125話 採掘場にて


「おー、すげーすげー! 掘っても掘ってもめちゃくちゃ出てくるな!」


 そんなこんなで採掘を開始した私達だが、ものの数分もしない内に出るわ出るわ。

 しかもどれもこれも高純度、普通ならば高値で取引されるような希少ものまでザックザクや!


「ま、こんなところかしらね」


 隣では小袋が一杯になるまで魔石を削り取ったミネルヴァが満足そうに立ち上がった。


「む、花嫁よそれだけでいいのか? まだまだ十分数はあるぞ、遠慮せずに貰えばよいではないか」


「別にわたしはこれでいいの。持ち歩くにも限度があるし……それにここの魔石の純度ならこれで十分。わたしの魔力量ならこの欠片一つでおつりが出るほどよ」


 まぁミネルヴァの使用用途は自身の魔力回復用であって他は気にしてないしな。大量に持ち帰って大金せしめようなんてハラもないし。


「それよりも……わたしより逆にこいつを注意しなさいよ。遠慮なんて欠片も見えないほど掘ってるじゃない」


 そう言って私を指さすミネルヴァ。そんな私の横にはゴロンと大きめの魔石の原石が五つ転がっている。

 そして私が通ってきた跡には大量の掘り返しでできた跡が無造作に散らかっていた。


「おー、我ながら結構掘ったなー。けどもうちょい必要だな」


「あんた環境のこととか考えてる? それにそこまでやっといてまだ掘る気?」


「必要なんだから仕方ないだろう」


 私が今ギルドで製作中の魔導ゲート(仮)には大量の魔力とそれを固定する機関が必要だ。

 ここの鉱石は確かにどれも素晴らしい、だがそうなると私も妥協せずに特に希少なマナを秘めたものを厳選したくなるものだ。


「火、水、地、風、光のマナが最高純度まで含まれたものはこうして掘れたんだ。あと二つ……雷と闇の高純度さえ見つかれば言うことなしなんだ!」


「何よそのこだわり……」


 残念ながら今掘っている場所は水のマナが大量に含まれているな。次にいこう。

 気分はさながらソシャゲでガチャやってるようなものだ。『今なら確率アップ! しかも期間限定掘り放題!』みたいな。

 そういえば異世界小説ものでガチャチートってのもあったなー。あれって実質はずれなんてあってないようなものだよなー。

 あんな簡単に最強装備やヒロインが手に入るなら私だってやりたいわチクショウ……。


「ワウ(またご主人がないものねだりしてるっす)」


「だから心を読むな……。いいな、お前は楽しそうで。こちとら汗水流しながら土方やってるってーのに」


「ワウワウ(それはご主人が凝り性だからじゃないっすか。別に純度とか気にしないでいいんじゃないっすか)」


「いや、せっかくだ。元の世界に帰る確率を1%でも上げられるなら上げておきたい」


 もともとは純度が低くとも後で各属性の魔力を私が流すことで補おうと考えていたが、それでは時間がかかるうえにゲートの魔導エンジンが放つ魔力波を抑えられるか強度の面においても若干不安が残っていた。

 しかし、ここにある魔石は元から私が後付けで送る魔力よりも質のいい自然のマナを含んでおり、人の手を加えれば強度も規定値以上の数値を叩き出せる。

 アポロにこの場所へ連れてきてもらえたことはまさに僥倖と言うしかない。


「だから妥協はしない。いいか、アクラス?」


「別に全然オッケーだヨー。他に採る人もいないし、数百年かければまた元通りサー」


 よし、家主からオッケーもらったし誰も文句は言えないぜ!


「しっかし、こうしてお客さんがいるとやっぱり楽しいネー。こうして人族のフレンズに会うのも500年ぶりくらいだし」


 ん? 今なにやら聞き逃せない言葉が……。

 500年ぶり? つまり以前にもここを訪れた人族がいるということだ。


「その時も、龍族の誰かが案内したのか?」


「いや、それはあるまい。この地に住む我以外の龍族が外に出ることはなかった。我が生まれる以前でもそれは変わらない」


 だとしたら一体誰が……? 500年前ではすでに"魔"の技術は衰退していたはず。

 今の私でも精霊の助けなしであの道を進んでここまで辿り着けるかどうか怪しい。

 私達はアポロを通してアクラスの助力を得ることができた。ならその人族はどうやって……。


「ミーもビックリしたヨー。でもノゾムは不思議なパワーを持っていたからね」


「ノゾム?」


 なんだか日本人みたいな名前だな……。いや待て、500年前で日本人……それはつまり。


「フルネームは確か……そうそう、カミノギ・ノゾムだったかな。連れの子からは"勇者様"なんて呼ばれてたネー」


「ふむ、勇者か……。その話ならば我も少々聞いたことがある。新魔族とやらの王を討ち取った……と」


 そうだ、星夜やケントの前に召喚され、新魔族の“魔王”と呼ばれたマーモンとやらを倒し、侵略の進行を止めた異世界人。

 その人物の記録はどうしてかそう多くない。ほとんどの資料でその強さは抽象的、人物像も曖昧で魔王討伐後の詳しい情報もない(ついでにポンコツ女神も何も知らない)……。

 もはや知ることは不可能と諦めていたが……まさかこうして生き証人に会えるとは。これはチャンスかもしれない。


 私は一旦手を止めてアクラスへと向き直る。


「その話、詳しく聞きたいな。構わないか?」


「オールオッケー! ミーはお喋り大好きだから何でもスピークしちゃうヨー!」


 相変わらず謎の英語交じり……いや、これももしかしたら。


「アクラス、お前のその独特の喋り方……もしや」


「ん、この喋り方ネー。これもノゾムからいろんな言葉を教えてもらったからなんだヨー。なんかミーに妙にしっくりフィットする感じだったからサー」


 やはりそうか。最初から違和感感じまくってたんだよな。

 確かに簡単な英単語なら異世界人の影響かなまじ浸透しているものも見受けられるが、ここまでオープンに使ってますって奴は見たことがない。


「一体どんな奴だったんだ?」


「一言で言うとだネ……人を惹きつける人間だった、かな。とにかく純粋でね、悪意の欠片もないような印象だったヨ」


 力があり、人から慕われ、純粋な心の持ち主……まさに英雄に相応しい、おとぎ話の世界の住人のような人物か。

 しかし、魔王を倒した後は忽然とその姿を消し、歴史から退場した。

 アクラスと出会った時というのは魔王討伐の前と後、どちらだろうか?


「そのノゾムがやってきたのは魔王が倒された後なのか?」


「ミーは世間に疎いから、新魔族とかその辺の事情ってよくわかんないんだよネー。でも、その時のノゾムは「魔王を倒すために力をつける旅の途中」って言ってたヨ。ミーも仲間に誘われたけど、この大陸から離れることはできないから断ったヨ」


 つまり魔王討伐前ということになるか……。やはりその後のことは誰にもわからないんだな。

 その後の記録がどこにもない……と、いうことは誰にも知られずに日本へ戻ったから。というのは私の希望的観測だろうか。


「うーん、懐かしいネー。元気にしてるかなーノゾム」


「いやいや、どう考えてももう生きてはいないだろ、寿命的に」


「あ、そっか。じゃああれから幸せに暮らしたのかナ、あの時一緒にいたガールフレンドと」


 ガールフレンド? それは勇者ノゾムの仲間ということだろうか? 記録では数人仲間はいたそうだが。

 ……何か気になる。そういえば先ほどアクラスは「連れの子」と言っていたな。


「そのガールフレンドというのは?」


「ノゾムと一緒にここまで辿り着いた女の子だヨ。他にもお仲間はいたようだけど、あの砂漠を越えられたのはその二人だけだったんダ」


 常人では越えることの不可能な熱波を抜けることができたのか。

 勇者はその身体能力、能力持ちの異世界人は格段に強くなるようだし。セフィラの話では勇者は戦闘向きの力を持っていた。魔物の対処も可能だったろう。

 だがもう一人の少女というのは一体? 名のある魔導師だった、という可能性もあるが、あの砂漠に耐えられるほどの力量の持ち主などそうそういないはずだ。


「それは、どんな人物だった?」


「魔族の子だヨ。とても奥ゆかしくて純情な子だったナー。ノゾムもかなり意識してたみたいだったしネ」


 ふーん……流石勇者様はおモテになっていたんだなー……って違う!

 おいおい今こいつ聞き逃せないことをサラリと言いやがったぞ。


「ってことは、つまり勇者は敵である新魔族と一緒に魔王退治の旅してたってことか!?」


 確かに新魔族だからといってこの世界の人間と分かり合えないなんてことはない。

 恋仲になることだってできるのは私も実例を知っているが故に充分納得できる。

 が、最も対立が激しい時代に、しかもその対抗戦力の筆頭でもある勇者が敵種族と恋仲というのはさすがに周囲が納得するとは思えないのだが……。


「ああ、チガウチガウ! ミーが言ってる魔族っていうのは元々この世界の住人だった人達のこト。青っぽい肌に角と小さな羽のある……あーそうだ、今じゃ旧魔族なんて呼ばれてるんだっけネ?」


 旧魔族……それはつまり、私が前世でよく見かけていた魔族達のことのはずだ。魔力を純粋な火力として扱うことに長けており、それ故に悪に堕ちる輩も少なくはなかった種族。

 こちらに戻ってからはめっきりと見かけなくなってしまっていたが、500年前には勇者と共に行動していた者がいたのか。


「もう、ヤヤコシイよネ、新だとか旧だとか。新魔族の中にちょーっと旧魔族に似たイメージの奴がいただけで簡単に決めちゃうんだヨ。そのせいで旧魔族さん達はいろいろとヒドい目にもあったとかなんとか……。ネ、フレンズ達もヒドいと思うよネェ」


「確か、人族主義とかいう団体によって特に迫害された者達なのだと聞いている。嘆かわしことだ、自分達と違うものを受け入れることが出来ぬなど……」


「そう……ね。本当に……最低な集団……」


 おやおや、ここにいるのは皆人族主義反対派か。こりゃセフィラには聞かせられない話題だな……。いや、別にあのポンコツのフォローしてるわけじゃないぞ?

 それよりも、ミネルヴァがこの話題に乗っかってきたことが意外だったな。自分には関係ない話、ってな感じでスルーしそうな感じだったのに。


「ミネルヴァは人族主義が嫌いなのか?」


「別に……ただ広い視野でものを見ず、手入れされた箱庭でのうのうと生きてる連中に虫唾が走るだけ」


 辛辣な言い方……この声の感情は、ただ単に客観的な感情で批判しているのではなく、どこか思うところがあるような……そんな感じがする。

 あくまで勘の域を出ない勝手な予想でしかないのだが。


「それよりも、わたしはその旧魔族……っていう方が気になるんだけど」


「ん、花嫁はかの者達に興味があるのか?」


「そういうわけじゃ……ただ気になっただけ。旧魔族なんてきょうび聞かない話じゃない。どこから来たどんな人物なのか……そうね、わたしが生まれる少し前の話だから少し興味があるだけ」


 確か、ミネルヴが今の体になったのが400と数十年前の話だっけか。そう言われると確かに近い年代の話になるな。

 しかしそうなると、ミネルヴァが生まれた時代では勇者の話題はどれほどのものだったのだろうか。


「そう言われると我も似た時期の生まれであるな。うむうむ、花嫁の気持ちもわからんでもない。アクラスよ、我も興味が湧いてきたぞ、頼めるか」


「お喋りは大好きだし断る理由なんてサラサラないヨー。彼女のネイムは確か……そう、リィアルだったネ」


 魔族……今で言う旧魔族は姓を持たない。魔族達は一つの集団で生き、そのすべてを家族同然に扱う絆の深い種族でもあったので、姓は無意味という考えらしい。


「ミーも魔族とはあまり会ったことがなかったから新鮮だったネ。だから彼女が一人だったのが意外でネ」


 魔族は基本同種族と集団で行動するからな。単体で他種族と行動、というのが意外なのはよくわかる。

 ……まぁ、私も前世でそんな奴を知っているから理解はあるが。

 しかし、そういう人物は総じて特別な事情があり、同族からは異端として扱われることが多いが。


「とても愛らしい子だったヨ、常にノゾムにべったりでサー。会話中なんて近寄るのがヤボに思えるくらいにネ。妬けちゃうでショ?」


「ああ、正直言って羨ましいな!」


「ワウ……(ご主人、そういう言葉は心の中だけにするっす……)」


 おっと、つい声に出てしまっていたか。

 しかしここまでの話を聞いている限りでは勇者は本当に勝ち組だなー。世界の危機を食い止めて、かわいい彼女もできて、まさに異世界召喚のテンプレってとこか。

 しかしそうなると尚更その後が気になるな。この様子だとその魔族の子とひっそり暮らした……なんて線もあり得なくはないか。


「でも彼女も残念だよね。故郷があんなことになるなんてサ……」


「……どういうことだ?」


「リィアルはネ、元々この大陸出身なんダ。でもね、その魔族の隠れ里が襲撃されたんだヨ……人族主義の連中の手にかかってね。リィアルが大陸を離れた数年後のことサ。しかもミナゴロシ……って話らしいヨ」


 なんてことだ……つまり第二大陸で行われようとしていた『エルフ族狩り』のような事例が昔にもあったってことか。

 しかも奴隷にすることもなく皆殺し……その時代の人族主義の過激さが知れるな。


「それより以前は人族主義派も結構ひっそりとしたものだったんだけどネー。どういうわけか急に勢いづいてサ」


 ……急に勢いづいた。そしてそれは勇者がいた時代から数年後……。

 なんとなく読めたぞ。つまり勇者が魔王を倒し、それに乗じて各国で息を潜めていた人族主義達が活発になり始めたんだ。

 そしてその中には、悪意を持つ人間も当然いた……。


「その話、我も耳に挟んだことがある。しかし、襲撃を行った人族主義の国が数年後に滅んだとも聞いた。我がまだ幼龍の頃の話だ」


「そ、謎の襲撃でネ。リィアルはこの大陸に戻った気配はなかったようだから、この事実を知っているかは定かじゃないけド。悲しい事件サ」


 人族主義と他種族のいざこざ……簡単な問題ではないとは思っていたがここまで根深かったとは。

 まぁ人種差別の問題は今私達がどうこう言おうが変えられるものでもないし……。


 というか、最初に話を聞きたがっていたミネルヴァがここまで終始無言なんだが……。


「……その魔族は、本当に帰ってこなかったの?」


 と、口を開いたかと思えば抗争の話題ではなく興味は相変わらず勇者の連れの魔族に興味深々。……なにか、思うところがあるのだろうか。


「ミーは一度覚えた魔力のウェーブは忘れないヨー。大陸に足を踏み入れればわかるハズサ。だからノゾムもリィアルも戻ってきたことはないネー」


「そう……ならいいの」


 そう言って途端に興味をなくしたかのように俯く。

 なんだか少々空気が重く感じるのは私だけだろうか……。私の魔石を採掘する音だけが虚しく響き渡っている。

 話題を変えよう。


「そういえばアクラス、勇者ノゾムには何か特別な……魔術でもあまり見ないような特殊な力を使えた、とか聞いてないか?」


「んーと……ああ! あった、あったヨ! ノゾムは普通に強いだけじゃなくて不思議なパワーも持ってたんだヨー!」


 旧世代の知識を持ち長年生き続けているアクラスでさえも"不思議"と称する力。間違いなくセフィラから受け渡された異世界人に与えられる"七美徳"の力に違いない。

 戦闘向きではない星夜やケントの能力と違い、勇者は犬同様戦闘に秀でた能力のはずだ。そこもやはり気にならないわけがない。


「それがスゴイんだヨ。なんでも、心が通った相手とならパワーを貰って自身を強化したり、逆に自分のパワーを相手に受け渡すことができたんダ!」


 なるほど、つまり勇者の能力は“力の譲渡”ということか。それも受け渡しのベクトルは双方に可能な。

 確かに戦闘には向いているな。それに、その能力のために仲間を集めるのも理にかなっている。力ある仲間がいれば、単一の強大な敵には仲間から力を、多くの敵が相手ならば複数人に自身の力を分け与えることで様々な戦術を駆使することもできる。

 元々勇者は異世界人で自身の能力も高い。そこに仲間が『パワーをメテオに!』的なノリで勇者が魔王と戦う。なんともまぁ王道なお話だ。


「けどフレンズはどうしてノゾムにそんな力があるなんて知ってたんだイ?」


「ん? それは私がその勇者ノゾムと同じ世界からやってきた異世界人だからだ。転移者の事情に関しては少なからず係わりがあるんだ」


 実際に同じ境遇なのは異世界人の力を持っている犬の方で、私は単なる"おまけ"らしいというのは悲しくなるから言わないでおく。


「ワーオ!? 異世界人!? そりゃ凄い! これはこれは、なんともワンダフルな巡り合わせじゃないカ! やっぱりデスティニーっていうのはどこかで繋がってるんだネェ」


「うむ、まったくだ。盟友は出会ったこともない我らと目に見えぬ縁で巡り合ったと言っても過言ではなかろう」


 私もこの大陸についた頃にはこんな出会いがあるなんて夢にも思わなかった。ただ魔石を採掘しに出向いただけのはすだったのにな。

 そう考えている間に目的の魔石もすべて掘り起こすことも完了できたし万々歳だ。


「こうなるとぉ、ミネルヴァっちともどこかで繋がってたりしてネー!」


「おお、ならば我との婚姻は偶然であり必然でもあったということか!」


「……そんなわけないでしょ。それより、掘り終わったんならそろそろ帰らない? いつまでもここにいるわけにはいかないんだけど」


 そうだ、ここに来た目的はあくまで私の目的を優先してくれたミネルヴァがついでにやってきただけだ。彼女に協力すると誓った以上投げ出すわけにはいかない。


「そうだな、じゃあそろそろ村に戻るとするか」


「エー、もっといてもいいのニー……」


 渋るアクラスだがこちとらそうもいかない。ここまでの道のりは意外と近かったから……村に戻るのは深夜になるが帰れない距離じゃない。


「アクラス、スマヌが我らにもやるべきことがある。邪魔をしたな」


「まぁそういうことなら仕方ないネ。でももうミー達はフレンズだからね、この大陸にいるなら困った時はいつでも頼ってほしいヨ!」


 まぁアクラスは実際頼りになる強さがあるし信頼できる精霊でもある。

 が、助けてもらいたくとも一々ここまで来るのはめんどくさい……お、そうだ。


「じゃあ手を出してくれ」


「ん? こうかい」


「そうそう、そしてこれをポン……っと。これでよし」


 アクラスの手にスマホをポンと押し付けてアプリを起動する。

 いつまで続くかわからないが、この大陸にいる間ならもしものことがあれば連絡がつくと思う。




「それじゃあまたネーフレンズ達ー! 帰りも精霊がついてるから心配しないでイイヨー!」


 徐々に蜃気楼へと姿を消していくオアシスの中心でアクラスがブンブンと手を振っている。

 さて、問題はここからだ。早速村に戻って今後の方針……謎の術者をどうやって探すかの案を塗らなければならない。


「何はともあれ、まずはあの村に戻らないとな」


「そうね、まためんどくさい歓迎されるかもしれないけど」


 けどまんざらでもないんやろ? って言うと怒られそうだから言わない。でもあのお花の女の子が気になっていることは確かだろう。


「あの村を拠点に我らの龍皇帝国を築き上げてゆくのも良いかもしれんな!」


「やめなさいよ……。それより、あんたは村に着く前に人型になって服を着なさい」


「あ、そういえば。アポロの服ならあの採掘場で布にできそうな素材もついでに採っておいたから、今度これ使って作ればいい」


「おお、流石は盟友! かたじけない」



 こうして笑いながら私達は村への帰路についた。完全に信頼されてないとはいえ、ミネルヴァも最初に出会った頃より大分打ち解けた表情を見せるようになった。

 満点の星空の下で、今は辛いことを忘れ希望を胸に歩んでいく。

 この時私達は誰もが今後の問題もきっとうまく解決できる……そう、楽観していた。










 村を覆いつくす……赤黒く燃え盛る炎を目の前にするまでは……。





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