第七十七話 突破口を開いて

 柚月達は構える。

 静居の元へ行くために。

 だが、相手は、神と互角に渡り合った千草だ。

 しかも、鬼の一族である村正も参戦するだろう。

 そうなれば、容易に、突破できるとは到底思えない。

 だが、それでも、柚月達は、行くしかなかった。

 朧は、憑依化を解除させる。

 静居とは、死闘を繰り広げるだろう。

 そうなれば、力は温存しておくべきだと判断した為、憑依化を解除した。

 柚月達は、地面をけり、駆けだしていく。

 柚月と九十九は、右側へ、朧と千里は、左側へと移動し始めた。 

 両側からならば、千草も、反応できないだろう。

 しかし……。


「おっと、逃げるつもり?逃がさないよ?」


 村正が、朧の前に出て構える。

 小さな体だというのに、彼から発せられる妖気は、驚異的だ。

 彼の速さも、異常だ。

 一瞬にして、朧の前に、立ちふさがったのだから。

 朧は、思わず息を飲み、立ち止まってしまう。

 やはり、彼から逃れる事は、不可能なのだろうか。

 朧は、そう推測した。

 しかし、高清が、朧の前に出て、村正を切り裂こうとする。

 高清も、自分達の中では、素早さに特化した能力を身に着けている。

 ゆえに、村正の行動も、いち早く反応し、朧を守るために、彼の前に立つことができた。

 だが、村正も、高清の素早さに反応し、宙に浮いて、素手で、取り押さえる。

 どうやら、見た目によらず、腕力もあるようだ。

 それでも、高清も、ひるむことなく、村正の手を素手でつかみ、放そうとしなかった。


「陸丸!」


「行ってくだせぇ!朧!」


「ありがとう!」


 高清に促された朧と千里は、感謝しながら、村正の横を通り過ぎていく。

 村正は、強引に手を振り払い、朧に襲い掛かろうとするが、要が、村正の前に出て、防ぎきる。

 続けて、春日が、空中から、村正に斬りかかるが、村正は、それを跳躍して、回避した。

 高清達の三位一体でも、村正は、いとも簡単に、回避してしまう。

 やはり、彼を相手にするのは、容易ではないだろう。 

 それでも、高清達は、構えた。

 柚月達を信じて。

 柚月と九十九も、千草の横を通り過ぎようとする。

 しかし……。


「トオサヌ!」


 千草が、柚月と九十九の前に出て、行く手を阻もうとする。

 こちらの素早さも、驚異的だ。

 これでは、回避できない。

 そう推測した柚月であった。

 千草の魔の手が柚月に迫っていく。

 しかし、透馬が聖生・岩玄雨を、和巳が聖生・色彩器を発動し、千草の攻撃を防ぎきり、聖印で作られた宝器が、千草を取り囲んだ。

 柚月達を先に行かせるために。

 見事な連携だ。

 これでは、さすがの千草も、身動きが取れないであろう。

 

「透馬!和巳!」


「ほら、早く、行きなよ!」


「行って、静居をぶん殴ってこい!」


「……ああ!」


 透馬と和巳に託された柚月と九十九は、うなずき、千草の横を通り過ぎる。

 彼らのおかげで、柚月達は、千草と村正から突破できた。

 だが、安堵している場合ではない。

 問題は、ここからだ。

 柚月達抜きで、柘榴達は、戦い抜かなければならないのだから。

 額に汗をにじませる柘榴達。

 だが、その時であった。


「ぐああああああっ!」


 千草が雄たけびを上げ始める。

 それも、地面を揺さぶるような勢いだ。

 柚月達も、そのおぞましい雄たけびを感じ取り、思わず、立ち止まって、振り向く。

 すると、千草は、その雄たけびだけで、透馬が聖生・岩玄雨、和巳が聖生・色彩器から生まれた宝器を破壊してしまった。


「嘘だろ……」


「あれほどの力を持っているとは……」


 九十九と千里は、思わず、愕然としてしまう。

 まさか、雄たけび一つで、生成された宝器が破壊されてしまうとは思ってもみなかったのであろう。

 あれでは、まるで、化け物だ。

 全ての聖印能力をその身に宿しただけで、あれほどの力を発揮してしまうのだから。


「コロス!コロス!ユルサナイ!」


 千草が、唸り声を上げて、暴れまわる。 

 まさに、暴走状態と言えよう。

 柚月達は、このまま、進むべきなのかとためらってしまう。

 危機を察したからであろう。

 だが、綾姫が、瑠璃が、結界・水錬の舞を千草の前に、発動して、行く手を阻み、美鬼を憑依させ、すぐさま、美鬼桜乱狩を発動して、桜の刃を降らせ千草を切り裂いた。


「綾姫!瑠璃!」


「わ、私達なら、大丈夫よ!」


「うん、戦える」


「任せるぞ!」


 綾姫と瑠璃の身を案じる柚月。

 だが、彼女達は、とうに覚悟を決めていたのだ。

 なんとしてでも、この大戦を生き抜くと。

 彼女達の覚悟を感じ取った柚月達は、彼女達に背を向けて、再び、走り始める。

 綾姫と瑠璃は、後退し、千草から距離をとる。

 千草には、ほんのわずかな時間しか、効果がないと悟っていたから。

 彼女達が、引き下がった後、柘榴が、前に出る。

 彼女達を守るように。


「さて、ここからは、通さないよ?」


「なめられたものだよね。じゃあ、見せてあげるよ!ボクと千草が、本気を出したなら、どうなるかをね」


 柘榴達は、構える。

 しかし、村正が、口をゆがませ、不敵な笑みを浮かべ始めた。

 柘榴達だけで、戦い抜こうとしているのが、癪に障ったのだろうか。

 自分達は、それほどの力だと見誤られていたのではないかと悟ってしまうほどに。


「千草、聖印能力、解放だよ」


 村正は、千草に、聖印能力を解放するよう促す。

 すると、千草は、この時を待っていたように、不敵な笑みを浮かべ、聖印能力を解放する。

 村正も、反応したかのように、光り始めた。

 柘榴達は、彼らの異様な力を感じ取り、背中に悪寒が走った。



 柚月達は、戦場を駆けていった。


「兄さん、あれ……」


「ああ、聖印寮の隊士だ」


 簡単には、静居の元へは行かせてもらえない。

 なぜなら、静居軍の隊士が、待ち構えていたからだ。

 撫子軍の隊士達は、静居軍と死闘を繰り広げているが、七大将軍を失い、明らかに、戦力は落ちてきている。

 柚月達は、静居軍の隊士達に突進するかのように、駆けていくが、隊士達が、柚月達に気付き、襲い掛かった。


「っ!」


 柚月は、草薙の剣で、隊士の攻撃を防ぎきる。

 朧も、同様だ。

 だが、彼らは、攻撃をはじくことができても、斬る事はできなかった。

 やはり、ためらってしまったのだろう。

 敵とは言え、かつては、共に戦った同士だ。

 しかも、今は、静居に操られている。

 彼らに罪はない。

 そう思うと、柚月も、朧も、斬ることができなかった。


「柚月!朧!ここは、俺に、任せろ!」


 九十九と千里は、柚月と朧を守るために、隊士に斬りかかる。

 柚月達に自分と同じ想いをさせるつもりはないからだ。

 命を奪うという事は罪を背負う事。

 九十九も、千里も、嫌と言うほどその辛さを味わっている。

 ゆえに、二人は、その罪を代わりに背負おうと決意した。

 しかし、柚月も、朧も、隊士を斬りつける。

 まるで、覚悟を決めたかのように。


「お前ら、なんで……」


「あいつらが、覚悟を決めたからだ」


「だから、俺達も、覚悟を決めないといけないんだ」


 千里は、愕然とする。

 ついに、二人が、隊士を斬りつけてしまったのだ。

 自分達と同じ罪を背負ってしまったと。

 だが、柚月と朧が、理由を明かす。

 柘榴達は、この大戦で、命を奪ってきたのだろう。

 撫子を守るために。

 腹をくくったのだ。

 ならば、自分達も、腹をくくらなければならない。

 だからこそ、この大戦を戦い抜くと決めたのだ。

 九十九も、千里も、柚月と朧の覚悟を受け止め、うなずいた。


「行こう!兄さん!」


「ああ」


 柚月と朧は、斬りつけ、突き進んでいく。

 九十九も千里も、続けて、突き進む。

 だが、静居軍の相手は、圧倒的であり、柚月達は、行く手を阻まれてしまった。


「多いな」


「うん。これだと、たどり着けない……」


 やはり、数の多さにより、突き進むことができない柚月達。

 これでは、いくら、隊士達を切り裂いたとしてもキリがないだろう。

 容赦なく、柚月達に襲い掛かる隊士達。

 だが、朧は、頭にある提案が浮かんだ。

 すぐに、この大軍を突破できる方法を。


「兄さん、あれ、やってみる?」


「……ああ、迷ってる場合ではないからな」


 朧は、柚月に提案を勧める。

 と言っても、詳しくは説明しない。

 曖昧な表現を使った。

 柚月も、同じことを思っていたようだ。

 ためらっている暇も、迷っている暇もない。

 柚月と朧は、うなずき合った。


「来い!千里!九十九!」


 朧は、千里と九十九を呼び寄せる。

 千里は、神刀へと変化し、九十九は、朧に憑依した。

 朧も、聖印能力を発動したのだ。


――おい、お前ら、何するつもりだ?


――ここで、憑依化や俺を変化させるのは、得策ではないぞ?


 九十九も、千里も、困惑する。

 今ここで、聖印能力を発動するのは、得策ではないだろう。

 特に朧は、体に悪影響が出てしまうはずだ。

 長時間の憑依化で、朧は血を吐いたことがあるのだから。

 そう思うと、静居と対峙するために、力を温存しておくべきだ。

 彼らの身を案じる九十九と千里。

 だが、柚月と朧は、焦燥に駆られた様子は見せなかった。

 追い詰められた様子もなく。


「まぁ、見てなって!」


 困惑する九十九と千里に対して、説明することなく、告げる朧。

 すると、柚月は、朧の腕をつかみ、異能・光刀を発動し始める。

 柚月と朧は、光刀を身に纏い始めた。


「ついてこい!朧!」


「うん!」


 柚月は、光速で戦場を駆け抜けた。

 朧、九十九、千里と共に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る