第5章 龍の王と呪われし姫 編

109話 意外な待ち人


「いやーまったく、この辺りに戻ってくるのもなんだか久しぶりに感じるなぁ」


 たった一ヶ月ちょい離れていただけで懐かしさを覚えるようになるなんて、2000年生きた人間にしてはどこかおかしい感じもするが、ここはそれだけ濃い人生を歩んでいると思っておこう。


 ここは中央大陸、ブルーメ近郊の平原だ。

 もう視線の先には都市最大の施設『魔導師ギルド』が見えている。


「ふ……懐かしの学び舎も久しぶりと言ったところか」


「ガウ(いや別にご主人あそこで何も学んでないじゃないっすか)」


 そう言いながらのっしのっしと私を乗せて歩くオーラを纏ったちょっとかっこいい生物……犬だ。

 え、これのどこが犬なんだって?

 さては貴様この"第五章"から見ているな!


「詳しくは前章を見てくれ!」


「ガウ……(また唐突に何言ってるんすか……)」


 いや、こういうのって章の最初のお約束な感じがしてな。

 ……とまぁどうでもいい話はここまでにして。


「ガウウ、ガウ(てかご主人そろそろ自分で歩いてくださいっす、これ結構疲れるんすからね)」


「わかったよ。ヨッコイしょーいちっと」


プシュウゥゥゥ……


 私が犬から降りると、まるで空気が抜けるかのように超犬の身体を構成していた魔力が霧散していく。

 そして私の足元にいるのは、日本ではどこにでもいるような雑種の"まさに犬"といった風の犬。


「ワウ……(また古いネタを……)」


 まぁそれでも犬の声が聞こえるというのは思いっきしファンタジーだけどな。

 何故喋る犬が変身するのかとかこれまでの旅で出会った私の旧友だとか、異世界人の力だとか……この冒頭で語りたいことは山ほどあるが。


 ま、そういう話は置いとくとしよう。


「さあ、早く帰って元の世界へ戻る実験を開始しようじゃないか」


「ワウ? ワワウ(てか本当に帰るアテあるんすか? ぼくにはどうにもサッパリっす)」


「なあに、それは帰ってからのお楽しみさ」




「さて、そんなこんなで私は帰ってきた!」


 久しぶりのブルーメの街並み、今日も大盛況だな。

 第四大陸のグレーデンも負けないくらいの賑やかさはあったが、こちらはなんといってもそこかしこで魔力の躍動を感じられるところだな。

 こういった魔力を感じると帰ってきたって感じがする、今も昔も……。


「ワウ(んで、すぐ報告に戻るんすか)」


「うんにゃ、まずはここに寄る」


 立ち止まって見上げた店の名前は『アレックスの武器屋』。

 ……ここもなんだか馴染みになってきたな。


「チーっす」


「おういらっしゃ……おお、あんちゃんじゃねぇか。帰ってきたのか。急に任務に行ってくるとか飛び出していったから何事かと思ったが、まぁ無事なら良かった」


 ブルーメを飛び出したあの日、顔なじみには全員声かけていったからな、オヤジもその一人だ。


「ああ、無事任務完了で帰還だ。それはそうとオヤジ、ちょっとほしい物があるんだが」


「毎度毎度いきなりだな。今度はなんだ」


「魔力を溜め込める品はないか。あ、勿論素材元でも構わない、むしろそっちをくれ」


「あのなぁ……毎回言ってることだが。ここは武器屋だってのになんでお前さんは少々ズレた注文をするんだ」


 いや……だって何故か頼めば大体のものは出てくるから……。

 まぁそれもオヤジの商人としての要領がいいということでもある。


「ま、それだけオヤジの"大商人"としての腕を買っているってことさ。で、どうなんだ? あれば大量にほしいんだが」


「まったく調子のいいやろうだな。が、あいにくだったな、今そういった魔導武器は品切れだ。先日大量注文があったばかりでな、暫くは入荷しねぇ」


 がーんだな……出鼻をくじかれた。

 しかし武器の大量購入か……。


「なんだ? どこか戦争でもおっぱじめるとかか……?」


「まぁ似たようなものだな。ほれ、この中央大陸の最南西にある帝国は知ってるだろ」


 あ、ちょい待ち。

 そんなこっちでは知ってるのに読者様が知らない新情報出されても困惑するだろ。


 最南西の帝国……これは以前ギルドの資料で読んだことがある。

 なんでも数百年前に建国された人族の武力国家らしく、何十年も掛けて近隣の国を力で制圧して今の帝国になったとか。

 しかも主に他種族の小国にも容赦無く、ここ数十年でもいくつかの国が消えたとかなんとか。


 と、なんで私がここまで調べてるのかって?

 そりゃあ勿論、その帝国が新魔族に関わりがあるからだ。

 元の世界に帰るための情報として、無関係と言えない新魔族の事を調べるのは当然だろう。


「なんでもその帝国の王子様が本格的に戦いの場に赴くとかで、武器やら兵士やらを各大陸中から寄せ集めてるって噂だ」


「ふーん」


「すげぇ興味なさそうだな……」


 いや、別に興味がないわけではない。

 ただ何処で誰が何をしようと私には関係ないというのが本音であるし、今は実験用の素材の入手が最優先だ。


「しかし、そんなに鉱石がほしいなら自分で取りに行くってのはどうなんだい? まぁ魔導師の本業からかけ離れるような作業はやりづれぇとは思……」


「それだ!」


 言われてみればそれもそうだ。

 素材がないなら自分で取りに行けばいいじゃないか!


「サンキューオヤジ! それでは私はギルドに戻らせてもらう、じゃあな」


 次にやるべきことは決まった。

 よし、まずすべきことはギルドに戻って報告書の提出をパパっと終わらせる。

 そして入念な下調べと完璧な採取計画をじっくりと作り上げる。

 何事も準備は大切だからな。


 新たな期待に胸踊らせ、私はウハウハとギルドへの帰路へついた。




「まったく、相変わらず……っといけねぇ、数週間前からあんちゃんに待ち人がきてるってこと伝え忘れちまった。……まぁいいか、どうせギルドに行きゃわかることだしな。さ、商売商売っと」






「ただいまー!」


 気分がノッてきた私はそのまま受付へとダッシュで駆け入る。

 受付には相も変わらずマレルが今日もニコニコと任務へ向かう魔導師達を送り出していた。


「あ、ムゲンくん! お帰り、どうだった第四大陸は?」


「いやぁ、予想外で波乱万丈な展開の連続だったよ。あ、これ報告書ね」


「はい、ご苦労様。受領完了っと」


 そう言って受け取った報告書にぽん とハンコが押され、晴れて今回の任務は終了ということになる。


「ワウ? ワウワウ(あれ? 報告書なんていつの間に書いたんすか)」


「え? そりゃ走ってる間にチョチョイと……」


「ワウ……ワワウ(いや何言ってるんすか……普通出来ねっすよ)」


 新しくやるべきことができたというのにいつまでも終わった出来事に足を引っ張られたらかなわんからな。


 と、犬とやり取りをしているとマレルがじっ とこちらを見つめている。


「おや、なんだマレル?」


 まさかこれは! 無事に帰ってきた私と対面してついに抑えきれない乙女心が……。


「ワン……(だからありえないっすって)」


 だから心を読むんじゃあない。

 もしかしたらもしかしてがあるかもしれないじゃ……。


「いやね、おみやげとか……ないかなーって」


「え? あ……そっち?」


「あ、ごめんね。ジオやイレーヌはいつも遠出した時にはおみやげを持ってきてくれたからつい同じノリで話しちゃった。そうだよね、あたし達ってそこまで親密な関係じゃないんだし当然だよね」


 あ、ちょっとまってこれ完全にマレルルートのフラグ完全に折れかけてるよね。

 おおう……私にもっと主人公力があれば。

 ここで咄嗟に偶然持ってた綺麗な鉱石やら花やらを「やるよ……」とか言って差し出すことができれば一気に好感度アップするやろ!


 だがあいにく今の私の手元には魔導エンジンの設計書と、ファラから餞別で貰ったルコの実が生る大きめの苗木しかない。

 ムリやこれ。


「ワウ……ワワウ(やっぱありえなかったっすね……気の利かない男はモテないっすよ)」


 うっせえ。


「あー……悪いなぁ、融通利かなくて」


「いえ……期待してたあたしも悪いから……」


 やばい、空気がちょっと重たくなってきた。

 こういう時は……。


「おおっと、そういえば朝から何も食べてなかったなー。そうだ、久々に食堂でご飯でも食べよう! いくぞ犬。それじゃあなマレル」


「ワウ……(逃げたっすね……)」


 うるせい!

 三十六計逃げるに如かず、このまま食堂へレッツゴーだ。




「あ、ムゲンく……行っちゃった。そういえばあの子のこと伝え忘れたな。でも食堂に行くって言ってたしちょうどいいよね」






 気まずくなった雰囲気の場からの退避……ではなくお腹がすいたので食堂へとやって来た。

 相変わらずここも盛況のようだ。


「さーて、何を食おうかな。やっぱりいつもの激安定食で……おや?」


 思わず足を止める。

 その理由は、以前は置かれていなかった立て看板がカウンターの前にその存在を主張するように立っていたからだ。

 何やら献立に関するお知らせのようだが……。


「えーと……なに!」


 その立て看板には可愛らしいデフォルメされた食事の絵と共に書かれていたのは……。


[期間限定! ゴールドランク魔導師様のみの特別メニュー!]


 何だと!?

 まさかのゴールドランク魔導師限定の特別メニュー!

 しかも期間限定ということは、他大陸の長期任務に就いていたら食べられない可能性が高いまさにレアなメニューということか!


「よし! 今日はこれで決まりだな!」


「ワウワ……(いや、でもなんかどことなく怪しいような……)」


「おばちゃん、ゴールドランク魔導師の特別メニューください!」


「ワウ……(無視されたっす……)」


 人というのは"限定"だとか"希少品"という言葉に弱いのさ。

 まぁ何事も試してみなきゃ、食ってみなけりゃわからないし、モノは試しってやつだ。


「ワウン……(でもぼくにはどうにも嫌な予感がする気が……)」


 まったく心配症だな、別にメシを頼んだだけで死ぬわけでもあるまいし……。


「はい、お待たせ」


「おお! 待ってまし……あれ?」


 ゴトリと目の前に置かれた食欲のそそるとても良い香りの贅沢な大盛りプレート……は別に問題ないのだが。


(今の、おばちゃんの声じゃなかったよな……)


 けれどどこかで聞いたことのあるような声でもあった。

 どこだ……何処で聞いたかわからないが何故か凄く嫌な予感がする。


(てかまだ後ろに立ってる気配がする)


 誰かはわからないが確認しないわけにもいくまい。

 私は意を決して後ろを振り向くと、そこには……。


「あら、やっとこっち向いたわね。……"ゴールドランクの魔導師"さん」


 ロリで金髪で巨乳のポンコツ女神が、何故かウェイトレスの格好で私の後ろに立っていた。


「……ナンデエエエエエェェェ!!?」


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