第40話 部屋

 さくらと僕は、今日泊まる部屋のドアを開け中に入ってみると、部屋の中は想像していたより小綺麗で、薄らと既視感を覚えるような内装だった。


「この部屋見たことある、って顔してるね。実はここって真冬が昨日、眠りこけてたところだよ」


「そっか、だから見覚えがあるんだ」


 そう言われてよく見てみれば、窓の形とかベッドの雰囲気が同じような感じがする。バタバタしてて、あんまり覚えてないが……


 いろんな事があって疲れ果てているので、今すぐにでもベッドで横になって、休みたい気持ちはあるのだが、僕は体を綺麗にしないと眠れない派の人だ。

 今の僕の体は、色んなところを走り回っていたので、お世辞でも決して綺麗とは言えない。


「ねぇ、さくら?そのーお風呂とかって無いの?」


 過去に読んだことのあるラノベの多くでは、異世界にはお風呂が無いことが当たり前で、主人公が作り普及させるのがテンプレートだから、さくらにはあまり期待せずに聞いてみると、予想とは180°違う答えが返って来る。


「ちょっと来て!」


 なぜだか少し得意げなさくらにそう言われ、部屋の入り口に向かって右側のドア前まで、手を引かれながら連れられた。

 ドアノブに手を掛け、勢いよくさくらが開けると、そこには――


「ジャジャーン!!」


 少しお高い旅館などにあるみたいな情緒豊かな檜風呂ひのきぶろと、素材はともかく作りに関しては、地球のブランドの物と比べても、遜色のない出来の木でできたシャワーのようなものがあった。


「え……えー!!何でお風呂があるの!?」


「すごく昔にサムライって名乗る人が広めた、ってフランさんに聞いたんだけど……この人、絶対に日本人だよね」


 もう鬼が出ようと、蛇が出ようと、日本産には驚かない!って決心を固めていたのに、あっさりとこのお風呂でハードルを越えられてしまった。


「もう何が出て来ても驚かない、って決めてたのに……」


 何故だか分からないが負けた気持ちのなり、へこむ。

 そんな僕を見たさくらは「そっか、ドンマイ!」と、軽く一蹴をした後、


「そんなことより、疲れてるなら入っちゃいなよ」


 と、手渡されたのは、赤い石と青い石が2つずつだ。


 これは魔物を倒したときに落ちる魔石に、属性を付与し加工した生活魔石と呼ぶ物らしい。この生活魔石に魔力を通すと、付与された属性に対する機能が、使えるようになっているとのことだ。

 これを使うことにより、魔法が使えない者でも魔力さえ通すことが出来れば、火を起こせたり、水を湧かす事が出来るので、人々の生活を支えている重要なパーツの1つだという。そのため常に需要があるので、供給するのを主に生業にしている冒険者がいるということだ。


 さくらは、フランさんから生活魔石についてのこの話を聞いて、後々必要になるかなと思い、すぐに何個か作ったらしい。


 さすがさくら、と言うべきか。抜かりない。


 ちなみに魔石に属性を付与することはとても難易度が高く、出来る人はほんの一握りなんだ、とさくらがドヤ顔で話していた。



 僕は服を脱ぎ、生活魔石を所定の位置にセットした。それからそこに軽く魔力を通すと、青の生活魔石はおよそ0℃の水がちょろちょろと湧き出て、赤の生活魔石はカイロのようにほんのり温かくなった。やはり赤は火の、青は水の生活魔石だ。

 それからどちらとも徐々に魔力量を上げて通してみると、青は水が多く出るようになり、赤の方は石が持つ温度が高くなっていった。

 ある程度上げたところで、もう少しで壊れそうな予感がしたので、慌てて量を減らした。


 なるほど、魔力の量で強さ?が変わって、注げる量には上限があるのか。上限は魔石のランクで変わるのかな。


 魔力の調節は、魔力操作マナ・コントロールを持っている僕にはお茶の子さいさいだったので、丁度良い湯温と水量で固定して、備え付けの石鹸で全身を洗う。

 今日の疲れが、汚れとともに流れていくように錯覚しながら、体に付いた泡を流し、その温度のまま浴槽にお湯を溜め、湯船に浸かる。


 ボディーソープとヘアシャンプーは最低でも欲しいな……。設備はこっちの方が新鮮で良いけど、洗浄剤に関しては案の定、地球産に軍配が上がった。


 次の集会まで5日間あるし、久しぶりに地球に帰ろうかな。


 そんなことを考えてると、どこからか声が聞こえてきた。



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