第百二十五話 想像を絶する力

 柚月が、神威空浄・光刀を発動し、戦魔は、ゆっくりと仰向けになって倒れた。

 戦魔と死闘を繰り広げ、神威空浄・光刀を発動した柚月は、肩で息をしている。

 それほど、激しい戦闘を繰り広げたのだ。

 体力が尽きてしまうのではないかと思うほどに。

 だが、それは、光焔達も同様に肩で息をしていた。

 当然であろう。

 相手は、神。

 それも、戦の神だ。

 神々の中で、戦にたけていると言っても、過言ではない。

 

「やったか?」


「うむ、傷は負ったと思うのだ」


 あの至近距離なら、神でさえも、傷を負ったはず。

 光焔は、そう、確信を得ていた。

 神刀は、神が生み出した刀だ。

 それゆえに、神にも有効であろう。

 柚月も、そう、確信し、安堵していた。

 しかし……。


『ケケケ!!ケーケケケ!!』


 戦魔の甲高い笑い声が響き渡っている。

 その様子だと、まるで、傷を負っていないようだ。

 いや、痛みを感じていないのだろうか。

 驚愕し、戸惑いを隠せない柚月達は、ゆっくりと、戦魔を見る。

 すると、倒れていたはずの戦魔は、ゆっくりと起き上がった。


『やるじゃねぇか。さすがだな』


 戦魔は、不敵な笑みを浮かべる。

 柚月達は、目を見開き、体を震え上がらせた。

 戦魔は、なんと、無傷だったのだ。

 あの至近距離で、神威空浄・光刀を喰らったというのに。

 まるで、何事もなかったかのようだ。


「な、に?」


「無傷だと!?」


『そんな、あり得ない……』


 柚月も、和巳も、信じられないようだ。

 戦魔が、無傷であるなどと。

 それは、李桜も同じであった。

 神と言えど、攻撃を受ければ、傷を負う。

 柚月の神威空浄・光刀は、神さえも、切り裂くほどの威力を持っていたはずだ。

 ゆえに、戦魔が、完全無傷である事が信じられなかった。


『あり得るんだよ。俺様は、戦の神だぜ?再生能力くらいあるっての』


「一瞬で、再生したというのか……」


 戦魔は、傷を負ったのは、確かだ。

 だが、再生能力を発動したようだ。 

 それも、一瞬で、再生してしまうほどの力を持っている。

 戦の神と言えど、それほどの力を持っているとは、思えない。

 研究者であった高清は、戦魔が持つ力を否定した。

 ならば、なぜ、戦魔は、一瞬で、傷を治してしまったのであろうか。

 思考を巡らせる柚月達であったが、考えられることは、たった一つであった。


――おそらく、創造主の力を使ったんでしょうね。


「うん……」


 美鬼が、呟くと瑠璃が、うなずく。

 戦魔は、創造主の力を発動したのだ。

 全知全能の神であった創造主の力は、絶大。

 想像を絶する力だ。

 ゆえに、それを持つ戦魔は、無敵と言っても過言ではない。

 甘く見ていた。

 柚月達は、桜の神と連携をとれば、倒せると予想していたのだ。

 だが、それすらも、不可能ではないかと思えてくる。

 柚月達は、絶望に、突き落とされた感覚に陥っていた。


『さて、遊びは、終わりだ。ここからは、本気を出させてもらうぜ』


 戦魔は、力を発動する。

 本気を出そうとしているのだ。

 再生能力を持ち、加えて、本領を発揮し始めてしまった。

 これでは、到底、勝ち目はない。

 だが、勝つしかない。

 柚月は、体を震わせながらも、草薙の剣を握りしめる。

 自分が、先陣を切らねばと。


「皆、気をつけろ!!」


 柚月は、気をつけるよう瑠璃達に忠告する。

 だが、戦魔は、一瞬にして、柚月の元へ迫り、間合いを詰めた。

 柚月は、異能・光刀を発動し、突きを放つが、戦魔は、快刀乱麻かいとうらんまを発動した。

 それは、相手を鎖で拘束して、大剣を振って、鎌鼬のような斬撃で斬りつける技だ。

 柚月は、後退して、回避しようとするが、鎖が体に巻きつき、拘束されてしまった。


「くっ!!」


 柚月は、鎖をほどこうと、もがくが、ビクともしない。

 光焔達は、鎖をほどこうを引っ張るが、解くどころか、鎖は、柚月を締め上げてしまう。

 鎌鼬のような斬撃が、柚月に襲い掛かろうとするが、柚月は、八尺瓊勾玉を発動して、吸収を試みる。

 このままでは、光焔達も、巻き添えにしてしまう。

 柚月は、避けようとした。

 だが、戦魔は、連続で大剣を振って、鎌鼬のような斬撃を発動した為、吸収しきれず、柚月達は、斬撃をその身に受けてしまった。


「うあああっ!!」


「柚月!!」


 柚月達の絶叫が響き渡る。

 特に、柚月は、もろに受けてしまったようだ。

 光焔達をかばう為に、鎖で拘束されながらも、前に出て。

 柚月は、仰向けになって倒れ込む。

 だが、戦魔が、容赦なく、大剣を柚月に向けて、振り下ろそうとした為、光焔が、柚月の前に出て、神の光を発動しようとした。

 しかし……。


『光焔!駄目!!』


 李桜は、光焔を守るために、彼を押しのけて前に出る。

 そして、天花乱墜を発動し、桜の花びらが、防御壁のように変化するが、戦魔は、大剣を振り下ろすと、桜の花びらは、切り裂かれ、李桜は、わき腹を斬られてしまう。

 血が流れ、李桜は、片膝をつくが、すぐさま、百花繚乱を発動し、戦魔は、後退した。

 その間に、軽症であった高清と和巳が前に出て、戦魔と死闘を繰り広げた。


「李桜!!」


 瑠璃は、李桜の傷を癒すために、自分の腕を斬り、血は流れ始める。

 美鬼桜血酒を発動したのだ。

 神である李桜にどこまで、効果があるかは、不明だ。

 だが、やらないよりは、いい。

 血が李桜の脇腹に滴り、少しずつではあるが、傷は癒えているようだ。

 瑠璃も、美鬼も、安堵していた。


『わ、私なら、大丈夫です』


 李桜は、立ち上がり、桜の花びらを出現させる。

 その桜の花びらは、風に乗って、舞い上がり、柚月達に触れる。

 すると、戦魔を攻撃を阻み、柚月達の傷が癒され始めた。

 これは、李桜の技だ。

 名は、桜花爛漫おうからんまん

 攻撃を阻み、仲間を癒す技だ。

 防御と回復に特化している。

 李桜のおかげで、柚月達の傷は、完全に癒えたが、戦魔との戦いは、劣勢を強いられた状態だ。

 高清と和巳が、戦魔と戦いを繰り広げているが、傷を負っている。

 追い詰められてしまっているのだ。

 李桜が、百花繚乱を発動し、一瞬ではあるが、戦魔をひるませ、高清と和巳は、柚月の元へと駆け付けた。


「本当、神って厄介だよ……」


「さすがに、この状況は、まずいでごぜぇやす……」


――そうですね……。


 高清、和巳、美鬼は、舌を巻く。

 窮地に陥っていると察しているからだ。

 戦魔に、傷一つ付けられていない。

 それどころか、自分達は、傷を負うばかりだ。

 このままでは、全滅もありうる。

 だが、逃げるわけにはいかない。

 どうするべきなのかと、高清達は、葛藤していた。

 その時であった。


「それでも、やるしかない……」


「柚月……」


 柚月は、ゆっくりと立ちあがる。

 李桜のおかげで、傷が癒えたからだ。

 確かに、状況は、絶望的と言っても、過言ではないだろう。

 だが、もう、後には引けない。

 なぜなら、朧達も、笠斎も、そして、深淵の妖達も、死闘を繰り広げているからだ。

 勝利につながると信じて。

 柚月は、今までの戦いが、無意味だったとは思っていない。

 まだ、勝算はあるはずだと、信じているのだ。

 柚月は、草薙の剣を握りしめた。


「行くぞ!!」


 柚月は、異能・光刀を発動する。

 これで何度目だろうか。

 聖印能力を発動し続けた柚月の体は、とうに、限界を超えている。

 先ほどの斬撃で、意識を失っても、おかしくなかった。

 だが、負けるわけにはいかない。

 柚月達は、戦い、勝つしかないのだ。

 柚月は、神威空浄・光刀を発動するが、戦魔は、薙ぎ払うように大剣を振るう事で、神威空浄・光刀を切り裂いてしまった。


『無駄無駄無駄ぁああああっ!!!』


「うっ!!くっ!!」


 戦魔は、再び、快刀乱麻を発動する。

 鎖が、柚月の体に巻きつき、鎌鼬のような斬撃が、柚月を襲う。

 柚月は、体中を切り裂かれても、踏ん張り、体勢を整える。

 瑠璃達が、援護しようとするが、柚月は、再び、異能・光刀を発動して、戦魔に迫る。

 仲間を守るためだ。

 快刀乱麻をその身に受けた柚月は、悟ったのだろう。

 戦魔は、危険すぎると。

 ゆえに、自分一人で、戦おうとしたのだ。

 だが、戦魔は、柚月を追い詰める。

 光焔や李桜が、応戦しても、戦魔の勢いは、止まらなかった。


『柚月、駄目です!!逃げてください!!』


「逃げるものか!!俺は、あきらめない!!」


 李桜は、このまま、戦っても、全滅してしまうと察し、柚月に逃げるよう促す。

 だが、柚月は、あきらめようとしなかった。

 誓ったからだ。

 二度と、あきらめるものかと。

 かつて、柚月は、呪いをその身に受け、生きることをあきらめようとした。

 だが、朧に叱咤され、九十九が、命がけで柚月を助けた事により、思い知ったのだ。

 あきらめてはいけなかったのだと。

 そのせいで、一度、九十九を失ってしまった。

 そう、自分を責めたのだ。

 ゆえに、柚月は、あきらめないと決意した。

 柚月は、神威空浄・光刀を発動するが、戦魔は、それを切り裂いてしまった。


『死ねえええええええっ!!!』


 戦魔は、あらゆる武器を召喚して、柚月を切り裂こうとする。

 その名は、刀槍矛戟とうそうぼうげき

 柚月は、八尺瓊勾玉で吸収することもできず、数多の刃をその身に受けてしまった。


「うああああああああっ!!!」


「柚月!!」


 戦魔の刀槍矛戟をその身に受けた柚月は、絶叫を上げ、血を流し、倒れてしまった。

 光焔達は、柚月を助ける事もできず、愕然としていた。

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