第八十四話 まばゆい光
九十九達を助ける為に、危険を顧みず、屋根の上に立った綾姫達は、構える。
逃げるつもりはもうない。
九十九と共に守り抜くつもりだ。
「行くわよ!初瀬姫!」
「もちろんですわ!」
綾姫が、先陣を切り、結界・水錬の舞を発動し、美しい水の結界が、光城の周りに張られた。
続いて、初瀬姫が、結界・凛界楽章を発動する。
美しい音色を奏で、さらに、その結界を覆うように、音の結界が、張られる。
二人の姫は、二重の結界を作り上げたのだ。
これで、妖達が、城に入る事は、困難を極めるだろう。
だが、それも、ほんの気休めにしか過ぎない。
静居が召喚する妖達は、光焔の結界までも看破してしまったのだから。
それでも、守りは固められたと言っても過言ではなかった。
「美鬼!」
「承知!」
瑠璃が美鬼を憑依させ、美鬼桜乱狩を発動する。
桜の刃が、妖達を切り裂いていく。
これだけで、妖達を一掃できたはずだ。
空は、飛べないため、光城に迫りくる妖達にしか効果はない。
それでも、十分であった。
「真登、全力で行くよ!」
「合点っす!」
続いて、柘榴が霧脈を発動させ、光城ごと姿を消してしまう。
迫っていた妖達は、止まってしまい、戸惑うようにあたりを見回し始めた。
隙が生まれた瞬間だ。
その隙を真登が逃さず、牙天破を打ちこみ、妖達を討伐していく。
見事な連携であった。
「天次君!やるよ!」
「もちろん!がんばる!」
連携であれば、景時と天次も負けていない。
今まで、共に戦ってきたのだ。
妖達に後れをとるはずがなかった。
天次が、天狗嵐を発動し、妖達を吹き飛ばして、体勢を崩す。
その隙をついて、景時が、風矢を発動して、妖達を矢で貫いた。
「まだまだ、やるよ!」
「これで、どうだい?」
和巳、和泉も、負けじと技を発動して、妖達を討伐していく。
遠距離ではない。
だが、彼らの実力は、妖達をはるかに上回っている。
一気に、討伐する事は、可能だ。
綾姫達が、戦闘に加わった事により、九十九達は、一気に妖達を討伐していく。
だが、妖を討伐しきったと思いきや、再び、妖達は召喚される。
これの繰り返しだ。
おそらく、夜深の力が、戻ったため、何回でも召喚を可能にしたのだろう。
厄介な事だ。
それでも、九十九達は、戦い続けた。
「ま、まだ、召喚するのですか……」
「これくら、どうってことないぜ。まだまだ、やってやる!」
「頼もしいね~。俺らも、負けてられないな!」
どれほど、時間が立ったであろうか。
討伐しても、討伐しても、妖達は、召喚される。
さすがに、体力も、奪われ始めてきた。
夏乃は、気がめいりそうになってるようだ。
だが、時雨は、葉碌を豪快に振り回す。
それは、気合を入れるためなのか、それとも、妖達に追い詰められている事を悟られないためなのかは、定かではない。
透馬も、呼吸を整え、心を落ち着かせる。
まだ、戦えると自分に言い聞かせて。
だが、静居は、容赦なく、妖達を召喚し続けた。
「まだ、くるでごぜぇやすか……」
「さすがに参ったでござる……」
戦い続けてきた九十九達であったが、終わりが見えず、高清も、海親も参ってきているようだ。
彼らは、綾姫達よりも、長い時間、戦い続けている。
体力も、削られるばかりであろう。
息を切らしながらも、構え、妖を切り裂くが、このままでは、いずれ、追い詰められてしまう。
そう感じ、焦り始めた。
「静居の奴、わしらを殺すつもりじゃろうな」
「うむ……。本気のようだ」
光焔も、空蘭も、感じ取る。
静居は、ここで、自分達を殺すつもりなのだと。
柚月達が敗北した為、静居も、畳みかけてきたようだ。
今まで、抗い、生き延びてきたが、今度ばかりは、万事休すかもしれない。
「あいつの目的は……」
「柚月と朧だろうな」
「ちっ」
静居が狙っているのは、おそらく、柚月と朧であろう。
彼らは、今、眠っている。
その事を知ってか知らぬか、静居は、仕掛けてきたのだ。
苛立ち、舌打ちをする九十九。
なんとしてでも、食い止めなければならない。
そう、改めて、決意した。
そして、雄たけびを上げながら、九尾の炎を発動する。
だが、体力が削られているため、範囲も、縮小され、九十九は、息を切らし始める。
千里も、助太刀し、闇の力を発動するが、限界が近づいていた。
「何とかしなければならぬ……」
光焔は、嘆いていた。
もし、自分の力が強ければ、九十九達を助けられるのに。
だが、微弱であるため、光城の結界が、破られてしまった。
他に方法はないかと思考を巡らせる光焔。
だが、その時であった。
「ぐあっ!」
「うっ!」
「九十九!千里!」
妖が刃を発動し、千里が、直撃を受けてしまう。
かわせぬほど、疲労していたのだ。
九十九も、刃をその身に受け、千里と共に、倒れそうになるが、体勢を整えた。
光焔は、目を見開いて、二人の身を案ずるが、妖達は、容赦なく、二人に襲い掛かってくる。
もはや、二人は、回避する間もなかった。
光焔は、光を発動するが、間に合わない。
このままでは、二人とも、死んでしまう。
光焔は、そう感じ、体を震わせた。
しかし……。
「やめるのだああああああっ!!!」
光焔が、泣き叫ぶ。
その時だ。
光焔から、まばゆい光が発せられたのは。
その光は、妖達を包みこんでいく。
すると、妖達は、一気に浄化されるように、消滅していった。
「こ、光焔!?」
「何があったんだ!?」
九十九も、千里も、驚きを隠せない。
光焔は、いったい何をしたのだろうか。
だが、彼に問いかける暇もなく、光焔は、意識を失い、倒れてしまった。
「光焔!」
千里が、慌てた様子で、空蘭の元へ行く。
九十九は、空蘭の背に飛び乗り、光焔を抱きかかえた。
光焔は、苦しんでいる様子はない。
本当に、意識を失っただけのようだ。
「大丈夫だ。気を失ってだけみたいだぞ」
「そうか……」
九十九が、光焔の様子を告げると千里も、空蘭も安堵する。
正直、九十九もほっと胸をなでおろしていた。
あれだけ、強力な力を発動したのだ。
まさか、かつての自分と同じように、命を削ったのではないかと不安に駆られていた。
だが、彼の様子を見ているとそうではなさそうだ。
綾姫達も、彼の様子を遠くから目にしている。
彼女達は、未だ、状況を把握できていないようだ。
光焔が何をしたのだ。
しかし、綾姫はある事に気付く。
それは、光城に結界が張られ始めたのだ。
それも、今まで以上に強力な結界が。
「結界が張られたわ!戻ってきて!」
「空蘭!」
「うむ、戻るぞ!」
綾姫が戻ってくるよう促し、千里達は、光城へと戻っていく。
千里は人型の姿に、空蘭は妖人・春日、海親は妖人・要の姿に、それぞれ戻っていった。
すると、光城の周りに結界が張られ、姿を消す。
これで、一安心と言ったところであろう。
「光焔……」
九十九は、光焔を抱きかかえたまま、彼の身を案じている。
光焔は、眠りについているようだ。
呼吸の乱れもない。
だが、光焔に何があったのかは、わからない。
九十九達は、不安がぬぐえないまま、光城へと入っていった。
大広間で、撫子、牡丹、凛、保稀、智以が九十九達を出迎えた。
「みなさん、大丈夫どしたか!?」
「おう、大丈夫だぜ!」
「そうか……無事で何よりやわ……」
撫子は、九十九達が無事であるかどうかを問いかけ、九十九は、勢いよくうなずく。
牡丹は、胸をなでおろした。
気が気で仕方がなかったのだろう。
召喚された妖達を目の当たりにして、不安に駆られたに違いない。
九十九達が、無事にここに戻ってこられるだろうかと。
「光焔のおかげです」
「けど、さっきのあれなんだったっすかね?」
美鬼と説明する。
光焔が、助けてくれたのだと。
しかし、あの光は、何だったのか。
あの光で妖達は、消滅し、結界も張られた。
単に、光を発動したとは思えないのだ。
ゆえに、真登は、首を傾げた。
「この前も、発動してましたよ?」
「ええ、大戦の時ね。あなた達がここへ戻れたのも、先ほどのように彼が力を発動してくれたからよ」
「あの力が……」
凛と保稀は、説明する。
なんと、光焔は、大戦時にも同じ力を発動していたようだ。
ゆえに、九十九達は、誰一人、死ぬことなく、帰還できたという。
思考を巡らせる千里。
光焔は、光の神から生まれた妖だと言うが、果たして、本当にそうなのだろうか。
彼には、まだ、何か、秘密がありそうだ。
光焔自身も、知らない何かが。
「そういや、柚月と朧は、大丈夫なのか!?」
「えっと、眠ってる子達どすなぁ。大丈夫どす。ゆっくり、眠ってます」
「そ、そっか。よかった……」
九十九は、撫子に尋ねる。
柚月と朧が無事なのかを。
妖が侵入してこなかったとはいえ、何も起こらないとは言い切れない。
ゆえに、二人の身を案じたのだろう。
撫子は、うなずくが、柚月と朧が誰なのか、一度、考えて、答える。
やはり、彼女達も、柚月と朧に関する記憶を失っているようだ。
安堵した九十九であったが、どこか、寂しさを覚えたのであった。
「……ねぇ、九十九」
「ん?どした?」
「彼は、柚月は、どうやって目覚めるの?」
「え?」
綾姫は、九十九に、柚月がどうやったら目覚めるのか、問いかける。
突然の質問に、驚きを隠せない九十九。
彼女は、何か思いだしたのだろうか。
期待を抱いたのであった。
「おかしいわよね。何も知らないのに、会いたいって思うんだもの。だから、知ってることがあれば、教えてほしいの。彼の事」
綾姫は、まだ、記憶を取り戻していないらしい。
だが、心のどこかで、会いたいと願っているようだ。
記憶を失っても、彼との絆が消えることはないのだろう。
それゆえに、綾姫は、尋ねたのだ。
愛しい柚月の事を。
「私も、知りたい。どうしても、知らなきゃいけない気がする」
「……わかった。話そう。柚月と朧の事を」
瑠璃も、懇願する。
朧の事が気になっていたのだろう。
だからこそ、尋ねたのだ。
千里は、静かにうなずき、語り始めた。
柚月と朧が、何者なのか。
そして、なぜ、彼らが眠りにつき、綾姫達が、彼らに関する記憶を失ってしまったのかを。
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