103話 勝利は誰の手に


 私の合図により現れたのは、どう考えてもこの混沌とした戦場に一番似つかわしくない人物、グレーデンの第一王女ラフィナだ。

 本来ならメレスの呪いにより体が蝕まれ、こんな場所へ来れるだけの体力も気力も持ち合わせないはずの彼女が何故ここにいるのかと、誰もが困惑している。


「ど、どうしてお姉様がこの場に!?」


「それに最後にアタシが確認した時よりずっと顔色がよく見える。どうして、ラフィナはあいつの呪いで苦しんでるはずなのに」


 そう、私達が出発したあの日から比べるとラフィナの顔色は全然違うものに見える。


「……ッ!? まさか!」


 慌てたメレスはすぐさまその手に持つ水晶に魔力を送り込む。

 が、ラフィナが苦しむ様子はなくピンピンしている。


「どういう……ことだ」


「どうもこうも、すべて私が先手を打たせてもらっていたということだ」


「あ、ありえん……。一体どうやって呪いを解き、ラフィナをここまで連れてきたというのだ」


「なに、ただ単に一緒に連れてきただけだ。周りには気づかれないようにな」


 そして、戦地へ向かう途中、暇さえあれば私はラフィナの呪いを解除していた。

 流石に数年間もの長い期間をもって作られた緻密な術式は、解除するのにも一日二日かけたとしても普通ならその性質を理解することすらできない程だ。


 しかし私にはケルケイオンがある。

 分析モードで複雑に組まれた術式構造を調べあげ、その中にある脆弱な部分を一つ一つ壊していくことで呪いの解除に成功した。


「そしてメレス、さっきまでのお前の言葉も私達はすべて聞いていた……」






-----






 話は数時間前、星夜達が乗り捨てた馬車の地点へと戻る。


「おっと、ここで一旦ストップだ犬」


「ガウガウ?(ん、どうしたんすか?)」


 星夜、ケント達と別れた後、私は魔物の侵攻を食い止めるためのを済ませピンチであるだろう皆の下へ向かっていた。


 が、その前に下準備を怠ることはしない。

 [map]上に記されているケント達のアイコンより少し手前、星夜達が乗り捨てたであろう荷物の詰まった馬車へ到着する。


「さてと、探しものは……お、あったあった」


「ガウン(あ、それって街を出る時に持ってたデカい荷物っすね)」


 そう、私が今回の秘密兵器と称して持ち歩いてた人一人は入れそうな大きな包。

 まぁでも、これは人一人入れそうと言うよりか……。


「入ってっからな、人が」


「ガウ?(ほへ?)」


シュル……


 私がその包装を解くと、中から出てきたのは一人の人間……そう、ラフィナだ。


「ガウン!? ガウガウ!(ちょ、ご主人!? ヤバイっすよ、誘拐は立派な犯罪っすよ!)」


「慌てるな犬。これは彼女を助けるために必要な処置なんだ」


 以前ラフィナに落としたケルケイオンを拾ってもらったことがあっただろう。

 それにより、私の頭の中にケルケイオンを通して情報が入って来た……『魔術による呪いで長い間ラフィナは苦しまされている』とな。


 あの時の何気ない出来事が今の状況を作り出したのだ……。


「それから私は隙を見つけてその呪いを解こうと考えた……が、その矢先にこの騒動だ。メレスの正体に気づき始めていた私は出発前にラフィナも隠れて同行するよう部屋へと向かった」


「ガウウン(あの時の準備はそのためだったんすね)」


 ……まぁ、最初は説得しようにも話を全然信じてくれなかったから結局は強制的に眠らせる形になってしまったが。


 そしてそのまま馬車に乗り込み、休憩時間や皆が寝静まった後の隙を見てはケルケイオンを駆使して呪いを丁寧に潰していった。


「そして……彼女は知らなければいけない。自分を取り巻く事態がどうなっているのか……メレスという人物が本当は何者なのかを……」


「ガウウ……? ガウ(ご主人……何もそこまでしなくてもいいんじゃ……? 真実を知るにしても後から言伝で充分じゃないっすか)」


 確かに私の手段はかなり残酷と言える。

 しかし、後から聞いた話や報告ではおそらく納得しない……いやできないだろう。

 今までメレスを心の支えとして生きてきた彼女にとってそんな事実は信じることはできない。

 たとえ体が元気になったとしても彼女は待ち続けるだろう、すべてが偽りで作られた最愛の人を……。


「私はそのような……生きながら死んでいるような者を見るのはもう沢山だ……」


 私の中に眠る、深い……深い贖罪の記憶……。

 人は現実を見つめることができなくなった時、ゆっくりと……ゆっくりと壊れていく。


 だから私は現実を直視させる。

 まったく、人にこんな酷な道を選ばせることしかできないから私はモテないんだろうな……。


「それじゃ、起こすとするか」


「ガウ。ガウガウ(あ、でもご主人。ラフィナさんを無理矢理連れてきたってなると、凄く取り乱すんじゃ……)」


 心配しすぎだろ犬よ。

 確かに若干無理矢理だが、呪いが解け元気になった体を見れば私のことも「あなたがわたくしを助けて下さったのですね、ステキ!」という風に信頼してくれるさ。


 てなわけで解除っと。


「ん……ここは?」


「おはようございますお姫様。まずはゆっくりと自分の体を確かめ……」


ヒュ…… ゴリ……


 強烈な右ストレートが顔面にヒット!


「いやあああああ! 人攫い! 変態! 強姦魔!」


 ジャブ! ジャブ! 左フック!

 元気になった……と言うよりか元気すぎるその拳は次々と私に繰り出され。


「あ、ちょ……待っ……話……」


「いやあ!」


「ゴハァ!」


 右アッパーが私の顎にシュゥゥゥーッ! 超!エキサイティン!!


「ガウーン!?(ご、ごしゅじーん!?)」


 まるで某3Dアクションゲームのボールの如く吹き飛ばされる私。

 いや……呪いが解けて元気が有り余ってるのはいいことなんだがな……。




 さて、なにわともあれ状況は一刻を争う。

 暴れるラフィナをなんとか落ち着かせ、今この場で起こっている状況、すべての真実を明かしていく。


「嘘です! メレスが我が国を貶めようなどと……そんなこと信じられるわけがありません!」


 流石に五年も付き添った婚約者とポッと出の誘拐犯じゃどちらを信じるかなんて明白か。


「わたくしの体を治してくださったこと……それは感謝致します。ですが、証拠もなしにあなたの何を信じろというのですか」


「それはごもっとも。ただ、状況があまりよろしくないのでゆっくり説明してる時間はないので、手早く済ませましょう」


 私は懐からスマホを取り出し、ラフィナにも聞こえるよう音量を上げる。

 すると、そこから聞こえてきたのは……。


『メレスさん……一つだけ聞かせてくれ。あんたの言う演技ってのは一体どこからどこまでだったんだ……?』


『どこから……と言われても、最初からだよケント殿。メレスという人物自体が嘘を固めて作られた虚構にしかすぎないのだから』


 ケントの声と今までに聞いたことのないような冷たい声で話すメレスの声だった。


「こ、これは……」


 これこそが今まさにこの先で行われている問題の会話そのものだ。

 それがスマホから聞こえるのは、起動されたアプリ[wiretap]によるものだ。

 別れる前にミーコのリュックにつけさせてもらったのだ、当の本人はわかってないがな。


「こんな……う、嘘です。メレスがそんなことを言うはずありません……」


 それからも聞こえてくる信じられない言葉の数々。

 それを必死に否定するラフィナだが、声は間違いなく本物のメレスのものだということは嫌でもわかってしまう。


「だったら、自分の目で真実を確かめるといい」


「え?」


「メレスや皆がいるのはこのすぐ先だ。そこで直接確かめてみれば早い話でしょう?」


 やっぱり、我ながら酷い奴だと改めて思う。

 ここで逃げ出すという選択肢を選ぶということ自体が相手を信頼していないという意思表示になるようなものだ……だからもう行くしかない。

 私にはその結果がどうなるかわかっているというのに……。


「わかり……ました。わたくしをその場へ連れて行ってくださいませ……」


 その言葉には先程までの元気はなく、震えているのがわかる。


 私は犬の背中に騎乗し、その後ろへラフィナを乗せる。


「振り落とされないようにしっかりと掴まっててください。それじゃ犬、全員に気づかれないように後ろへ回り込むぞ。ルートはこちらで指示する」


「ガウ(了解っす)」


 こうして私達はさらに[map]を頼りに後ろへ回り込み、様子を伺うように待機することに成功した。






-----






 そして現在の場面に至るというわけだ。


 だからこそラフィナはこうしてこの場に立っている、メレスの口から真実を聞き出すために。


「ねぇ……メレス、今までの話はすべて冗談なのでしょう? お願い……そうだと言って」


 ラフィナ声は震え、その歩みも力なくよろよろと進むだけ。

 無理もない、あの後も信じられない発言は続き、近くで隠れて聞いていた時でさえ……。


 しかも、メレスはこうして新魔族である自分の姿をさらけ出している。

 もはやすべてにおいて言い逃れできない立場にあることは本人が一番良くわかっているだろう。


「メレス……お願いだから……」


 ただ、それでもまだ彼女は信じている。

 自分の愛した男を……たとえそれがすべて偽りだったとしてもだ。

 ここでメレスがたった一言でも否定すれば、それだけで彼女はあちら側へ付くほどだった。

 だが……。


「ふ、ハハハ。役に立たなくなった小娘まで私を侮辱するか……。こんな姿をベルゼブル様に見られたらなんと言われることやら……」


「メレ……ス……」


 その瞬間、ラフィナは泣き崩れる。

 メレスはラフィナの愛を否定した、"裏切り者の自分を本気で愛するはずがない"という至極合理的な考えしか彼は持ち合わせていなかった。


「『睡眠導入スリープ』……」


 私はもはや意識がハッキリとしないラフィナを魔術で眠らせる。

 これ以上は……流石にもういいだろう。


 すでに奴の目にはもうラフィナは写っていない。

 あるのは何故自分が失敗したのかという疑問を解くことだけだった。


「それにしても何故その小娘を連れてこれた……。あの部屋には今でも私の部下が配置されており、問題があればすぐにでも連絡がくるは……」


ィィィン……


 メレスの言葉を遮るように響いたのは通信石が発動した音だ。

 まさかという表情でメレスが通信石を砕くと、そこから聞こえてきたのは。


『め、メフィストフェレス様! ここにいた王女は偽も……うわぁ!』


 通信はそこで途切れる。

 今の切羽詰まったセリフからしてメレスは部下にトラブルが発生したとわかっただろう。


「なんだ……今のは?」


「悪いが罠に関しても、そして通信技術にしてもこちらの方が上だったようだな」


 私は再びスマホを取り出しピポパと慣れた手つきで操作を行うと……。


プルルルル……ガチャ

『あ、ムゲンさんですか! 聞いてませんよ、新魔族が相手だなんて!?』

『私も死ぬかと思いましたよ! どこが簡単な仕事なんですか!』


「ああ、スマンスマン。でもなんとかなっただろ」


 突然一人で喋り出す私に誰もが驚く。

 だがその光景に懐かしさを覚える者がここには二人いた。


「ええ!? なにナチュラルにスマホで電話してんだよ!?」


「それに今の声は……カイルとセラか? 何故あいつらが……」


 もうお気づきだと思うが、これは私がこの大陸に降り立ってすぐに追加された新しいアプリである。


[telephone]電話 消費魔力:通話時間一分ごとに5(ただし距離により多少変化あり) スマホから発生させた魔力を帯びた物体を子機としてこちらからのみコールが可能 子機の魔力が続く限り通話可能


 ということだ。


「用心深いお前がラフィナに監視もつけずに遠出するとは考えにくいからな。こちらも出発前に細工させてもらった」


「細工だと?」


「結界魔術による認識の語弊とラフィナの身代わり。結界内では身代わりが自由に使える拘束機能も完備だ」


 魔物の騒動が起こる前から私はラフィナの呪いと、メレスの正体に感づいていた。

 後はどうやってメレスに気づかれないようにラフィナを安全に治すかが問題だった。


「最初は星夜達にでも身代わりをやってもらおうかとも考えてはいたんだけどな」


 私の『惑わしの部屋プリズムルーム』は部屋の中の対象の人や物を見る時に認識をずらしてしまう類の魔術なのだが……たとえずらしたとしても大きさは変わらないのでミーコでは凄く小さくなったラフィナに見えるし、性別の違う星夜ではすぐにバレてしまうかもしれなかった。

 そんな時に運良くラフィナと背格好が同じのセラが事態に首を突っ込んでくれたわけだ。

 カイル? ああ、あいつは結界の力で御付の侍女に見えてるはず。


『びっくりしましたよ。まさか昨日いきなり、「実はお前らは王女の身代わりで周りにいる兵士は敵国のスパイなんだ」なんて!』


 最初から説明したらボロが出そうだったしな。

 もともと緊張して口数も少なくなっていたし、丁度いいと思ったのだ。


 そして、昨日そのことをカミングアウト。

 軽く結界に仕込んだ『光紐の呪縛グレイプニルロック』の使い方を説明してやれば、本性を表した兵士どもを一網打尽にできるわけだ。


「何故……そんな早い時期から私の正体に? 姿も魔力もそのすべてが平凡な人族と変わらない完璧な隠蔽だったはずだというのに」


「以前私を倉庫へ案内する時、ラフィナと一緒にこのケルケイオンを拾っただろ? この杖はちょっと特別製でね、触れただけでその人物の魔力構造を解析しちまうんだ」


 それも、ケルケイオンのオート機能の一つである。

 だからこそラフィナが呪いに侵されていることも、メレスが普通の人族ではないことをあの時点で知ることができた。


「兎にも角にも……これであんたは正真正銘の詰みってことだ。メフィストフェレスさんよ」


 これで大人しく投降するなら後はこの国の者達に任せればいい。

 だがもし……。


「これでは仕方ありませんね……」


 奴がこちらの最も油断するポイント、つまりこちらが勝利を確信した隙を狙っていたとしたら。


「……もはや私にできるのは逃げることのみ!」


 そう! このタイミングで緊急帰還装置それを使うと思ったぜ!


「『ガウ』!(『高速戦闘移動スレイプニィル』!)」


「んなっ!?」


パリン……


 メレスが緊急帰還装置を懐から取り出したまさにその瞬間!

 犬の超高速移動による突撃がその手を襲い、奴のすぐ側で発動するはずだった"特異点"はその少し離れた地面で黒い渦を巻きはじめる。


「ガウーン!(スマネっす! 取り逃がしたっす!)」


「気にするな! 『全力強化フルブースト』!」


 ハナからそこまで高望みしちゃいないさ。

 今回の優先目標はメレスお逃がさないことだ。


(特異点発生時間は約十秒。その間だけなんとかすれば……!)


 『全力強化フルブースト』により強化されたスピードのおかげでメレスより先に渦の前に躍り出ることができた。


「どけぇ! 『地獄へ誘う手デーモンハンド』!」


「[wall]!」


 先ほど左腕の鎧に装着したスマホが私の声を認識しそのアプリを起動させる。

 改造して音声認識を可能にしたこのアプリだが、思いのほかメレスの魔術が強く、20……30……50%とスマホ内の魔力がガリガリ削られていく。


「『輝きの聖剣シャイニングブレイド』!」


 すると、いきなり横からケントの斬撃が飛んできてメレスを襲う。


「くうっ……!」


 その一撃に怯んだのか、一瞬飛び退く。

 危ない、あのままだったら突破されていた。


 そして、渦が消えるまで後2、3秒……奴の魔術はまだ生きている。


「食ら……」


パァン! パァン!


 今度は星夜の弾丸がメレスを襲う。

 それは僅か一瞬だけの隙を生む程度だったが、今の私にはそれで充分。


「オラァ! [stun gun]!」


 もはや別の魔術式を組み上げる時間すら勿体無いと感じた私は、『全力強化(フルブースト)』で強化された拳に[stun gun]を乗せた拳を速攻で放つ。


「この……ガキ共がぁああ!」


 その一撃で吹っ飛んでしまえば復帰は不可能。

 特異点の渦もすでに小さくなり、静かに消滅していく。


(できれば"その先"へ行ってみたくはあったが……この状況では流石に無理か)


 おそらくこの先にいるのは七皇凶魔、“暴食”のベルゼブル。

 サティから聞いた、おそらく特異点に関して一番詳しいであろう人物……。


「過ぎてしまったことは悔やみすぎないのが私のモットーだ。さて、それじゃあ後は奴を……」


「このクソ共が! 貴様らは必ずこの場で消させてもらう! ぐう……!」


 最後の逃げの一手さえも潰されたメレス。

 しかし、やはりだが投降する気はない。


 奴は、あろうことか発生させた魔術の魔術の手……その親指で自分の胸を突き刺したではないか!


「な、なんだ!? 自害か?」


 ただの自害……にしてはいささか様子がおかしい。

 奴の魔術だけでなく、辺りのマナや大気までもがメレスが自身を突き刺した部分へゆっくり吸い込まれるように集まっていく。


「限! 奴が何をしているかわかるか!」


「これは……皆、とにかく遠くへ離れろ!」


 今わかった。

 あの野郎、自分の心臓を"炉"にして瞬間的な魔力膨張を行ってやがる。


「あわわわわ……何アレ!? すっごいブクブクに膨らみながらこっちに近づいてくるよ~」


 回路を通りきらなかった魔力が溢れだして体が膨張しはじめたな。

 こうなってしまえば最後には耐え切れなくなった魔力が暴走し、あたり一面を無に帰すほどの大爆発を引き起こす。


「う゛……ハハ……ハ……これでぅぇ……わたしぃの……任務は……あ゛……完り゛ょうする!」


 くそっ! 最後の最後にここまでするか……。


「マズいよ、揺れのせいでまっすぐ立っていられない」


 メレスが膨張するに連れて周囲の揺れも大きくなる。

 それに、あそこまで大きくなってしまったらその被害は何処までおよぶかわからないぞ。


「ごれ゛でお゛わ゛り゛……」




……ズン!




「!」


 それは突然の出来事だった……。

 急に空が暗くなったと思ったら、揺れも、大気の震えも、メレスの膨張も、そして私達の動きもすべてがピタリと止まった。


 いや、止まったという表現よりかは、という方が正しいかもしれない。


「な……」


 それは……突然現れた。


「なんだあれは!」


 突如私達の頭上に現れたのは、とても巨大な岩の塊……というか島と言っていいほどとにかく巨大だ。


「が……ぁ……何故爆発が止まるぅぅぅ……」


 私には感じることができる……これは魔力の波動だ。

 それもとびきり強力な重力属性の魔力。


「い、一体どうなってますの……」


 皆その重力の影響で動けず困惑している。

 が、これはこちらに舞い込んだ千載一遇のチャンスだ。

 あの謎の超巨大飛行物体はゆっくりとだが私達から離れていっている。

 攻めるなら、今! ここしかない!


「おおおおお! いくぞ、《地》属性装填! 全開術式展開! 『喰らい尽くす大地エターナルジオグリフ』!」


ゴゴゴゴゴ!


「きゃあ!?」


「こ、今度はなんだ?」


 私の魔術で大地が裂け、裂けた切れ目は牙のように変化する。

 それが何層にも続いていき、魔力ダルマとなったメレスを吸い込むように喰らう。

 さらに巨大飛行体から発っせられる重力が奥へ奥へと押し込んでいく。


「封圧!」


 そしてそれを圧縮!

 これで爆発を地中内で最小限に抑える……が、やはり魔力の膨張が大きすぎたせいか完全には抑えきれていない。


「オワリ……ダ!」


 もはや逃げられない。

 巨大飛行体が遠のくにと同時にメレスの中に溜まっていた魔力は再び躍動し、解放された。

 そして、地中から飛び出した爆発は、無情にも私達を飲み込んでいった……。






「俺達……確かに爆発に巻き込まれたよな?」


「ええ……辺りにも、その形跡もありますし……」


 結論から言うと、私達は死んでいなかった。

 全員無事……だがメレスが起こした爆発の跡は、この周囲にハッキリと残っていた。


「ど……して?」


「限、お前がやったのか?」


「いや、これは私じゃないさ」


 その時不思議な事が起こったとばかりに皆困惑しているが、私……それともう一人は何が起こったか理解しているようだ。


「え、あれ? これってもしかして……ママ?」



「ええ、その通りよフローラ」



「「「「「!?」」」」」


 突然のその声に皆が上を見上げると、そこにはフローラによく似た、だけどフローラより大人びた美しい女性が浮いていた。


「いやぁ間一髪だった。助かったよ……ファラ」


「ホント、"インくん"は昔からいっつも無茶ばかりするんだから」


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