世渡のよろず屋#12
新年度を迎えて初めての営業日。ユグドラシルにあるお店の多くは今日から新たな商品を入荷したり新たなサービスを始めたりしているらしいが、このよろず屋は全くと言って良いほど変化の無い穏やかな時間が流れていた。
「ねえ、サファイアくん」
よろず屋の店主としてもユグドラシルのオーナーとしても暇を持て余していた僕は、同じように暇を持て余しているが故に天井をぼうっと見つめているサファイアくんに声を掛けた。
「何でしょうか?」
「今日が何の日だか知っている?」
「今日ですか? はて、さて」
サファイアくんは顎に手を当てじっくりと悩んだ。
「このサファイア、恥ずかしながらちっとも見当がつきません。答えを教えて頂けませんか?」
「答えは、エイプリルフール。簡単に説明すると嘘を吐いても許される日らしいよ」
あくまで僕の知る限りでそう言われているのであってエイプリルフールがどのような日であるのかは僕もよく分かってはいない。
「人間界には不思議な記念日があるのですね」
「そう、なのかな?」
「少なくともサファイア個人としてはそう思います。だって変じゃないですか、多かれ少なかれ普段から嘘は誰だって吐いているものです。にもかかわらず、記念日だから今日に限っては嘘を吐いても許されるなんて変じゃないですか?」
「まぁ、そうだね」
言われてみると、僕ら人間が定めた記念日の中には他の種族からしたらおかしな記念日は多く存在しているのかもしれない。
4月1日 不知火世渡
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