第18話 嫌な予感

 鍛冶師ギルドに行く途中、塔の広場を通ると


「すごーい!選び終わったらあそこに行くんでしょ?」


 さくらが塔を見ながら目を輝かせて言う。


「そうだよ。これと同じようなのがあと6つこの世界にはあって、攻略していくんだよ」


「攻略すると、何か良いことあるの?」


「うーん……僕をここに来られるようにしてくれた神様に攻略してって言われたんだけど、他には何にも教えてくれなかったんだよね……」


 よくよく考えてみると、少し怪しいような怪しくないような。でも、あの神様が話してくれないには、それだけの理由があるんだろう。


「何かちょっと……怪しくない?」


「ちょうど僕も怪しいって考えていたところ。まあ、時期が来たら多分、教えてくれるよ」


 さくらの怪訝な表情はその言葉では晴れなかったが、渋々といった様子で引き下がった。



 それから他愛ない話をしていたら、鍛冶師ギルドに着いた。


「他の建物と違って、レンガ造りなんだね」


「僕も最初来たときそう思ったんだけど、中で鍛冶するんだから当たり前だよね」


「そうなんだー。今度見せてもらえないかな」


 少しさくらの表現が分かりづらいが、“見せて”とは鍛冶のことを言っている。分かった人はさくらと波長が合うと思うので、是非仲良くしてやって欲しい。――女の子なら。


「いきなり会った人に見せて貰うのは難しいと思うけど、カイトならきっと見せてくれると思うよ」


 さっき実際にカイトが鍛冶しているところを見ていたとは言わない。そのせいで遅れたからだ。つまり、言わぬが花、ということ。


 僕たちは鍛冶師ギルドの2階に上がり、杖が多く陳列されている区画に着いた。

 まだ最初の杖だし、3階の上位の武器はまだ早い、と話し合ったからだ。


「どれでも好きなの選んで、買ってあげるよ」


 言ってみたかった台詞ランキング上位に位置している言葉をやっと言えたことで、僕の心は舞い上がっていた。その言葉を受けたさくらは、僕が舞い上がっている以上に喜び、


「――え?本当に!!やったー!」


 さくらは一頻り喜んだ後、見たこともないほど難しい顔をしながら唸り、杖を吟味しだした。

 1つ持ってみては、片手で突き出すように構えて首を捻り、違うやつに持ち替えては、また…………と、ひたすらその繰り返し。


 僕は、カイトの剣の3つ目を持ってみたときにピンときたからこうなりはしなかったが、数多の中から1つを選ぶのは結構悩むし、ましてや初めて持つ武器ならなおさらだろう。それが分かるので、決して文句を言ったりはできないし、しない。


 20個ぐらい手に取って首を捻りながら吟味した末に選んだのは、さくらの身の丈以上ある重厚な木の尖端に、青いハンドボール大の宝石のようなものが付いた杖だ。


「真冬、これにする!」


「なんでそれにしたの?」


「これにしろって誰かが言ってるような気がしたから……?あとは、最悪これで殴れるから!」


(おそらく賢者のスキルの薦めでしょう)


「そっか……良かったね……」


 僕は自分の笑顔が引き攣っているのが分かった。


 

 杖の代金を支払いしていると、タイミング良くカイトがやって来た。


「おお!……?さくら、その大きさで使いこなせるのか?」


「大丈夫だよ。任せて!」


 さくらは自分の身長は優に超えている鈍器……もとい、杖をブンブンと軽く振り回し、明るく応えた。


 そんな会話を横目に支払いを終えたとき、真冬は重要なことに気がついた。


「忘れてたけどさ、さくらの服買わないと……」


「あっ……!」


 さくらが異世界に着てきたのは、あちらではどこでも売っている運動着、別名ジャージだ。

 運動という面ではジャージで事足りるが、こちらの服の大半には、防汚や防刃などの様々な能力が付いている。お金をある程度出せば、温・湿度自動調整機能や、消防服よりも優れた耐火性、水中でも息が出来るようなやつまである。


 それらをさくらに説明すると、


「今すぐ買いに行こう!!」


 と、今にも飛び出さんぐらいの勢いの乗り気だったので、カイトに値は多少張っても良いので上質な服を売っている服屋さんと伝え、そこに案内してもらうことにした。



「すいません。僕とこっちの女の子の服を冒険用の5着ずつ上下で見繕ってください」


 服屋に着いた僕たちはどれ良いのか分からず、結局店員さんに選んで貰うことにした。ナビーに頼りすぎても良くないという判断も込みだ。


 カイトも仲間だし買おうとしたのだが、丁重に断られてしまった。これから徐々に絆を深めてって、お互いに遠慮をしないようにしていきたいところだ。



 10分ぐらい待っていると、選出を頼んだ店員さんと他2人の計3人が、服掛けに服を掛けて持ってきてくれた。

 どれも質感、見た目共にばっちりで、文明が多少遅れているにも関わらず地球のと何ら遜色のない上質な服だったので、僕とさくらは即決で選んでくれた全部を買った。


 今からダンジョンに行くと伝えると、1着は着替えて残りは後日に取りに来てくれれば良いと言ってくれたので、言葉に甘えることにした。

 上客だと思ってくれているんだろう。上下計20着も即決で買えばそうなるか。


 さくらの武器を買い、良い能力が付いた服に着替え、僕たちは万全の準備でダンジョンへと向かった。



 何度目かの塔の広場へ着き、扉を潜って中に入ろうとすると、さくらが扉の上部を指さしながら訊いてきた。


「ねー、真冬……?あの豚さんの絵って何の意味があるの?」


「憶測だけど、この塔の他にあと6つあるって前に言ったよね?多分、他にも似たように扉の上に動物が書かれていると思うんだ」


 ここまでは真冬が一番初めに見たときに思った憶測だが、ほぼ確定の域だ。

 根拠は、わざわざここの塔だけに動物を書く意味が見当たらないから。


「それから考えると、これらの塔たちってキリストの七つの大罪をもとにして、作られてる可能性がある」


「七つの大罪ってあの憤怒とか傲慢……とかのやつ?」


 さくらは指折り数えていたが、親指と人差し指を折ったところで停止し、首を捻った。


「そう。あと色欲、強欲、怠惰、嫉妬、暴食ね。これも推測だけど、恐らく最上階にはその罪に対応する悪魔か、もしくは動物が居るって僕は考えてる」


 これがもし本当だったのなら地球とこの世界は何かしらの繋がりが……とさくらに話したいが、憶測の上に憶測を重ねているため確定と言えるほどではなく、またスケールが思っているよりも壮大すぎて恐ろしいのでまだ話さない。


「ま!とりあえず10層まで行こうよ!先のことは先で考えれば良いし」


 みゃーこは猫なので感情が伝わるか分からないが、二人には恐怖心を悟られないように努めて気丈に声を掛けた。



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