59話 集まる思い


 時は二日前、サティが走り去った後に戻る。


「それで、どうするのムゲン君。私、やっぱりサティのことほっとけないよ」


「それは私も同じだ。いや、同じなのは私だけじゃないだろうな」


「え?」


 不思議そうな顔をするリアを横にアジトの中へと戻る。

 リアはよくわからないといった感じでついてくるが、この先に行けばわかるだろう。


「えっと、ムゲン君。こっちは……」


「ああ、広間だ」


 リアの表情が暗くなる、先程の皆の顔が頭に浮かんだのだろう。

 だが私の予想では……。


 広間に着く、そこには……。


「リア、ムゲン! お頭は!?」


 そこには先ほどまでの暗い表情をした者はおらず、威勢のいい顔で武器を磨いたり荷物の準備をしていた。


「え、皆!?」


 リアはどうも理解が追いついてないようだ。

 とりあえずリアはおいておき、話を進めようか。


「サティはレディスへ行ってしまった。それより皆、準備をしているということはやはり」


「おうよ! さっきはあまりの出来事に混乱しちまったが……今はもう大丈夫だぜ!」


 ビシッ! と親指を立ててサムズアップするムキムキ団員。

 と、思ったら後ろからスパコーン! と叩かれた。


「何が大丈夫よ! あんたは最後まで「お頭が……お頭が……」とかウジウジしてたくせに!」


「ちょ、それは言うなよ!」


 まったく、あんなことがあったばかりだというのに、立ち直りの早い気のいい連中だ。

 でも、だからこそ聞いておきたいこともある。


「皆は、いいのか? サティは新魔族だった、そして本当にお前達の怒りを吸い取り利用していたとしたら?」


 皆の顔が一瞬曇る……だが、そんな表情はすぐに消え去り。


「確かにお頭が新魔族だったのは確かに驚きだ。だけど今まで俺達を騙すために助けてくれたなんてことは思えない」


「それに、最初お頭に助けてもらった時不思議と心が和らいだ。怒りを吸い取っていたってのは本当なのかもしれない。でも、だとしたら俺はお頭に感謝するよ、あの時怒りに身を任せたままだったら俺はどうなっていたかわからないし……」


 その後も俺も私もとサティに感謝する声が上がる。


「この光景、サティ本人に見せてあげたっかったね」


 若干涙目になりながら感動するリア。

 本当に友達思い……いや、ここにいる奴ら全員が凄くいい奴らの集まりだ。

 サティ、これがお前の作った“紅の盗賊団”なんだ……。


「よし、じゃあ皆聞いてくれ。サティは既に出発してしまった。予定は早まったがすぐにでも戦闘員達は私と共に出発だ!」


 おおー! という歓声がアジト全体に鳴り響く、士気はバッチリだな。

 今から出発すれば、馬車に乗れる最大人数を乗せて馬にブーストをかけ全速力でも二日というところか。

 サティのあのスピードが維持されてるなら、明日にでも着いている頃だろう。

 だが休憩もなしにそのまま突っ込むことは流石にしないだろう。

 間に合えばいいが。


「うん! なんだかいけるような気がしてきたねムゲン君! 私も戦闘はあまり得意じゃないけどついてくよ、回復なら任せて!」


「あ、いや、済まないがリアには他に頼みたいことがあって……」


「ありゃ?」


 それに言っては悪いが回復も私がいれば事足りるしな。


「そういえば頼み事したいって言ってたもんね」


 ちょっとしょんぼりとするリア。


「わ、悪い。でもこれはリアにしか頼めないことなんだ。リアでなければ駄目なんだ」


 その言葉にピクッと反応し。


「もう、しょうがないなぁ。お姉さんに全部任せなさい!」


 そう言ってドンッ! と胸を叩く、胸はな……いやなんでもない、なんでもないぞ?


「それと、他にもいくつか頼みたい奴がいる」


「他にも?」


「ああ……おーい、隠密部隊の奴ちょっと来てくれー!」


「呼んだでござるか?」


 きたきた、なんかちょっと喋り方がおかしい奴、イタチの獣人で私はニンジャさん(仮)と呼んでいる。

 私はリアとニンジャさん(仮)にそれぞれ要件を伝え、出発の準備をする。

 すると、リアがちょいちょいと手招きしてるのが見える。


「どうしたリア、やはりさっきの要件は少し無茶たったか?」


「あ、違うの、そっちは頑張るわ。私が心配なのは……レイのことなの」


 レイ、一体どこへ行ってしまったのだろうか。

 先の出来事は、レイにとって大きな分岐点と言えるだろう。

 でも……。


「あいつならきっと大丈夫さ……」


「え、何でわかるの?」


「なに、ただの勘さ」


 レイのサティへの思いは本物だ、あれは嘘偽りのない本当の思い。

 そしてサティも……。


「信じてやろう、レイも、サティも」


「うん、そうだね」


「ムゲン! 皆の仕度が済んだぜ!」


「こちらも出発準備完了でござる!」


 よし、これで準備は整った!

 できるだけのことを、やれるだけの布石を打っていく。

 出し惜しみはしない、いつだって全力でピンチを乗り切っていく、それが私だ!


「では行くぞ! 術式展開、対象は馬だ! 『超肉体強化ハイブースト』!」


 馬に強化魔術をかけ、いつも以上の速度を出させる。

 さあ、出発の号令をこの私が……。


「皆! 今度の戦いはいつもとはぜんぜん違う厳しいものかもしれないけど……勝とう! そして絶対皆で一緒に帰ってこようね!」


「おおおおお!!!」


 ズコッ!

 なんだ? 私は号令をかけちゃいけない呪いでもかかっているのか?


「それじゃあムゲン君、私もう行くね。後で必ずそっちに向かうから」


「ああ、待っている」


 それぞれが動き出す、この国の腐敗を消すため……いや、大切な仲間を助けるために!






-----






 ってなわけで現在に至る。


「と、いうわけで我ら“紅の盗賊団”満を持して只今参上!」


「ムゲン、皆……」


 まるで信じられないものを見るかのように目をパチクリさせるサティ。


「な、なんだ貴様らは!?」


 私達の登場に動揺したのは敵さんも同じようだ。

 というかあの領主は私のことを覚えてないのか?

 まぁ奴は遠目で見てただけだしな。


「ふん、だが所詮烏合の衆が寄せ集まった所でこの魔導鎧軍団をどうにかできるものか」


「それはどうかな? とりあえずさっさとサティを返してもらうか。カモン! 岩石生命体ストーンゴーレム!」


ボコボコボコ……


「ぬ! な、なんだこの音は!? 足元から聞こえてくるよう……ぬわあ!?」


 領主が足元を覗いた瞬間、ドゴンッ! と地面が突き上がり二体の岩石生命体ストーンゴーレムが現れサティを抱えてこちらに戻ってくる。


「はっはっは! 注意力が散漫だな! 力の差があるとわかっていてこの私がなんの準備もなしに戦う訳ないだろう! ほ~ら、もういたる所にゴーレムが潜んでいるぞ~」


「な、なに!?」


 まぁ実はハッタリなんだけどな。

 全魔力を使用したとしても最大で五体、しかも結界が張ってあるこの場所でその数を維持しようとしたらものの数秒であの世行きだ。

 だがそれでも、私のハッタリに領主達は動けなくなる。


「はぁ、だっさ。なにそんなつまんないハッタリに引っ掛かってんの? ここら辺に見える魔力からはそこの二体以外全然感じないし……」


 上から全体を見ているリヴィがあっさりとばらしてしまう。

 やはりあいつを騙すのは無理だったか。


「なっ! 貴様、小癪な真似を!」


 領主の激高と同時にサティを抱えたゴーレムがこちらに戻ってくる。

 ハッタリはばれてしまったが当初の目的は達成したので全然問題ない。


「大丈夫かサティ、『再生治癒ヒーリング』」


「うっ! ふぅ……」


 かなり無茶をしたみたいだな、姿もいつもの人族のものに戻ってしまっている。


「ありがとう皆。でも、どうして……」


「文句なら後で聞く。今はただ勝つことだけを考えるんだ」


「あ、ああ」


 この状況……お世辞にもいいとは言えない。

 魔導鎧が十体、それだけで私達との戦力差は大きい。

 しかも例の新型はまだ出てきていない。

 そしてリヴィ、奴が最後の関門だ……この結界内で自由に魔術が使える向こうに対してこちらには限りがある、サティもほとんど魔力が残っていない状態だ。


 だが私はこんな状況でも絶望はしない、勝利を……仲間を信じているから。


「しっかし馬鹿の集まりだねぇ。こんな勝ち目のない戦いなんてやめてさっさと逃げちゃえばよかったのに。そんな出来損ないのクズなんて放っておいてさ」


「てめぇ! それ以上お頭のことを馬鹿にすると本当にゆるさ……」


スッ……


 リヴィの煽りに激高しだす団員達の前に出て静止させる。

 これは、好都合だ……。


「私達は自分の意志でこの場所に来た、お前にとやかく言われる筋合いはない」


「え~、だって今の状況を見てごらんよ。これで本当に勝てると思ってるの? それともお得意の魔術でもぶっ放してみる? 全部無駄に終わるだろうけどね」


「まったく、よく動く舌だ」


「なんだって……」


「さっきも言ったようにそんなことは百も承知だ。だから策を練る、戦いとはそういうものだろう?」


 奴の余裕に対して今度は私が煽りを入れていく。

 人を馬鹿にしたかのような顔に若干のイラつきがちらついた。


「はぁ? 君の策なんてどうせさっきのハッタリぐらいでしょ。それに乗じて逃げる算段でも立ててたぐらいでしょ」


 少しだけ声が荒くなる。

 どうやら人を煽るのは好きなのに自分が煽られるのは凄く嫌なタイプか……ガキだな。


「ふぅ、どうやら感情に流されて周りがよく見えていないようだな。いや、今まではそんなもの気にする必要もなかったか、本当の戦いを知らない子供のようだしな」


「言わせておけばいい気になって! もういい、皆遠慮しないでやっちゃえ!」


 やっとその気になったか、だが少し遅かったようだな。

 この勝負、貴様の戦力よりも私の信頼の力の方が上だったようだな。

 時間稼ぎはもうお終いだ!


「やれやれ、本当に周りが見えなくなってるようだな。こんなにも、この周囲にいくつもの魔力反応があるというのに」


「は、何を言って……い……る。そんな、奴らは!?」


「私も彼らが来てくれるかどうかは、正直賭けだった」


 リア、どうやら上手くやってくれたみたいだな。


「サティ! 助けに来たよ! 私達エルフ族は、穢れた今を捨て去り希望の未来を探すために立ち上がりました」


 リアの声が響く、隣には親父さんもいるな。

 てか頬が一部赤いけどどうしたんだ?


「まったく、娘に説教しようと思ったらここまで反発されるとは思ってもみなかったわい。だが、お前の『変化』……身に染みて感じることができたことは嬉しく思う。その思いが皆の心を動かした、友を助けたい純粋な心がな」


「もう! いつまでも恥しいこと言わないでよお父様! 本番はこれからなんだから失敗しないでよ」


「誰にものを言っている、私は集落の中では精霊への頼み事は一番上手く……」


「いいから! 行くわよ、皆! せーのっ! ―――――――――――!」


 キーン……とした音が辺りに聞こえる。

 普通の人では気付けない特殊な声……そう、精霊族にお願いする時に発せられる特殊な魔力の波長。


「なんだ、今のは? 答えろよ! 今あいつらに何をさせた、今の変な魔力はなんだ!」


 焦ってる焦ってる。

 そうだよな、自分の思うように事が進まないとだんだん不安になってくるよな。

 お前のような奴は特に……な。


「なに、彼らにはちょっとしたお願いをしてもらっただけさ」


「お願い?」


「そう、この状況を逆転する、最高のお願いをな!」


ポウッ……


「ッ! これは」


 私の、いやこの周辺全体の地面が淡い緑色に輝き始める。

 その光には文様が刻まれている、途中途中で途切れているどこか不思議な文様。


ズズッ……


 そして、その下からさらに紫色に妖しく輝く文様が浮き上がってくる。


「なっ!? これは、ボクが仕掛けた結界!?」


「一つ教えておいてやろう。この私に同じ手は二度と通じん」


 戦いとは常に進化していくもの。

 知らない力、自分の能力を研究されること、自分より遙かに強い敵が現れること。

 そんなことは当たり前、だから私も常に進化し続けなければならない、そうしなければとても2000年間生き残ることなどできなかったからな。


「今回私が頼んだことは貴様の結界術式を浮かび上がらせることと、それに重ねるように私の考案した術式を描いてもらうことだ」


「それで、ボクの術式を破壊しようってのかい。なかなかやるね……でも」


「でもそれだけじゃこの戦力差は埋まらない、そう言いたいんだろう?」


「……」


 おいおい、そんなに睨みつけるな。

 本当に中身はガキ……いや、外見もガキに見えるか。


「この間地下で捕まってる時に散々研究させてもらえたんだ、この程度で終わると思ってもらっては困るな」


 地面……より少し上の二つの術式に手を当てる。


「術式を壊すのにだって結構な魔力を使う。だから、逆に利用させてもらうことにしたのさ! 行くぞ、術式改変『結界回生陣リザレクション』!」


 二つの文様が重なり合う。

 緑色の光の文様の空きに紫色の光ががっちりとはまる。

 やがて一つの文様が完成する。


「そんな、ボクの結界を……利用したっていうのか?」


「ムゲン、凄い」


「ま、私だけの力じゃないがな。ちなみにこの結界は予め私が埋め込んだ受信術式を持つ者だけが恩恵を受けられる回復と強化のサポート陣に変わった。ほれ、サティにも受信術式をやろう」


「ありがとうムゲン、力が漲ってくる。新魔族化はできないけど、これでまた戦える……皆と一緒に」


 サティもだんだん元気を取り戻してきたようだ。

 きょろきょろとしながら表情がまだ少し暗いのは、この場にいない団員のことを考えているというところか。


 さて、ここまでは私の予定通り……考えなければならないのはここからだ。


「ここまでボクを馬鹿にするなんて……許せない、絶対に!」


 あちらさんも完全にプッツンいってるよなこりゃ。

 リヴィはこのまま魔導鎧達を全力で援護するだろう……この戦場に奴の介入は避けたい。

 負傷しているサティではリヴィと戦うのは難しい。

 やはり私が行くしかないか、ここの指揮が弱まるのは仕方がないが。


「一人一人串刺しにして殺してやろう、死ね! 『水突触手テンタクルストリーム』!」


「ここはアタシが!」


「待て、ここは私に任せてサティは皆の指揮を……いや、なるほど」


 そうか、これには私達の出る幕は最初からないか。

 私は魔導鎧群に向き直る。


「む、ムゲン!? どうした、早く迎撃を……」


「その心配はない、この戦いは私達が手出ししていいものじゃない」


「え?」


 触手が私達を突き刺すために迫る。

 その時、一陣の風が吹いた。


「『烈風拳ウィンドストライク』……連斬!」


 吹き抜ける風は水の触手を切り裂きそのまま上へと上昇していく。

 サティは首飾りを握りしめ、涙を流しながらその風に乗って上昇する人物を見つめていた。


「レイ……」


 それはきっと、彼女がずっと待ち望んでいた存在だったから。




「七皇凶魔"嫉妬"のリヴィアサン、貴様の相手は……この俺だ!」



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