第50話 感情の事故

「そんなことやってみないと分からないじゃん!いつものカイトなら迷い無くやってみるって言うはずだよ!!」


 項垂れているカイトに向かってさくらが言ったことは、僕の伝えたい事と寸分の狂いも無く一致していた。もちろんカイトが他の人を紹介するとは思っていなかったので、さくらとは意見の摺り合わせなどしていない。そもそもさくらが杖を頼むことさえ思ってもいなかったから出来るはずが無い。


 さくらの声は相手のことを糾弾するようなヒステリックな感じではなく、相手と真っ正面からちゃんと向き合う姿勢を持っての叫びだった。言葉の内容は勇気づける内容だが、声音からは勇気づけると言うよりは、発破をかけるに近いだろうか、やけに挑発的だった。


「俺なんかが、今までに見たことどころか、聞いたことさえ無いような高品質な素材を加工して、物を作れるわけ無いだろ……」


 そんなさくらに対してカイトは、様々な感情が心の中で渦を巻きながらぜになってしまい、意図せずに吐露してしまった、というような感じで非常に弱々しく悲痛な言葉を発した。


「俺なんかがってカイトを信頼している私の――私たちの気持ちはどこにやればいいの!?」


 さくらはその言葉をカイトに叩きつけると、今にも溢れんばかりの涙を目に浮かべながら、カイトの家を飛び出した。

 さくらの涙は、杖を製作してもらえず武器が手に入らない遺憾の気持ちではなく、全幅の信頼を拒絶されのけけられた心苦しさから来るものだと、想像するに容易い。


 信じるということは、その相手になら裏切られても良いということ裏返しだ。しかし、実際に裏切られると、頭では分かってはいてもどこからか怒りや疑問、恨み辛みなどが多少なりとも湧き出てきてしまうのが、人間という高度な感情を有している生き物のさがだ。


 さくらは感情の発生自体を人間の特性上、抑えることは出来なかったが、本人もしくは周囲にぶちまけるをなんとか阻止した理性のせいで、抑圧された感情が行き場を失ってしまったのだ。


 号哭とも言い換えられるさくらの言葉を受けたカイトの表情は、より一層痛々しいものとなり、遂には近くにあったイスに力なくへたり込んでしまった。


 もしかしたら全てが邪推かもしれないが、カイトは僕が持ってきた素材のレベルを知り、鍛冶師としてそれなりに評価を貰っている自分だったが、所詮は井の中の蛙大海を知らずだったということに気が付いたのだろう。


 理由は何だろうと、どうにかしてカイトには以前のように自信を取り戻してもらいたいが、掛ける言葉を必死に探しても一向に見つからなかった。


 それは、真冬が努力と言われる類いのものをほとんど経験してこなかったからだ。ましてや、今カイトが感じているかもしれない、その中で経験するはずの挫折や失敗などあるはずが無い。


 だから、カイトの気持ちの全部を理解することは僕には出来ないだろう。

 だが、真冬はそんなカイトの姿を見て、まるで昔の自分をかがみ写しで見ているように感じ、思うところが出てきた。


 ――そんなことを考えたとき、口から自然と言葉が出てくる。


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