第八十五話 傷ついた魂を癒すために
「なるほどねぇ。そういう事だったんだ」
「魂を傷つけられてしまったから、わたくし達は忘れてしまっていたのですね」
千里の話を聞き終えた柘榴と美鬼は、納得する。
彼らも、気にかけていたのだ。
柚月と朧の事を。
知らないはずなのに、何かを忘れているような。
それゆえに、彼らは、知りたがっていた。
「じゃ、じゃあ、魂を癒せば、彼らも目覚めるし、僕達も、記憶を取りもせるんですよね?」
「けど、どうやって魂を癒せばいいんっすか?」
時雨は、二人を助ける方法を模索し、答えを出す。
魂が癒えれば、柚月達も目覚め、自分達の記憶も戻るはずだと。
だが、肝心なのは、どうやって魂を癒すかだ。
そもそも、魂だけをいやす方法があるのだろうか。
真登は、九十九と千里に尋ねた。
「わからねぇんだよな、それが」
「俺達も、たまもひめや龍神王に尋ねようとしていたところだ」
「でも、戦闘に入っちまったから、それどころじゃなくなったってことか」
「おう」
九十九も千里も、まだ、彼らを救う手立てを見つけていない。
そのため、たまもひめや龍神王に尋ねようとしていたのだ。
長いときを生きた彼女達なら、知っているのではないかと、藁にも縋る思いで。
だが、不運な事に、静居が、妖達を光城へと向かわせたがために、九十九達は、戦闘に入ってしまった為、未だ、聞いていない。
透馬は、まだ、九十九達が、たまもひめと龍神王に、尋ねられなかった理由を知り、九十九は、うなずいた。
「どうすりゃいいんだかな」
「……」
九十九は、腕を組み、首をかしげる。
もし、たまもひめや龍神王が知らなかった場合、どうするべきか考えているのだろう。
他に当てはない。
ゆえに、彼は、思考を巡らせた。
その時だ。
高清が、うつむき、黙っていたのは。
こう言う時は、何か、考え事をしている時だ。
何か、知っているのだろうか。
「ん?高清さん、どうしたの?」
「いや、魂をいやす方法は知らないでごぜぇやすが、魂を導く妖なら聞いたことがあるでごぜぇやす」
「魂を導くもの?」
景時は、高清に尋ねる。
何か知っているのではないかと期待して。
高清は、語り始めた。
「魂」と言う言葉に関して、何か、思い当たることがあるようだ。
しかも、「魂」を導く妖がいると聞いたことがあるという。
一体、どういう妖なのだろうか。
「それは、樹海に住む美しい妖のことか?」
「へい」
春日が、高清に確認するように問いかける。
高清が言う妖と言うのは、樹海に住んでいる妖の事らしい。
それも、美しいと言われているという。
「樹海に住む妖?」
「詳しく、聞かせてもらえる?」
「わたくしも、知りたいですわ!」
千里、和巳、初瀬姫は、高清達に、問いかける。
気になるようだ。
魂を癒す方法ではない。
だが、可能性は無きにしも非ずと言ったところであろう。
彼らを救う手立てが見つかるのではないかと期待しているのだ。
「聖印京よりも、はるか北にある場所に、妖の樹海と呼ばれるところがあるでごぜぇやすよ」
「へぇ、そんなところあったんだねぇ。聞いたことないけど」
高清が語り始める。
聖印京よりも、はるか北に樹海があるようだ。
名もなき場所であるが、美しき妖がいるという噂があり、「妖の樹海」と呼ばれたそうだ。
だが、柘榴は、聞いたことないようだ。
綾姫達も、同様に、聞いたことがないらしく、首をかしげた。
「そりゃそうでござるよ。妖の樹海は、魂だけを導くところと言われているでござるから」
「ですが、高清様方は知っているんですよね?」
「一応、研究者でござるからな」
要曰く、妖の樹海に入り込む者は、あまり、いないようだ。
魂だけを導くがゆえに。
そのため、知っているのは、研究者のみのようだ。
「聖印」について研究していた高清、春日、要は、「妖の樹海」を知っていた。
おそらく、聖印と魂の結びつきにより、知ったのだろう。
「で、魂だけを導くってのは?」
「実は、詳しくは知らないでごぜぇやすよ。ただ、樹海に住む妖が、魂をあるべきところへ導くとしか……」
九十九は、高清達に、妖の事について尋ねるが、高清達も、知っているのは、ほんのわずからしい。
詳細を知らないようだ。
なぜ、樹海に住む妖が魂を導くのかも、妖が何者であるのかも。
光焔と同じ、神から生まれた妖なのかもしれない。
神のみぞ知ると言ったところであろう。
「じゃあ、光焔が、知ってるかもしれないわね」
「うん、そんな気がする」
綾姫も、瑠璃も、光焔なら「妖の樹海」について、詳細を知っているのではないかと推測する。
彼は、光の神から生まれた妖だ。
ゆえに、深淵の界についても、知っていた。
「妖の樹海」についても、詳しい事を知っているだろうと推測する。
柘榴達も、同じことを考えていたようでうなずいていた。
「あいつが、目覚めるのを待つしかないか」
「そうみたいだな」
九十九と千里は、光焔が目覚めるのを待つことにした。
光焔に視線を移しながら。
光焔は、ぐっすりと眠っている。
力を発動し、疲れはてたように。
その様子はまるで、子供のようであった。
時間が立ち、青空が夜空へと変わる。
九十九達も眠りについていた。
激しい戦いだったため、すぐに眠りに着けたようだ。
柚月も、朧も、未だ眠りについている。
そして、光焔も。
その夜、光焔は、夢を見た。
真っ白な景色の中で宙に浮きながら目を閉じている。
夢の中でも眠っているようだ。
それほど、力を使ったのだろう。
「光焔、目覚めて」
「ん……」
光焔を呼ぶ声が聞こえる。
優しく、凛々しい声だ。
その声は、女性のようにも、男性のようにも聞こえる。
中性的な声の持ち主のようだ。
どちらかは、わからないが、光焔にとっては、懐かしい気がした。
光焔は、ゆっくりと目を開け、地に降り立つ。
すると、彼の目の前に、誰か人がいるようだ。
だが、視界がぼんやりとしていてはっきりと見ることができない。
まだ、意識がはっきりとしていないのだろうか。
目を瞬きさせるが、まだ、視界がぼやけている。
どうやら、意識の問題ではないらしい。
光焔は、その人物事態が、霧に包まれているように思えてならなかった。
「久しぶり、と言ったところかな?」
「誰、なのだ?」
謎の人物は、光焔に語りかける。
どうやら、光焔と面識があるらしい。
だが、光焔は、その声を主が誰なのか、わからず、姿も、はっきりと見えないため、尋ねた。
困惑した様子で。
「覚えていないか。まぁ、当然かもしれないね。けど、こうして会えたという事は、力を取り戻してきたんだろうね」
「どういう意味なのだ?」
謎の人物は、光焔が、覚えていなくとも、気にも留めていないようだ。
それどころか納得した様子を見せている。
謎の人物は、意味深な事を呟き始めた。
自分と会えたという事は、力を取り戻してきた証拠らしい。
光焔が、光を発動して、柚月達を助けたことと何か、関係があるのだろうか。
光焔は、見当もつかず、首を傾げた。
「貴方は、目覚めてから、無意識のうちに、力を取り戻してきたんだ。おそらく、神々が復活したことも、関係があるんだろうね」
「そういう事では、なくて……」
「わかっているよ。貴方と私は、深いつながりがあるんだ。だから、私達は、夢の中で再会することができた。けど、力は、完全に取り戻せていないから、私の顔は、見えないみたいだけどね」
謎の人物は、説明する。
光焔が、なぜ、力を取り戻せたのか。
だが、光焔が、聞きたかったのは、そういう事ではない。
なぜ、力を取り戻したことで、謎の人物に出会えたのかが、知りたかったのだ。
それも、謎の人物は、見抜いているようで、説明する。
二人は、深いつながりがあるのだと。
だが、力を取り戻せていない為、自分の顔が見えない事も見抜いていた。
「光焔、眠りについている彼らを連れて、樹海まで来てほしい」
「樹海?あの魂を導く妖がいるという……」
謎の人物は、光焔に、樹海まで来るよう告げる。
柚月と朧を連れて。
九十九達が、話していたあの「妖の樹海」の事だ。
彼らの読み通り、光焔は、「妖の樹海」について知っており、謎の人物は、強くうなずいた。
「そこで、私は、待っている」
謎の人物は、告げた。
どうやら、「妖の樹海」にいるらしい。
と言う事は、謎の人物は、「樹海に住む妖」なのだろうか。
顔がはっきりと見えないため、光焔は、確信を得ることができない。
何者かでさえも。
「お前は、誰なのだ?なぜ、こんなにも、懐かしく感じるのだ?」
光焔は、問いかける。
目の前にいる謎の人物の事を懐かしく感じているようだ。
たとえ、姿が見えなくとも。
「いずれ、わかるよ。ずっと、待ってる。だって、貴方は、私の……」
謎の人物は、光焔に告げようとする。
互いの関係性について。
だが、謎の人物は、光に包まれ始め、声が聞こえなくなってしまった。
ゆえに、光焔は、正体を知ることもできず、光に包まれた。
その直後、光焔は、目を開けた。
彼は、ゆっくりと起き上がり、あたりを見回すと、光城にいると確信を得た。
隣には九十九と千里が眠っている。
二人は、無事だったようだ。
そう察し、光焔は、安堵し、夢の中の出来事を思い返した。
「わかった。必ず、二人を連れていこう」
光焔は、謎の人物に告げるように呟いた。
柚月と朧を連れていくことを決意して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます