器を構える。
幻帥を討伐すると決意したのだ。
『神である私を倒せるとでも?』
「倒さなきゃいけないんだ。和ノ国を救う為にな!」
『戯言を!』
幻帥は、神である自分を倒そうとしている柚月達に対して、苛立ったようだ。
人間ごときが、神を倒せるはずがない。
戦魔は、消滅したが、あれは、制御できない力によるものであり、発動は困難を極める。
発動される前に、柚月達を殺せばいいと推測しているようだ。
だが、柚月達は、決して、あきらめていない。
幻帥を、必ず、倒すと宣言した。
和ノ国を救う為に。
余計に幻帥を苛立たせる。
下等な人間や妖共に負けるはずがないと。
「行くぞ!!」
柚月達は、一斉に、幻帥に向かっていく。
幻帥は、幻術を発動しようとするが、その前に光焔が、神の光を発動し、目をくらませる。
神と言えど、神の光には、耐えられないようだ。
その隙に、柚月達は、技を発動し、幻帥に向かっていく。
幻帥は、柚月達の技を錫杖でかき消してしまうが、追い込まれそうになる。
その間に、綾姫と美鬼を憑依させた瑠璃は、泉那の元へ向かっていった。
『ちっ!』
いくら神と言えど、柚月達の戦力を防ぐことは、容易ではないようだ。
一般隊士や聖印隊士達とは違う。
彼らの戦闘能力は、抜きんでている。
ゆえに、連携をとられては、幻帥でさえ、一瞬で追い詰められてしまうのだ。
しかも、幻術が効かないのであれば、尚更なのだろう。
柚月達は、幻帥を仕留めるつもりで、向かっていった。
しかし……。
『これならどうです!』
「っ!!」
「こ、これは!!」
幻帥は、技を発動する。
だが、それは、幻術ではない。
変幻自在でもない。
二柱の幻帥が、柚月達の前に姿を現したのだ。
柚月達を追い詰めるように。
柚月達は、立ち止まり、あたりを見回した。
何が起こっているのか、察してしまったようだ。
『ふふふ、素晴らしいでしょう?私の幻は、実体を生み出せます。ゆえに、この者たちは、私と同じ能力を持っている。簡単には、消せませんよ?』
「ちっ……」
幻帥は、自分の分身を生み出したのだ。
その名は、
しかも、生みだされた分身は、幻の類ではない。
同等の能力を持ち、本体と同じ、実体だ。
つまり、幻帥は、自身をそのまま生み出すことができるというのだ。
これは、もう、幻を超えている。
おそらく、創造主の力を利用したのであろう。
『さあ、いかがなさいますか?』
形勢逆転し、柚月達は、追い詰められてしまう。
幻帥は、不敵な笑みを浮かべ、勝利を確信した。
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