第123話 光速移動

「とりあえず戦いの状況を説明するね」


 僕とウィルは今ベルーゼを足止めしているという場所まで、ウィルの出した光に乗って向かっていた。


 光に乗っていると言うことは、文字通り光速で移動しているので、生身でその速さに晒されたら身体は様々な抵抗に耐えきれずあっという間にバラバラになってしまう。しかし、身体に掛かるあらゆる抵抗はウィルが常時弾いてくれているため、バラバラにならずに光速という凄まじい速さで移動が出来ている。


 そんな中僕は、自分たちが動いているはずなのに周囲が動いているかのような不思議な体験をしていた。


 ウィル曰く、先ほど念話をした後すぐに僕たちの所に来たみたいにほぼ一瞬で移動することも出来るらしいが、あそこまでの速さを出すと全ての抵抗を弾くことが出来なくなってしまい、光速でも耐えられないと思われる僕の身体では、なおのことその抵抗に耐えられるはずないので、その時と比べて速度は結構控えていると言う。


 それでもベルーゼに飛ばされた時と、体感的には同じくらいのスピードは出ているのだが。


「今、奴は思うように動けなくしてあるけど、着いたのとほぼ同時に壊されると思う。壊されてなかったらその前に何とか一発攻撃を喰らわせたい。まあそれが無理だったとしても、掠り傷でも与えられれば、あとは僕の力で逃げるくらいの隙は作れると思うから安心して。これで大まかな説明は終わりだけど何か質問あるかな?」


「動けなくしてある今なら逃げられないの?」


 ウィルが足止めをしていると最初に言った時から、ずっと気になっていたことを訊いてみた。


 例えばこの無限にも思える空間が、実は箱のような形をしていて、正しい手順を踏むことが出来れば無限が有限に変わるとか、とどのつまり何処かに抜け道があれば足止めをしている間に、逃げられるのではないかと思ったのだ。


「この空間は奴自身でもあるんだ。だから奴自身をどうにかしない限りは、この場所からは永遠に逃げられない」


 僕の考えはどうやら一味ひとあじ二味ふたあじも甘かったようだ。


 この空間はベルーゼ自身でもあるからそのベルーゼ本体に攻撃を当てれば、空間自体にほころびが生じ、逃走を図れるほどの隙間が作れるということだろう。

 ブラックホールの時もそうだが、ウィルが来てくれなかったら僕たちは死ぬか、ここに永遠に閉じ込められるかの究極の二者択一にしゃたくいつとなっていた。


 ――と身の毛もよだつようなことを考えたところで、ある引っかかりを覚えた。


「そうするとウィルはどうやってここに入ってきたの?」


 ウィルが今言ったようにこの空間がベルーゼ自身だとすると、その本人が認めたもの以外はこの空間から出ることはもちろん、入ることも多分出来ないだろう。


「真冬くんの魂が消されるギリギリで、最大火力で空間に穴を空けたって感じかな。ほんと直前で間に合ったのは良いんだけど、その所為で今は本気の半分ぐらいしか力出せなくなっちゃって……」


 ウィル曰く、あの攻撃は肉体が抹消し生物学的に死ぬだけでは飽き足らず、魂さえもが掻き消されてしまうらしい。そのため、それを喰らってしまったら最後、たとえ輪廻転生を司る神様でさえ生き返らせたり、転生させたりするのが不可能になってしまうと言う。


 しかしながら、圧倒的や暴力的など人間の言葉では言い表せないほど強大な力を持つベルーゼ相手に、力が半分でも応戦出来るのだからウィルの地力は計り知れない、と思っていると、


「奴もまだ本気じゃないよ。多分1割しか出せてないんじゃないかな」


「――――」


 1割しか力を出せていないと言うことは、裏を返せば残り9割の力があるということと等しくなり、ベルーゼがまだ9割以上の力を秘めているというその恐ろしさに、僕は二の句が継げなかった。


「って言っても今僕たちが戦うときとか、あとはダンジョンの主として戦うときは、制限で5割ぐらいまでしか出せないと思うから安心して――っとそろそろ着くかな」


 ウィルの言葉通り、話している間に先程までは星のように小さかった点が、いつの間にかちょっとした山のように大きくなっていた。

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