131話 "愛"を選ぶ時
「どうやらギリギリ間に合ったみたいだな」
この状況を見るに、すでに戦闘は終結し次の問題へと発展しているようだ。
アポロとミネルヴァの前に力なく膝をつくヘーヴィだが、その表情は対照的だ。見下ろす者が苦悩の表情をしており、見上げる者は恍惚とした笑みを浮かべる。
つまり、状況は最悪の局面を迎えているということだ。
「あら、ムゲンさん。どうしたんですか今頃?」
「そうだな、端的に言えばお前を止めにきた……というところだ」
あの時、私は彼女の手をとることができなかった。もし私がヘーヴィと生きる選択をしたのなら、この状況は生まれなかったかもしれない……。
いや……たとえあの時別の選択をしようと、この状況にならなかったなどとは言い切れない。
それでも、この問題は私がケリをつけなければならない。
遠い昔から私を……-魔法神-インフィニティという人物が犯した罪が受け継がれているというのなら。
(だが、それだけじゃない……)
私が過去から受け継いだものは、罪だけではなかった。
記憶の中にいる仲間からの想いを受け取った……。忌まわしき過去を、今清算し、未来へと繋げるために。
「うふふ……そうですか、でも今更来ても遅いですよ。私としてはムゲンさんも一緒に道連れになってくれて嬉しいですけどね」
「くっ……盟友よ、お主がここへはせ参じてくれたことはとても嬉しく思う。だが奴の言うとおり今の状況は絶望的だ。打開策が見つからん」
けれど、諦めてはいないんだなアポロ。
自分の夢のため、愛する者のために決して折れない心を持ってくれていることをとても嬉しく思う。
「馬鹿、なんであんたまで来たの。あんた頭いいんだからここに来たらマズいことぐらいわかったはずでしょ」
ミネルヴァ……この状況の原因は自分のせいだと嘆き、それでもなお私とアポロを気遣う本当に優しい奴だ。
こんな二人だからこそ、私は救いたいと心から思った。
「そうだな、このままこの場に留まっていればへーヴィとミネルヴァ以外命はない……これからもお前達の憎しみの連鎖が続くだろう」
「……」
場に訪れる沈黙。誰もがこの先起こるであろう結末を想像し表情を変える。
ある者は悲しみの、ある者は悔しさの、そしてまたある者は嬉しさを……。
だが……。
「そうはならない。私がこの永遠を終わらせる」
「それは……私とミネルヴァちゃんをこの世から消す……ってことですか。ムゲンさん」
アポロとミネルヴァが困惑する中、一人だけ私の言葉の意味を理解して話しかけてくるへーヴィ。
どうやら理解しているようだな……『
彼女はメリクリウスの研究を見たのだから当然と言えば当然か。
「ミネルヴァ、アポロ……まずはお前達に謝罪しなければならない」
「謝罪?」
「ちょっと、今更なに言って……」
「私はミネルヴァに呪いの解決策があると言った上で協力した。だが、その解決策とは術者と術を受けた者を消し去ることで呪いの存在ごと消滅させる残酷な方法だ。……私は、ミネルヴァを犠牲に『
それは、以前から考えていたこと。この呪いはお互いの存在を世界を通して繋ぎ、その繋がりがある限り永遠に元の状態へと戻すといったものだ。
この術の対策は、繋がりを完璧に捉えたところで片方の存在を世界の認識から外すことだ。
繋がりが見つからなければ肉体を維持することは出来ず、時間と共に自然に消滅する……両者ともに。
「そう……だったの」
これを聞いたミネルヴァは、これ以上何を言っていいのかも分からず困惑していた。
だがやがて考えがまとまったようで、どこか覚悟を決めたような顔でこちらに向き直る。
「ムゲン……わたしは別に構わない。この女をこれ以上野放しにしておくくらいなら、わたしは……」
自分を犠牲にしてすべてを終わらせられるなら……そんな決意が見て取れる。
だが、それを望まない者もいる。
「ま、待て! 何を言っているミネルヴァよ! 我は、我は認めぬぞ! 我はお主と共に生きたい……我は、愛する者を犠牲にしたくはない」
「あ、アポロ……。でも、わたしは……」
笑いながら未来の話をしていたアポロ……そしてその話に素直になれないながらも心の中では嬉しさを感じていたミネルヴァ。
だからこそ私はこの解決策を言葉にできなかった。最後まですべてを語らず、たとえアポロに恨まれたとしてもすべてを終わらすつもりでいた。
「私はそれでも構いませんよ」
困惑が渦巻く中で一人、あっさりと決断をする者がいた……へーヴィだ。
「ッ、なんで!? あんたは永遠に生き続けるためにわたしにこの呪いを仕掛けたんじゃないの!?」
「私は別に生きることにも死ぬことにも執着なんて元々ないの。生きているなら快楽を得たいし、いつでも死んでよかった。だって私の本当の幸せは……生きる意味はあの日に終わったんだもの」
へーヴィのすべてが終わった日……。姉に無実の罪を着せられ、故郷と仲間や家族を蹂躙された日。
彼女は私の前世の仲間が残した愛の結晶の唯一の生き残り。彼女が消えれば、そのすべてがここで断たれることとなる。
へーヴィと共に生きることも……考えた。けれど私は、そんな悲しい傷のなめ合いよりも、今育まれる新たな愛を選んだ。
「へーヴィ……私はお前の手を取れなかった。だからこそ、私は自分の選んだことに後悔はしない。ミネルヴァとアポロの"愛"をここで終わらせはしない!」
今朝のメリクリウスの影響だろうか、私の台詞までどこかあいつに近くなってしまったみたいだ。
けれどその影響だろうか、もう迷いはない。
「でもどうするつもりですか? 繋がりを断つためには莫大な時空の力が必要なはず……。いくらムゲンさんの魔力が人並み外れていても、その域にはまるで届いてないはずです」
そこまで見抜かれているか。
確かにへーヴィの言うことは当たっている。繋がりを断つには、それこそ前世の私の全盛期並みの魔力とそれを扱う回路が必要だ。
だが今の私にはそのどちらも足りない。ケルケイオンのブーストを使用したとしても魔力すら届かないだろう。
「ああ、だから協力者を募った」
「協力者?」
最初に出会った時からその力には目をつけていた。
元々ミネルヴァを犠牲にすべてを根絶する予定ではあったが、それを実行する力がなかった。
だからこそ、その方法が見つかった後にはいつでも連絡をとれるようにしていたのだ。
「ハロハロー! 皆さんお元気かナァ~。ミーはオフコースで元気だヨー! ここに来る前にフレンズの話を聞いた時はびっくらこいたけどネー」
私の背後から待ってましたとばかりに飛び出したのは、先日お世話になったこの大陸に住む精霊、アクラスだ。
その姿を知っているアポロとミネルヴァは、驚いたように目を丸くしている。
「アクラス!?」
「あの時のウザったい精霊!?」
「オーウ、ミネルヴァっちったら酷いなーもう。せっかく助けに来てあげたっていうのにサ」
ただ一人アクラスのことを知らないへーヴィには彼がどんな存在なのかは知る由もない。まぁこの見た目を見れば、メリクリウスの知識を多少受け継いでいる彼女なら理解できると思うが。
「喋る精霊……姉さんが手紙で話してた……」
「おや、ユーがリィアルのシスターさんだネ。うんうん、やっぱりどこか面影があるネ、魔力の質もなんとなく似てる気がするヨ」
「あなた、姉さんのことを……」
へーヴィもどうやら、アクラスのことは聞かされているのか。
お互いに知らない中ではない……が、出会うことはなかった二人。
「フレンズの話を聞いてちょっと後悔してるヨ。魔族の里の襲撃の後、ミーならユーの暴走を止められたんじゃないかってネ」
もしアクラスが一人きりになったへーヴィと出会えていたら……。
これも、もしもの話……これ以上は考えても意味のないことだ。
「何故アクラスがここに? 盟友が連れてきたのか?」
「オフコースだよアポロ! ついでに言えば事情も全部把握済みサ」
そう、私はアポロが飛び立った後、すべてを終わらせる覚悟を決めアクラスへと連絡を取った。
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アポロは飛び立った……。
私の心は……もう決まった。ならするべきことは一つ、この悲しい復讐劇をここで終わらせる。
「さしあたってまずは……協力者が必要だ」
「ワウ?(協力者?)」
私はスマホを取り出し、手の中でピポパと操作をはじめる。そしておもむろに耳にあて……。
「あ、もしもし私だ。早速ですまないが、お前の協力がほしい」
『ワーオ! さっきぶりだネーフレンズ! 凄いねこれ、本当にフレンズの声が聞こえるヨーどうなってるだーい? 不思議だネー!』
通話開始早々騒がしい……。
スマホから聞こえてくるのはアクラスの声。私は今アクラスに電話をかけている。
「ワウ!?(あれ、なんでアクラスさんの声が!?)」
「スマホのアプリの一つ[telephone]だ。以前使ったことがあるだろ」
「ワウン(でも、いつの間にそんな細工してたんすか)」
いつの間に、と言われても最後の別れ際にとしか言えんな。あの時アクラスに手ごろな魔力内包物質を渡し、そこへ[telephone]の魔力を入れておいたのだ。
アクラスの協力さえあれば『
だから、私がこの大陸にいられる間はこうしていつでも連絡を取り合えるよう連絡手段を確保しておいたというわけだ。
『それで、何か用かナー? ミーはこのままお喋りしてるだけでもハッピーだけどネー』
「残念ながら悠長にお喋りしてる時間はないんだ。今からそちらに向かうからオアシスに入れるよう手引きを頼む」
『オーケーオーケー。そんじゃ待ってるヨー』
とまぁ深い事情も聞かずになんとも素直な奴だ。
しかし問題は一刻を争う、ごちゃごちゃと考えている余裕はない。
「てなわけで犬! 急ぎアクラスの下へ向かうぞ!」
「ワウ! 『ワウン』!(了解っす! 『
こうして私と犬は全速力でアクラスの待つ砂漠へと向かった。
「待ってたヨーフレンズ! お早いお帰りだったネー!」
オアシスに着くと以前と同じように湖から飛び出したアクラスが出迎えてくれる。
周囲の精霊達も嬉しそうに辺りを飛び回っている。
「手厚い歓迎はありがたいんだが……今はそれどころじゃないんだ」
「あ、やっぱりヘビーな雰囲気かな? もしかして今朝早くに砂漠を突っ切っていったミネルヴァっちと何か関係あるのかな」
「!? 見たのか!」
「イエス。なにやら鬼気迫る表情で氷を纏いながら走っていったヨ。体が焼けても、モンスターに体を引き裂かれても止まらなかったからネ」
やはり、『炎神の火山』に向かうにはこの砂漠を抜けるのが一番早い。
氷結の魔術でギリギリ体を保てるまで熱の魔力を遮断し、魔物に襲われようと不死身の体で気にせず走り抜けたか。
おそらく、以前ここで採取した魔石をいくつも食べて魔力を維持したのだろう。
「すぐにフレンズ達に連絡したかったんだけど、これってこっちからじゃ話しかけられないんだネ。残念だヨ」
そう言って見せてきたのは[telephone]の魔力を込めた魔石だ。
電話をかけるには私のスマホからコールするしかない……一方通行なのが[telephone]の扱いづらいところだな。
「そんなわけでアクラス、助けてほしい」
「オッケーイ!」
了承はや! もう少し悩むとかしないのかね……。ファラやフローラといい、どうも精霊は本質的に軽い性格なんだよな。
「それでフレンズ、ミーは何をすればいいのかナ?」
「それについては移動しながら話す。まずはこの砂漠を越えて『炎神の火山』に向かうため、私と犬を熱の魔力から守りながらついてきてくれ」
「ワウウ……(それってぼくが砂漠を走り抜けるってことっすか……)」
何を当たり前のことを……。恨むなら今や私が持てる最速の移動手段になってしまった自分を恨むといい。
こうしてアクラスに事情を説明しつつ、ヒーヒー言いながら魔物の群れを必死に避けて走る犬に乗り、ミネルヴァの下へと向かうのだった。
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「さて、火山の活性化ももう目前に迫っている。そろそろ始めさせてもらうぞ」
「ま、待て盟友よ! まさか奴ごとミネルヴァを消し去るつもりか! それは駄目だ、我は受け入れられん!」
立ちふさがるアポロ、だがもう引くわけにはいかない。
「アポロ、これからもミネルヴァと共に生きていく覚悟があるなら……私を信じてくれ」
「なに?」
この答えは……聞く必要はない。何故なら私はもう答えを聞いているからだ。
朝アポロが飛び立つ前に聞いたミネルヴァへの想いを。
私とアクラスはアポロの脇を抜け、へーヴィとミネルヴァの間に立つ。
私が……選ぶのは。
「へーヴィ。お前を……消す」
これで何度目の後悔だろう。しかし、後悔はしても立ち止まりはしない。歩き続けなければ、そのすべてを自分自身が許せるまで。
「そうですか……なら私は抵抗しませんよ」
「潔いな……抵抗しないのか、未練はないのか」
「終わるのはちょっと残念。未練は……そうね、姉さんのように素敵な恋ができなかったこと……ですかね」
優しく微笑みかけてくる瞳に胸が締め付けられるようだ。
その顔は、いつか見たヘヴィアの微笑みと全く同じだったのだから。
「私はムゲンさんが何をしようとしているのかわかりません。私が消えればミネルヴァちゃんも消える……。私が知っているのはそこまで。これからのことが見当もつかないから、止める気にもなれないの」
そう、あのノートはへーヴィには見ることが出来ない。メリクリウスが私だけに宛てた贖罪の……いや、そんな大層なものじゃないか。
あいつの趣味全開の、ただの置き土産だ。
「へーヴィ……」
「……なんですか?」
「すまん」
「今更謝らないでください。なんか卑怯です」
もしかしたら……どこか一つでも道が違っていたら、私はお前を選んでいたかもしれないから。
まったく……結局のところ
「アクラス!」
「ガッテンショーチだよフレンズ!」
全身全霊で、アクラスに流れるマナに私の魔力を同調させ始める。
回路を繋げ合わせる……足から腰、胴体、心臓、腕、指の先まで。そして頭の先まですべてが重なり合う時、私達は……一つになる!
「「『
その瞬間、眩い光を発する私とアクラスの体と体が重なる。光が凝縮していくと共に肉体に色が戻っていく。
だがそこに現れたのは私の体ではなく、アクラスでもない。
「さぁ、すべてを終わらせよう(それじゃあいこーか!)」
アクラスと完全に一つとなった私の姿だった。
「ワウー!?(ええー! ご主人とアクラスさんが……が、が、合体したっすううううう!?)」
『
その昔、人の手で根源精霊を生み出そうとして古代エルフが積み出したのが精霊族だ。だが結果はマナに干渉できる存在ではあるが不完全な存在。
マナを司る存在というよりも、"人"に近くなってしまった存在。
私は考えた、人として不完全な存在である精霊族に他者の魔力を受け入れやすい人族の魔力を同調させるとどうなるか……。
結果は見ての通り。意思の強い精霊族ならば、こうしてお互いの魔力を重ね合わせることで人も精霊も超越したまったく新しい存在へと生まれ変わるのだ。
「うむ、転生してからは初めての試みだったが上手くいったようだ(なんかフシギな感覚だヨ)」
その姿は、通常の肉体の上に透明な水色の鱗を纏ったような人外そのものだ。
他にも光る文様がいくつも浮かんでいたり、纏う衣も流れる流水を形にしたようなものに変化していた。
だが、一番の変化は……魔力だ。アクラスと回路を重ねたことによる魔力の質の超肥大化と効率化、これこそが『
「すごい……」
「なんと強大な魔力……」
今の私はたとえ魔力を感じることができない者が見たとしても、その力の本質を感じとれてしまうだろう。
それは同時にアクラスという精霊が凄まじいということでもある。他の通常精霊ではこうはいかないはずだからな。
そして、私の魔力が莫大に飛躍したということは……。
「やっぱり、凄いですねムゲンさんは。こんなことなら、もっと本気で懐柔しとくべきでしたよ」
自分の結末を理解したのだろう。もう完全に抵抗の意思はない。
もう……終わりにしよう。
「術式展開……世界の化身よ、今私はこの世の理から外れ運命に仇をなす(概念を切り裂き罪深き時を断ち切る刃よ)」
私とアクラスの詠唱が重なる。それは本来なら使われることのない、この世界そのものを壊しかねない時空属性……その究極系。
「其れは悠久の彼方より出でし大いなる力の結晶(其れは地を割り天を裂く神殺しの剣)」
天に穴が開く、空間が割れたような暗い穴。
そして、その終わりの見えないような空間から、一つの巨大な
へーヴィとミネルヴァを繋ぐ呪いの"線"は……もう見えている。
あとは、これを突き立てるだけだ。
「ああ、もしかしたら……」
自身の最後を悟ったのか、へーヴィがゆっくりと口を開いた。
それは……自分の意思なのか、それとも無意識に言葉にしたのかはわからない。
「私はこうして、誰かに止めてほしかったのかもしれませんね」
だがその流れた涙は、間違いなく彼女の心からのものだったと思う。
私は、この光景を絶対に忘れない……。
「《時空》属性全開術式! すべての悲しみを断ち切れ! 『
気が付くと、私は真っ白な空間に立っていた。アクラスと合体した姿でない、私本来の姿で。
「ムゲンさん」
振り向けば、ヘヴィアの姿をしたへーヴィが立っていた。その姿は以前見たものよりも、どこか大人びて見えたような気がした。
まっすぐに私に微笑む姿は、今まで見たどんな彼女よりも、純粋で、穢れのない穏やかなものだった。
「私思うんです。もしあの日、あの場所でムゲンさんに出会えてなかったらどうなっていただろう? って」
まだお互いをよく知りもしないあの時、ヘヴィアにとっては利用すべき対象であり、私にとっては……まぁ、なんと言ったらいいか……。
「多分、私の心はずっと停滞したままで、自分では決して止めることもできずに、心の奥で誰にも聞こえない助けを叫び続けていたかもしれません。……それこそ永遠に」
彼女が……へーヴィが壊れてしまったのは、心無い人間のせいだ。
それから何千、何万人の人と姿を変えて出会っても、誰も本当の彼女など見ることはなかった。
「でも、ムゲンさんは見つけてくれました。姉さんを失い、家族を失い、故郷を失った私を……」
それは、私がへーヴィの故郷の過去につながる人物の生まれ変わりだったからだ。
そう、すべてはただの偶然。
「偶然でも、あなたは見つけてくれた。独りぼっちで泣いてた私を。見つけてくれたんです」
ああそうだ、だからこそ私は……終わらせたいと思ったんだ。
「本当はあの時、私の手を取ってほしかった……。久しぶりに悲しいって感情を思い出しました。私、振られちゃったんですね……」
うぐ……確かにあの時私はへーヴィを選ばなかった。けど、私としてもあそこは結構葛藤があったし……。
「言い訳しなくても平気ですよ。でも、これでやっと終わるんですね。ミネルヴァちゃんには、許されないことをしちゃったけど……」
確かに、今までのミネルヴァの悲しみはいつまでも彼女の胸に残るだろう。
しかし、私は乗り越えてくれると信じている。なぜなら、ミネルヴァはもう……一人ではないのだから。
「それじゃあ、これでもう……本当に最後ですね」
へーヴィの体が透けていく。
……そうだ、彼女は消える。私が……消したんだ。
「私がこんなこと言うのもどうかと思いますけど。ムゲンさん……いつかあなたのその悲しみを癒してくれる人と結ばれることを、願っています」
「……ありがとう」
「私からも、ありがとうございました。そして、さようなら……。好きでした……できることなら、ムゲンさんと未来を生きてみたかった……」
その言葉を最後に、へーヴィは完全に光に溶け、消えていく……。
こうして、一つの物語が……終わりを告げるのだった。
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