第百十一話 光が発動される時

 光焔は目を見開き、体を硬直させる。

 目の前にいるのは、柚月ではない。

 間違いなく、黄泉の乙女なのだ。

 だからなのだろうか。

 先ほどまで、破壊衝動に駆られていたというのに、破壊衝動は抑え込んでいるようだ。 

 いや、無意識のうちに、消してしまったといった方が正しいのかもしれない。


「なぜなのだ?なぜ、黄泉の乙女が……」


「柚月の体を借りたんだよ。少しの間だけね」


「え?」


 光焔は、黄泉の乙女に尋ねる。

 黄泉の乙女が、なぜいるのかが、理解できないようだ。

 それは、朧達も、同じ。

 柚月の中に、想いの残存、つまりは、心を残したのは、知っている。

 だからこそ、夢の中でしか会えない。

 そう思っていたのだ。

 だが、黄泉の乙女は、説明する。

 柚月の体を借りたらしい。

 それゆえに、姿を現すことができたようだ。

 戸惑いを隠せない光焔。

 再び、会えたというのに……。


「光焔。君は、元に戻れないと言ったけど、元に戻ることはできるんだ」


「どうやってなのだ?わらわにはわからないのだ」


 黄泉の乙女は、光焔に説明する。

 なんと、光焔は、元の姿に戻れるらしい。

 光焔は、藁にも縋る思いで、黄泉の乙女に、問いかけた。

 元に戻りたいのだろう。

 柚月達のためにも。


「君は、いつも、光を使って、柚月達を助けてきたのを覚えているかな?」


「覚えているのだ。忘れてないのだ!」


 黄泉の乙女は、光焔に問いかけた。

 今まで、光の力で、柚月達を助けてきたことを覚えているかと。

 光焔は、力強くうなずく。

 忘れるはずがない。

 ずっと、考えていたからだ。

 この光は、なぜ、柚月達を助けられるのかと。

 どうやれば、自分の意思で発動できるのかと。


「なら、それを制御できれば、君は、元に戻れるはずだよ」


「どうしたらいいのだ?」


 黄泉の乙女曰く、光を自分の意思で発動できれば、光焔も元の姿に戻れるという。

 だが、その制御の仕方を知らない。

 ゆえに、光焔は、黄泉の乙女に尋ねた。

 早く、知りたいと願って。


「力を制御する方法は、心の強さが鍵となる」


「心の強さ?」


「そうだよ。柚月達も、心が強くなったから、力を制御できたんだ」


 制御するには、心の強さが重要となるようだ。

 かつて、柚月も、朧も、己と向き合い、心が強くなった事で、聖印を制御することができた。

 光焔が発動する光も、心の強さにより、制御することができるという。


「でも、わらわには、できぬのだ……」


 光焔は、うなだれてしまう。

 自分の心が、弱いからだと感じているのだろう。

 光焔は、元に戻ることをあきらめてしまった。

 ゆえに、自分は、強くなれないと思い込んでいるようだ。

 そんな光焔に対して、黄泉の乙女は、光焔の頬に、優しく触れた。

 母親のように。

 優しい感触が光焔を包みこみ、光焔は、顔を上げた。

 すると、黄泉の乙女は、穏やかな表情を光焔に見せていた。


「そんなことないよ。だって、君は、柚月達を殺したくないって言ってたじゃないか。だからこそ、意思を取り戻せたんだ。破壊衝動を抑え込んだんだ」


 黄泉の乙女は、優しく光焔に語りかける。

 光焔は、強いのだと諭して。

 光焔が、意思を取り戻せたのは、心が強いからだ。

 柚月達を殺したくないと心の底から願って。

 ゆえに、光焔は、破壊衝動を一時的に抑え込むことができた。

 それこそ、心が強い証拠だったのだ。

 そして、今もだ。

 黄泉の乙女が、現れた直後、光焔は、無意識のうちに、破壊衝動を消し去ったのだ。


「それは、黄泉の乙女が、いるからなのだ。だから、わらわは、もう、殺したくないって……」


「それだよ。誰かを想うことが、心の強さになるんだ」


「誰かを想う事……」


 光焔は、自分が、今、意思を取り戻せたのは、黄泉の乙女に会えたからだと説明する。

 だが、黄泉の乙女は、それこそが、心が強い証拠だと語った。

 大事な仲間の事を強く想うことで、心は強くなれるのだと。

 光焔は、呟く。

 柚月達、大事な仲間達の顔を思い浮かべながら。


「さあ、光焔、貴方は、もう少しで、力を制御できる。やってごらん」


 黄泉の乙女は、光焔の背中を押す。 

 光焔なら、力を制御できると信じているようだ。

 黄泉の乙女に背中を押された光焔は、体を震わせていた。


「わらわは……わらわは……」


 光焔は、こぶしを握りしめる。

 力を制御しようとしているのだ。

 柚月達を強く想う事で。


「柚月達を殺したくない!柚月達を助けたい!だから、わらわは、元に戻るのだあああああっ!!!!」


 光焔は、強い想いを叫んだ。

 心の底から。 

 すると、光焔から、まばゆい光が放たれる。

 それは、光焔を包みこみ始めた。

 そのまばゆい光は、朧にとっては、眩しすぎたようだ。

 朧は、思わず目を閉じてしまう。

 黄泉の乙女は、眩しいと感じていないようで、光焔を見守っていた。

 だが、光が止んだのを感じ取った時、朧は、恐る恐る目を開ける。

 すると、光焔は、元の姿に戻っていた。


「光焔が、元に戻った!!」


 朧は、嬉しそうに喜ぶ。

 光焔が、元に戻れたのだ。

 嬉しくないはずがない。

 心の底から、安堵していたのだ。


――やるじゃねぇかよ。


――ああ、一時はどうなるかと思ったがな。


 九十九も、千里も、安堵している。

 内心、困惑していたからだ。

 どうやって、光焔が、元に戻れるか。

 そして、光を制御できるか。

 だが、光焔は、見事制御し、元に戻ることができたのだ。

 宙に浮いていた光焔は、そのまま、床へと落下していった。


「光焔!」


 朧は、光焔の元へと駆け寄り、落下した光焔を受け止め、しゃがみ込む。

 九十九も、千里も、元に戻り、心配そうに、光焔の顔を覗き込んでいた。

 気を失ってしまったのではないかと不安に駆られて。

 だが、光焔は、目をきつく閉じた後、ゆっくりと目を開け、瞬きをしながら、自分の手を見る。

 確かめていたのだろう。

 自分が、元に戻れたのかを。

 そして、元に戻れたことを察し、光焔は、微笑んでいた。


「皆、ありがとうなのだ」


 光焔は、微笑む。

 元に戻れたことを嬉しく感じ、柚月達に感謝しながら。

 朧達も、微笑んでいた。

 彼らの後ろで、黄泉の乙女は、穏やかな表情を見せている。

 喜びをかみしめているのだろう。


「後は、任せたよ。柚月」


 黄泉の乙女は、柚月に伝え、光り始める。

 光焔の事を柚月に託して。

 そして、光が止むと、柚月は、元に姿に戻っていた。


「ああ、ありがとう。黄泉の乙女」


 柚月は、黄泉の乙女にお礼を告げた。

 彼女のおかげで、光焔は、助かったのだ。

 それゆえに、心の底から、感謝していた。 

 だが、その時であった。


「兄さん、あれ!」


 朧が、格子窓を見て、指を指す。

 何かを見たようだ。

 柚月達も、格子窓を見ると、神聖山から、光が見えた。

 かすかだが、まばゆく、強い光が。


「神聖山から、光が……」


「準備が、整ったようだな」


「うん……」


 神聖山から光が見えた柚月達は、相槌を打つ。

 どうやら、綾姫達が、何かをし始めたようだ。

 柚月は、光焔へと視線を移した。


「光焔、頼みがあるんだ」


「うむ、やるのだ。やってみせるのだ!」


 柚月に頼まれた光焔は、強くうなずく。

 何かをしようとしているらしい。

 光焔は、両手を上げる。

 すると、まばゆい光を生み出した。

 柚月達を助けた時に発動したあの光を。


「空巴、泉那、李桜。皆、戻ってこいなのだああああっ!!!」


 光焔は、神聖山へと光を飛ばす。

 空巴達が戻ってくるようにと強く願いながら。

 その光は、三つに別れ、神聖山の麓へとたどり着き、三つのまばゆい柱が現れ、天へと昇っていった。

 


 静居達は、部屋で、柚月達が、光焔を殺すのを待っていたはずだった。

 だが、今は、神聖山に目を向けている。

 それも、信じられないと言わんばかりの表情で。


「な、なんだ、あの光は!?」


「どうなってるの!?」


 静居も夜深も、動揺を隠せない。

 なぜなら、予定が大幅に狂ったからだ。 

 柚月達は、あの座敷童が光焔だと気付かずに、殺し、柚月達を絶望へと落とすつもりだった。

 だが、実際は、光焔が、正気を取り戻し、柚月達と黄泉の乙女が、光焔を元に戻したのだ。

 だが、驚くのは、これだけではなかった。

 なんと、神聖山へと光を飛ばした光焔。

 一体、何をしようと言うのか。

 静居も、夜深も、予測不能だ。

 その時であった。


『っ!!』


 死掩達が手にしていた結晶が、死掩達から、離れ、神聖山へと向かってしまう。  

 あれは、空巴達を封印していた結晶だ。

 その結晶が、ひとりでに動きだしたというのだ。

 そんな事は、あり得えない。

 空巴達は、眠らせたのだから。


『主!空巴達が!?』


「え!?」


 死掩が、驚愕しながら、夜深に報告する。 

 空巴達が、離れてしまったと。

 さすがの夜深も、驚きを隠せないようだ。

 封印していたというのに。

 いったい何が、起こっているのだろうか。



 空巴達を封印している結晶は、神聖山の麓へと到達する。

 そして、綾姫達が、掲げている宝玉と一つになり、さらに、まばゆい光が放たれた。

 そして、光が止むと、なんと、空巴達が、姿を現したのだ。


『やっと、復活できたわね』


『はい。それも、力がみなぎってくるようです』


『これも、皆のおかげだな』


 空巴達は、封印から解放され、喜びを分かち合っている。

 彼らは、本当に、完全復活を遂げたようだ。



「な、なぜ……空巴達が……」


「どうなってるの……?」


 静居達は、呆然と立ち尽くしている。

 何が起こっているのかも、未だ、理解できないまま。

 だが、その時であった。

 静居達は、背後から気配を感じ取り、とっさに、うしろを振り返ったのは。

 静居達の背後にいたのは、なんと、黄泉の乙女であった。


「教えてあげるよ。これが、柚月達の作戦だからだよ」


「貴様っ!!」


 黄泉の乙女を目にした静居は、怒りを露わにする。

 まるで、彼女に対して、憎悪を抱いているようだ。

 夜深達は、衝撃を受けているのか、あっけにとられている。

 だが、黄泉の乙女は、動じることなく、平然とした様子で、静居達を見ていた。


「久しぶりだね、静居」


 黄泉の乙女は、微笑んでいる。

 まるで、再会を喜んでいるかのようだ。

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