魔女のたい焼き屋#1

 何の代わり映えもしない一日。そんな一日であってもアタシはいつもの様にたい焼きを作り、お客さんが来るまではラジオを聞きながら新聞を読んでいた。


「ばちゃん……おばちゃん」


 老眼鏡をかけて真剣に新聞を読んでいると良く聞き覚えのある声が店の外から聞こえて来た。


「おやおや、誰かと思えば随分と久しぶりじゃないか」


 店にやって来たのはユグドラシルの初代オーナーでありアタシの古くからの友人である不知火奏吉の孫で2代目ユグドラシルオーナーの不知火世渡だった。


「前に来たのは2週間ほど前だからそこまで久し振りではないと思うけど」


「あんたとアタシじゃ見た目は似ていても時間の流れ方が異なっているからね。ところで、最近仕事の方はどうだい?」


「オーナーとしての僕もよろず屋としての僕もユグドラシルとユグドラシルを支えてくれている多くの方たちの笑顔のために頑張っていると思うよ」


「そうかい」


 自分でも感じるほどに呆気の無い返答だったけれど、アタシは生まれた時から知っている孫のような存在の世渡が自己判断はあやふやながらも頑張っていると聞いて自然と心が温かくなった。



4月14日 ヨウカン

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