忍びのパン屋さん#10

「ナツキ、アキ。私が暇ではないことは知っているわよね?」


 ナツキさんとアキちゃんにそんな厳しい言葉をかける女性をわたしは間接的に知っていた。


「わかっているからこそ俺は判断を母さんに委ねたいと思っている」


「ウチたちが言い合ったところで素人同士の言い合いだから」


「2人とも覚悟は出来ているという事ね?」


 ナツキさんとアキちゃんの母親、ドーナツ評論家の四季ハルカさんはナツキさんがドーナツと、アキちゃんがパンと主張するパンともドーナツとも言えるし、パンともドーナツとも言えないそれを口にした。


「簡単に説明すると、ドーナツというのは甘いものでパンは甘くないもの昔はそんな定義だったけれど菓子パンのような甘いパンが出て来てからはその定義で区別するのは難しくなった。では、どう区別するか? 食べた人がドーナツだと思うならドーナツで、パンだと思うならパン。単純で良いのよ」


「母さんがそう言うのなら納得するけど」


「ウチたちが聞きたいのはお母さんがこのパンを」


「このドーナツを」


「パンと感じたのか」


「ドーナツと感じたのか」


 ナツキさんもアキちゃんもジッとハルカさんを見つめて息をのんでいた。


「私個人としては、これはパンでありドーナツよ。息子と娘の意見を尊重して言っているわけではなくて、これはパンとしてもドーナツとしても十分な出来だから」


 ハルカさんのその言葉にこのパンでありドーナツであるパンナツまたはドーナパンを作ったアキちゃんは嬉しそうな表情を見せていた。



9月2日 シャープ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る