物陰のじいや#10
物陰に居ると、孫が頑張って仕事をする姿を見守ることが出来るが、目を逸らしたくなるような出来事もある。
「店員さんよぉ、この料理に虫が入っているんだけどぉ?」
「申し訳ございません。すぐにお取替えいたします」
孫がそう言うと、ガラの悪い男性は虫が入っていると主張する生野菜サラダを孫に向かって投げつけた。
「間に合え!」
種族間で時間の流れが異なるというのは異世界に関わる者なら誰もが知っていることである。中でも我々龍人族は僅かな者のみ自由に自分自身の時間の流れを変える力を持つ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ここはボクが対応いたしますので、ショウユさんはミリンさんの事を見守っていてください」
人間には感知することが出来ないほど早い時間の流れの中でソルトは私にそう言い、マイクロメートル単位で宙へ飛び散る生野菜サラダを綺麗にさらに盛り付け直した。
そして時間の流れは元に戻る。
「お客様、本日は誠に申し訳ございませんでした。しかし、このような行為は他のお客様のご迷惑となりますのでお控えください」
「な、何だお前! こっちは客だぞ! 謝ったからって許されたと思って説教してんじゃねぇ!」
男は気が短いようで今度はテーブルにあったお冷を手に取ってソルトの顔に向けて水をかけた。
「お客様、改めて申しますがこのような行為は他のお客様のご迷惑となりますのでお控えいただけますか?」
何事もなかったかのように先程まで何も持っていなかった右手に水の入ったコップを持っているソルトは優しいながらも威圧感のある声でそう言った。
「くそっ」
男はそれ以上の悪行を働く事は無かった。
私としては今のような客が来る店に可愛らしい孫が働いているというのは不安でしかなかったのだが、ソルトの対応を見るとこれからもこの店で働いていても安心できると思った。
6月10日 ショウユ
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