245話 世界会議へ向けて 前編


 さて、これで英雄組は一応全組顔合わせも済んだということで、皆再びそれぞれの思い思いに解散していく。

 まぁこいつらが交流を深める機会はすでに考えてるから別に構わないとしてだ。


「私はこれからどうするかな」


「どうするも何も、そろそろあたし達も休まない? 長旅から帰ったばかりでクタクタよもう」


「セフィラ達もご苦労さん。二人はもう部屋に戻って休んでくれて構わない。ただ、私はもうちょっとあいさつしときたい人らがいると思うんでな」


 今回の『世界会議』には文字通り世界全土の各大陸から主要人物が集まり、今後の世界の行く末を話し合う。

 私はそんな主要人物に知り合いは少なくないので、できることなら会議の開始前にあいさつを済ませておきたい。


「ならあたしもついてく。いいわよね?」


「ああ、全然問題なし。クリファは……」


 と、セフィラがついてくるならクリファもだろうと確認を取ろうとそちらを向くと、気分でも悪いのかどこか疲弊したようにうつむいていた。


「大丈夫かクリファ? どこか痛むのか?」


「違うの……。わたし、こんな長旅経験したことなかったから……予想より疲れたみたいで……」


 そうだったな。クリファはこれまで人間の生活とはかけ離れた“女神”として限られた世界にしか生きてこなかった。

 それがいきなりの長旅……やっぱちょっと無茶してたんだな。


「ごめんなさいゲンさん……わたし、先に休ませていただきますね」


「謝らなくていいっての。むしろ、私の方こそ気が付かなくて悪かった。ゆっくり休んでくれ」


 こういう場合は私が気を使ってやるべきところだったはずだしな。ヒロインに限界まで無理をさせてることに気づかいなんて、私もまだまだ理想の主人公には程遠いなこりゃ。


「今後はあんたもちゃんと体力つけなさいよ。出来の悪い妹を持つとこっちが苦労するんだから」


「誰が妹ですか……。生まれた時期は同時……いえ、やはりわたしの方がほんの少しだけ早かったはずです」


「まったく、減らず口を言う体力だけはいっちょ前に残してるんだから。ほら、早く部屋に向かうわよ」


 こうして、私達は一旦クリファを休ませるため自室へ送ることとなるのだった。




 その後、クリファを送り届けた私とセフィラは再び城の中を歩き回っていた。

 クリファについていようとも思ったが、「わたしのことは気にしなくても大丈夫です」という本人の意思と、「ワウ(ぼくがそばに残るっす)」という犬の気配りに甘えこうして外に出てきた次第だ。


「さてさて、出てきたはいいものの城の中も広いからな。誰がどこにいるのやら」


「結局ノープランじゃない。いつものことだけど」


「ま、適当に歩いてりゃ誰かに会うだろ」


 すでに城の中は知り合いだらけ。むしろこれで誰にも出会わない方が難しい。

 その中でサロマにでも出会えさえすれば誰がどこにいるかなんて一発でわかるし、行き当たりばったりで進むのもそう悪い案ではないはずだ。


「まずは大人数用の客間にでも向かうか。あそこは娯楽施設も兼ねているから誰かいるかもしれんし」


「あたしあそこ結構好きよ。賭け事は毎回負けるから悔しいんだけど」


 もともとこの城には娯楽要素など一切存在しなかったのだが、ディーオが皇帝に即位した際に前皇帝までの息がかかった怪しげな施設をすべて取り潰して新しい施設へと生まれ変わらせた。


 というかセフィラ……お前あそこで賭けてたのか……。自堕落な女神からギャンブル女神……さらにダメな方向に進んでるじゃねぇか。

 それに、私達の主な活動資金はヴォリンレクスの内政予算から出してもらっており、私はそこからセフィラ達にお小遣いを渡していたのだが……。


「セフィラ、お前だけ今度からお小遣い半減な」


「えー!? どうしてよ!」


「どうしてもなんでもあるかい。クリファに女子力誇示するならこれ以上ダメ女神の道に進むんじゃありません」


 まったく、私の目の届かないところで何をやってるんだか。

 まぁ、セフィラ達が自由にこの世界を楽しめてるという点だけで見れば私としても嬉しいことではあるけどな。


「横暴よー! 見直しを要求するー!」


 というわけで、こうして道中もワイワイ楽しく主人公とヒロインやりながら進んでいると、すでに目的地までたどり着いていた。


「さーて、中には誰か……お?」


 中を覗くと、部屋の中心では見知った顔の二組が談笑をしている場面に出くわした。


「流石は商人ギルドをも取りまとめる大国メルトの王。此度のお話大変感服いたしました」


「いえいえアレス王、こちらこそ大変興味深い話を聞かせていただきましたよ」


 あれは、第三大陸のアレス王国の王様と中央大陸において随一の商業国家であるメルト王国の王様の二人だ。

 そしてアレス王の後ろには見知った二人の姿もあり。


「お? ムゲンじゃねぇか。どうしたこんなところで?」


「ちょっとカロフ。まだアレス王が会談中なんだから私語は……え、ムゲン君?」


「っと済まない。お邪魔だったか?」


 なんだか大事なお話の最中にやって来てしまったようだ。こりゃこのまま退散した方がいいか。


「いやリィナよ、私は構わぬ。私も彼とは今一度話をしたいと思っていたところだ。よろしいですかな、マールガルド王?」


「構いませんよ。こちらも彼には礼を述べたいと思っていたので。彼女達も彼に会いたいでしょうし」


 彼女達? と、最初は誰のことかわからなかったが、マールガルド王の後ろから出てきた二人の女性を見て私は納得するのだった。


「ご無沙汰しております、ムゲン様」


「久しぶりだねムゲン君。それにセフィラさん、シリカちゃんから話は聞いてたけど本当にムゲン君と戻ってきたんだね」


「マレル、フィオさん!」


 二人もこっちに来ていたのか。いや、世界間のいざこざがまった以上フィオさんにとっては主人たるエリーゼがいるこちらに来ているのも当然か。


「えーっと……魔導師ギルドの人だっけ?」


「あははー、やっぱ私のことは印象にないか。でも私はシリカちゃんからいろいろ聞いているよ、セフィラさんのこと」


 まぁこの二人は接点もなかったしな。どちらも知り合いの知り合いという程度の認識だろう。フィオさんとは寮で何度か顔を合わせているとは思うが。


 しかしこの二人とも久しぶりだな。以前メルト王国に協力を要請に行ったときに会って以来か。


「魔導師ムゲン、此度の一件では世話になった。おぬしのおかげで同盟が円滑に進み、こうして多くの国家への呼びかけに繋がった」


「いやいや、助かったのはこちらも同じこと。メルト王国が早急に動いてくれたからこんなに早く世界会議へとこぎつけることができたというものだ」


 結局はお互いの利益が一致したって話しなだけで、それらがうまく噛み合った結果が有益に働いたというだけのことだ。


 どうやらメルト王国はこれまでの戦争で被害を被った国々へと商人ギルドの全精力を挙げて支援を行っているとのこと。

 ただこれを機に商人ギルドの勢力はさらに拡大、のちに大きな利益を生むだろうという目算らしい。ちゃっかりしてんな。

 さらには女神政権を中心としたシント王国の混乱により後ろ盾を失いかけている建製ギルドを取り込もうという動きもあるとかないとか……。


「新しい魔導師ギルドマスター、リオウさんも前体制のギルドの影響で追放された人達は快く迎えたいって言ってくれたし、これで私もギルドの受付に戻れるよ」


「お、受付嬢マレル復活か」


「ただ……全部前と同じとは行かないけどね。ジオとイレーヌはまだ自分を許せないみたいだし……」


 そう、ギルドマスターの座にリオウが就きヴォリンレクスという後ろ盾を手に入れた魔導師ギルドは以前と同じというわけにはいかない。

 中でも前体制で非協力国に圧力をかけていた六導師はリオウの下で罪を償うため活動している。一部往生際の悪いのもいるようだが、ジオやイレーヌは自らの罪を償おうと積極的に活動を行っているらしい。


「まぁリオウのことだから無茶なことはさせてないだろうし心配しなくても大丈夫だ。きっとまたみんなで笑える日がくるさ」


「うん……そうだね! それじゃ私は二人が帰ってきた時に笑顔で迎えられるようにお仕事頑張るぞ!」


 まだまだ時間はかかるだろうが、いつかあの頃のように笑い合える日が来る。そのためには……私も頑張らないとな。


「なるほど、どうやら魔導師殿は我が国を離れた後も様々な活躍を残しているようだな」


「あーっと……アレスの王様。ミレア……元気してますかね?」


 真っ先にこう聞いてしまうのは、やっぱり試練で体験したミレアと結ばれる事象の影響が少し残ってるからだろうな。

 あの事象の流れが今私が進んでいる流れとはまったく違うものであるということはもう理解しているが、それでも気にならないといえば嘘になる。


「ミレアかね? あの子なら最近は騎士カロフにお熱だったがまったく帰ってこないので不貞腐れてしまってな。今回も無理やりついてこようとしたのを何とか止めたほどだ。……しかし、キミの話をすればまた熱を取り戻すやもしれぬな、ほっほっほ!」


「そうか……まぁ元気ならそれでよかった」


 相変わらずって感じだな。ホントあいつは天真爛漫で……っていかんいかん、またちょっと別の事象の私が入ってたな。


「……ねぇムゲン、誰よそのミレアっていうの」


「んえっ!? あ、いや昔助けた子だったからな。ちょっと気になっただけというか」


「む、怪しい。まさか昔の女……」


 なんでこんな浮気現場を目撃されたみたいな状況になってるんだ私は。くそ、これも全部アレイストゥリムスの試練のせいだ。


「ハハハハハ! なんだよムゲン、人のこと散々浮気野郎だとか言っときながら自分が同じ立場に陥ってるじゃねぇか!」


「うるさい、カロフと違って私は誠実だ。何もやましいところはない」


「俺だって誠実だっつーの!」


 しかしこの私に女性関係の問題か……焦り以上にちょっと感動してる自分がいるが、あとでセフィラにはフォローしとこう。


「うむうむ、ならミレアには「勇者殿は素敵な伴侶を見つけとても幸せそうだった」と伝えておこう」


「ええ、ぜひそうしてください。この完璧なヒロインのあたしさえいれば他にヒロインなんていらないんだから」


 ならその言葉通りになるようにもうちょっと努力しようなセフィラは。ま、完璧だとか関係なく私はセフィラを愛してるけど。


「魔導師殿のおかげで我が国は救われたこと、今一度お礼を申し上げたい。本音を言えばあの時逃げずに我が国に残ってほしかったが……今のキミを見ているとあれで正解だったと思えるよ」


「……正解なんて、どこにもないですよ。でも、私はこの道を選んだことに後悔はしてませんよ……アレス王」


 なんだかまた一つ、未練が消えたような気がする。

 そう、私がどんな事象を選んだとしても、立ち止まって振り返ったとしても進んできた流れが変わることはない。

 けれどきっと、私はどんな道を選んでも後悔はなかったはずだ。それだけは、自身を持って言える。


「さて、それでは私達はこれで失礼させてもらうとしますよっと。……あ、カロフとリィナにはこれ渡しておくな」


「んあ? んだこれ?」


「招待状? 地図が書いてあるね」


「まぁ形式上そう書いてあるだけだから内容については深く考えなくていいぞ。時間になったらその地図を頼りに向かってくれ」


 といってもその地図の場所も城の中なんだけどな。

 これは英雄全員が揃った際ら行おうと私が以前から考案したいたある催しであり、これからの私達に必要なものだ。我ながらナイスアイディアだと思うぜ。


「あと近くにいればディーオやレオン達にも渡したいんだが……」


 先ほど全員集まっていたところで皆に渡しておけばよかったな。


「レオ坊なら魔導師ギルドのマスターんとこに行くっつってたぞ。皇子さんとこならこれから会いにいく予定だ。なんだ? 同じもん渡しゃいいのか?」


「あ、確か龍帝さんと龍妃……ミネルヴァさんも陛下に会いに行くって言ってたよね」


「アポロも一緒か、そりゃ都合がいい。ディーオとサロマ、そしてアポロとミネルヴァにこいつを頼めるか。んでレオンはリオウのところだな、サンキュー」


 あっちはあっちでいろいろ予定もあるようなので、ここらでおいとましましょかね。

 そんじゃお次は……レオン達のところに向かうとしますかね。


「それで、結局あの招待状ってなんなの?」


「ま、皆が仲良くするためのちょっとしたお楽しみってとこだ。もちろん、セフィラも参加だからな」


「……?」


 ま、それはあとでのお楽しみ。とにかく私も時間になるまでに用事を済ますとしましょうか。


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