98話 世界樹を防衛せよ
さて、そんなこんなで王宮へ戻ってきたわけだが……。
どうやらそのまま王様のところへ直行らしい。
「こ、ここが王宮……」
「ど、どうしようカイル、私作法とかわかんないよ……」
私の後ろでガッチガチになっているセラとカイル。
まぁこの二人は特に理由もなくこんな場所に連れてこられたんだ、堅くなるのも無理はない。
「そんなに緊張するな……と無理には言わないが。とにかくヘタな発言をせずに私の後ろで隠れておけ」
勿論二人を魔物討伐に同行させるつもりもないし、ことが収まるまでの措置は取らせる。
二人には悪いが少々我慢してもらおう。
「ではこちらへ、連れの方はもういらしてます。あとは勇者様が到着されれば全員となります」
昨日と同じく玉座の間へ案内されると、そこには星夜とミーコ……ともう一人知らない少女が星夜の後ろに隠れていた。
かなり可愛い子だ、それだけでも星夜に問い詰めたいことは変わりないのだが、その他に気になる点を上げるのなら。
(浮いてる……よな、物理的に)
それにあの子から感じる独特の魔力はどことなく懐かしいものを漂わせてるような感じが……。
「あ、星夜さん! ミーコさん!」
「本当だ、こんにちは星夜師匠!」
「師匠はやめろ……」
私が考え事をしていると後ろでビクビクしていた二人が星夜達へ駆け寄って行く。
まぁいるだけで緊張するような場所で知り合いと会えたから安心したんだろう。
しかし星夜が早いのは以外だったな。
星夜とミーコのコンビならこちらに気を使って今頃は街を出る参段でもつけてるかと思ったが。
どうやらあの隠れている女の子が一枚噛んでいそうだ、その辺詳しく聞いとかないとな。
「なぁ星夜、その後ろにいる……」
バァン!
「待たせたな諸君! 国の一大事と聞いてこの勇者ケントが駆けつけたぜ!」
私の言葉を遮って扉が勢い良く開いたと思ったら
「あれが……勇者様」
今となっては私にとって馴染みのある同郷の者だが、正体を知らないセラとカイルは羨望の眼差しを向けられていた。
「お、星夜とムゲンも揃ってるな。まったく祭り前日だってのに穏やかじゃないよ……ん? 星夜、その後ろのはなん……」
どうやらケントもあの子の存在に気づいたようだ。
しかし、しっかりとその姿を確認した後、少し無言になった。
そしてそのまま星夜の方へ歩き出して……どうしたんだ?
「お嬢さん、できればあなたの名を聞かせてもらいたい!」
おい。
まったくこいつは……本当に美少女ときたら見境がないな!
「ケ、ン、ト、様……」
「あ、く、クレア……。こ、これはただ単に興味本位で聞いただけで別に深い意味は……」
なんていうかこれは……女遊びが好きな夫とそれを睨む妻といった夫婦漫才だなこりゃ。
とにかく私もその子については星夜にいろいろ聞きたくはあるが。
「うむ、皆揃ったようだな。それではメレス、始めてくれ」
どうやらその時間は無いようだ。
王様の号令で静まった部屋でメレスが事件のあらましを説明し始める。
「事態が発覚したのは昨日の夕刻です。『世界樹』周辺に大量の魔物が現れたと先程早馬による伝令がありました。しかもその中にはこの街へ進行する集団もおり、早くても三日……いえ二日後には押し寄せてくるでしょう……」
思った以上に事態は深刻らしい。
街へ繋がる幾つかの拠点の兵士の話を聞く限り、その魔物達はどこから湧いて出たのかもわからず為す術もなくやられてしまったとのこと。
「すでに第一防衛拠点と第二拠点は崩されてます。民衆へはすでに祭りの延期と街が防衛対戦へ入ることは伝わり始めているはずです。残る防衛拠点にもすでに兵の配備を開始しております」
準備がいいな、さすがにコネだけでなく物事を動かす能力はあるらしい。
さて、そうなると現在この国における三強であるケント、星夜、そして私の役目は……。
「勇者殿、魔導師殿方には世界樹近辺による大量の魔物の掃討をお願いしたいと思っております。今回は現場指揮として私も同行いたします」
人が増えればその分足は遅くなる、多くの兵を近場の拠点に駐屯させ小群を抑え、少数精鋭で大群を叩く……か。
「すみません魔導師殿……調査へ赴いただけのあなたやお連れ様の手をお借りしてもらって……」
「気にしないでいいですよ、こちらとしても世界樹に魔物が現れたとなってはおちおちと調査もできないので。勿論いただくものはいただきますけどね、王様」
こちとら慈善事業でやってるわけじゃないからな。
国の一大事に化成するのだからそれなりのものはもらっておかなければ。
「うむ、わかっておる。此度の件が落ち着いたら魔導師ギルドを通して相応の報酬と評価を約束する」
よし、交渉成立。
これなら帰った後でも任務やレポート提出が無くとも長期間研究に没頭できるかもしれない。
「さて、何故魔物が暴れだしたかは依然不明ですが各人は……」
「不明じゃないよ! あいつらは世界樹を狙ってるの!」
突然メレスの言葉に先程から星夜の後ろに隠れていた女の子が声を上げ皆が驚いた表情になる。
「なんでか知らないけどあいつらはママ……じゃなくて、世界樹の中心部のマナの源を狙ってるの! 今までそんなこと一度もなかったのに……だから早くあいつらを追っ払って……モゴモゴ!」
部屋中の誰もが彼女の怒号に放心していると、星夜がその口を抑えなんとか抑えてくれたようだ。
「すまない。メレスさん、こちらのことは気にしないでいいのでそのまま作戦準備の指揮を」
「は、はい。では皆さん、早急に先程の内容を各員へ通達! 準備が完了し次第出発をお願いいます!」
メレスの号令によりそれぞれが慌ただしく散っていく。
さて、ということで私達も支度をしなければならないが、その前に……。
「星夜、とりあえず後ろのその子を紹介してもらいたいんだが」
「そうだそうだ、そんな俺好みの可愛い子といつの間にか知り合って。どういうことだ」
「へぇ……ケント様はああいった子が好みなんですか……」
「え、あ、いや……モチロンクレアもジュウブンミリョクテキでゴザイマシテ……」
もういいからお前らはあっちで漫才しててくれ……。
とにかく何やら事情を知っているような発現をした彼女には少々話を聞きたいところなんだが……。
「……」
どうやらこちらには警戒心バリバリのようだ。
「スマン限、オレもこいつのことはよくわからなくてな。以前助けたことがあったからオレには懐いてくれているようなんだが……」
そういうこと、まぁそういう理由でもなければ警戒心が強いのはなんとなくわかる。
じゃあまずはその辺の確信から質問を投げかけてみるかな。
「……なぁ、お前精霊族だろ?」
「ふにゃ!? どうしてわかったの!?」
「どうしても何も、お前から感じられる魔力は基本的な肉体を持つ種族と巡り方がまるで違うからな」
精霊族が他種族と変わらぬように肉体を得ようとする場合、周りから得たマナを自らの魔力へ変換して生成される。
ただ、肉体で魔力を生み出している種族と違い体自体が魔力で構成されているため、その性質がまったく異なる。
「そのため多少自然の理に逆らって行動できる。例えば……地面に足をつけないで行動できたりとかな」
私の説明で皆の目線が一斉に精霊族の子の方へ向き直る。
「ほへ? ……あ! やば」
皆の視線にやっと自分が浮いてることに気づいたのか、シュタっと地面に足をつける……が、今更そんなことをしてももう遅い。
「で、でもでも! 精霊族ってここまでハッキリと姿が見えることもないし、言葉だって普通の人には何言ってるかわからないもののはずだよ!?」
そう言ってケントの後ろから出てきたのはエルフ族のランだ。
確かにエルフ族の彼女ならこの子が精霊族だということには異を唱えるだろう。
しかし……。
「精霊族には個々によって扱える魔力の差が大きく離れている個体が稀にいる。生まれた時から高密度のマナを扱えるのであれば人の形を成すのは私達が息を吐くのと同じぐらい簡単なはずだ」
実際、あいつがそうだったからな。
素質のある精霊族なら極めれば同じように人と何ら変わりなく過ごすことが可能だろうが、そんな物好きはほとんどいない。
だが逆にそういった個体が生まれてくることはほとんどない。
強大な力場や力ある存在の側で生まれたのなら可能性はあるが、そのほとんどが耐え切れずその力を失い普通の精霊となる。
確実に成功させたいのであれば、その精霊の"親"がその力場から守りつつ徐々に慣れさせる……といった手法が必要なはず。
だとすれば、この子の親はかなりの力を持つ精霊……ということになる。
この辺りでそんな存在となると……。
「もうそこまで知られているのならもういいんじゃないか……。オレもまだまだ聞きたいことはあるし、ここらでもう一度自己紹介してくれ」
「うう~……わかったよぉ。えっと……あたしはフローラって言います。指摘された通り精霊族です……」
星夜にも言われてどうやら観念したようで、再びふわりと浮き上がり若干ふてくされた様子で自己紹介を始めた。
「フローラちゃんか、いやぁ名前も可愛……。コホン……それで、どうして精霊族の君がここに?」
デレデレするケントとそれを射殺すような目で睨むクレア。
途中から真面目な顔して話してももいろいろと手遅れだぞ……フローラはケントのことをかなり警戒してるようだし。
「あたしはただお家に帰ろうとしてただけなの……でも、そしたらお家の方向から凄い嫌なマナの乱れを感じて……。このままじゃあたし帰れないし、あの魔物達は世界樹……ママの力を狙ってるの!」
……なんとなく、私にはフローラという人物がどういうものかわかり始めてきた。
「つまりお前の母親は、世界樹に宿り狙われる程の力を持った存在というわけだな?」
「そうだよ、ママは人族から“精霊神”って呼ばれてる凄い存在なの。ママは世界樹から離れられないから今は守ってるだけだけど、本当は凄く強いんだから!」
その言葉に全員がざわつきはじめる。
この大陸に存在する七神王の名を知らない者はこの場にはいないだろう。
“精霊神”……もしやとは思ったが本当にフローラの母親なのか。
「では、あの魔物達は精霊神の力を狙っている……ということですか?」
動揺からいち早く復活したメレスがフローラへ尋ねる。
「そう! だから早くあの魔物達をやっつけてママを安心させて! あたしをお家に帰れるようにして!」
なんていうか、随分と勝手な奴だな。
精霊族としてはまだ幼い部類だろう。
「わ、わかりました。一応その点は考慮しておきます」
とりあえずフローラについてはこんなところだろうな。
どうあれ、突如現れた黒い魔物を倒すことには変わりない。
私達も早く戦闘に向かう準備をしなければな。
「メレス!」
「ラフィナ様!? どうしてここへ……」
話も終わり、それぞれが準備に取り掛かろうとする中へラフィナが息を切らしてやってきた。
その様子を見るに、かなり辛そうだ。
「はぁ……心配で……はぁ……来てしまいました。あなたも出陣すると聞きましたから」
本当に一途な人だな、その体じゃ辛いだろうに。
「心配せずとも出陣の前に顔は出すつもりでしたよ」
「それでも、いてもたってもいられなくて……コホ」
「もう部屋へ戻ろう、私も付いて行きますから。それでは皆さん、二時間後に西門へ集合をお願いします」
そう言い残しいそいそと二人は部屋へ戻っていく。
うーん、やっぱり恋をするならああいう一途な子に慕われるのが一番いいよなぁ……。
何時かは私にもああいう……。
チョンチョン
「ねぇねぇゲンちゃんゲンちゃん」
「誰がゲンちゃんだ」
誰かが指で私をつついてると感じ振り向くと、そこにはあの精霊族のフローラが立って……浮いていた。
どうやら私達のことはすでに星夜から紹介されているらしい。
「だって一番年下だし……それになんだかゲンちゃんは他の人と比べて親しみやすい雰囲気? みたいなのがあるの。なんでだろね?」
「私に聞かれても困る」
もしかすると、精霊族は魔力に敏感だからその相性もあるのかもな。
「それで、何か用か?」
「あ、そうだった。ねぇねぇ、もしかしてさっきの二人って……恋人同士だったりするの?」
そこ気にするのかよ。
てか自分の住処が危ない状態なのに結構お気楽だな……それだけ“精霊神”である母親を信頼してるからなのかもしれないが。
「というか何で私に聞く、星夜に聞けばいいだろ」
私ほど突っ込んではいないが、星夜だってあの二人のことは周知しているはずだ。
「えー、だって星夜にはぁ……話しづらいというかぁ。そのための情報収拾というか相談って言うか……もう、ゲンちゃんったら何言わせるのも~」
バシンバシン!
叩くんじゃねぇ……。
はいはいそういうことね、要するに自分が星夜にお熱だから恋愛してる人の意見を聞きたいんだな……爆発してください。
「イイカンジの二人だったよね。でもちょっと男の人の方がよそよそしいというか、ぎこちないというか……何だろ?」
「まぁ……いくら婚約者でも王女と宰相。大衆の前じゃ立場ってものがあるだろ」
「そうかな~」
それよりもだ。
私はまだ少し納得のいっていないフローラを引っ張って星夜の方へ向かう。
「ほら星夜」
「……何故オレに渡す」
「理由はどうあれ連れてきたのはお前だろ。だったら事が収まるまで面倒見るのがスジだろ」
「それもそうだな。フローラ、暫くはオレと来るか?」
「わーい、星夜大好きー!」
飛び込むフローラの頭を片手で抑えて止める星夜はやれやれといった風に肩をすくめる。
「フローラちゃん、もし良かったら俺と一緒に行動してもいいんだよ!」
「ヤダ」
「ケント(様)(くん)」
ケントはケントで平常運行。
後ろでハーレム三人も覚めた目で見ていらっしゃる。
「とにかく、私はセラとカイルの事情を話して対応してもらいにいくからそろそろ行かせてもらう」
私は二人を連れてささっと歩き出す。
さて、二時間後にはもう出発か……時間は限られているから、なるべく急いで事を済ませとかないとな。
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