世渡のよろず屋#11

 昨日レッド兄から話を聞いていなければ、僕は最初から話について行けなかっただろう。


「ユグドラシルのオーナーさんがいるというお店はこちらですか?」


 サファイアくんと同じ魚人族でスーツ姿の男性はよろず屋に入って来るなりそう尋ねた。


「僕がこのユグドラシルのオーナーですが、何かございましたでしょうか?」


「ええ、ありました。それは、それは屈辱的なことが」


「お話しをお伺いいたしますのでどうぞこちらへ」


 僕はにこやかながらも心の奥の方で禍々しいものを持っていそうな雰囲気がにじみ出ている男性を椅子へと案内し、僕はその対面に座った。


「お手数ですが、何があったのかお話しいただけますか?」


「1週間ほど前の事です。私はドワーフ族の方が経営しているおもちゃ屋へ足を運び素晴らしい出来のロボットを見つけました。私は感動し、店主に金ならいくらでも出すからロボットを売って欲しいと頼みましたが、店主は売らないと言ったのです!」


 話を聞いた僕はある一点がとても気になった。


「お客様がお買い求めになろうとしていたロボットについて具体的にご説明いただけますか?」


「旧型も旧型、最初期型の木製アンドロイドで、どのような技術を使ったのか我々生物と変わらない滑らかな動きで動いていましたよ。そのうえ、言葉まで話せるなんてアンドロイドに精通していないものであっても喉から手が出るほど欲しい逸品ですよ。だが、あの店はいくら金を出すと言っても売らなかった!」


 男性の話を聞いて、男性の言っていたロボットがアンザンさんの店で働くカコウという名のアンドロイドであることと、この男性が昨日レッド兄の話していた厄介な客だという事を確信した。


「お怒りのところ申し訳ありませんが、僕がおもちゃ屋の立場だったとしてもお客様に同じように返したと思います」


「何故? 異世界間が繋がっている今、従業員などいくらでも替えはいるじゃないですか」


「お言葉ですが、ユグドラシルで働く従業員には1人として替えはいないと僕は思っています」


「不愉快だ、これで失礼させてもらう」


 男性は机を思い切り叩いて立ち上がった。


「お客様」


「あなたと話すことはもうありません」


「もし、優秀な人材を探していらっしゃるのであればフェアリーワークというお店があるのでそちらに行かれることをお勧めします。お客様の仰っていた通り、異世界が繋がったことによりこの世界には多くの種族の方が生活しておられます。ですので、お客様が求める優秀な人材もきっと見つかるかと思います」


「余計なお世話です」


 男性は落ち着いた声でそう言い、よろず屋を後にした。



3月25日 不知火世渡

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