第九十二話 いつか、再会できる時を

 黄泉の乙女は柚月に語りかける。

 だが、柚月は、戸惑うばかりであった。

 今、自分の身に何が起こっているのかわからずに……。


「俺を知っているのか?」


「知ってるよ。ずっと、私は、ここから見てきたから。君達の戦いを」


「なぜ?」


「見守ると決めたからだよ」


 柚月は、黄泉の乙女に問いかける。

 すると、黄泉の乙女は答えた。

 異空間から、見てきたというのだ。

 今までの戦いを。

 柚月達を見守ってきたのだろう。

 だが、なぜ、自分を見守ってくれたのかが不明だ。

 黄泉の乙女曰く、見守ると決めたらしい。


「見ず知らずの私が、君を見守るのは、なぜかって顔してるね。でも、私と君は、深いつながりがある」


「深いつながり?」


 やはり、理解できない事だらけだ。

 なぜ、見守ると決意したのか。

 彼女と柚月に接点はないはずなのに。 

 だが、黄泉の乙女は、説明する。

 自分と柚月は深いつながりがあるのだと。

 柚月は、首を傾げ、問いかけた。

 心当たりがないからだ。

 自分と黄泉の乙女は、始めて会ったはずなのに……。


「そう、私は君の――だからね」


 黄泉の乙女は真実を明かすが、肝心な部分を柚月は、聞き取れなかった。

 まるで、雑音に遮られているかのようだ。


――聞こえない?なぜ?


 柚月は、疑問を抱く。

 なぜ、肝心な部分が聞こえないのだろうか。

 そこが、重要であるはずなのに。

 困惑する柚月に対して、黄泉の乙女は、微笑みかけた。


「やはり、聞き取れなかったようだね。まぁ、仕方がないか。でも、いずれわかるよ」


 柚月が、肝心な部分を聞き取れなかったのも、想定内のようだ。

 いずれわかると、柚月に諭す黄泉の乙女。

 柚月は、困惑するばかりだ。

 彼女は、何を知っているのだろうかと。


「さて、柚月、君は、目覚めなければならない。君を待ってくれる人がいる」


「目覚める?」


「そう、ここは、夢の中だからね。早くしないと、君は、夢の中にとらわれたままになるよ」


 黄泉の乙女は、柚月の頬に振れる。

 まるで、母親のようだ。

 懐かしさがこみあげてくる。

 その理由は、不明だ。

 黄泉の乙女は、話を続けた。

 柚月が目覚めなければ、夢の中にとらわれたまま、つまり、一生目を覚まさないままなのだと。

 だから、早く、目覚めるように促したのだ。


「どうすれば、俺は……」


「大丈夫。私が、助ける」


「え?」


 目覚めるには、どうしたらいいのか。

 柚月は、その方法が見つけられない。

 だが、黄泉の乙女は、自分が助けると言いだす。

 戸惑いを隠せない柚月。

 どうやって、目覚めさせようというのであろうか。

 黄泉の乙女は、両手で柚月の頬に振れる。

 すると、黄泉の乙女は、光り始め、その光は、柚月を包みこみ始めた。


「さあ、行くよ」


 黄泉の乙女は、目を閉じる。

 すると、光がまばゆくなり、柚月を照らし始め、柚月は、思わず、目を閉じてしまった。



 光が止み、ゆっくりと目を開ける柚月。

 そこは、真っ白な世界だ。

 だが、違うのは、朧達が、柚月を取り囲んでいるという事。

 つまり、ついに、柚月も、目覚めることができたという事であった。


「柚月!」


「柚月が、柚月が目覚めたわ!」


「兄さん!」


 九十九が、うれしそうな表情を浮かべ、綾姫と朧は、歩み寄る。

 彼女達も、柚月に関する記憶を取り戻したのだ。


「俺は……何が……」


 柚月は、状況を把握できておらず、困惑する。

 当然であろう。

 大戦から、眠り続けていたのだから。

 だが、これだけは、わかる。

 心配をかけてしまったのだと。

 あたりを見回す、柚月。

 すると、椿、茜と藍の姿を目にした時、目を見開き、動揺した。


「姉上、なぜ……」


「転生したんだと。俺達を支えるために」


「え?」


 困惑する柚月に対して、九十九が説明する。

 自分達を支えるために、妖に転生したのだと。

 まだ、事態を把握できていない柚月。

 だが、椿は、柚月達に、微笑みかける。

 柚月が目覚め、喜びをかみしめているのであろう。

 柚月が目覚めたことを喜ぶ光焔は、あたりを見回す。

 彼女を探しているようだ。

 柚月達の後ろの方で黄泉の乙女は、柚月達を見守ってた。

 だが、彼女は、光の粒となって消えようとしていた。


「あっ!」


 光焔は、黄泉の乙女の元へと駆け寄る。

 柚月達も、光焔を目で追うと彼女が消滅しかけている事に気付き、柚月は、九十九から、降りて、彼女の元へと駆け寄った。


「やはり、消えてしまうようだ」


「そんな!」


「俺のせいで……」


 やはり、全ての力を使うという事は、消滅を意味していたようだ。

 それでも、黄泉の乙女は、この事さえも、予想していたようで、戸惑っていない。

 だが、光焔は、愕然とし、柚月は、自分を責めた。

 自分を目覚めさせるために、彼女を犠牲にしてしまったのだと。

 そんな柚月に対して、黄泉の乙女は、優しく、柚月の頬に振れた。


「違うよ。これは、私が、決めた事。だから、自分を責めないで」


「ありがとう」


 黄泉の乙女は、柚月に諭す。

 これは、自分が決めた事だから、柚月は何も悪くないのだと。

 柚月は、静かに、うなずいた。

 黄泉の乙女に感謝しながら。


「光焔、柚月達の事、頼んだよ」


「うむ……」


「ありがとう、最後に会えて、良かった……」


 黄泉の乙女は、柚月達の事を光焔に託し、光焔はうなずいた。

 すると、黄泉の乙女は、柚月達に会えたことを嬉しく思い、微笑んでいた。

 だが、その時だ。

 黄泉の乙女は、辛そうな表情を浮かべ、柚月へと視線を向けたのは。


「ごめんね、柚月」


「え?」


「見守る事しかできなくて、一緒に戦えなくて……」


 黄泉の乙女は、声を震わせながら、柚月に謝罪する。

 まるで、母親のように。

 柚月の支えになれなかったことを悔やんでいるようだ。

 目に涙を浮かべる黄泉の乙女だが、こらえている。

 柚月は、彼女の言葉の意味が分からない。

 なぜ、辛そうな表情を浮かべているのか。

 自分と彼女は、どのようなつながりがあるのか……。


「君なら、大丈夫だから。絶対、勝てるよ。静居に……」


 黄泉の乙女は、あふれそうになる涙を手で拭って、太陽のような笑みを浮かべて伝える。

 すると、黄泉の乙女は、光の粒となって、消滅しかけていった。


「待ってくれ!消えるな!」


 柚月は、手を伸ばす。

 だが、彼女は、一滴の涙を流して、光とともに消えていった。

 その光は、瞬く間に柚月達を包みこみ始めた。



 光が止み、柚月達は目を開ける。

 すると、目にしたのは、入り組んだ青緑の木々。

 どうやら、柚月達は、樹海に戻ってきたようだ。


「樹海に戻ってきた。どうしてなのだ?」


「あの方が消えたからよ」


「え?」


「あの異空間は、あの方が、作りし空間だったから」


 なぜ、突如、樹海に戻ってきたのか、見当もつかない光焔。

 すると、椿が説明し始めた。

 異空間は、黄泉の乙女が作った空間である。

 ゆえに、彼女が消滅すると、空間も消滅するようになっていたようだ。

 つまり、彼女は、消滅した。

 もう、どこにもいない。


「やっぱり、わかってたのかもね」


「それでも、助けたかったんだと思うわ。貴方の事」


 茜と藍は、黄泉の乙女は、力の全てを使うという事は、消滅するという事を知っていたのではないかと推測する。

 それでも、彼女は、柚月を助けたかったのだろう。


「なぜ、俺を……」


 柚月は、思考を巡らせる。

 なぜ、自分を犠牲にしてまで、助けてくれたのか。

 消滅する時、彼女の笑みは、流した涙のわけは……。

 いずれ、わかるというが、やはり、見当もつかない。

 それでも、柚月は、黄泉の乙女に感謝していた。

 どこかで、彼女が、見守ってくれているので花と思いながら。


「なぁ、椿」


「ん?」


「これから、お前らは、どうなるんだ?」


「どうなるって、私達が、あの人の代わりになるだけよ」


「あの人の代わり?黄泉の乙女になるってこと?」


「ええ」


 九十九は、気になったことがある。

 それは、椿達の事だ。

 再会で来た事は、うれしいが、これからどうなってしまうのか。

 黄泉の乙女が消滅したことにより、彼女達も消滅してしまうのではないかと不安に駆られたのだろう。

 だが、椿は、意外な言葉を口にする。

 黄泉の乙女の代わりになるというのだ。

 朧が、確認するように問いかけると、椿はうなずいた。


「魂を黄泉に導く者は、必ず必要だから」


「私達は、あの方の代わりに黄泉の乙女になって、生きていくの」


「と言う事は、あの異空間に……」


 黄泉へ導く者は、必要だ。

 それゆえに、彼女は、夜深が、その役目を放棄した後、自身が、その役目を担ってきたのだ。

 黄泉の乙女は、消滅してしまった。

 そのため、自分達が、黄泉の乙女として、生きていくことを茜と藍は、決めたようだ。

 だが、それは、あの異空間に留まるという事なのだろうか。

 千里は、不安に駆られてしまった。

 会うことは、難しくなってしまうのではないかと。


「いいえ、違うわ。あの方が、異空間にいたのは、静居に気付かれないようにするため」


「あたしたちは、この樹海で生きるの」


「だから、いつでも会えるわ」


 椿が、千里の不安を取り除くように答える。

 黄泉の乙女が、異空間にいた理由は、静居に気付かれないようにするため。

 夜深は、樹海にて、魂を導いてきたようだ。 

 異空間も消滅してしまった為、椿達も、樹海にて、魂を導くらしい。

 ゆえに、彼女達と会えるというわけであった。


「そっか、なら、また、会いに来ていいか?この戦いが終わったら」


「ええ、待ってる」


 九十九と椿は、約束を交わす。

 もう会うことのできないと思っていた。

 だが、また、再会を果たし、会うことができる。

 自分も、椿も、妖だ。

 この先、長く生きるだろう。

 何百年も。

 だが、九十九は、孤独ではない。

 椿と共に生きることができるのだ。

 そう思うと、九十九は、今度こそ、罪を償えた気がした。


「餡里が生まれ変わったら、会いに行く。必ずな」


「うん、待ってるよ」


「楽しみにしてるわ」


「ああ」


 千里は、餡里が生まれ変わったら、二人に会いに行くと約束を交わす。

 餡里が、いつ、生まれ変わって、千里と再会を果たすかは、不明だ。

 ずっと、ずっと、先のことかもしれない。

 何百年も、待たなければならないかもしれない。 

 彼女達も、妖だ。

 ゆえに、千里も、茜も藍も、何百年でも、餡里を待とうと決意したのだ。

 今度は、四人で、再会できる日を願って。


「皆、ありがとう」


 柚月は、お礼を言うと九十九達は、微笑んでいた。

 柚月と朧が、目覚めた喜びをかみしめながら。


「光焔、戻ろう」


「うむ」


 柚月が、光焔に、戻るよう促すと光焔は、うなずき、光城を呼び寄せる。

 すると、柚月達は、光に包まれ始めた。


「柚月、朧。九十九の事、お願いね」


「ああ」


「うん」


 椿は、柚月と朧に九十九の事を託す。

 成長した二人を見れた事を嬉しく思いながら、二人なら、九十九の事を支えてくれると信じて。

 柚月も朧も、約束を交わすようにうなずいた。


「ありがとう」


 柚月は、一筋の涙を流した。

 自分が深い眠りから目覚められた事、椿達と再会で来た事に感謝しながら。

 そして、彼女達の為にも、和ノ国を救うと誓って。

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