ドワーフのおもちゃ屋さん#12
「よっ」
ユグドラシルの開店前という本来なら忙しいはずの時間に俺は店の棚から何気なく取り出した竹とんぼを大樹の根元で飛ばした。
「よく飛ぶな」
竹とんぼは俺の想像をはるかに超える高さまで飛び上がった。それでもまだユグドラシルの天井には届かない竹とんぼは少しずつ回転を緩めて降下を始めた。
「あっ!」
3階、2階とゆっくり、ほぼ垂直に降下してきた竹とんぼは俺の手元まで残り1メートルの距離まで降りてくると突然回転速度を増して2階の天井ほどの高さまで上昇した。
『皆さま、おはようございます。ユグドラシル開店いたします』
今のアナウンスから察するに竹とんぼが突然上昇したのはユグドラシルの出入り口が開いた事でユグドラシルに入り込んだ風が原因らしい。
「そんな事があり得るのか?」
自分で導き出した解答に疑問を抱きながら竹とんぼを見つめていると竹とんぼは吹き抜けのエリアを外れて2階のフロアの方に飛んで行ってしまった。
「まずいな」
竹とんぼが飛んで行った方向には世渡の営むよろず屋がある。もし、竹とんぼを拾われでもしたら後で何を言われるかわからないので俺はすぐに2階へ向かった。
4月5日 アンザン
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