第33話 下準備
「ふぅ……これにて僕とさくらちゃんの契約は完了したよ!今は疲れて寝てるだけだから、安心して」
精霊は少し疲れを滲ませた様子で、そう言ってきた。
スヤスヤと寝息を立てながら赤子のように寝ているさくらに、フランさんから貰ったコート型のアウターを掛けてあげた。
「これでさくらは強くなったんだよね?」
隠せないほど疲弊している精霊のことももちろん心配しているが、誰に何を言われようがやっぱりさくらのことが一番心配だ。
そのことを意識してか否か、口をついて出たのはその質問だった。
真冬の言葉に「僕の心配は後回しかー」と残念そうに呟いてから、質問に答える。
「うん、これで強くなれる“下準備“は出来たよ!」
「下準備……?」
「前にも言ったと思うけど、今のさくらちゃんは、精霊魔法で
つまり契約をしたばっかりの現状では、MP100をそのまま直接STR100の値に変換できるということではなく、変換の際に大きくロスが出てしまう。言い換えれば、豆電球で光だけを出したいのに、変換効率のせいで熱も同時に出てしまう、ということだろう。それをLEDのように、出来るだけエネルギーを光に集中できるように、その感覚を掴まなきゃいけないのか。
それと慣れとは、急激にステータスが変動すると身体がついていけなくなり、最悪損傷してしまう。その急激な変化についていけるように加減したりしなきゃいけない、ということなのだろう。
「その感覚を掴んだり、慣れたりするのにどれくらいの時間が必要なの?」
「んー、具体的に何日とかは分からないなー。でも、賢者と相性は良いから割とすぐに出来るとは思うよ」
なんで
しばらく周囲を警戒しながら、精霊とこれからタメになりそうなことなどを雑談していると、さくらが目を覚ました。
「う……うーん」
「おはよ、さくら。具合はどう?」
目を擦りながら身体を起こしたさくらの顔色は、いつも通り血色が良かったが、内面だけは分からないので聞いてみた。
「あ、真冬おはよー。具合は……いつも通りかな」
「そっか、よかった。なるべく早くここから出たいんだけど、動けるかな?」
僕の身体も、先ほど精霊に回復魔法を施して貰ったが、万全にはほど遠く、少しも気が緩めないダンジョンでは一向に休めないので、多少無理を押してでも外に出たかった。
「大丈夫だよ!でも、戦うのはちょっと無理かな……」
先ほど危惧したように、外面は元気そうに見えるが、中身はまだ大丈夫ではないんだろう。あんなに苦しそうだったのだから、当たり前と言えば当たり前か。
「じゃあ帰りの並び順は僕が先に行くから、その後ろにさくら、最後に精霊に任せたよ」
「うん、分かった」
「おっけー」
さっき部屋の中で倒した魔物の魔石とドロップは、精霊と雑談しながら拾ったので、あとは下に降りていくだけだ。
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