第四十一話 三種の神器

「僕が……聖印一族を滅ぼそうとした、烙印一族?」


 餡里は、困惑し、愕然とする。

 自分が、聖印一族を滅ぼそうとした烙印一族であり、罪人だとは、考えられないのだ。

 いや、思いたくないといった方が正しいのであろう。

 なぜなら、友人である朧までも、殺そうとしていたことになるのだから。

 餡里は、真実を受け入れられず、否定した。


「な、何かの間違いでは……?」


「いいや、間違いではない。お前は、私達を殺そうとした。いや、朧を、殺そうとしたのだ」


「っ!」


 餡里は、恐る恐る静居に問いかける。

 何かの間違いであってほしいと願って。

 だが、静居は、さらなる残酷な真実を餡里に、吐き捨てる。

 餡里が、朧を殺そうとしたことを告げてしまったのだ。

 餡里は、衝撃を受け、絶句し、言葉を失ってしまった。


「静居!」


 朧は、怒りに駆られ、静居の元へと向かっていく。

 許せなかったのだ。

 静居が、容赦なく、餡里に真実を突きつけ、陥れようとしたことを。 

 朧は、静居に斬りかかろうとするが、静居と夜深が、朧に襲い掛かろうとしていた。


「朧!」


 柚月は、朧を助ける為に、体に鞭を打って、真月輝浄を発動する。

 これにより、わずかではあるが、静居と夜深をひるませ、体勢を崩すことに成功した。

 柚月は、朧を守りきることができたのだ。


「一人で、突っ走り過ぎだ」


「……ごめん」


 柚月は、汗をぬぐって、朧に説教する。

 焦燥に駆られたのであろう。

 朧が、感情任せになって、静居に斬りかかろうとした時に。

 朧は、冷静さを取り戻し、構える。

 柚月も、静居達をにらみ、構えた。

 静居の事を許せないのは、柚月も同じだ。

 餡里を傷つけたのだから。

 綾姫達も同様に立ち上がり、構える。

 そして、再び、戦いが繰り広げられた。


「僕が……僕が……」


 餡里は、体を震わせ、頭を押さえ始める。

 真実を受け入れられるはずがない。

 思いださなければならない事だが、心がそれを否定する。

 だが、頭痛が激しさを増していく。

 頭が割れてしまいそうだ。

 そんな状況下で、餡里の脳裏には、様々な光景が浮かび上がっていた。

 両親である高清と千代乃の事、茜と藍の事、実験に巻き込まれ、罪人扱いとなった事。

 そして、千里と聖印一族を滅ぼそうとたくらみ、朧に何度も刃を向け、朧と死闘を繰り広げたのち、相棒である千里を失ってしまった事を。


「あああああああああああっ!!!」


 餡里は、涙を流し、絶叫を上げた。

 残酷な過去が、餡里に襲い掛かってしまって。


「餡里!」


「どこを見ている!」


 餡里の悲痛な叫び声を聞いた朧は、思わず、振り返ってしまう。

 餡里の身を案じて。

 しかし、静居は、その隙を逃すはずがなかった。

 静居と夜深は、再び衝撃波を発動したのだ。

 柚月は、朧の前に出て、八咫鏡で防ごうとしたのだが、それも、適わず、朧と共に、吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ!!」


 柚月達は、再び、地面にたたきつけられる。

 真月を手放して。

 何より、朧を守るために、前に出た柚月は、直撃を受けたも同然だ。

 起き上がることさえ、不可能のように思えてならなかった。


「に、兄さん……」


 綾姫と光焔が、即座に、柚月の治療を開始するが、柚月は重傷を負ってしまった。

 朧は、自分のふがいなさを責めた。

 そして……。


「……」


「餡里……」


 朧は、餡里へと視線を向ける。

 餡里は、うつむき、呆然と立ち尽くしたままだ。

 衝撃を受けているのだろう。

 過去に自分が何をしたのか、知ってしまって。

 朧は、悔しさのあまり、こぶしを握りしめた。

 兄も、友人も、守る事ができなかった自分を責めて。

 だが、この時、朧は、まだ、気付いていなかった。

 餡里が、こぶしを握りしめ、体を震わせている事に。


「さて、今度こそ、殺すとするか」


 静居は、柚月達に、迫っていく。

 今度こそ、殺すつもりだ。

 朧は、立ち上がり、柚月の前に出て、構える。

 だが、彼も、重傷を負ったも同然だ。

 立っているのが、やっとであろう。

 泉那も李桜も、立ち上がるが、勝てる見込みはない。

 夜深は、不敵な笑みを浮かべて、刀を振り上げた静居を静かに見ている。

 静居は、勝ったと確信し、朧に向かて、刀を振りおろそうとした。

 しかし……。


「がっ!」


『なっ!』


 突如、静居は、餡里に刺されてしまう。

 餡里は、柚月の真月を握りしめていたのだ。

 静居を殺すために。

 静居は、餡里が、自分に向かっていくのを目にした。

 だが、それは、明らかな不意打ちだった。

 まさか、餡里が、動くとは、思いもよらなかったのだ。

 それは、夜深も同然。

 そのため、わずかに隙が生まれ、静居は、餡里に刺されてしまった。


「全部、思いだした。僕は、確かに罪人だ。けど、陥れたのは……君だよ、皇城静居!」


 餡里は、過去と向き合い、受け入れたのだ。

 自分は、罪を犯した者だと。

 だが、全ての元凶は、静居だ。

 静居が、自分を陥れた。

 だからこそ、許せなかったのだ。

 餡里は、それを思いだし、朧を守るために、静居に向かっていった。


「くそがっ!!」


「うあっ!」


「餡里!」


 静居は、怒りに身を任せ、単身で衝撃波を放つ。

 餡里は、吹き飛ばされるが、朧は、餡里を受け止める。

 しかし、体の調子がよくなかった餡里にとっては、相当の痛手も同然であり、荒い呼吸を繰り返していた。


「ごめん、朧……僕は……」


「餡里……」


 餡里は、そのまま、倒れ込むが、涙を流して、朧に謝罪する。

 ずっと、謝りたかったのであろう。

 これまでの事を。

 朧は、餡里の手を握りしめた。

 餡里の辛さを受け止めるかのように。


「よくも、なめた真似をしてくれたな」


 静居は、瞳に憎悪を宿して、柚月達をにらみつける。

 屈辱的だったのであろう。

 不意打ちを受けた事に対して。


「殺すのは、やめだ。貴様らを、消してやる!」


 静居は、再び、力を発動し、夜深と同調し始める。

 柚月達を殺すのではなく、消滅させるつもりだ。

 それは、体だけではない、魂もだろう。

 すでに、柚月達は、戦う力も残っていない。

 回避する余力もない。

 このままでは、本当に、消滅してしまう。

 今の柚月達では、どうすることもできそうになかった。

 しかし……。


「ちょっと、まったぁ!」


「え?」


「兄さんの声?」


 どこからか、柘榴の声が響き渡る。

 朧も、瑠璃も、驚愕していた。


「どこから!?」


「ここだよ!」


 朧と瑠璃は、あたりを見回す。

 だが、柘榴の姿は、どこにも見当たらない。

 彼は、どこにいるというのであろうか。

 瑠璃は、驚愕し、問いかけると、柘榴が、瑠璃の問いに答えた。

 その時であった。

 突如、大きな揺れが発生したのは。


「な、なんだ、この揺れは!」


『まさか、復活したの!?いつの間に!?』


 静居は、驚愕し、動揺を隠せずにいる。

 だが、夜深は、悟っているようだ。

 空の神がいつの間にか、復活したことに。


『復活したのね』


『はい、空の神・空巴くうはが』


 泉那も、李桜も、察知したようだ。

 空の神・空巴が復活したと。

 そして、神聖山から光が生まれ、それと同時に、七つの宝玉が姿を現し、天に昇っていく。

 光と七つの宝玉が合わさると人の形へと変化し始めた。

 その姿は、空色の髪と目が特徴的であり、空色と白色の袴を身に纏い、上半身は、何も身に着けていない男性であった。

 彼こそが、空の神・空巴だ。

 空巴が、姿を現すと、景時、透馬、夏乃、初瀬姫、和巳、柘榴、真登、時雨、和泉、そして、高清、春日、要が、柚月達の前に姿を現した。


「ふう、やっと、結界を解くことができますのね」


「ご苦労様。初瀬ちゃん」


「その呼び方、やめてくださらない?」


 初瀬姫は、汗をぬぐい、ほっと、胸をなでおろす。

 どうやら、結界を張っていたようだ。 

 柘榴は、ねぎらいの言葉をかけるが、ちゃん付けされたのが、気に食わないのか、初瀬姫は、柘榴に対して、そっぽ向いて、冷たく言い放った。


「兄さん達がいる……」


「うん、陸丸達も……。でも、いつから?」


 瑠璃も、朧も、驚きを隠せない。

 行方不明になっていた高清達もいたからだ。

 いつから、彼らは、いたというのだろうか。

 そして、静居達に、見つからず、どうやって、神を復活させたというのであろうか。

 柚月達は、思考を巡らせた。


「なるほど、初瀬姫が、結界術で、姿を見えなくしたのね」


「そのようだな。わらわ達が、戦っている間に、空の神を復活させたというわけか」


 綾姫は、ある答えにたどり着く。

 初瀬姫が、結界術を発動して、柘榴達の姿を見えなくしていたのであろう。

 そのため、柘榴達は、静居に見つからず、柚月達が、時間を稼いでいる間に、空の神を復活させることに成功したようだ。

 柘榴達と空巴は、柚月達の元へ駆け付け、構えた。

 綾姫と光焔から治療を受けた柚月も、立ち上がり構える。

 さすがに、これだけの人数を相手にするのは、容易ではないだろう。 

 形勢逆転と言ったところだろうか。


『ふん、空の神が、復活した所で、何も変わりはしないわ。ここで、全員、消してあげる』


『そうはさせぬぞ!』


 夜深は、空の神が復活し、人数が増えたところで、戦いに影響はないと、考えているようだ。

 それは、静居も同意見のようであり、再び、力を発動させ、同調し始める。 

 衝撃波を放とうとしているのだ。

 だが、空巴は、それを防ぐために、剣を出現させた。


『柚月、受け取れ!』


「これは、草薙の剣!」


 空巴は、柚月に、剣を授ける。

 柚月は、剣を受け取ると、その剣の正体に気付いた。

 自分が手にしている剣は、三種の神器の一つ、草薙の剣であるという事を。

 草薙の剣は、全てを切り裂く神の剣であった。


『柚月、これも!』


 李桜も、柚月に八尺瓊勾玉を授ける。

 三種の神器がそろい、力が発動される。

 柚月は、力が自分の中に入っていくのを感じ取った。


「おのれ、無駄な悪あがきを!」


 静居と夜深は、衝撃波を放つ。

 だが、柚月は、八咫鏡で防ぎ、八尺瓊勾玉で衝撃波を吸い取った。


「っ!」


 静居と夜深は、衝撃を防がれ、吸い取られた事に対して、驚愕し、動揺するが、これだけではない。

 柚月は、草薙の剣を掲げた。


「はあっ!」


 柚月は、力を込めて、草薙の剣を振りおろし、斬撃を放った。

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