121話 花嫁争奪戦!?


「うむ、これでよし! では早速参ろうではないか」


 私の手持ちとアポロの寝床に余っていた布材を仕立て直してなんとか真っ裸の状態は回避できたな。

 あのまま村に戻ったら悪竜とはまた別の問題が起きるところだった。


 まぁ結局一晩経ってしまったが仕方ないだろう、変態を野に放つわけにもいかなかったからな……。


「まったく……裁縫なんて数百年ぶりにやったわ。意外と体は覚えてるものなのね……」


「ハハハ! 美しく、そして戦いもこなせる上に多才とは、流石は我が花嫁であるな!」


 そう、なんと今現在アポロが着ている服を仕立て上げたのはミネルヴァだ。

 私もアポロも裁縫なんてからっきしだったんでな。

 ところどころ雑な点も見え隠れして入るが、これならどこへ出ても少々いかつい一般人に見える仕上がりだ。


 しかし、アポロは現在体内の魔力をコントロールしてヒトの姿を形どっているにすぎないため、今元の姿に戻ってしまうとせっかくの一張羅が細切れになってしまう。

 一々脱いで戻るわけにもいかないだろうし……。


「魔力を含んだ糸で専用のものを仕立てないと後々面倒そうだな」


 魔力で編んだ服に形状を記憶する術式を組み込むことにより龍の姿に戻る場合においても問題はなくなる。

 戻る際の魔力に反応し衣服はアポロの魔力に変換され、またヒトの姿に変わる時に記憶された状態に再構成される仕組みだ。

 前世の時代、ドラゴスもこの性質でできた服を着ていた。


「まぁ、この大陸には良質のマナを含んだ素材が多いから探せばできなくはないだろうし、今は問題ないか」


 アポロも人族と友好を深めるのならば今の姿を保っている方がよいだろうし、龍の姿で戦うほどの相手が現れるとも思えないからな。


「しかし徒歩か……飛んでいけばすぐだというのに。まぁ村へ向かうだけの道ならばこの姿でも対処できぬ魔物がいるわけでもなし、問題はなかろう」


 実際アポロはこの姿であっても充分にその強さを発揮できている。

 私達がここに来るまでに出くわした魔物ならばなんの苦もなく対処可能だろう。


「ほんと、規格外ね……」


 規格外という意味ではミネルヴァも相当なものだと思うがな……と、口に出したら怒られそうなので黙っておく。


「とにかく戻るとしますか。一日もあれば着けるだろ」


「うむ! それでは今度こそ出発といこう!」






 てなわけで、襲い来る魔物はすべてアポロが薙ぎ払い、特に問題もなく通り過ぎることができたため割愛だ。


「行きの苦労感がまるで嘘のように楽な旅だな」


「ワウワウ……(数話前はかなりシリアスで激しいバトルを展開していた場所とは思えなかったっすよ……)」


 数話とか言うなっての。


 ここから村まではもう一直線、むしろ問題はここからだ……。

 どうにかここにいるアポロの説明を上手く行った上で悪竜討伐の報告をしなければならない。


「そういえば……ヘヴィア達は無事に村まで戻れたのか?」


「どうかしらね、あの鳥の魔物がこっちに来たから大丈夫だとは思う。わたしは……顔を合わせたくないけどね」


 そうだった、ミネルヴァはあの森で不死身の肉体をあの場にいた全員に晒した。

 常人にとって致命傷の肉体が再生するあの光景は受け入れがたいものであることは確かだ。

 ミネルヴァ自身、そのせいでいつの時代も虐げられていたと言うし、ここで不安になる気持ちもわからないでもない。


「お、何やら建物が見えてきたようだ。う~む、この目線で眺めるとやはり何もかも違う景色に見えてくるな」


 それ以前にお前は上空からしか見てないだろ。

 この村に戻ってくるのも数日ぶりか……ん、なにやら村がざわついてる気がするぞ?

 それになんだか空気がとても暗いような……。


「ワウ(なにかあったんすかね)」


「とにかく行ってみないとわからんな」


 村の中心、以前悪竜討伐の前祝いにどんちゃん騒ぎしていたあの場所だ。

 今では村中の人が集まっているのではないかというほど群がっており、私達に気づく様子はない。


 何やら誰かを円形に囲んで皆その人物の話を聞いているようだが……。



「その時でした! 悪竜は僕達の話を聞こうともせずに襲い掛かってきたんです! 僕達は善戦しました……けれどあと一歩のところでこちらの体力も限界に……」



 あれは……エリオットだ。

 なんだこれ? 何故か吟遊詩人のようにオーバーアクションで語るエリオットの話を村の人間が悲しい顔をして聞いている。

 近くには取り巻きと……ヘヴィアもいるな。

 どうやら無事に帰ってこれたようだ……が、これは。


「その時でした。魔導師さんは一人悪竜に立ち向かい、ミネルヴァさんは僕らを逃がすため悪竜の下僕の魔物を引き受けて……くっ! 僕にもっと力があれば……」


「そんな……おねえちゃん」


 あれは、出発前にミネルヴァに魔色花をプレゼントした女の子だ。

 よほどショックが大きいようで、その瞳から涙が溢れ出していた。

 そこからいかにも演技臭いエリオットの語りに村人達も感化され始め、おそらく犠牲となったと思われている私達を嘆く声が聴こえる。


 しかしこれは……。


「ねぇ、なんか捏造されてない?」


 その通り……なぜかエリオットの話ではメンバー全員で悪竜まで到達したことになっているし、悪竜に勝手な設定まで追加している。

 しかもさり気なく私とミネルヴァが名誉の犠牲にされてるし。


(なんというか……いかにも『びびって逃げ帰ってきました』っていうのを隠す言い訳だよなぁ)


「だからこそ僕は誓う。今度こそあの悪しき竜を討ち滅ぼし、この大陸に平和をもたらすことを。そしてミネルヴァさん達の無念を……」


「勝手に死んだことにしないでもらいたいんだが?」


「え!?」


 声をかけることでようやく私達の存在に気づいたらしく、村人達も驚き振り返る。

 皆信じられないものを見たように目を見開いている。

 まぁさっきまで盛大に名誉の戦死を伝えられていた人物達が元気ピンピンで背後に立っていたらそんな顔にもなるか。


「そ、そんな……生きていたなんて。僕はてっきりあのままあの凶悪な森の犠牲になったとばかり……」


「まぁ確かにあの森であのまま彷徨っていたら帰らぬ存在になていた可能性はなくもなかったが」


 こちらにも複雑な事情があったからな。

 そんなことよりも、私としてはどうして私達がお前の中で殺された扱いになっているのかの方が気になるんだがな。


「……ああ~! おねえちゃんだー!」


「きゃ! ちょ、ちょっと、いきなり抱きついてこないでよ……。ほら、これで顔拭きなさい」


 ミネルヴァが生きていたことがよほど嬉しかったのか、わんわん泣きながら抱きつく女の子。

 村人も状況を察してきたようで、よかったよかったと安堵する声も聞こえてくる。


「いやぁ、お二人共ご無事で何よりです。悪竜討伐が成されなかったのは残念ですが……命を落とさなくて本当に良かった」


「あ、いや、実はその件なんですがね」


 エリオットの話のせいで私達は悪竜に敗れ、命からがらにここまで戻ってこれたのだと考えているのだろう。


「皆さん聞いてください。悪竜は討伐されました、もうこれ以上あの森を抜けて若い娘を連れて行く必要はなくなりました」


「な、なんと!」


 私の言葉に村中はざわめき出す。

 先ほどのエリオットの話とこんがらがり、未だ信じきれていない者達もいるが、皆の表情は徐々に明るくなっていった。


「そ、そんな、嘘だ! 手前の森でさえあんな凶悪な魔物が出るっていうのにその先の悪竜を討伐したなんてあり得ない!」


 私の言うことが信じられないエリオットがズカズカとやってくる。

 いや、その顔は信じられないというより認めたくないということころだな。

 まるで強い自分でも対処できなかったものを他の誰かが攻略するなんて考えられないと言わんばかりに。


「そうだ、きっと悪竜を討伐したって嘘で報酬だけ貰って逃げる気でしょう。ミ、ミネルヴァさんもそんな悪い誘いに乗らないで僕達と今度こそ本当に悪竜を倒す方法を考えましょう」


 エリオットのミネルヴァを見る瞳には恐怖が見て取れる。

 これは……周囲には人のいい好青年に見せながらも、あわよくばミネルヴァのあの驚異的な力を利用するだけしようとでも考えているのかもな。


「さ、さぁミネルヴァさん。僕達と一緒に行きましょう」


「いや、ちょっと待ちなさ……」


 エリオットがミネルヴァの手を掴んで引っ張っていこうとする。

 ミネルヴァとしてはそんなつもりはまったく無いようなので、そのまま振り払おうとするが……。


「おい小僧よ、我が花嫁をどこへ連れてゆくつもりだ?」


「へ?」


 ミネルヴァが振り払うより速く、いつの間にか間に割って入っていたアポロがエリオットの腕を掴んでいた。


「う、うわ!? な、なんですかあなたは!?」


 まぁいきなりあんな大男に腕を掴まれたらそりゃビビる。

 ……ピコーン! ん、ちょっと待ってくれ……今私の頭の中でとてもいい名案が浮かんだぞ。

 この状況を覆しながらもアポロの素性を極力バラさないナイスなアイディアがな!


「ぬ、我が何者かだと? いいだろう、我は……」


「あーっとぉ! そうです、皆さんにご紹介したい方がいるのです! この方こそ魔物と悪竜に追い詰められた絶体絶命のピンチに私達を救ってくれたお方なのです!」


 私の大げさな紹介に村中の視線がアポロに集まる。

 村人達は先ほどのエリオットの語りが頭に染み付いてますます悪竜が恐ろしいものと、私達がピンチに陥っていたと信じてしまっている。

 これを簡単に覆すのは難しい……ならば、逆にそれを利用させてもらおうじゃないか。


「彼はどこから聞きつけたのか、恐怖に怯えるこの大陸の現状を嘆き立ち上がった戦士なのです! 彼は私達に群がる魔物を蹴散らし、悪竜へと果敢に飛びかかり、激しい死闘の末ついに討ち滅したのです! そう、彼こそまさにこの大陸の英雄! アポロニクス・タキオン・ギャラクシアその人なのです!」


「「「おおー!」」」


 ちょっと大げさ過ぎたかな? とも思ったが、予想以上に村人達のノリが良かったため皆受け入れてくれている。


「ハッハッハ、盟友よ照れるではないか。しかしこの声援に答えることも龍帝の勤めとも言えよう……。皆の者! 我が名はアポロニクス・タキオン・ギャラクシア! 苦しみ嘆くこの大陸に降り立った新たな王を目指す者なり!」


 うん、こちらは予想通りにノッてくれて私も助かる。

 アポロは結構調子に乗りやすいタイプだということは今までの対話からわかっていたからな。


 てなわけで村人達はこれでオッケーとして、問題は……。


「う、嘘だ! ちょっと強そうに見えるからってぽっと出のその人が悪竜を退治したなんて、僕は信じませんよ!」


 やっぱり突っかかってくるのはこいつか。

 前の森での戦闘で、自分の力の限界を理解できなかったのかね。


「ミネルヴァさんも騙されてるんですよ。ほら、僕達と行きましょう」


 エリオットはそう言って再びミネルヴァに手を伸ばそうとするが……。


「小僧、貴様先程から我が花嫁に対し少々馴れ馴れしすぎるようだが……一体どのような関係だ」


「か、関係と言われても……。そ、そうですね……ここまで昼も夜も共に旅をしてきた深い仲とでも言っておきましょうか。それよりも、あなたこそなんなんですか! ミネルヴァさんを……は、花嫁なんて呼んで」


「ふっ……我と花嫁は将来を誓い合いし運命で繋がれた仲よ」


「いや、そんな運命ないから。というかさっきからあなた達の妄想をわたしに押し付けないでほしいのだけれど」


 何をしているんだかまったく……。

 いつの間にか村人達もこの状況を見守っており、中には若い娘さん達がキャーキャーと黄色い声が聞こえてくる。

 アポロもエリオットも自己主張が激しすぎて、これじゃあまるでミネルヴァ争奪戦だな……当の本人はすっごい嫌そうだけど。


「仕方ありませんね……ではこうしましょう。今僕とここで決闘してください。勝ったほうが……」


「花嫁と添い遂げる……というわけか。良かろう! その勝負受けて立とう!」


「だから良くないわよ……ハァ」


 最早ツッコむ気力も失せたのか、ミネルヴァは肩を落としなからこちらまで引き下がってきた。


「いやー、モテモテですな」


「凍らすわよ」


「サーセン」


 ミネルヴァの今日一番の鋭い眼光に睨まれてビビる私。

 こりゃこれ以上ウッカリ口を滑らせない方がいいな……。


 とまぁそれはさておき、どういうわけだかアポロVSエリオットの花嫁争奪戦が決定してしまった。

 とりあえず私はセコンドとしてアポロに近づいていくが、ぶっちゃけこれって……。


「……一瞬で決着がついちゃうんじゃない?」


 ミネルヴァの言う通りである。

 あの森の入口で苦戦するような優男など、我らが龍帝さんの前では赤子同然。

 むしろ勢い余ってやりすぎてしまわないかという方が心配である。


「なぁアポロ、やりすぎないよう手加減をだな……」


「盟友よ、それぐらい我にもわかっておる。先程はあの小僧の挑発に熱くなってしまったが力量ぐらい我にも推し量れる。なに、粋がった未熟者を指導してやるのも上に立つ者の勤めというものよ」


 よかった……ここでアポロが激情しすぎて「野郎、ぶっ殺してやらぁ!」とか息巻いてでもいたら大問題だったからな。

 それにどうやらこの人形のままで戦うつもりのようだし、正体が露見することもないだろう。


 そして、アポロはそのままの姿でゆっくりと前に出てエリオットと対峙する。

 その対するエリオットは先程までの軽装から各部位にアーマーを装着し、手には当然のようにあの駄作剣を構えていた。


「まだ準備できないんですか。早く防具を着けて、得物を構えてください」


「何を言う若者よ、我はこれで準備万端だ」


「んなっ……! あなたは僕を侮辱してるんですか!」


 エリオットの意見はまぁもっともだ。

 しかしアポロはどこもふざけてなどいない、これこそが龍族本来の戦闘スタイルなのだ。

 己の肉体と魔力で戦うことこそ龍族の本領……ま、たまに得物を使うこともあるけどな。


「どうやら本気で僕をバカにしてるみたいですね……。そんな失礼な人にかける情けは僕にはありませんよ」


「ハハハ、情けなど必要ないぞ。さぁ、どこからでもかかってくるがいい」


「後悔しても知りませんよ……。はあああ! 唸れ、竜殺しの剣ドラゴンスレイヤー!」


 ……ああ、そう言えばそんな名前をつけてたんだっけか、私には馴染みない名前だったから一瞬ドわすれしてた。

 しかしアポロに対して竜殺しの剣ドラゴンスレイヤーとは……なんという皮肉だろうか。


 ま、そんなどうでもいいことは置いといて……。

 さて、エリオットの渾身の一撃はどうなったかというと。


「ふむ……踏み込み、剣筋、重心、どれをとっても中途半端。むしろ体の方が剣に使われているというところか」


「な……! え!?」


 なんと、アポロはその場から一歩も動かず振り下ろされたその剣撃をまともに受けていた。

 が、その一撃はアポロの体に傷一つつけること無く肩でピタリと止まっていた。


 まぁ、当然といえば当然だろう。

 アポロの龍鱗ドラゴンスケイルは人化した現在も変わることなくその身を守り続けている。

 私でさえあれを貫くとなると相当な魔力が必要だというのに剣の力に頼りっきりなエリオットが破れるはずもない。


「ど、どうして……」


「おっとスマヌ。初撃を受けたのは主の力量を細かく知った上で指導してやろうと思ったのだが……そのためには、その剣の力はちと邪魔だな。……ふっ!」


 速い。

 一瞬の出来事だったが、魔力の篭った指先でエリオットの持つ竜殺しの剣ドラゴンスレイヤーの剣の腹に一撃を入れていた。


「え!? なんで、竜殺しの剣ドラゴンスレイヤーにヒビが……」


「さて、これでお主本来の力で戦えるはずだ。今度こそ遠慮せずにかかってくるがいい」


「……ねぇ、あいつ何をしたの」


 ミネルヴァが今のアポロの行動を疑問に思い私に質問してくる。

 どうやらアポロの動きは見えていたようだが何をしたのかまではわからないようだ。


竜殺しの剣ドラゴンスレイヤーの魔道具としての役割を果たすために組み込まれていた術式を壊したんだ。正確に、一点だけを突いてな……」


 だが、それは容易なことではない。

 他人が作った魔道具というものは通常表面だけを見たとしてもそれにどんな術式や機構が組まれているかなどわからない。

 多少破損したとしても魔道具としての術式は破壊されないよう作るのが基本であり、あの剣も例外ではなかった。

 しかしアポロはそれを一瞬で見抜き、破壊した。

 これは無造作に力任せに破壊することでは決してできない芸当と言えよう。


(改めて確信させられるな。アポロは龍族の中でも頭一つ抜けた力量の持ち主だと)


 それこそ若かりし頃のドラゴスを彷彿とさせるほどだった。

 あいつは才気あふれる神童だったが、アポロにもその片鱗が見えるようだ……。

 『龍帝を志す』か……あながち戯言でもないなこりゃ。


「くそっ……なんで……さっきより剣が重く……」


「だが振れない程ではあるまい。剣筋を磨き足捌きを整えれば悪くない動きになるぞ。後は体力だな」


「くっ、黙って……ください……!」


 剣の力を破壊し、完全に"指導"になってしまった決闘だが、結果は見ての通りエリオットの圧倒的能力不足である。

 ま、指導してるアポロもそこそこ楽しめているようでいいんだが、そろそろ……。


「アポロ!」


「うむ、そうであるな。ではそろそろお開きといこうか」


「な、僕はまだ……!」


「『龍気功ドラグオーラ』」


 アポロが軽く踏み込むと、一瞬辺りに言い表せない重圧のようなものが走り抜ける。

 『龍気功ドラグオーラ』、龍族の持つ"気迫"であり万能の戦闘能力。

 自身の体に纏わせることで龍鱗ドラゴンスケイルとは別に魔力への防御手段にもなり、先程のように気合いとして放つことで他者の魔力へ衝撃を与えることも可能だ。


 かなり抑えられてはいたが、今の一撃で魔力に体勢を持たない村人の幾人かは気に当てられたようで、酔ったようにふらついている。

 そしてそんな気を間近で受けたエリオットは当然……。


「……きゅう」


「「「きゃあああああ!? エリオットくんしっかりして!」」」


 白目をむいてその場に倒れ込んでしまった。

 ま、いい教訓になっただろ、これで今度こそ自分の無力さを理解してくれりゃいいんだが。


「うむ、我の勝利である!」


 アポロの勝利宣言に村人も湧き上がる。

 そんな中、私の隣りにいたミネルヴァがいつの間にかゆっくりとアポロに近づいていた。


「おお、花嫁も勝利を祝って……」


「こんの……どアホ! なにしてんのよまったく!」


 いきなりアポロの頭をど突いた。


「は、花嫁よ、一体どうし……」


「あんたが放った気のせいであの子が倒れちゃったでしょうが! 力の制御くらいまともにできないの!」


 なるほど、ミネルヴァが怒っているのはこの子が原因か。

 実は先程のアポロの『龍気功ドラグオーラ』だが、エリオット以外にも強く影響を受けた者がいる。

 ミネルヴァを慕っている村の女の子だ。

 今は長椅子でおだやかに眠っているだけだが、アポロが気を放った時に耐えきれずに気を失ってしまったらしい。


「あんたはもっと周りを見て……」


「うおおおおお! スマヌゥゥゥゥゥ! 我が、我が未熟だったが故にぃぃぃ! 花嫁の言う通りだ、我は調子に乗ってしまい……周囲の民への気配りを怠ってしまっていたあああああ!」


 相変わらず気持ちの変化が激しすぎる。

 でもなんか憎めないんだよな、村人達もちょっと引きつつも暖かく見守っているし。


「え、えっと……まぁ反省したならいいんじゃない……かしら」


「おお、こんな我を許してくれるというのか! しかし夫の至らぬ部分を真剣に叱咤してくれる妻……。うむ、やはり我の花嫁はお主しかおらん!」


「だ、だから勝手に決めるな!」


 いやいや、なんというかもう傍から見てももうほぼ夫婦漫才のようなものだろう。

 その光景に村人達も皆笑顔で二人を受け入れいているようだし。


 はは、なんだか私もこの二人が夫婦で作る龍皇帝国ってのを見たくなってきた気がするな。

 ……そう、すべての問題さえ解決すれば、な。


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