第百一話 満月が重なれば

「人間と妖の負の力を月自身が吸い取った事で、赤い月が誕生したとはな。興味深い話だ」


「でしょ?」


 赤い月が誕生した経緯を知った静居は、意外な反応を見せる。

 静居は、月は、血で染められたか、あるいは、吸い取らされていたと推測していたからだ。

 月自身が、吸い取っていたとは、予想外であり、興味深いと感じていた。

 静居が、興味を持ってくれたからか、夜深は、嬉しそうに微笑んでいた。


「で、なぜ、妖は、凶暴化する?」


「月が、妖達の破壊衝動を抑えきれなくなるからよ」


「どういう意味だ?」


 赤い月の日に、妖達が、理性を失い、凶暴化する理由は、月が、破壊衝動を抑えられなくなるかららしい。

 つまり、月は、普段から、常に、妖達の破壊衝動を抑えていたことになる。

 ますます、興味深い話だ。

 静居は、夜深に問いかけた。

 詳しく聞かせてほしいと。


「太陽には、人間に加護を与える力がある。そのおかげで、彼らは、術を使いこなせるの。そして、月は、浄化する力があるわ。月は、破壊衝動を抑えてきたの。太陽の光を使ってね」


 夜深曰く、太陽と月は、神秘的な力を宿しているようだ。

 太陽は、人々に加護を与えている。

 それは、人々を守る力とも言われている。

 それゆえに、人々は、その加護により、術が使いこなせるようになったのだ。

 妖も例外ではない。

 月には、浄化能力があるという。

 その能力によって妖達の破壊衝動を抑えてきたというのだ。

 これを知っているのは、神々くらいであろう。

 静居でさえも、知らなかった。


「なるほど、新月の時に妖が、凶暴になるのは、それが理由か」


「ええ」


 静居は、納得し、ある答えが浮かび上がる。

 それは、新月の時になると、妖達が、凶暴化するのだ。

 赤い月の時ほどではないが、驚異的であるという。

 新月の時は、光で照らすことができず、浄化の力が弱まってしまう。

 ゆえに、凶暴化するようだ。


「月は、負の感情を浄化するために、負の感情が混じった血を吸い取ったの。そうすれば、地は汚れていく。だけど、一気に浄化は難しいわ。妖の破壊衝動を抑えなければならないからね。だから、溜め込んでしまうの」


 人と妖は、殺されることで、血と負の感情を残してしまう。

 それは、悪影響を及ぼすことになるのだ。

 月は、悪影響を食い止める為に、あえて、負の感情が混じった血を吸い取り、浄化しようと試みたのだが、破壊衝動を抑える事と負の感情が入りまじった血を同時に浄化する事は、容易ではない。

 ゆえに、少しずつしか、浄化はできず、血を溜め込んでしまうのだ。

 負の感情が入りまじった血を溜め込んだ月は、赤い月へと変貌を遂げてしまうというわけであった。


「そして、赤い月を浄化しなければならなくなるから、妖達の破壊衝動を抑えきれなくなる」


「負の感情に力を注いでいるという事だな?」


「そうよ」


 赤い月へと変貌すれば、それこそ、和ノ国が消滅してしまう。

 月自身が、暴走する可能性もあるだ。

 ゆえに、月は、その血を一気に、浄化しなければならない。 

 そのため、妖達の破壊衝動を抑える事ができなくなってしまう。

 それが、赤い月の誕生の原因と妖達の凶暴化の原因であった。


「血を浄化すればするほど、破壊衝動は、膨れ上がっていく。ゆえに、彼らは、破壊衝動を抑えきれなくなって、理性を失ってしまうの」


 破壊衝動を妖達は、止められるはずがない。

 今まで、月の力で抑え込まれていたのだから。

 それを知らない妖達は、一気に破壊衝動に飲まれ、理性を失ってしまうのだ。

 月が、血を浄化し続ける限り。


「特に満月の日は、特別なのよ。浄化の力が、一層、強くなる。そこへ、負の感情が入りまじったらどうなるかしら?」


「一気に、浄化されてしまうのではないか?」


「ええ、そうね。でも、浄化の力よりも、負の感情の方が強かったらどうなるかしら?」


 夜深は、もし、満月の日と赤い月が重なったらどうなるかと静居に問いかける。

 静居は、一気に血が浄化されてしまうのではないかと推測した。

 満月の日は、浄化の力が一層強くなっているからだ。

 だが、それは、負の感情の方が弱いときだ。

 もし、浄化の力を負の感情の方が上回っていたら、どうなるか。

 夜深は、静居の考えを聞いた。


「浄化の力を飲みこむ。そう言いたいのか?」


「そういう事よ」


 負の感情の方が上回っていたのなら、浄化の力は、飲みこまれてしまう。

 静居は、そう推測したが、読みは当たっていたようだ。

 つまりは、負の感情の力が増大するという事なのだろう。


「そうなれば、赤い月は、暴走する。浄化の力を取り込んだんだもの。神の力と同等になるわね」


 負の感情が増大すれば、赤い月は、暴走する。

 負の感情の力で、大地を揺るがしてしまうだろう。

 浄化の力は、神の力。

 そして、負の感情は、神の力に等しい。

 ゆえに、二つの神の力が、融合すると考えてよさそうだ。

 それは、最も、恐ろしい力となりうるであろう。


「その暴走をお前が、操る。と言う事か?」


「違うわ。二人で、操るのよ」


 静居は、夜深が、赤い月の暴走を操り、和ノ国を滅ぼすのではないかと推測しているようだが、夜深は、二人で、操るのだと宣言したのだ。

 つまり、二人で、和ノ国を滅ぼそうとしているらしい。


「月とあなた達が住む世界はつながっている。見えない糸のようにね」


「赤い月を暴走させることで、この地に災厄が訪れる。そう言いたいのだな?」


「正解よ」


 しかも、月と大地はつながっているという。

 引力というものであろう。

 ゆえに、赤い月の暴走は、大地に悪影響を与えてしまうというわけだ。

 つまりは、災厄。

 それを、夜深は、狙っているのであろう。

 災厄が、起これば、静居が望んだ和ノ国の滅亡になるのだと。


「赤い月の暴走によって、天変地異が起こるわ。大地は引き裂かれ、人も妖も、滅ぶ。どう?簡単でしょ?」


「時間は、相当、かかるがな」


 天変地異は、誰にも止められない。

 滅びの時を迎えるという事だ。

 人や妖さえも、滅ぼしてしまう。

 何とも、至極簡単で、恐ろしいことであろうか。

 だが、それゆえに、時間は相当かかる。

 赤い月と満月が、重なった日など今までないのだから。


「ええ、だから、大戦を引き起こしてもらったのよ」


「なるほど、もう一つ、目的があったわけか」


 夜深は、静居に提案したのだ。

 静居が、神となると宣言する前に。

 神々を復活させるために、大戦を起こしてほしいと。

 将軍達が、操る妖にて命を奪わせ、その妖と将軍の命を捧げる事によって、神々は、復活するのだから。

 だが、実は、もう一つ目的があった。

 多くの血を流させるためだ。

 そうすれば、月は、大量の血を吸い取ることになる。

 様々な負の感情も混ざり合って。


「一気に、命は、失われた。戦場に残ったのは、血と骨と負の感情。それも、幾百の……」


 大戦を引き起こすということは、多くの血が流れ、多くの悲しみや憎しみが生まれる。

 それは、膨大な量と言っても過言ではなかった。


「だから、赤い月は、五年も立たずに、現れた。そして、月は、浄化しきれず、赤い月は、続くわ」


「妖達を浄化することができる聖水の雨も降らない」


「だから、負の感情は、一層、膨れ上がっていく」


 大戦が起こったがゆえに、多くの血は流れ、それを吸い取った月は、すぐさま、赤い月へと変貌を遂げてしまった。

 その量は、今まで以上に大量だ。

 ゆえに、一日で、浄化はできなかった。

 妖を浄化するために、聖水の雨と化した泉の神・泉那は、封印された。

 これも、夜深が狙っていた事だ。

 ゆえに、妖達は、凶暴化したままであり、負の感情は、ますます、増大していく。

 赤い月が続いたのは、それが、原因であった。


「そして、満月の日になれば、和ノ国は、滅ぶ」


 赤い月は、続いていくだろう。

 満月の日まで。

 その日が来れば、確実に、天変地異が起こり、和ノ国が滅ぶ。

 静居は、そう、予想しているようだ。

 それは、静居にとって、願ったり叶ったりであった。


「そうなれば、私達の力で、生まれ変わらせるのよ」


「私の理想の人と妖を生み出せるという事か」


「ええ」


 静居と夜深の狙いは、和ノ国を滅ぼすだけではない。

 全ての人と妖を滅ぼした後、静居と夜深の力で生まれ変わらせるのだ。

 自分達をあがめさせるために。

 意のままに操るのではなく。

 まさに、静居にとっては理想郷であろう。

 だが、何とも、傲慢な願いであろうか。

 身勝手な願いの為に、人や妖は、殺されるのだから。


「素敵でしょ?」


「ああ、素晴らしい」


 だが、静居と夜深にとっては、素晴らしく感じるのであろう。

 もうすぐで、自分達の願いは叶うのだから。

 千年もの間、待ってでも、そのゆがんだ願いをかなえようとしていた。

 夜深は、静居を抱きしめる。

 妖艶に、嬉しそうに。

 静居は、笑みを浮かべたまま、酒を飲み始めた。


「静居、私達は、このまま、神となれるわ。貴方と私の願いは、きっと叶う」


「わかっている。赤い月の力があれば、私達に敵う者はいない」


「楽しみだわ。貴方が私と同じ神になるんだもの。こんなに幸せなことはないわ」


「そうだな。千年の時を待ち、ようやく、願いが叶うのだ。最高だ」


 静居も夜深も、自分達の願いは、叶うのだと信じ切っている。

 疑ってなどいなかった。

 静居は、神となると信じている夜深。

 自分と同じ神となる事を喜んでいるのだ。

 静居も、神になると信じている。 

 もうすぐで、願いが叶のだと。


「その前に……」


「ええ、殺さなければね。あの子達を」


 自分達の願いを叶えるには、邪魔者を消す必要がある。

 その邪魔者とは、言うまでもなく柚月達の事だ。

 自分達の願いを叶えるべく、静居と夜深は、今度こそ、柚月達を殺そうとたくらんでいた。

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