135話 ズレ始めた未来


「まぁ、お前だよな。こんな時間に何か用か? とりあえず中は入れよ」


 といかにも冷静な素振りでセフィラを招き入れる私だが……内心では心臓が破裂しそうなほど動揺しております!


(だって考えてみろよ! 形や関係はどうあれ、いわゆるこれは美少女の夜這いということになるのではなかろうってことになるんじゃあっあっあっ!?)


 駄目だ、とにかく落ち着君だ……KOOLになれ! ……なれるわけがない!

 ただでさえ同年代(ガチで)の女子がお部屋に訪問するというシチュエーションだけでも私の中では「心が躍るなぁ!」と狂喜乱舞ものだというのに!

 だがそれだけではない! さらに私の心を乱すのはセフィラのその恰好だ!

 それは以前にも少しだけ見たことのあるセフィラの寝間着姿だった。上下とももこもこな素材で出来ているが下は太ももの中ほどから足の先までガッツリと露出したショートパンツ仕様! 上はパーカーのような形になっており、胴体から腕まですっぽりと収まってはいるが……それが逆に自己主張の激しいたわわな果実を引き立たせている!

 極めつけは……風呂上りなのか、どこか妙に火照ったような肌と顔! しっかりと茹で上がってプルンとした生足や首筋に私のリビドーもヒートエンドしてしまいそうだ!

 まだ若干湿った髪の毛をおさげにして肩から前に下げていることでその存在感を更に増している! しかもシャンプーの匂いなのかはわからないが、近くにいるだけでその香りが私の脳をトリップさせ、もはや精神がナムアミダブツ! の危機に晒されてしまう程に!


「しかしこんな夜更けに何の用だ? まだ私に言い足りないことでもあったか?」


 よし、今のところどうにか表向きは平静を保っていられるぜ!

 しかしこれ以上の展開が起きてしまったらその時は……! え、これ以上の展開ってなんだよだって? 言わせんなよ恥ずかしい。


「……ちょっと、話がしたいだけ。……駄目?」


 むしろありがとうございます。

 ちょっと不安そうな顔をしつつも、その身長差から繰り出される上目遣いに抗う術など私が持ち合わせているはずもない。

 ……なんってことだ、ここにきて初めてセフィラが女神のように見えてしまうぜ。


「な、なんか飲みもんでも取ってこようか……」


 ヤバい、ちょっとどもった……。もしこちらの心臓が破裂しそうなほどの動揺がバレたら、「うわ、この童貞なに想像してんの……きもーい」とか思われるかもしれない!


「別にいいわよ。すぐ済む話だし」


 どうやら悟られてはいないようだな……。

 というか、心なしかセフィラもどこかそわそわしてるように見えるのは気のせいだろうか?


「ワウ……(ふむ……)」


「ん、どうした犬?」


 どこかぎこちなくせわしない私とセフィラと違い、一匹だけ冷静で悟ったように頷く犬。

 というかこの状況で一番冷静なのが動物って……。


「ワウワウン(ご主人、セフィラさん、ぼくはこれからちょっと夜の散歩に行ってくるんで、後は二人でゆっくり話し合うといいっす)」


「は? おい犬……」


「ちょ、ちょっと……」


「ワウー(そんじゃっすー)」


 そう言ってドアを開けてひょこひょこと部屋から出てクールに去ってしまった。てか今どうやってドア開けたし。


 しかし困った……これで本当にセフィラと二人っきりになってしまった。

 犬め……余計な気を遣いやがって。

 てか本当にあいつは犬かと疑いたくなるほどの思考力だよな、今更だが。ま、これも異世界人補正ということで納得しておくか。


「とりあえず……ベッドにでも座れ」


 セフィラをベッドの上に座らせ、私は椅子を引っ張り出してその上に腰かけて微妙に向き合うにはちょっとズレた位置取りとなる。

 ん? こういう時はお互いベッドの上に隣同士で座るもんじゃないのかって?

 残念だったな、私にそんな度胸はない!


 さて、ではそろそろ本題に入りたいところだが……


「……」

「……」


 ……再び訪れる沈黙。

 こうして話し合いの席に着いたはいいものの、どうしてかセフィラはなかなか口を開こうとせず押し黙ってしまう。

 私から質問しても別にいいとは思うが……元々話がしたいと押しかけてきたのはセフィラの方だ。だから私は彼女が本当に話したいと思えるようになるまで待ってやることにする。




「あたしは……」


 それからどれくらい時間が経ったかはわからないが、やがてセフィラの口がゆっくりと開くと、静かに語り始めた。


「この2000年間、あの国から……いいえ、あの神殿から出たことすらなかったの」


 それは、私に向かって話しているのか、それとも別の誰かか……いや、セフィラの話す先にはもしかしたら誰もいないのかもしれない。

 しかし、誰かに聞いてもらいたかった。だから私の下へ訪れた……。


「怖かった。どれだけ気丈に振る舞おうとしても、元の世界から逃れるまでの恐怖はあたしの中から消えることはなかった……。だから知らないものを恐れたの……あたしがよく知る"人"の形をした人間は正しく、他のものを遠ざけた……」


「……つまりそれが、“人族主義”の原点か」


 今もこの世界に根強く蔓延る問題の一つ、それこそが各地で起こる“人族主義”による傍若無人の数々だ。

 私自身、この世界に戻ってきてまず直面したものこそ“人族主義”と“新魔族”の問題だ。

 しかも、少し前まで人族主義の国家の問題の犠牲による悲しい復讐劇を引き起こした一人の女性と関わっていた私にとってこの話は非常にタイムリーな話である。


「お笑い種な話だけど、ずっとあの場所にいたあたしには彼らがどんな行動をしていたかなんて知らなかった。ただあたしという崇める存在があるだけで彼らが幸せになれる……なんて気楽に考えてた」


「だが、実際はそれだけじゃなかった。裏では様々な思惑や、思いがけない事態に発展していた……」


 そう、あろうことか一部の人族主義の連中は敵である新魔族とコンタクトをとっていた。

 欲に目のくらんだ愚か者が、自身の主神を裏切っていたのだ……。


「最初は信じられなかった。ただの他種族のひがみや作り話だって……そう思ってた。けど、この街の人達と……接していくうちに……気づいちゃったの、彼らには嘘を付く理由なんてないって」


 今では第三大陸や第二大陸で起きた事件、それに人族主義の悪評なんかもここブルーメでは最近よく噂されているからな。

 そうか……最初セフィラに出会った時、こいつは自分が向き合うべき目を背けていると私は憤慨したものだ。そんな奴に何を言っても無駄だなんて思っていたが、一応……こうして向き合うことはできるんだな。


「だから、他の種族があたし達をどう見てるかわかった……。今ならシリカがなんであんなに人族主義を目の敵にするのかもわかるし」


 そうだ、以前この街で起きたリオウ・ラクシャラスによる革命騒動も、キッカケに人族主義が絡んでいるといえなくもない。


「でも……だからといってあたしに何ができるかなんてわからない……。今までのことも、今起きてることも、あたしには変えられないから」


「でも一応お前はそいつらのトップなんだし、ちょいと声かけりゃすんなりやめたりしないのか?」


「あたしは……そういうのには関わってないから、あたしを崇拝してるって言っても皆が皆自分の意思で行動してるの」


 つまり女神の下という名目で動いてはいるものの、その中身は完全な一枚岩ではなく複雑な迷宮ダンジョンのように入り組んでいるってことか。

 確かに、今まで見てきたり聞いてきた人族主義の連中は大体がクズの集まりという共通点こそあれど、目指す場所はどれもバラバラで統一性のないものばかりだ。


 まぁ、今まで何百年も根強く続いてきた問題が一朝一夕でどうにかなるものでもないだろう。


「結局あたしは、ただ怯えて待つしかできないから……」


「……でもまぁ、それに気づけただけでも大きな進歩なんじゃないのか」


「え?」


 少なくとも、いつか襲い来るかもしれない敵に怯え安全な屋内に引きこもりながらふんぞり返っているよりはよっぽど好感が持てる。

 今まで感じていたセフィラへの嫌悪感も、今ではきれいさっぱりなくなった。こうして話しているのも全然悪い気はしない。

 ……ちょろいか、私?


「ともかく、言いたいこと全部言ってスッキリしたのか」


「うん、まぁ、スッキリはしてないけど、話したいことはこれで全部」


「そんじゃ、今日はもう戻って寝ろ。今いくら話したって解決する問題じゃないのはわかったからな」


 なんか段々私も恥ずかしくなってきた……でも悪い気はしない。なんていうか思春期独特のドキドキ感、みたいなものを感じてるような気がしてむずがゆい。


「で、でも、こんな話……いつできるかもわかんないし。あんた以外には……話せないし……」


 そうか、こんなこと私以外に話しても冗談に思われたり相手にしてもらえないのがオチだ。

 そして、私がその気になれば目を離した隙にまたどこかへ雲隠れすることなど容易い。

 そうなるとセフィラは、また……


「ったく……別に、話す時間なんてこれから先いくらでもあるだろうが」


「え、それって……?」


「留まって話し合うにしても、一旦ここから離れるとしても、キチンと休息を取っとかないと何かあった時に困るだろってことだ。こっちはポンコツのお守りをしなくちゃならないんだからな」


「だ、誰がポンコツ……! というより……あ、あんたはそれでいいの?」


 あー……まったく。こっちだって結構恥ずかしいからこうやって濁した言い方にしてるっていうのに、うまくいかねぇなぁ。

 やっぱこういうことは、キチンと口に出して言わないと伝わらないもんだ。


「明日からお前と行動する。まだ納得しきれてない部分やわからんこともあるが……なるべく協力してやるからそっちも私に協力しろってことだよ!」


 これでどうだ、反応は。


「……う、うん、わかった。それじゃあ、あたしは部屋に戻る……から」


「お、おう」


 な、なんだこの空気は……。なんか気まずい、けどこの感じは以前あったギスギスとした気まずさじゃなくて。

 もっとこう……なんていうか、ピンク色っていうか……。


「えっと……それじゃ、おやすみ」


 と、考えてる内にセフィラはすでに立ち上がって扉の前まで移動していた。


「あー……お、おやすみ、セフィラ」


 その会話を最後に、セフィラは自室へと戻って行った。


 私は立ち尽くしていた。これからどうしよう……いや、寝ることに変わりはないのだが、その前に。

 先ほどまでセフィラが座っていたベッドの手前まで進む。


(とりあえず……嗅ぐか)


スゥウウウウウ……


 鼻から伝わるいい香り……。そう、確かにこの場にはつい先ほどまで異性が座っていたのだと確信させてくれる。

 そう、私はやり遂げたのだ……セフィラとの和解。そして……


「『音遮の風カーム』……」


 この部屋から漏れる音を遮断する。なぜなら私は今無性に叫びたいかった。


「和解した男女……明かされる弱み……恥じらいながらも縮まる距離……」


 この世界に戻ってきてこれほどまでの手応えと興奮を感じたことはなかったから!


「いよっしゃあああああ! 完全に脈ありだぜこれえええええ!」






-----






 翌日、目を覚ました私は窓から差し込む陽光を浴びながら冷静に今後の行動について考えてみることにした。


「しかし、ファンタジーの王道のような展開といってもなぁ……。なんというか凄い今更感がある気がする」


 それに大体の王道ファンタジーなら私は前世でいろいろやったし、この世界に戻ってきてからも様々な問題に巻き込まれてもいる。

 ……だが、今回ばかりは一つだけ違う部分がある。


「ついにヒロイン同行の物語が始まるわけか……」


 そう、まだ関係はぎこちないとはいえ今のセフィラは完璧ヒロインポジションだろうこれ。

 ポンコツ系ヒロインというのも慣れれば結構かわいく見えるはずだろうし、もしかしたら嬉しいハプニングも……。


「ワウ(ご主人、変な妄想してないで早く降りてメシを食べるっす)」


「まったく、お前は使い魔のくせにいっつも辛辣な言葉を投げかけてくるな。ま、今日の私は機嫌が良いので寛大に許してやるがな」


「ワン……(ほんと調子のいい人っす……)」


 さて、ではそろそろ降りて朝食にするとしよう。

 おそらく下ではセフィラの美味しい食事が用意されてるはずだ。ひゃっほう新婚さんかよ!

 こんな関係がこれからも続くとなると思うと心が躍るなぁ。


「おはよーさん、今日の朝食はな……」


 なにかな? と言おうとしたところで言葉に詰まってしまった。なぜかって? 台所に立っていると思ったセフィラの姿はそこになく、代わりに数人の仮面の集団が立っていたのだから……。


「って、うおおおおおい!? 誰だお前らぁ!?」


 と、驚きのあまり思考が一瞬フリーズ仕掛けたが、あることに気づくことで冷静さを取り戻す。

 仮面の集団……私には心当たりがあった。


「シント王国の……“女神政権”か」


「はい、その通りでございます」


 集団の中から一人前に出てきて話はじめる。声からして男だが……どいつもこいつも同じような仮面のせいでわかりづらいったらありゃしない。

 ……と思ったら、その前に出てきた男はその仮面を外し始めた。


「お初にお目にかかる。私の名はグラーディオ、“女神政権”の最高司祭を務めております。よろしく……最年少のゴールドランク魔導師殿」


 白い髪に、これまた偉そうに伸ばした白い髭の初老の男が自己紹介と共ににっこりと手を差し伸べてくる。


「ああどうも……こっちは自己紹介する必要ないみたいだな」


 当然こんな怪しい男の握手など応じる気はない。

 しかし最高司祭だと……? そんな実質最高権力者のような男がなぜここに……。

 いや、理由は一つしかないか。


「セフィラはどこだ」


「我らが女神様をそのように馴れ馴れしく呼ばないで頂きたいですな」


 その司祭の言葉の威圧に合わせるように後ろに控えている仮面集団が臨戦態勢に入ろうとする。魔力も感じる……流石に最高司祭の護衛ともなるとそれなりの集団というわけか。


「っと……抑えなさいお前達。なにも我々は戦いに来たのではないんですよ」


 その一声で今度は一斉に殺気が抑え込まれる。よく訓練されているな……現代の最大戦力国の一つと言われているのも案外馬鹿にできないものがあるかもしれない。

 とりあえず、戦う意思がないというのなら話し合いぐらいは応じてもらおうじゃないか。


「それで、いきなり集団で人ん家に乗り込んでくるとはどういう了見だ? ここは外部組織が簡単にところじゃないはずだ、キチンと許可は取ったのか? 不法侵入ならこちとら上に報告しなきゃならんのだがな……」


「心配していただかなくても結構。我々はただ女神様をお迎えにあがったまでですよ」


 こちらの挑発的な態度にも顔色一つ変えずひょうひょうした態度で会話をしやがる。

 この顔は……自分達は絶対に出し抜かれることはないと確信してる顔だ。


「もう一度聞く……お前達の女神様を何処やった?」


「まぁまぁ、とりあえず外に出て話しましょう。女神様もそこにおられますので」


(完全に向こうのペースだな……。今はとにかくついていくしかないか)




 外に出ると、そこにはさらに数人の仮面集団に囲まれたセフィラの姿があった。


「あ……おはよ」


「おはよう……これはどういうことなんだ」


「えっと……グラーディオ最高司祭があたしを見つけたから、連れて帰られてる途中……かな」


 かな……って、呑気なもんだな。まぁセフィラにしてみれば家出が見つかった程度の感覚なのかもしれない。

 元々セフィラと私ではこいつらに対する判断が違っているからこの反応も当然なのかもしれないが。

 私にしてみれば現代のアステリムが抱える問題の1、2を争うような存在だからな女神政権は……。


「だからね、ここでお別れ……ってとこかな」


「いやいやおいおい、お別れってなんだ。昨日の話はどうなるんだよ。私達が新魔族の問題に協力するから、そっちも協力するって話だったろ?」


「だから、それはもういいの……。無かったことにして……」


 んなっ!? 今まで散々その件で追っかけ回していたくせになんだそりゃ!


「大体、女神政権にとっても"勇者"である犬の力は必要なんじゃないのか? なんでいきなりお別れなんだよ、別についていくくらいはこっちだってできないわけじゃないし」


「それは私からお話しましょう」


 またグラーディオがずいっと出てきて私達の間に入る。

 ……こいつ嫌いだ。


「近々我々は新魔族に対して大規模な戦争を仕掛けるつもりでいます。そのために女神様には兵を先導する旗印になっていただかなければなりません」


 ……なんだと? 新魔族に対して……戦争?

 私の中で様々な考察が巡り始める。なぜ今まで対立していながらも大きな動きを見せなかったこいつらが動くのか、とか。今までずっと女神であるセフィラを表に出そうとしたのか、など。

 他にも気にかかることはまだある。


「戦いを始めるというのなら、尚更"勇者"の力は必要なんじゃないか……」


「心配には及びません。わざわざ勇者様のお力を借りずとも我々には新魔族に対抗する術があります。それに、異世界の方々をこれ以上巻き込むわけにもいきません。この問題は、この世界に住む我々の力だけで終わらせるべきなのです」


 なぜだろう……こいつの言うことは以前私も思っていたようなことだというのに、どうにも肯定する気になれない。

 反論したい気持ちはある……しかし、私にはこれ以上関わる理由もない。

 こんな時、すべてを感情的に任せて、何も考えずに飛び込めたらどんなに楽だろうか……


「……ッ! 私は……!」


 そこから、言葉は続かない……。ここで無理に突っかかってもどうにもならない。

 このまま勢いに任せて女神政権と共に新魔族と戦う道を選んでもいいはずだ。私なら……きっと何かができる。

 その先には幸せが待っているかもしれない。でもきっとそれは、今までの"自分"を捨てることになる……。


――君が選ぶ未来に、幸あらんことを――


 また、このフレーズが、頭をよぎる……。


「もう、らしくないんだから!」


「うおっ!?」


 いきなりドンと背中を叩かれるたと思うと、いつの間にか背後にセフィラが立っていた。


「元の世界に帰るんでしょ? だったらそれだけ考えて進めばいいじゃない。こっちはこっちでかんとかできるんだし、深く考えることないじゃない。協力できないのは……ちょっと申し訳ないけど」


 まったく、こっちは脳みそ沸騰しそうなほど悩んでいたというのに……。そっちがそんないつもの調子でいられると、こっちも合わせないとなんないだろうが。


「なーにが"申し訳ない"だ。元々お前のせいでこんな目に合ってるんだよこっちは。言われなくともこっちはこっちで好き勝手させてもらうっつーの」


 なんだか、悩んでいたのが馬鹿らしく思えてきた。

 これでいいんだ……私達は奇妙な偶然で出会っただけのちょっと複雑な関係が似合ってる。


「それじゃ、あたしはもう行くから。あ、寮の皆によろしく言っといてよね、シリカには特に世話になったから忘れたら承知しないから」


 もう会わないかもしれないのにどう承知しないというのだろうか……。

 まったく、この街に来て少しは人間的に成長してるとか思ったんだが。


「あと……巻き込んでごめんなさい……それだけ! さよなら、ムゲン……」


「……」


 別れの言葉は……言えなかった。私はただ、小さくなっていくセフィラの背中を見ているだけだった。




「……自分の問題もまともに対処できてないのに、人の心配してんなよ。だからポンコツなんだっつーの……」


「ワウ……(ご主人……)」


 今の私は、最高にかっこ悪いだろうな。

 ホント、私ってやつはつくづく主人公に向いてないようだ……。


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