第35話 温もり
そんなこんなで三人で他愛ない雑談をしながら、しばらく帰り道を歩いていると、ダンジョンの出入り口に辿り着いた。
ここ最近は様々な事があり、周りの状況が目まぐるしく変化して、心体ともに疲弊を感じているので、ゆっくりと休みたい。幸い、こっちの世界のお金は腐るほどあるし。
ウィルの紹介も兼ねて、フランさんを誘って食事会をするのも良いかも。
もちろんお店は、フランさんのおすすめで紹介して貰ったココさんのいる食堂だ。
それから、さくらとウィルと一緒に素敵な服を見に行ったり、B級グルメ巡りをしたり……あ!こっちで家を借りるのも良いかな。
それと偶にさくらのレベリングにダンジョン行ったり、カイトに鉱物関係のドロップアイテムで武器や防具も作って貰ったり……。
やりたいことがいっぱいだ。
そんな先のことを考えていると、トントンと軽く肩を叩かれた。
「どうしたの?そんな楽しそうな顔して」
「これからどうしようかなーって考えてた」
「へえー、それってどんなこと?」
さくらは、子どもが何かを期待してるような、そんな目でこちらを見つめてきた。
「のんびり買い物したり美味しいもの食べたり……とか?」
「そ、そうなんだ……」
僕の答えに、おもちゃを買って貰えなかったような少し落胆する感じを見せたので、言葉足らずだったと思い、慌てて言葉を付け足す。
「も、もちろん、さくらも一緒にだよ!」
「本当!?やったー!」
さくらは落ち込んだ感じから一転、胸の前でガッツポーズをしながら、ピョンピョンと跳ねるようにして全身で喜びを表現した。終始子どもみたいな感情表現で、素直に可愛いと思ってしまった。
そうこうしてるうちに、何故だか分からないが喧噪が漂っていて、いつもとは違う雰囲気の冒険者ギルドに着いた。
フランさんに何も言わず飛び出してきてしまったので、多分、いやきっと激怒されるだろう。
そんな嫌な予感が頭を過ぎり続ける中、ギルドの扉を開けると、さくらと一緒に突然バッと抱き締められた。何が何だか分からず思考停止してしまい、目をまん丸にして驚いていると、僕たちの身体を包み込んでいる人物のすすり泣く声が聞こえてくる。
「どこに行ってたの!もう、心配したんだから……」
その人物の正体は、フランさんだ。
怒られると入る前から身構えていたので、抱きつかれた勢いのまま後ろに倒れるようなことにはなならかったが、フランさんと分かった今でも驚きすぎて言葉など出てこなかった。
やけに騒がしいギルドとこの抱きしめられている現状から察するに、おそらく僕たちが出ていった後様子を見に来たフランさんは、僕たちがいないことに気付き、慌てて色んな人に助けを求めて、今現在までギルド総出で探してくれていたんだろう。
どれだけ心配してくれていたか、どれほど不安にさせていたか、それがどれほどかは目の前のフランさんを見れば、誰だって分かるだろう。
「「フランさん、迷惑と心配を掛けて、すいませんでした!」」
真冬はもちろん、さくらもそれらのことをこの状況からすぐに察し、二人してハモりながら謝辞を述べた。一言一句、一挙一動、その全てを重ねてだ。
「ううん、迷惑だなんて思ってないよ。心配は……まぁしたけど、真冬くんとさくらちゃんが無事に帰ってきてくれれば、それでいいの!」
フランさんは、目に涙を浮かべながら僕たちを交互に見つめ、まるで自分たちの子どもを慈しむ聖母のように、その顔を綻ばせた。
そして、僕たちの周りには何時にも増して多く感じられる冒険者たちが、フランさんの親然とした抱擁や、さくらと揃って謝るといった一連の流れを、微笑ましいものを見るような面持ちで見ていた。
この人達もフランさんに頼まれて必死に探してくれていたんだろう。あとでお礼をしなくちゃ。
とりあえず直近でやることが決まった。それは、お礼をするために呑兵衛である冒険者たちに、湯水の如くお酒を呑ませることだ。酒を呑んでも、酒に呑まれても、知ったこっちゃ無い。好意とは、突き詰めてしまえば、押し売りに過ぎないのだから。
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