93話 テンプレ勇者は例のアイツ?


 てなわけでついに、王都『グレーデン』に到着だ。

 早速いい匂いのする方向へダッシュ!


「ふむふむ、こちらの地方の味付けは結構濃い目なんだな。日本のジャンクフードに慣れた舌にイイカンジだ」


「ワウ……(街について早々何してるんすか……)」


 見てわからんか、飯を食っている。

 王都到着後、私達の目に飛び込んできたのはこれでもかという程の人の賑わいだ。

 しかもあちらこちらに露天が並んでいて、その香りは私の食欲のスイッチにビビッと響いてきた。 


「星夜も一口どうだ?」


「いらん。しかしなんだこの街の賑わいようは、祭りでもやっているのか?」


 確かに星夜の言う通り賑わい方が他の街と全然違う。

 どこを見ても、子供も大人も普通の人も裕福そうな人も、皆笑顔で街を歩いている。


「あれ、知らないんですか? この王都ではもうそろそろ年に一度の大祝祭が開催されるんですよ。私達もそのためにここまで来たんですから」


 私の疑問にセラが答えてくれた。

 しかし大きな祭りか、二千年間この世界を留守にしていた私には今の世界情勢などサッパリだからな。


「ま、まぁ私は他大陸からやって来たからその辺の情報はあまり詳しくなくてな」


「そうですか、結構伝統あるお祭りで中央大陸からも来る人はいるんですけど……まだまだ知名度が低いんでしょうか」


 いいえ、私が特別なだけです。

 とにかく、ちょっと気になるからお祭りについてもう少し詳しく聞いておくか。


「祝祭と言うが一体何を祝うんだ?」


「主に豊穣ですね。この地域は世界樹『ユグドラシル』から発生するマナの影響で人々は豊かに暮らせています。その世界樹が一番活発になるのがこの時期なんです」


「この時期に僕達が旅をはじめたのも最初にこの祭りに参加してからにしようと思ったからなんです」


 なるほど、どうやらこの第四大陸の人間にとってこの祭りはかなり大きな意味を持つようだな。

 さらに聞いた話では、世界樹の恵みの恩恵は町や村の大小に関わらずに分け隔てなく受けることができる。

 そのお陰で貧困も殆ど無く他大陸に比べて奴隷なんかの数も少ない……無いわけじゃないけどな。


「あの場所は危険区域と呼ばれていますが……それは世界樹に近づくと危ないだけで、この大陸に暮らす私達にとってはとても大切な存在なんです」


 魔導師ギルドで閲覧した資料には、大陸の中心に広範囲に根を張っており、中心に行くほど高濃度のマナが散布している危険な場所と書かれていた。

 確かに高濃度のマナは上手く扱えない人間には毒だしそれを求める強力な魔物も多く集まってくるだろう。


(まぁものの全景を見ずにその場所だけを調査した奴が書いたものだろう。私もそこは注意しないとな)


 そう、私の今回のミッションの一つはその世界樹の調査だからな。

 キチンと正しい情報を世に伝えないとな。


「ワウ? ワウワウ?(けどどうして調査任務を受けたんすか? ご主人なら前世の知識で大抵の場所のことなら知ってるはずじゃないっすか?)」


 確かに私は二千年以上前にこの世界を統治した魔法神だ。

 当時は世界中を飛び回っていたこともあり、もはや知らない場所はないほどだった。

 ……が、それは前世までのお話で。


「残念ながら二千年前の第四大陸には世界樹なんてものは存在していなかった」


 やはり二千年という歳月は世界に新たなモノを生み出し、すでに私の知るアステリムの全景とは差異がある部分が多い。


 第三大陸のドラゴスの住む『龍の山』のように人為的に手を加えられたもの。

 中央大陸の『巨人の爪痕』のように自然の力によって変化した場所。

 そして、第二大陸の『幻影の森』のように私の理解が届かない謎の現象で生まれた場所……。


 などなど、大まかな形は変わらないが中身はこのように各所で変化が起きている。


「それに前世の私が知らない場所なら、もとの世界に帰る手がかりも少しは見つかるかもしれないだろ」


 それが今回の任務を選んだ理由でもある。




 それから数時間して護衛の依頼主が街での手続きを終え、私達にそれぞれ配当金が配られた。

 これで晴れて任務完了というわけだ。


「やったねカイル、私達の発給金だよ!」


「うん、大事に使おうね」


 初々しいな。

 昔は私にもこんな頃が……あまりなかった気がする。


 前世の若い頃(といっても500歳くらいだが)に故郷の村の地下室から出ることを決意した時には、私にあまり感情というものは存在しなかった。

 存在したのは知識欲だけで、そこから世界を回る内に沢山の人とのふれあいを得てはじめてインフィニティという人物が形成されたと言っていい。


 今考えるとクール系の主人公だな前世の私。

 クール過ぎて「恋をしたい」という感情が最後に芽生えてしまったのが問題だったが。

 ま、今となってはいい思い出だ。


「これで暫くは持つか……。ミーコ、いつものように管理を頼む」


「わか……まひた」


 布袋にお金をせっせと入れるミーコ。

 パンパンになるまで詰め終えほっこりとした笑顔に保護欲が掻き立てられる。

 しかし打って変わって星夜組は手慣れた様子だな、数年間こんな感じだったんだろう。



 ちなみに私の分の報酬はギルドに手配されることになっている。

 そのお陰もあり、ギルドカードを見せることで余計にかさばる金銭を持ち歩かずに買い物が可能になるわけだ。

 それに各所に点在している支部に行けば必要最低限の金銭は補助してもらう事もできる。


(まるでクレジットカードや銀行みたいなシステムだよな)


 こういった点も魔導師ギルドが他のギルドに比べて一目置かれる部分でもある。


「さて、無事依頼も完了したわけだが……皆はこれからどうするか決めてあるのか?」


 人の出会いは一期一会、誰しもが同じ道を歩いているわけではないので別れはかならず来る。


「私達はこれから宿を取りにいくんです。祝祭が終わるまではこの街に滞在するつもりなので」


「そうか、けどこの賑わいようでまだ空いている宿があるかどうか怪しそうだな……」


「あ、そこは大丈夫です。僕の親戚がこの街で宿を経営してて、部屋を空けといてくれるって」


 セラ、カイル組は宿探しか。

 親戚が経営している店なら安心だな。


「ムゲンさんは?」


「私はこれから用事である場所に行くんだ。宿泊もそこで済ませられるだろうから……ここでお別れだな」


 まぁ私も数日はこの街に滞在するつもりだからまたどこかで会う可能性はなくもないがな。

 残るは……。


「星夜達はどうするんだ?」


「特に決めてはいない。元々オレ達の旅には目的はないからな、適当に宿を取って気が向いたら出発……と、思っていたんだがな」


 流石にこの観光客がひしめく街で空いている宿を見つけるのは奇跡に等しいだろう。


「セラ達の宿は……」


「ごめんなさい、流石に無理だと思います」


 まぁこの稼ぎどきに部屋を開けておく理由などよっぽどのことがない限りありえないか。


「仕方ない、今日のところは野宿するしかないか。この街に長居する理由もないから明日の朝にでも別の村を探してみるさ」


「そ……ですね……」


 野宿、特に悪い案でも無いか。

 街の中も外も、テントを張ってでもこの祭りに参加したいという者は多いようでその準備をしている姿が見受けられる。

 だが星夜にはそんな準備はない。

 野ざらしで数日間過ごすより、ささっと次を目指すほうがリスクは無いと考えたんだろう。


 が、私は見逃さなかったぞ。

 星夜が次の場所を目指そうと言った瞬間にミーコの顔がちょっと残念そうな顔になったのを!


「なぁ星夜、物は相談なんだが……」




 その後、私達はセラとカイルに別れを告げギルドの任務、その最初の目的地を目指していた……星夜達と一緒にな。

 せっかくのお祭りなのだから、それを楽しめないのはもったいない。

 なので、私の連れとして依頼の場所に一緒に泊めさせようという考えだ。


「しかし本当にいいのか? いきなり人が増えるとなれば先方も困惑するだろう」


「大丈夫さ、魔導師が前衛の護衛を連れて移動することはよくあることだ」


 その点に関して星夜は申し分ない。

 数年旅をしてきた戦闘のプロ、凄腕の魔導師の連れとして十分納得のいく人材と言えるだろう。


「部屋に関しても事情を言えばなんとかなるだろ」


「随分と融通が利く先方だな。となると相手は貴族か何かか?」


「それは着いてからのお楽しみだ」


 それから数分間歩き、先程の賑わっていた大通りとは少々雰囲気が変わり、きらびやかな服装の人物も増えてきた。

 そこからさらに道をまっすぐ進んだ先に私達の目的地はあった。


「なるほど、そういうことか」


 星夜はなんとなく何か察したご様子。

 目の前にあるのは……城。

 翌々考えてみると、この世界に戻ってきてから私は城とか神殿とかそういうデカい建物に縁がある気がする。


「流石魔導師ギルドのゴールドランクといったところか。しかしこんなところまで来るとは一体どんな任務なんだ?」


 お、よくぞ聞いてくれました。

 いずれわかることだったから今まで言うタイミングが合わなくて言わなかったが、聞かれたらしょうがないな答えてやろう。


「実はこの第四大陸、以前に何度か“特異点”が発生したことがあるんだ」


「なに、ならオレ達と同じように異世界人が……?」


 と思うじゃん?

 しかしそれなら世間はもっと騒ぐはず、あのポンコツ女神だってホクホク顔のはずだ。


「残念ながらこの地に異世界人が現れた記録はない。その代わりに現れたのが……大量の謎の物体だ。それが城の地下で厳重に保管されている」


「……? なんだその物体というのは?」


 謎の物体……それは、今まで見たこともない材質でできた鉄の固まり、読むことのできないカラフルな書物、奇妙な形をした様々な小さな容器……など。


「まぁぶっちゃけ言うとな、多分それ日本のゴミだわ」


「鉄の固まりは家電製品や電子機器、書物はファッション雑誌やゴシップ誌、そして容器はペットボトルかなにかといったところか」


 多分その通りだろう。

 しかしそれらは曲がりなりにも特異点を通ってこの世界にやって来たわけだ。

 もしかしたら何か帰るための手がかりが少しでも見つかるかもしれない。


「てなわけで今回この『特異点から現れた物品の調査』を受けたということだ」


 と、そんなことを話している内に正面の門に辿り着いたようだ。

 門もデカいな~……いつも比べるようで悪いけど第三大陸のアレス王国の城よりも一回り、いや二回りほど大きいか。


 さて、では早速中へ入らせてもらうか。


「どうも、魔導師ギルドの者だ。ここを通らせてもらいたい」


 城の入口の前には当然のように門番がいるが、私のキラリと光るゴールドギルドカードさえ見せればすんなりと……。


「申し訳ございません、いくら魔導師様とはいえ確認を取らなければなりませんので……」


 いかなかった。

 おおう、最近は大体これで切り抜けてきたからこんなところでつまづくとは思わなかった。


「事前に調査の連絡は送ってあるはずなんだ、魔導師ギルドのムゲンが来ると」


「そう言われましても……今は大事な時期ですので、外から来た方は厳重な審査をしておりまして。今からですと、明日には確認が取れると思うのですが……」


 ぐあ……これは完全に計算外。

 星夜にドヤ顔で任せてもらおうと言った手前これは恥ずかしいぞ。

 まぁ年に一度の大きな祭り期間だと知らずにやってきた私も悪いが……。


 こうなると今更泊まる当てが無いのは私も同様。

 今日は我慢して野宿するしかないか……?


「どうする限? オレは野宿でも構わないぞ、最初からそのつもりだったしな」


「まぁそれしか無いよn……」


ワー!


 なんだ? さっき通ってきた大通りの方がやけに騒がしいな。

 城の前なのに人もぞろぞろと集まってきて……何がはじまるんです?


「なぁ、この騒ぎは一体なんなんだ?」


 適当に近くの比較的話しやすそうな女性に話しを聞いてみる。


「あなた知らないの? 数日前に出ていたこの国の勇者様とそのお仲間が帰還されたのよ!」


 勇者? あれ……第四大陸の勇者……。

 どこかで聞いたことが……あ!


「それって女をはべらせてるっていう……」


「言い方は悪いけどその通りね。その中にはこの国の第二王女様もいらっしゃるわ。これはまさにこの国を代表する方々の凱旋なの!」


 やっぱそいつか。

 ジオから大まかな情報は聞いているが……それによると女ったらしのハーレム主人公みたいな奴って話っぽいが。



「今度は何匹もの竜の大群を切り倒してきたって話だぜ!」

「こっちが聞いたのは巨大な海の魔物を仕留めてきたって!」

「キャー! 勇者様がこっちを見たわー!」


 えらい人気ようだな。

 こちらに向かってくるのはいかにも主人公のようなイケメ……ンには少し惜しい青年。

 その周りに不釣り合いな程容姿が整った女性が三人。

 なにこれ? ラノベの世界かなにか?


「君達、そんな城の前で佇んで何か揉め事かな?」


 おっとしまった、移動するのを忘れていたせいで勇者とバッチリ話しかけられてしまった。

 さっきの女の人はいつの間にか離れてるし。


「こんな定番展開も久しぶりだな、モブが避けてくその中で唯一どかないメンバーと一悶着。そしてゆくゆくはその中の一人の女の子と仲良くなって……って男ばっかかよ! しかも一匹犬がいるし」


 なんだ……? いきなりブツブツ呟いたと思ったら突然叫びだして。

 てかこいつ顔立ちが他の奴とは違うな、どことなくアジア系の顔立ちのような……それに犬に過剰反応したよな。


「邪魔だったのならすまない、私達は……」


「でも知り合いの女の子を紹介してもらうっていう後から展開もあるか? と思ったらそっちの子は小さいが女性じゃないか」


 聞けよ。

 しかもどうやら星夜の後ろに隠れていたミーコを見つけて狙いを定めたっぽいな……本当に見境ないなおい。

 てか、さっきからこいつの言動に気になるとこがありまくりなんだが。


「ロリ属性には手を出さないって当初は考えてたけど今となってはやっぱりありかなとも思えてきたし。なぁ、そこのお嬢……イギィ!?」


 いきなり勇者のヤロウが変な声を上げたのでどうしたのかと見てみると、横にいた女性のかかとが勇者の足を思い切り踏みつけていた。

 あれは痛い……。


「ケント様、毎回毎回女の子を見つけたら周りが見えなくなる癖、直しましょうね」


「は……はひ」


 ニッコリと笑顔で勇者の足をグリグリしている……こえぇ。

 しかしこんな光景は日常茶飯事のようだな、後ろの女性二人もやれやれといった感じで見ている。


 ともかく、こちらとしては深く関わるつもりもないから適当にあしらってさっさとおいとま……。


「なぁ、お前まさか剣斗か?」


 おや? これまで後ろで沈黙していた星夜が何やら驚いたような顔で前に出てきたぞ。


「ん、なんだお前? いかにもこの俺こそがこのグレーデンの英雄として名高い勇者ケント様であることに間違いは……」


「そうじゃない。お前、高橋剣斗だろ、五年前オレと同時に日本から召喚された」


「え゛!? な……何故……それを……!?」


 星夜の一言に凍りつく勇者。

 てか私も驚きのあまり声が出ていない。


 いや……だってさ。

 星夜の言うことが本当ならこいつは五年前に星夜と共にこのアステリムに召喚された異世界人。

 でもさ……そいつって、死んだはずだろ?


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