190話 潜入!暴動!大混乱!
「では、我々レジスタンスの案内はここまでとなります。皆さん、ご武運を」
「ああ、そちらもな……パスカルさんには無事ここまでたどり着けたと報告しておいてくれ」
周囲の魔導師達に見つからないよう、そういって私達をここまで案内してくれたレジスタンスの工作員が小さく敬礼し、そのままこの場を立ち去っていく。
もうお気づきかもしれないが、ここは魔導師ギルドの総本山……その中心都市であるブルーメの街の目と鼻の先に私達はたどり着いていた。
パスカルさんと落ち合いひと時の休息を終えてから今はすでに数日経ち、途中途中でレジスタンスが用意してくれた中継地点を経てついにここまでやってきたのだ。
「ついにここまでやってきた……なんだか、長いようで短かった気がするな」
「僕達だってここを離れてからもう半年以上は経つんですから、ずっと離れていた師匠にとっては本当に久しぶりでしょう」
「ま、感覚的にはお前らと似たようなもんだと思うけどな」
確かにこの世界だけの時間間隔で見ればレオン達にとって私がブルーメを離れていた期間は相当のものだろう。だが、アステリムに比べ時間の流れが極端に遅い地球に戻っていた私にとっては感覚的にレオン達とそう変わらない程度のはずだ。
「しっかし、こうやって遠目から見る限りじゃ全然変わった様子はないのに……今じゃ女神政権の威を借る侵略国家みたいなもんだからなぁ」
「仕方ありませんわ、元々この地は長きにわたって魔導師ギルドが管理し、大きくなっていったようなものですから。魔導師ギルドの決定はそのまま国家政略に反映されてしまうのも当然ですわね」
今でこそ"魔"を扱う技術が衰退し、貴重な存在になりつつある時代の中、それを高度な技術で扱う集団が実権を握り勢力を拡大していった……ということなのだろう。
衰退していた時代にギルドを設立した者もなかなかに思い切ったことをしたもんだ。
「そういや当たり前のことを聞くが、マステリオン以前にも何代かギルドマスターってのはいたんだよな?」
「当然ですわ、初代マスターからはじまりもう何代もマスターは交代してますわよ」
「でも確か、昔は福マスターの制度はなくて、都市国家として大きくなってきてから追加された制度らしいです」
そういや最初は魔導師ギルドも少人数の小さいギルドだったって話もあったな。規模が大きくなればそれだけ重要な役割の人材も必要になるってことだな。
「へ~そうだったんだ。僕もそれは知らなかったよ」
「レオン……これは魔導師養成校の歴史の授業で教わった藩士ですわよ。あなた、点数に影響しない授業だから聞き逃してましたわね」
「え~っと……そ、その時はバイトや魔術の練習が忙しかったから……点数にならない授業はつい居眠りを……」
ま、レオンは苦学生だったしな。
しかし、長きにわたってきた代々の魔導師ギルドマスターの中で唯一度を超えた暴挙に出た男か……。
「だが、ギルドマスターや副マスターは毎回どうやって決めるんだ? まさか毎回下剋上してその座を奪い取るわけでもないんだろう」
「そんな野蛮な方法なわけないでしょう。新たなマスター達は、その前任が指名して決まるものよ。大抵は実力が見られがちだとは思いますが、前任のマスターがその人柄や人間性を考慮したうえで毎回決まっていると聞いてますわ」
「んじゃ、今のマステリオンとディガンもその前のマスターが決めたってわけだ」
大衆の意思や名声に左右されず、常に現代のトップが次代のトップを指名する形か……。ギルドの今後を左右する重要な決め事を人間一人に委ねていいものかとも思えるが、選ぶ側の人間というのもその人間性を見込まれて選ばれた人間……そう簡単に悪意ある者を選ぶということもあるまい。
実際、私の知るマステリオンは人柄もよく、人の上に立つ人間として問題のない……むしろ良い人間だとは思っていた。ディガンも大雑把なところはあるものの完全な悪人ではない……と、感じてたんだがな。
「そういえば、前のマスターさんは歴代の中でも特に魔術の才能に秀でていて"天才"って呼ばれてた程だそうで。副マスターもそんなギルドマスターを支える素敵な伴侶だったと聞いています」
そう思い出したように前代のマスターについて語るシリカだったが、ちょーっと聞き捨てならない単語が聞こえた気がするぞ。
「え、前代のマスター達って夫婦なの?」
「はい、なんでも就任した時点ではまだお互い他人のような関係だったのが、共にマスターとして接していく内に変化していったとか。それで、今では引退して誰にも知られずにひっそりと暮らしてると聞きました。素敵なお話ですよね」
なんだその羨まけしからん話は! 魔導師ギルドマスターになって、副マスターと交際から夫婦に、そしてマスターの座を後任に譲って仲良く引退ってか!?
なんという勝ち組人生……。
「私もいつかはその人達のようにレオンさんと一緒に魔導師ギルドを支えてみたいと思っていたんですけど……肝心のギルドがこの状態ですから」
「お待ちなさいなシリカ。ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえましたわよ、レオンと一緒に魔導師ギルドを支えるのはこのわたくしのはずでしたのよ」
「どうしてそうなるんですか、エリーゼさんには自分の家の当主としての仕事があるじゃないですか」
「もちろん両立いたしますわ。ティレイル家の仕事をこなしつつ、ギルドマスターであるわたくしと副マスターであるレオンとで魔導師ギルドをさらに大きくしていくはずだったのよ」
「僕が副マスターなんだ……って、それより! 二人とももうその辺で落ち着いて……」
まったく、こっちもこっちで羨ましい展開を繰り広げやがって。しかし、いい加減レオンもそろそろその弱腰な姿勢は改善したほうがいいかもな。
……これからの戦いは、優しいだけでは解決できないこともあるだろうから。
「あんた達、はしゃぐのはいいけどあんまり目立つようなことはそろそろやめときなよ……あの街、どうも様子がおかしいみたいだからさ」
「街の様子……ですか?」
「ああ、何か嫌な感じだ」
話の流れを断ち切るように割って入ってきたサティの一言により全員が落ち着きを取り戻す。
そして、サティが感じた嫌な気配とは……。
「……む! おい、あそこを見ろ! 煙が上がっているぞ!」
全員でレイの指さす方へ顔を覗かせると、そこからは確かにブルーメの一区画から立ち上る一筋の煙が立ち上っている光景が目に入ってくる。
そして……その一筋の煙が上がったことに同調するように……。
……オォン
「ッ! なんだい今の音は!?」
「え! お、音ですか……僕にはよく聞こえませんでしたけど」
それはサティの新魔族ゆえの優れた感覚によるものなのか、ここにいる他の者には気づかないようなか細い音でさえ敏感に感じ取れるようだ。
つまり、それが意味するものとは……。
「あっ! 見てください皆さん! また煙が……あっちにも!」
「これは……どうやらブルーメの街でなにかトラブルが起こってるようですわね」
エリーゼの言う通りブルーで何か起きているのは火を見るよりも明らかだ……それも、どうもよくない方向に。
だが、私達はどうするべきか。まだ何が起きているのかも分からないのに無暗に突っ込むべきだろうか? もしかしたら、これは私達の作戦に気づいた魔導師ギルド側の罠という可能性はないだろうか……。
「ガウガウ!」
「きゃ、どうしたのオルちゃん?」
「ワウン!(ご主人! この感覚は……あの街で戦いが起きてるっす! ぼくもこいつもどうやらそういうのを結構肌で感じてるっすよ!)」
なるほど、犬は精霊に近い存在になりつつあり、オルトロスは魔物としての野生の感覚を持っている。魔力以上に自然の感覚を敏感に感じ取れるこの二匹にはブルーメで何が起きているのかいち早く察知できたわけだ。
犬も今は通常状態だが、度重なる変身で感覚が近くなってるんだろう。
(しかし街で戦いが起きている……か)
レジスタンスの者達は私達に積極的に協力してくれているから、私達が行動を起こすまで強硬手段に出ることはまずない。かといって、今のブルーメ内で魔導師ギルドに反抗しようとする勢力は存在してないはず。
……だとすれば、残る答えはただ一つ。
「皆! こうなった以上隠れて突入する作戦はやめだ! レオン、エリーゼ、シリカはオルトロスに。私とレイとサティは犬に乗って混乱しているブルーメに正面から突入する!」
「ええ!? そんな師匠……いきなり言われても!」
「うだうだ言ってる暇はないね! みんな覚悟を決めて突っ込むしかないよ!」
どうやら当初の予定通り順調には行かせてくれないようだ……。
だが、これ以上"敵"を増やすわけにはいかない。そのためには、やはり『あの作戦』を実行に移す……それ以外にはなさそうだ。
「ガウガウー!(おらおらー! みんなどかないと轢いちまうっすよー!)」
「ガルァ!」「グルォ!」
こうして私達は半ば強引にブルーメの街への突入を決行した。だが、全速力でたどり着いたはいいものの、先ほど遠目から見た時よりもさらに火の手は拡大しており、ローブを身に纏った魔導師と謎の勢力がそこらじゅうで争っている光景が目に入ってくる。
加えて、そのどちらでもない……元々ブルーメにの街の住人であろう人々が逃げ惑っている……。
「うおお!? な、なんだこの奇妙な生き物どもは! 魔物なのか……?」
「ど、どちらにしても奴ら『革命軍』の勢力に違いない!」
「ガウー!(むきー! ぼくをあいつと同じ魔物扱いするなんて許せねーっす!)」
「いや、どっちにしろ似たようなもんだろ。……それより、魔導師と戦っているのはやはり革命軍のようだな」
姿恰好に統一性こそないが、その集団は誰も似たような雰囲気を漂わせており一目でこの街の住人ではないということが理解できる。
「ムゲン、どうするんだい! かなり荒れた状況だけど……アタシらは予定通り魔導ゲートとやらに向かうのかい?」
「いや……流石にこの状況は無視できるものじゃないだろう。できる限り一般市民の安全を確保しないと私達がやってきた意味がない」
本来なら極限まで一般人に被害を及ぼさずに終結させる作戦だったはずなのに、どこかの血の気の多い馬鹿どもが先走りやがって!
街の外にはレジスタンスの一団も待機させてはいる。元々は私達が魔導師ギルド本部へ侵入してから街中の安全な場所で暴れてもらう予定だったのだが……こうなってしまっては彼らにも市民の安全のため動いてもらう方が得策か。
「レオン! 通信石でレジスタンスに救援を要請しておけ! とりあえず危険な場所にいる一般人を至急救助に当たるぞ!」
「は、はい!」
「レオンさん、連絡は私が……」
「確か、東地区に緊急の際の避難場所があったはずですわ! もしかしたらほとんどの避難民もそこに集まってるかもしれませんから、そこで落ち合いましょう!」
避難場所か、確かに今は救助をしつつそこへ向かうのが理想的な動きだな。
そうと決まれば……。
「よし、それじゃあこのまま二手に分かれるぞ。サティとレイは私の方を手伝ってくれ」
「おう!」
「了解だ」
そのまま私達は街の中心へと駆けていく、まだ戦火が少ない場所は後から来るレジスタンスが対応してくれるはず、今は少しでも危機的状況に晒されている市民の下へ急ぐのが先決だ!
「ガウ!(あっちの方! なんだか凄い戦ってる気配がするっす!)」
「この辺は商店や様々な店が立ち並んでいた通りだな。酷いあり様だが……」
半年以上離れていたといっても慣れ親しんだ場所というのはやはり忘れないものだ。だが、今ではその記憶に残っている光景とは異なり、店先に並んでいた商品は無残にぶちまけられ、店の外壁はボロボロ……挙句には火の手が上がるところまである始末だ。
「ムゲンッ! あそこ!」
何かに気づいたサティが指さした先には……建物が崩れた瓦礫のそばに横たわる女性と、その女性の腕を泣きながら引っ張る女の子の姿だった。
「お母さんはもうだめ! あなただけでも逃げて……!」
「やだー! お母さんも一緒にいくのー!」
その様子からしておそらく親子なのだろう。よく見れば横たわっている母親らしき人物は少量だが頭から血を流している……背後の崩れた建物を見る限り、おそらく落ちてきた瓦礫にぶつけたか……。
「あの母親、瓦礫に足が埋もれて動けないのか!」
なんという不幸中の不幸。そのせいでこうして逃げ遅れて……。
ボゴォン!
「ッ!? 今度はなんの音だい!」
今のは小さいが爆発の音だ! 場所は……あの親子が埋もれている瓦礫のすぐ後ろか!
「悪しき女神政権に組する腐った魔導師どもめ! 大人しくこの地を明け渡せ!」
「ふん! 有象無象の雑多どもが! 大人しくするのは貴様らの方だ!」
その爆発地点に現れたのは未だ交戦中の魔導師ギルド員と革命軍の一兵士。くそっ……こいつらお互い相手に夢中すぎて周囲の状況が目に入ってないぞ!
このままそこで戦いをおっぱじめられでもしたら……。
「アタシがいく!」
その状況を見過ごせないとばかりにサティがいち早く犬の背から飛び出していく。早い……魔導師の男はすでに魔術を使用する体制に入っていたが、その瞬間にはすでにサティの拳が横っ腹にめり込んでいた。
「俺の魔術で消し去ってや……! ぅれえ? ぶぐぅっ!?」
サティの剛腕により完全に不意打ちを食らった魔導師はもはや自分の身に何が起きたのかもわからず遥か彼方へと吹き飛んでいく。
もしかしたら街の外まで飛んで行ったんじゃないだろうか……。
「おお! あんたらが俺達革命軍の味方をしてくれるという匿名の協力者か、助かったぞ!」
やはり革命軍で確定か。しっかしこいつら、今回の作戦を自分達が主体のものとしか考えていないようだな。
どうやら私達のこともどことなく察したようで、友好的な表情で近づいてくるが……。
「このままこの近くにいる魔導師どもを片っ端から……」
「そんなもんは余所でやりな!」
「蹴散ら……しぅぶごぉおん!?」
セリフの途中で食い気味にもう一発鉄拳制裁! 名もなき革命軍Aも遥か彼方へと飛んでいくのだった……。
ま、どうみても逃げ遅れた一般市民が見えているというのに、それを考慮もせずにまたこの場を戦場にしようというのだからサティにぶっ飛ばされても文句言えんわな。
「レイ! ムゲン! 親子は!?」
「大丈夫だサティ、たった今救出したところだ」
サティが邪魔者をぶっ飛ばしてる間、私とレイは魔術で瓦礫をどかしつつ母親の傷が悪化しないよう手当も施しておいた。
「よし、無理は禁物だがこれで普段通り歩けるはずだ」
「ありがとうございます! なんとお礼を言ったらいいか……」
「おかーさん! うぐ……ぐすん……」
「今はお礼よりも一刻も早くこの場から退避することが先決ですよ奥さんや」
ただ、この親子のようにまだ逃げ遅れた一般人が他にも残っているかもしれない状況で守りながら捜索するのは流石に骨が折れるし時間もかかる。
やはりここまで大規模な暴動になってしまっては私達だけでは人手が足りないか。せめて逃げ遅れた人がどこかでひと固まりにでもなってくれていれば……。
「おうそこの怪しいテメェら! いったいそこのご婦人に何しようとしてやがる!」
「ん?」
次の行動をどうするか考えていると突然どこからか現れた一人の男に声をかけられる。
どっちだ? 魔導師か、それとも革命軍か……いやしかし、この声はどこか聞き覚えもあるような……。
「……ってあんた! 武具屋のおっちゃんじゃないか!?」
「んん!? おめぇさんは……あの毎回変な注文するあんちゃんじゃねぇか! なんでこんなところに!?」
それは、私が以前ブルーメに滞在していた頃によく贔屓していた武具屋のおっちゃんことアレックスだった。うっわーなっつかしー。
「ってんなことよりもだ……テメェその人に何しようとしてんだ!」
「誤解ですアレックスさん! この方々は私達を助けてくださったんです」
「お? お? 知り合い? ちょっと詳しく教えてちょ」
「お、おう……それがだな」
ことの経緯はこうだ……魔導師と革命軍の戦いが始まった際、おっちゃんは逃げ遅れた人々を先導していたが、戦闘が激化してくるにつれ動けなくなってしまった。
そんな中、おっちゃんの知り合いの妻子がはぐれて行方不明とのことでおっちゃんが単身探しに来たということらしい。
「んで、偶然私達と鉢合わせたと」
「おう、その通りだ。しかしこの状況じゃ迂闊に集団で動けねぇ」
「逃げ遅れた市民は全員おっちゃんのところにいるのか?」
「ほかの連中はとっくに避難区域に向かったはずだ。この辺の連中の顔は大体知ってるし、戦場に取り残された奴はおそらくいねぇはずだ」
これは……逆に私達にとっては結構都合のいい展開じゃないか。サティ達の方へ顔を向けると、どうやら私と同じ考えの様子で同意するように目で訴えかけてくる。
「うっしおっちゃん、避難区域までは私達が護衛する」
「そいつはありがてぇが……街にゃ魔導師やヤベェ奴らがうじゃうじゃしてやがるぜ」
「安心しろって、私達はめっちゃ強いから。な、サティ、レイ」
「当たり前だ、その辺の雑兵ごときに後れを取るつもりもない」
「それに、アタシらは大人数を守りながら戦うのは慣れてるしね」
二人とも頼もしい限りだ。あとはこのまま一般人達を連れてレオン達と合流するだけなのだが……。
「レイ、サティ、途中から護衛をお前達だけに任せてレオン達と合流してもらいたいんだが頼めるか。私には一つ、やっておきたいことがある」
「それは構わないけど……いったい何をするつもりだい?」
「詳しく話してる時間はない。だが……この状況ではとても重要なことなんだ」
それは、この作戦において私が残しておいた最後のカードとも言える一手。おそらく今以上にこのカードを切るタイミングはないだろう。
「わかった、アタシらはムゲンを信じるよ。こっちは任せな」
「ありがたい。私もすぐに合流する」
こうして、私は避難区域に向かう途中までサティ達とともに避難民を誘導し、それからある場所へと急ぐのだった……。
サティ達がムゲンと別れ避難区域に向かっている時、すでにレオン達は残りの避難民を誘導しそこまでたどり着いていた。
しかし……。
「悪しき女神政権に与する魔導師どもを一人残らず討ち滅ぼせー!」
「俺達魔導師様に逆らう反乱者風情が! 駆逐されんのはテメェらの方だぜ!」
魔導師ギルドと革命軍の争いはすでに避難区域のすぐそばまで広がっていたのだ。さらにたちが悪いのは、お互いに自己中心的な思想のために街や一般人がどうなろうとお構いなしに戦火を広げる始末。
「くっ……! このままじゃ被害がどんどん広がって避難区域も危ないよ!」
「ほんっっっとうに頭の足りない連中ばかりで嫌になりますわね! しかも数だけは無駄に多いせいで対処が追い付かないのも余計に頭にきますわ!」
レオン達の側にはすでにレジスタンスが合流しており、ムゲン達よりも早く逃げ遅れた人々を集めここまでやってきたはいいもののこの有り様である。
このまま避難区域までもを戦場にしないため、レオン達はこの場を動けないでいるのだ。
「まったく! わたくし達はここで足止めを食らってるわけにはいきませんのよ!」
「でも、僕達がここを守らないと……街の人達が!」
もはや魔導師も革命軍もレオン達のことは邪魔者と認識しているようで容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
このまま防戦してるだかでは本来の作戦もあったものではないが……。
「オラオラオラオラァ! あんたら道を開けな! さもないと痛い目見るよ!」
そんな苦しい状況の中、街の中心の方向から魔導師や革命軍を次々と蹴散らしながら近づいてくる一団が避難区域へと迫っていた。
……そう、その一団の先頭に立っていたのは。
「サティさん! レイさん!」
「お、いたいた! レオン、エリーゼ、シリカ、どうやらこっちも相当荒れてるみたいだねー!」
中心街の逃げ遅れた人々を連れてきたサティとレイの二人だった。
「二人ともご無事で何よりです……ってあれ? 師匠の姿が見えませんが……」
「ああ、ムゲンは……」
「待て、あまり悠長に話している時間もない。まずはこの一般市民達を奥に避難させるぞ。誘導は……」
「ガル!」「グル!」
「それはレジスタンスの皆さんに任せましょう! それよりも……私達はまずこの場をどうにか諌めないと……」
巨大化したオルトロスにまたがりながら戦場を駆けるシリカの誘導により、アレックスを含む一般人達はレジスタンスとともに区画の奥へと逃れていくことに成功する。
だが……無事を喜ぶ市民とは裏腹にそれを見つめるシリカの瞳はどこか悲し気で……。
「……皆さん、ごめんなさい。私に革命軍の皆さんを抑えられる力がないばかりに……」
「そんな……シリカちゃんのせいじゃないよ」
そう声をかけるものの、やはりどこか責任を感じているのだろう。その顔にはどこか焦りが感じられるようにも見えた。
(せめて……せめてここの暴動だけでもどうにかしないと! でも、僕達だけでどうすれば……)
「……ッ!? レオン! 何をボケっとしてますの! 前を見なさい!」
「え!?」
気づいた時には……もう遅かった。エリーゼの声に我に返ったレオンの目の前には、流れ弾で飛んできたであろう炎の魔術が眼前に迫っており……。
(そんな……僕がしっかりしてなかったせいでまた皆に迷惑がかかっちゃう。どうして僕はいつもこうなんだろう……立派な魔導師になるって……あの時誓ったのに)
少しでも痛みを感じないよう目を閉じてその瞬間を受け止めようとするレオン……が、なぜかその衝撃はいつまでたってもやってこない。
どうしたものかとそのままゆっくりと目を開けると……。
「え!? これって……凍ってる?」
レオンの眼前に迫っていた炎の弾は氷塊に包まれ完全にその機能を停止している。それだけではない、周囲を見渡せば辺り一面氷漬け……先ほどまで争っていた魔導師や革命軍も足や手が氷に覆われその動きを封じられているではないか。
「いったい……なんでこんなことに……」
「……!? レオンさん! あそこ、あの屋根の上にいるのって……」
何かに気付き驚愕するシリカの指す方へレオンも顔を向けると、そこには一人の男が片腕に冷気を纏わせつつもほほ笑むように二人を見つめていた。
まるで懐かしい旧人に出会ったかのような……そう、我々はあの男を知っている。
「やぁ、レオン君、シリカ、久しぶり。危ないところだったね」
「リオウ……くん」
かつてこの街に混乱を巻き起こしたレオンの友人……リオウ・ラクシャラスがそこに立っていたのだった。
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