第百三十話 姫君達の力
笠斎から話を聞いた柚月達は、すぐさま、朧達に大広間に集まるよう呼びかける。
柚月が目覚めたことを知った朧達は、喜びたいところであったが、同時に、驚きも隠せなかった。
彼は、いつの間に、目覚めたのだろうかと。
そして、柚月は、何を話すつもりなのかと。
状況を把握できないまま朧達は広間に集まり、最後に、柚月、九十九、千里、光焔、綾姫が、大広間に入っていった。
「皆、集まったようだな」
「おう。でも、柚月、お前、大丈夫なのか?」
「まだ、目覚めたばかりなんだろ?少しは、休んだほうがいいんじゃないのかい?」
「いや、問題ない。ありがとう」
透馬と和泉は、柚月の身を案じる。
いや、誰もが、柚月を心配しているのだ。
まだ、目覚めたばかりだというのに、もう、動いて平気なのかと。
休んだほうがいいのではと、心配している。
それでも、柚月は、問題ないと答え、お礼を告げた。
「それで、話って?」
「聖印京に張られてある結界を解く方法を笠斎が教えてくれた」
「笠斎殿が、目覚めたでござるか!?」
「ああ。まだ、回復はしていないがな」
柘榴が、なぜ、自分達を呼び寄せたのかを尋ねると、柚月は、笠斎から聞いた話を朧達に告げる。
なんと、笠斎は、聖印京に張られてある結界を解く方法を知っているようだ。
笠斎が目覚めたと知り、驚く要。
柚月は、うなずくが、まだ、万全というわけではないと答えた。
だが、笠斎が、目覚めたのは、まぎれもない事実だ。
朧達は、ほっと胸をなでおろした。
それほど、笠斎の事を心配していたのだ。
「そ、それで、どうするんですか?」
時雨は、恐る恐る柚月に尋ねる。
気になっているのだろう。
どうやって、結界を解くのか。
結界を張っているのは、夜深だ。
その結界を解くのは、容易ではない。
一筋縄ではいかないだろう。
ゆえに、知りたがっていたのだ。
「あの結界を消滅させるには、綾姫と瑠璃の力が必要らしい」
「私達の?」
「ええ、そうみたい」
笠斎曰く、綾姫と瑠璃の力により、結界は解けるというのだ。
瑠璃は、信じられないようで、驚いている。
それもそうであろう。
自分の力が、夜深に対抗できるなどと思ってもみなかったようだ。
笠斎の話を直接聞いていた綾姫も、未だ、信じられないでいるらしい。
本当に、自分達の力で夜深が張った結界を解けるのかと。
「柚月様、どうすれば、結界は解けますか?私達にできることはありますでしょうか?」
「二人が、波長を合わせ、その力をぶつける事で、結界は、解かれると言っていた」
夏乃は、柚月に問いかける。
綾姫達の事が心配なのであろう。
自分にできることがあるならば、協力したい。
夏乃は、そう思っているようだ。
柚月は、結界を解く方法を告げる。
どうやら、綾姫と瑠璃が波長を合わせる事が重要となっているようだ。
ゆえに、夏乃達は、見守るしかないのだろう。
手伝えない事が残念ではあるが、今は、見守るしかない。
夏乃は、そう、心に決めていた。
「ほう、二人が。確かに、二人は、強い力を持っておるからのぅ」
「空蘭には、わかるんだな」
「わしだけではない。高清も、要も、わかっておろう」
春日は、納得しているようだ。
綾姫と瑠璃の力が強い事に気付いていたらしい。
朧は、春日に尋ね、春日は、うなずくが、気付いていたのは、春日だけではない。
高清も、要も、気付いているらしい。
研究者であったがゆえにであろう。
「安城家も、昔は、姫君として扱われていたからね。強い力をもともと持ってたみたいだし。だから、憑依の力を授かったって聞いたことあるよ」
柘榴曰く、かつて、安城家は、千城家と同様、姫君として扱われていたらしい。
その姫君は、強い力を持っており、強力な術を発動で来たと言われている。
強い力を内に秘めているがゆえに、憑依の力を授かり、加えて、聖印の影響により、桜の神と心を通わせることができたという。
瑠璃は、その姫君の子孫なのだ。
皇族の血筋を持つ千城家の姫君も、同様に、強力な力を持っていたがために、聖印を授かった影響により、泉の神と心を通わせることができたという。
「確かに、二人は、泉の神と桜の神を復活させているしな」
柘榴の話を聞いた千里は、納得している。
綾姫と瑠璃は、二柱の神を復活させているのだ。
神を復活させるのは、容易ではない。
柘榴達も、それを身をもって体験している。
宝玉の力があったと言えど、柘榴達は、力をつなげて、ようやく、空の神を復活させたのだ。
綾姫と瑠璃は、たった一人で、神を復活させた。
それは、強力な力を持っているが故であろう。
「綾姫の結界と瑠璃の憑依の力を合わせれば、結界は解かれるらしい」
「つまり、わたくしが、瑠璃に憑依し、綾姫の結界の力を融合させ、ぶつける事で、結界は解かれるという事ですね」
「ああ」
波長を合わせるという事は、単に力を合わせるという事ではない。
聖印を発動させたうえで、融合させるという事だ。
ゆえに、瑠璃が美鬼を憑依させたまま、綾姫の結界と融合させなければならない。
これは、至難の業であろう。
異なる聖印を融合させなければならないのだ。
いくら、強力な力を持つ二人であっても、容易ではない。
綾姫も瑠璃も、覚悟していた。
「でも、どうやって、波長を合わせて、ぶつければいいのかわからない」
「それなら、問題ないぞ」
もちろん、結界を解きたい。
そうすれば、柚月達は、聖印京に突入できるはずだ。
だが、綾姫とどう波長を合わせればいいのか、どうやって、その力を結界にぶつければいいのかは、わからない。
瑠璃は、不安に駆られていた。
自分は、できるのかと。
すると、柚月は、石からある物を取り出す。
それは、矛のようだ。
「それは?」
「笠斎が、生み出した。解放の矛って言うのだ。わらわの神の光も宿っているぞ!」
瑠璃は、柚月に尋ね、柚月の代わりに、光焔が誇らしげに答える。
柚月が手にした矛は、解放の矛と呼ばれるものらしい。
その名付け親は、もちろん、笠斎だ。
結界を破壊するために、生み出した矛であり、神の光も宿っているという。
笠斎曰く、この矛に力を注ぐことで、波長を合わせることができ、神の光を身に纏ったまま、結界を破壊できるのだという。
「笠斎が、生み出した?そんな事できるの?」
「うん。そうみたい」
和巳は、目を丸くして、瞬きさせている。
朧も、ここへ来る前に、柚月から聞かされ、大層驚いていたのだ。
まさか、笠斎が、そのようなことができるとは思ってみなかったのだろう。
しかも、寝たきりの状態でだ。
この解放の矛は、不器用の素材で作られたものではない。
神のごとく、何もないところから、生み出したのであろう。
「うーん、笠斎って、本当に、妖なのかなぁ。創造主の力を奪ったり、矛を生み出したり」
「確かに、不思議ですわよね。何でも、知ってるみたいですし。何か、聞いてませんの?」
「さあな。俺も、聞いたけど、教えてくれねぇんだよ。あいつ」
笠斎の正体について、思考を巡らせる景時。
特別な妖だとしても、夜深から創造主の力を奪ったり、何もないところから矛を生み出すことが不可能に等しい。
ゆえに、笠斎が、妖かどうかさえも、疑わしくなってきたのだ。
初瀬姫も、不思議に感じていたようで、九十九に尋ねる。
九十九も、笠斎に聞いたのだが、本人は、答えてくれなかったらしい。
ますます、わからない。
だが、それも、自ずとわかる事なのであろう。
柚月達は、今は、聖印京の奪還に向けて動くことを決意した。
「柚月殿、その矛に力を込めて、突けば、結界を破壊できるということでござるか?」
「ああ、そうらしいぞ」
要は、柚月に確認するように尋ねる。
やはり、思った通り、矛へと力を集中させ、突くことで、結界を破壊することができるようだ。
「これなら、聖印京に突入できるっすね!!」
「聖印京も、奪還できるでごぜぇやす!!」
「うん。そうだね」
高清も、真登も、確信を得ていた。
解放の矛を使えば、結界を破壊し、聖印京に突入できると。
後は、彼らを支配している静居と夜深、または、神々を討伐するだけだ。
そうすれば、聖印京は、奪還できる。
朧達は、そう思っていた。
だが、柚月は、難しい顔をしている。
それは、なぜなのかは、朧達には、わからない。
柚月は、ゆっくりと、綾姫と瑠璃に、歩み寄った。
「綾姫、瑠璃……」
「言わなくてもわかるわ。もちろんやるわよ」
「綾姫……」
柚月は、綾姫と瑠璃に、懇願しようとしていたのだ。
二人にとって過酷になるかもしれない。
そう思うと、頼んでいいのか、ためらったのであろう。
だが、綾姫は、柚月が何を言いたいのか理解している。
それに、話を聞かされた時から、決めていたのだ。
自分達の力で結界を破壊すると。
「やる。絶対に、成功させる」
「静居に一泡吹かせてやりましょう。反撃するわよ!」
「はい。わたくしも、ご協力させていただきます」
瑠璃も、美鬼も決意は固い。
聖印京を取り戻したいと思っているのだ。
聖印京は、彼女達にとっては、辛い思いでしかない。
それでも、静居や夜深の支配から解放したいと強く願っているのだ。
「ありがとう」
柚月は、綾姫達に感謝の言葉を述べた。
こうして、聖印京を奪還するために、柚月達は、動きだそうとしていた。
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