第百七話 柚月達を助ける為に

 柚月を守るために、かばい、ぐったりと倒れてしまった九十九。

 意識は、あるものの、起き上がる事さえままならない。

 それほどの痛みと衝撃が、全身を襲ったのだ。


「愚かだな。まさか、妖が人間をかばうとは」


 勝吏は、憐みの目で九十九を見下ろす。

 妖が人間をかばう事が信じられないのであろう。

 それと、同時に、憐れんでいたのだ。

 柚月などかばわなかったら、怪我を負わずに済んだのにと。

 抵抗した自分の息子でさえも、愚かだと心の中で罵って。

 撫子達は、危険を顧みず、柚月達の元へ向かおうとする。

 命を奪われても、彼らだけでも守らなければと。

 だが、月読と矢代が、陰陽術を発動し、術が、撫子達を捕らえてしまった。

 光焔を除いて。


「っ!」


「逃がさぬぞ」


「な、なんや、これ!」


「動けない……」


 発動された陰陽術は、撫子達をきつく締めあげている。

 もがき、抵抗しても、解放されることはない。

 いや、動くことさえも、不可能に等しい。

 撫子達は、焦燥に駆られた。

 柚月達に死が迫っていると悟って。

 光焔も、撫子達にかけられた術を解こうとする。

 しかし、月読と矢代が、撫子達に向けて、刃を突きつけた。


「その術を解いたら、こいつらを殺すよ?」


「……」


 なんと、矢代は、脅しをかけてきたのだ。

 これで、光焔は、撫子達を解放することもできなくなってしまった。

 こぶしを握りしめながら、手を降ろす光焔。

 悔しさがこみ上げてきそうだ。

 何もできない無力な自分を呪って。 


「あんた達は、ここで、みてな」


 矢代は、撫子達に吐き捨てるように言う。

 撫子達も、歯を食いしばり、こぶしを握りしめた。

 これでは、柚月達を助けることすらできない。

 月読と矢代は、不敵な笑みを浮かべながら、柚月達を見ている。

 勝吏と虎徹は、柚月達に、迫ろうとしていた。


「駄目よ、お兄様……。あの子達を殺しては……」


 保稀が、虎徹に懇願する。

 柚月達を殺してはならないと。

 だが、保稀の悲痛な想いは、虎徹には届いていない。

 届かないのだ。

 静居に操られた状態では。

 一歩、一歩と迫っていく勝吏と虎徹。

 保稀は、何も出なきない自分を悔やみ、涙を流した。

 刃が、柚月達に迫っていく。

 だが、その時であった。


「待つのだ!!」


「光焔はん!」


 光焔が、柚月達の元へと向かってしまったのだ。

 撫子は、光焔を止めたいところだが、捕らえれらているため、動くことすらできない。

 光焔は、光を放って、勝吏達を目をくらませ、下がらせる。 

 その隙をついて、勝吏と虎徹の前に現れたのだ。

 柚月達を守るために、両手を広げて。


「やめるのだ!柚月達を傷つけないでほしいのだ!」


「光焔……待て……」


「逃げろ……」


 光焔は、柚月達を助けてほしいと懇願する。

 柚月は、意識が朦朧とする中で、光焔を制止させ、朧は、逃げるように訴える。

 だが、それでも、光焔は、逃げようとも、引こうともしない。

 柚月達は、自分が守ると、決めたからだ。


「退け」


「嫌なのだ」


 勝吏は、冷酷な目で光焔をにらみ、吐き捨てるように命じる。

 だが、光焔は、きつく目を閉じ、必死に、何度も首を横に振った。

 柚月達を、守るためなら、なんだってする。

 光焔は、そう決めたのだ。

 すると、勝吏は、光焔の心情を読み取ったのか、にやりと、口をゆがませた。


「ならば、私達とともに来い。そうすれば、柚月達を助けてやろう」


「え?」


 勝吏は、光焔に、残酷な言葉を口にする。

 なんと、柚月達を助けてほしいのであれば、光焔が、こちら側へ来るよう命じたのだ。 

 これは、交渉ではない。

 単なる脅しだ。

 光焔が、この命令を受け入れなければ、勝吏達は容赦なく、柚月達を殺すであろう。

 もはや、選択肢は、一つしかなかった。


「駄目だ……光焔」


「あいつの言う事なんか、聞くんじゃねぇ……」


 九十九も、千里も、声を振り絞って、伝える。

 わかっている。

 行ってはならないと。

 だが、断れば、柚月達は、命を奪われることになる。

 光焔は、こぶしを握り、ぐっと、前を見る。

 感情を押し殺すように。


「いいのだ」


「何?」


「わらわは、お前達と行くのだ!だから、柚月達を助けてほしいのだ!」


「よかろう」


 光焔は、懇願した。

 自分は、勝吏達と共に行く。

 だから、その代り、柚月達を助けてほしいと。

 勝吏は、不敵な笑みを浮かべてうなずく。

 そして、すぐさま、光焔を抱きかかえ、柚月達に背を去ろうとした。

 虎徹、月読、矢代も、勝吏に続いて、柚月達に背を向け歩き始めた。

 しかし……。


「光焔!」


 柚月は、光焔を助ける為に、激痛に耐えて、立ち上がり、勝吏の元へと向かおうとする。

 しかし、勝吏が、柚月が立ち上がったの事にいち早く気付き、再び、聖印能力を発動した。

 雷の輪が、柚月に向かっていく。

 柚月は、回避することができず、雷の輪は、柚月を捕らえた。


「ぐあああっ!」


「柚月!」


 柚月の絶叫が、再び、響き渡り、光焔は、目を見開き、手を伸ばす。

 だが、勝吏は、光焔を制止させ、歩き始める。

 苦しむ息子の姿を見ることなく。

 柚月の絶叫は、まだ、響き渡っていた。


「話が違うのだ!柚月達を助けるって!」


「この者が、刃向おうとしたからだ。正当防衛だ」


 光焔は、抵抗し始める。

 話が違うと。

 当然だ。

 柚月達を助けると聞いたから、光焔は、受け入れ、勝吏達についていくことを決めたのだ。

 だが、勝吏は、容赦なく、柚月に攻撃を仕掛けた。

 勝吏は、柚月が、刃向ったからだといい、正当防衛だと主張する。

 つまり、柚月に非があると言いたいのだ。

 こちらは、殺さず、見逃してやると言っているのにと言いたいところであろう。

 光焔の顔が青ざめていく。

 これでは、柚月達を守れないと悟って。


「は、早く、わらわを連れてくのだ。柚月達が起き上がる前に……」


「うむ。目的は、達した。引き揚げるぞ」


「承知した」


 光焔は、血相を変えて、勝吏に懇願する。

 早く、自分を連れていくようにと。

 柚月達を守るには、これしかないのだ。

 自分が、姿を消せば、柚月達は、もう、追ってくることはない。

 つまり、柚月達を助けられるのだ。

 勝吏は、承諾し、虎徹達と共に、大広間を去っていく。

 そして、屋根の上に登り、妖を召喚する。

 勝吏達は、屋根から妖の背に飛び移り、光城を離れていった。

 光焔は、振り向き、光城へと視線を移す。

 柚月達の身を案じながら。

 雷の輪から、解放された柚月は、仰向けになって倒れていた。

 弱弱しい息を繰り返しながら。


「こう……えん……」


 柚月は、弱弱しい声で、光焔の名を呼ぶ。

 ようやく、術から解放された撫子達が柚月達の元へ駆け付けるが、そこで、柚月の意識は途切れてしまった。



「っ!」


 神聖山を登り始めた綾姫と瑠璃は、振り返る。

 光城がある方向へと。

 それも、不安に駆られた様子でだ。

 胸騒ぎがしたからだ。

 柚月達に何かあったのではないかと、察している。

 彼女達に様子に気付いた夏乃と美鬼は、振り返り、彼女達の元へ歩み寄った。


「綾姫様、瑠璃、どうされましたか?」


「な、何でもないわ、ねぇ、瑠璃」


「う、うん」


 夏乃は、綾姫と瑠璃に問いかける。

 何かあったのではないかと不安に駆られて。

 だが、綾姫も、瑠璃も首を横に振り、本心を隠してしまった。

 嫌な予感がしたのは、確かだ。

 だが、思い違いの可能性だってある。

 夏乃達に、話すべきではないのかもしれないと関したのだ。 

 

「大丈夫ですよ。柚月達なら、きっと」


「うん、私も、そう思う」


 そんな彼女達の心情を察したのか、美鬼は、優しく瑠璃に語りかける。

 朧の事を心配しているのだろう。

 もちろん、瑠璃も、大丈夫だと思っている。

 だが、どうしても、不安に駆られてしまったのだ。


「さあ、行きましょう」


「ええ」


 綾姫達は、再び、歩き始める。

 任務を遂行するために。

 だが、不安は、未だ、取り除けていない。

 彼らに何かったのではないかと、推測してしまう自分達がいた。



 勝吏達に連れ去られた光焔。

 勝吏達は、聖印京に帰還し、本堂に入った。

 静居と夜深がいる部屋へ向かうために。

 部屋に入り、勝吏は、光焔を投げ捨てた。

 無残に扱って。


「わっ!」

 

 光焔は、畳の上にたたきつけられる形で倒れ込む。

 すぐに、起き上がり、顔を横に振り、あたりを見回し始めた。


「ここは……どこなのだ?」


 見た事がない部屋だ。

 金箔で装飾されており、豪華な造りになっている。

 光焔は、本堂を訪れたのは、初めてだからだ。

 それゆえに、彼は、まだ、知らない。

 静居と夜深の部屋に連れてこさせられたという事に。

 だが、その時だ。

 御簾を上げ、静居と夜深が現れたのは。


「待っていたわ。忌々しい坊や」


「夜深……なのか?じゃあ、ここは、本堂?」


「ふふ、その通りよ」


 夜深は、光焔をにらみつける。

 ことごとく、邪魔をしてきた光焔を許せないのだろう。

 今すぐ、殺したいほどに。

 だが、これでも、夜深は、感情を抑え込んでいる方だ。

 そうとも知らない光焔は、自分がどこにいるのは、気付いた。

 本堂に連れてこさせられたのだと。

 そして、静居が、しゃがみ込み、光焔と同じ目線になる。

 目が合っただけで、威圧感を感じる。

 まるで、神に睨まれたようだ。

 光焔は、体を震わせてしまった。


「計画通りに事が進んでいる。これほど、うれしいことはないぞ」


「皇城、静居……」


「久しぶりだな。光焔」


 静居は、光焔と対面し、口をゆがませた。

 まるで、光焔と会えたことを喜んでいるようだ。

 光焔は、それだけで、背筋に悪寒が走り、嫌な予感がした。

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