第74話 白い虎
手を伸ばせば触れられる距離には、スーパーなどで置いてある買い物カゴぐらいの大きさの宝箱がある。
「じゃあみゃーこ、任せるよ」
僕の言葉を聞きみゃーこが頷くのを確認すると、触れると大量の魔物が召喚される罠が仕掛けられている宝箱にゆっくりと手を近づける。
「――――!」
僕が宝箱に触れたのと寸分の狂いなく同時に、周囲には僕たちの物ではなく、今までに感じたことのない種類の魔力が渦巻く。
フランさんが爆発を引き起こしたときと比べるとそれほどではないにしろ、それなりに濃密な魔力量だ。
「――――」
僕はこの手の罠、いわゆるモンスターハウスは二度目の経験となり、更にナビーの太鼓判があるからこそそこまでの焦りは出てこないが、隣のフランさんを見てみると、顔が見たことのないほど強ばっており、額からは脂汗と覆われる雫が滴れていた。
そして、魔力が渦巻き始めてからものの数秒の内に、僕たちの周りには魔物がおよそ30ほど存在しており、こちらを品定めするような鋭い目つきで舌なめずりをしながら睥睨していた。
「にゃ!!!」
みゃーこは魔物の姿が確かな輪郭になると同時に短く唸り、直視できないほどの眩い光を発し始めた。
光の中心地――みゃーこがいた場所の周囲には、魔物が出現するのと同じような感じで魔力が渦巻いており、その魔力の量はフランさんよりは劣るものの、先の物とは比にならないほど濃く、加えて研ぎ澄まされた魔力だった。
「ギャオ!」
眩い光が徐々にその輝かしさを無くしていき、完全に収まった後、みゃーこがいた場所には1匹の白い虎が自身を睨んでいる魔物に向けて、睨みを何倍にも増して返していた。
そして次の瞬間には、圧倒的な存在感を放つ大きな体躯を持った白い虎がいた地点には何者の姿もなく、そこから一番近い地点で大きく血飛沫が上がり、ガラスが割れるような音を立てて魔物が消えていく。
「あれは……みゃーこ……?」
僕は戦闘――いや蹂躙だろうか、その様子に唖然とする他なく、やっとのことで口をついて出た言葉は疑問の言葉だった。
それからまるで乱数表のように無作為な場所で血飛沫が上がり、ガラスが割れる音がする頃には他のところでまた血飛沫が、とこんな風に相対する魔物が文字通り一歩も動けないまま虐殺は続いていった。
「――――」
まもなく最初に魔物が命を散らしていった時からちょうど1分が過ぎた頃、僕とフランさんを取り巻く周囲の様子は、蹂躙に対して何のアクションを起こさない宝箱と、その蹂躙を行なった張本人だけの非常に寂れたものと化していた。
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