176話 アステリム救済計画立案!


 それから、私達は一緒に騒動の後片付けを終え、街の住民への説明もしたのだが……。


「お前ならお前だと最初からそう言え、ムゲン!」


「いや確認もせずに攻撃してきたのそっちだろ!?」


 まだちょっと納得のいかないレイにガミガミと噛みつきそうなぐらい吠えられながら街の一角で再会を懐かしんでいた。

 ちなみにあの魔導師二人は中央大陸に強制送還されるらしい。


 まぁ兎にも角にも、こうして再び二人と出会えたことは私にとってこれ以上ない幸運だ。

 世界の変化や新魔族などの動きなどを早速聞きたいところ……ではあるのだが。


「だがムゲン、さっきの戦いは決して俺の負けじゃないからな。油断していたがゆえに動揺してしまったが、あそこから一人で逆転する算段も俺にはあった」


「お、そうだな。ところでサティ」


「おい貴様なんだその気の抜けた返事は! ちゃんと聞け!」


 いやね、レイの負けず嫌いはわかってるから。だから胸倉掴んで揺すらないで、こっちは疲れてるんだ……。


「レイ、その辺にしときなって。そういう自信たっぷりなレイもアタシは大好きだ……けど驕りすぎるのはカッコ悪い」


「うぐ……わかった。だが、先ほどの戦いは引き分けだ」


「うんうん、それでよし。んで、ムゲンだけど……なんか相当お疲れみたいだね?」


 おー、やはりサティは大雑把な性格に見えてちゃんとこちらの疲労に気づいてくれるいい姉貴分だ……やっぱ姉さんに似てるなぁ。

 姉さんは今頃何してるだろう……って言っても日本じゃまだあれから一分も経ってないんだろうけど。


「おーいムゲンー? 大丈夫かー」


「あー……うん大丈夫だぞ。ちょっと眠いだけだ」


 サッサと寝ようと思っていた矢先に無駄な労力遣わされたせいで体が急速に休息を求めている……駄目だ、なんか変なギャグまで無意識のうちに出てくる。


「ワフ……(ぼくもそろそろ限界っすぅ……)」


 犬も眠気の頂点に達っしたのか、その場で丸くなって眠ってしまう。こいつ、私がまだ必死に耐えているというのに……。

 とりあえず犬は頭に乗せて運ぶとしよう。


「ハハハ、まったく急に戻ってきたと思えば相変わらず自由だね。まぁいいや、とにかくアタシらの宿舎に連れてくよ。そこでぐっすり休んで、話は明日にしよう」


 どうやらこの大陸の街や村には必ずといっていいほどサティ達の宿舎が存在しているらしく、これからそこへ連れてってもらえるようだ。

 私はフラフラとその身を立ち上がらせサティの後へついていく。


「おい、シャキッとしろムゲン。フラフラして……子供かお前は」


 レイが後ろで何かブツブツつぶやいているが、今の私には反応する気力もない……。

 仕方がないじゃないか、ふかふかのベッドが私を待っていると考えたら後はもう一直線に進むしかできないのが人間というものなのだから。






 そんなわけで後日、時刻は早朝でございますグッモーニン。一晩寝たら疲れもスッキリですよ。

 しかしこうして眩しいくらいの朝日を浴びるのも久しぶりな気がするな。第六大陸ではずっと雪で空は曇っていたし、日本に戻っても結局夜のうちにアステリムへ戻ってきたら夕方だし。


ギュルルルルル……


 おっと、そんなことよりもお腹が空いたな。腹の虫も元気に鳴いているぞ。


「おい犬、お前もいつまでも寝てないで起きて飯を食うぞ」


「ワウ~(ご主人のうるさいお腹の音で起きたっすよ~)」


 サティ達がもう起きているかはわからないが私はもう腹ペコだ。その場合は適当に漁って食べさせてもらうぞ。


「てことでおっは~……お」


「おう、おはようムゲン。その様子だとぐっすり眠れたみたいだな」


「もう朝食はできているぞ、サッサと席に着け」


 食堂スペースに着くと、二人はすでに席に着いて今にも朝食を口にしようという直前だった。

 まだまだ早い時間だというのに二人ともすっかり目が覚め切っているご様子で。


「へ~、朝早いんだな」


「まぁね、アタシら『紅聖騎団クリムゾンレイダーズ』は第二大陸の各地を飛び回ってるからね。朝早くから行動するのにもすっかり習慣づいちまったよ」


 ほうほう、私と別れた後に王国の精鋭部隊になったことは知っていたが、順調に活動しているみたいだな。

 ただ……。


「昨日から気になってたんだが……なんだ、その『紅聖騎団クリムゾンレイダーズ』という名前は……?」


「ああそれ、流石に王国の正式な部隊ともなるとキチンとした組織名が必要だからな」


 やはりそうか、確かに王直属の部隊が『紅の盗賊団』なんて名乗るわけにもいかないしな。

 どうやら王都から離れたこの街でも有名だったし、もはや広く知られた名なんだろう。


「ちなみに命名は俺だ」


 と、ふふんとコーヒーを持ちながらどこか自慢げな様子のレイ。いや……まぁ「やっぱりそうか」と、どこか納得はいくが。


「団員にはおそろいの赤いマフラーを着用するよう提案したのもレイのアイディアなんだぞ。レイの考えるアイディアは全部カッコイイんだ! 流石にレイだな!」


「さ、サティ……そういうことを大声で言うのは恥ずかしいからやめてくれと言ってるだろう……」


「ハハハ、レイは恥ずかしがり屋だな~もう」


 まったく、相変わらずのバカップルなご様子で安心するような羨ましいような……やっぱ羨ましいな。


「それよりもさ、ムゲンはどうしてまたこんなところにいるんだ? 元の世界に帰る方法を探してたんじゃなかったのか?」


「ああ、それなんだが……」


 サティの疑問に私はこれまでのいきさつを語っていく。第二大陸を離れてから魔導師ギルドに所属したこと、ヴォリンレクス帝国から第六大陸へ渡り、一度元の世界に戻ったことまで全部。




 その話を聞いた二人は話の途中途中で驚いたり感心したりと面白いように反応してくれた……特にサティが。


「ってわけだ」


「……内容が濃すぎて頭の中でまとめきれん。どれだけ問題に巻き込まれてるんだお前は」


「アタシとしては、ムゲンがルイ姉と出会って和解してる方がびっくりだよ……」


 そう、新魔族……つまり始原族であり七皇凶魔であるサティが同じ七皇で昔馴染みであるルイファンのことはよく知っているだろう。

 だがやはり、ベルゼブル側についてからは交流がなかったためにその動向は噂でしか知らなかったようだ。


「別に和解したのは私ではないんだがな」


「ヴォリンレクスっていうあのでっかい帝国の皇帝様だろ? まさかあのルイ姉が誰かに恋するなんてねぇ……。妹のミカーリャは許すかそれ?」


「ああ、血の涙を流しながら憤慨してたぞ」


 やはりミカーリャのことも知っているんだな。サティも知ってるってことはあのシスコンぶりは昔からの周知の事実ってことね。


 そういえば、シスコンといえばここにもう一人……。


「ありゃ? そういやリアの姿が見えないな」


「ここにきてるのはアタシらだけさ。今じゃリアはアタシらの管理だけじゃなく国のいろんな事務や業務をこなしてるんだ。お城の中でな」


 そりゃ凄い。盗賊だった頃もあれこれ皆に頼られてしっかり者のお姉さんって感じだったが、それが今じゃお城勤めのエリートキャリアウーマンといったところか。


「ふん、おかげで姉さんに色目を使って群がる輩が多すぎてかなわん」


 おやおや、だけどこちらのシスコンさんはその状況が何やらお気に召さないご様子で。

 まぁリアは美人で器量もいいからな、エルフ族という種族間の問題さえ気にしなければそりゃあ人気も出るだろう。


「ほんっとレイは心配性だね。その辺に関してはあの王様が対処してくれてるだろ。リアに悪い虫がつかないようにさ」


「王様って……以前会ったあの人のことか?」


 以前この街で起きたリヴィと元領主によるクーデター計画。それを阻止した私達の下へこの国の王がやってきてサティ達を精鋭部隊として引き入れたのだ。


「そうそう、まだ若いけどしっかりしてるよ。リアをお城の重役に引き入れてくれてさ、いろいろと親身になってくれて……」


「それが怪しいと言ってるんだ。あの男……絶対に姉さんに気があるに違いない。国王だからといって姉さんを自分の手が届く範囲に置いておきたいだけに決まっている。他の男を寄せ付けないのも姉さんを独占したいからで……」


「はいはいストップストップ……もういいだろその話は。それにリアだってあの王様のことは少なからず気に入ってるんだから、リアの意思を尊重してやれって」


 レイのシスコンっぷりも相変わらずのようだ。まぁこうして離れて普通に行動しているところを見ると、出会った頃よりかは大分マシにはなっているんだろうけど。

 それよりも気になる発言がサティの話から聞こえたので私としてはそちらに興味深々なのだが。


「なに、リアと王様が結構いい感じなのか……?」


「ん~どうだろうなぁ、今のところ進展途中ってとこかな。ま、詳しいことは自分の目で確かめた方が早いよ、アタシ説明下手だし」


 それは重々承知してる。しかしそうなると第二大陸の王宮へ向かうことになるな。

 だがそれはありかもしれない、中央大陸に向かうためにはまずそちらの方へ向かわなければならないことに変わりはないのだから。


「さて、積もる話はこのくらいにして……ムゲン、あんたはこれからどうする気なんだい? 一度元の世界に帰れたのに戻ってきたってことは……何か目的があるんだろ」


「ああ、その通りだ」


 私にはこの世界でやるべきことがある。それは自分自身の意思で決めたこと。

 この世界に再び平和を築き上げること。そして、私が救いたいと願う者達の笑顔をこの手に収めることだ。


「私は今ここにこの世界の……『アステリム救済計画』を立案する」


「"救済"……か。ふっ、大きく出たな」


「へぇ、なかなか面白そうな話じゃないか」


 まぁ救済とは言っても、具体的には世界そのものの死期を早めるような大きな争いを止め、各国同士、各大陸同士での協定を結べるよう尽くす。

 時間はかかるだろうが、種族による差別問題も変えていかなければならない。


 ……だが、どれだけ手を尽くそうにも未来永劫争いや差別が全く存在しない世界などはあり得ない。

 だからこそ、私が目指すのはどれだけの困難が立ちはだかろうとも、一人ひとりの意思によってまた正しい世界に変えられるような理が存在する……そんな世界。


「差し当っての問題はまず各大陸の各国の情勢を詳しく把握したいんだ。私がアステリムを離れている間にどうやらこの世界は大きく変化したようだしな」


 あれから新魔族と女神政権の抗争はどうなったのか、なぜ魔導師ギルドがあれほどまでに変わってしまったのか、ヴォリンレクス帝国は今どうなってしまっているのかなどなど、知らなければならないことが多すぎる。


「そうだね、それに関してはアタシらもまんざら無関係じゃない。世界は今大変な状態だよ」


「大変?」


「今から三ヶ月近く前の話さ。中央大陸の女神政権が宣言したんだ、「今こそ邪悪な侵略者である新魔族を討ち滅ぼすべきである! 我らが女神の下、この世界に生きるすべての"人"は協力し悪に立ち向かうべきだ!」ってね」


「つまり、自分達が新魔族に戦争仕掛けますから他の国も一緒に戦え……って言ってるわけか」


 随分と身勝手な話だ。しかしいくら大国からの要請とはいえ属国でもない国がそんな話に応じるとはとても思えない。


「そんなバカげた話に乗っかる国なんてあったのか?」


「それが……あったんだよ。真っ先に名乗りを上げた国が一つだけ」


 なんだろう、凄く嫌な予感がする。サティもどこかその内容を憚っているような、どこか私に申し訳ないというような表情で口ごもっている。

 そしてそんな様子を見かねたのか、今まで静かに話を聞いていたレイが顔を上げて私に語りはじめた。


「魔導師ギルドが統治する都市ブルーメ、そのトップの男であるギルドマスター……マステリオンが一番に同盟を表明したんだ」


 どこかそんな予感はしていたが、こうハッキリと告げられるとやはり胸に来るものがあるな。

 だがどうしてだ? 魔導師ギルドは基本的にどことも中立な立場だったはず。なのにどうしてギルドマスターであるマステリオンはいの一番に女神政権に協力することを選んだのか……。


「それから魔導師ギルドも変わっちまってね。今までの魔導師のシステムを廃止して、女神政権とともに新魔族対抗国として変わったのさ。しかも、この指令に反対する者は魔導師としての資格を剥奪するとまでね」


「確かに、それは異常だな」


「その代わり魔導師は女神政権の力で今まで以上の権力を持つようになった。そんな奴らが女神政権に賛同しない国に現れてはところかまわず暴挙に及んでいる始末だ……!」


 それで魔導師というだけで恐れられたり、昨日の連中のように妙にいきり立った奴らがいるってことか。

 今すぐにでもブルーメに向かって真実を確かめたいところではある……が、すでに私も魔導師ギルドの一員から外されてるとみていいだろう。

 内情を完全に把握できていないところに一人でなんの策もなしに飛び込むのはいい判断とは言えないな。


「今じゃ中央大陸のほとんどの国家は女神政権に協力する体制に変わってるよ。例外は……商人ギルドのある都市国家『メルト王国』が未だ交渉状態と……強国『ヴォリンレクス帝国』が真っ向から反対してるね」


 ヴォリンレクス……やはりディーオ達は女神政権に賛同しなかったようだな。

 あの国は以前までは新魔族と戦うための最前線に立っていたが、今では違う。ルイファン達と協力し、始原族との和平に力を尽くしているはずだ。


「他の大陸はどうなっている?」


第二大陸うちと似たようなもんさ。第四大陸は独自の戦力で追い返してるし、第一大陸では魔導師ギルドの連中が多く割合を占めていたせいで一般人にも戦争への参加を強制しようとしていたけど、なんか新しくできたとかいう国によって守られてるらしいね」


 その話からなんとなく何が起きているか予想はできた。どうやらそっちの方は心配いらなそうだ。


「第三大陸はヴォリンレクスからの救援勢力によって無事だって話も聞いたね」


「だが、第五大陸だけは別だ。あそこは元々女神政権に賛同する国家がほとんどだったからな……。どうやら戦争も第五、第六大陸間で行われる予定らしいという情報は俺達も掴んでいる」


 第五大陸……そこが戦いの舞台か。となれば、間違いなくいる……人族側の旗印として、戦いの象徴として必ずそこに……あいつが。


 この戦いを終わらせるためのもう一つの鍵……二つの勢力の頂点に存在する二人の“女神”。私は、どうしてももう一度彼女らに会いに行かなければならない。


「さて、これが今の大体の世界情勢だよ。どうするんだい、ムゲン」


「まずはお前達についていく。王都に着き次第協力を願いたいところだが……」


「難しいだろうな。実際俺達もこうして対応に追われているほど状況は緊迫している」


「そうだね、そればっかりはアタシにはどうすることもできない。その辺はムゲンが王様と話し合ってくれ」


 相変わらずサティは無茶を言ってくれる。……だが、ここで引くわけにはいかない。

 私の救済計画はまだ始まったばかりなのだから。


 そのためにもまず、第二大陸の王都へ向かおう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る