第124話 恐怖 ☆
まだ結構な距離があるのにまるで目の前にあるような、遠近感を狂わすほど視界のほぼ全域を埋め尽くす光の塊によく目を凝らしてみると、それは毛糸のように糸のような物がいくつも重なり合って、複雑に絡まり合って出来ているようだった。
更に毛糸を構成する糸に視線を絞ってみると、それは輪っかがいくつも連続して繋ぎ合わさっていて、それはまるで、
「鎖……?」
「そう、さしずめ
「やっぱり間に合わなかったか――出てくる、構えて!」
「――――ッ!!」
得意げな顔から一変、ウィルの差し迫った声音から、思い出したように僕の心臓は嫌と言うほど大きな鼓動を刻み始めた。それに呼応するかのように、額からは滝のような冷や汗が滴り、口が砂漠のようにカラカラになり、足先と手先が氷のように冷たくなり、膝が可笑しくもないのに笑い始める。
そして、ウィルがここに来る前の、“ボク”がベルーゼと戦っていた時の記憶が走馬燈のように蘇る。
手も足も出ず、玩具のように遊ばれ、大事な記憶をつまみ食いされたあの記憶。
最後には恐怖を凌駕した絶望を与えられ、死さえも喜んで受け入れていたあの過去。
「真冬くん、まふゆ、ん……」
僕の名前を叫ぶウィルの声が、時が経つにつれてどんどん遠くなり、頭に鳴り響く異常なまでの早さの心音と、身体が上げる断末魔のような酷い耳鳴りによって、全て掻き消されてしまった。加えて、訳もないのに涙が溢れて世界が融解し、
「――――!?」
味覚、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、そのいずれも役割を果たさない世界で、僕は孤独になった。
度が粋すぎた恐怖は、身体や心が耐えきれず処理を放棄する。そのためそれは行き場を無くし、もっと奥深くに存在する魂に深く刻まれることとなる。
真冬は頭では理解していた――僕は変わった、変われたからもう大丈夫だ、と。
しかし、理性では分かっていても、感情では分かっていても、魂に刻まれた恐怖は呪われた鎖のように真冬を掴んで離さない。そして、再度真冬を闇に引きずり込もうとする。
「――――」
真っ暗な闇の中、周囲よりも更に深い闇から出てきた鎖が右足に絡まる。
絡まった鎖を解こうと足を一生懸命に引っ張るも、逃げようとすれば逃げようとするほど鎖は拘束を強めるばかりだった。そして、骨が押し潰されそうになるほど拘束の強まった鎖に闇の中へ
懸命に鎖に抗うが、引っ張られる力には到底及ばなく、漆黒の沼に首まで引き釣り込まれてしまった。
――もうだめだ……
どうしようもない状況に諦めかけたその時、
「真冬、がんばって!」
弱い僕の名前を呼ぶ、強い君の声が聞こえた気がした。
「――――」
瞬間、僕を縛っていた鎖が弾け、僕を飲み込もうとしていた闇が霧散する。
僕は変わった。変われた。そしてこれからも変わり続けていく。
助けられてばかりの自分から、助けを必要としない自分へ。
助けを必要としない自分から、誰かを助けるような自分へ。
【ステータス】
名前 神宮寺 真冬
種族 人族
グレード 2→3
レベル 31→0
HP 3105/3105→5008/5008
MP 2241/2241→3487/3487
STR 1284→2183
DEF 1027→1696
INT 842→1160
AGI 4158→6409
CHA 846→1375
LUK 6280→6280
SP 504→1348
スキル
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