43話 趣味とシスコンと魔術と 後編


「いきなり何を言い出すんだ貴様は」


「だから特訓だよ、特訓。一緒にやろうぜ」


 これはレイの中にある優先順位を考慮した結果、その中でも上位に当たるものを実益を兼ねた趣味にしてしまおうという案だ。

 レイの優先順位は 一にリア、二に同族、三に敵を倒すための力……といったところだ。


 魔術を趣味になんてできるか? なんて思ってるそこのあなた、私の前世ではそれこそ世界中の人々が魔法を操る時代だった、それはもう皆「自分が一番だ!」なんて競い合ってたくらいに。

 だから昔はお見合いなんかでも「ご趣味は?」と聞かれたら「魔法を少々」と答えるのが普通なぐらいだ。


 現在では「魔術は誰でも使える」という認識がないため、魔術を使えるのは一部の限られた人のステイタス、といった感じなんだろう。

 そこで! このレイ君には私が使う『魔法神式魔術式』を広める第一人者になってもらおうということだ!

 ふっふっふ、名づけて『シスコン弟を魔術オタクにしちゃおう大作戦』だ!


 さらに私も特訓できてまさに一石二鳥というわけだ!

 さぁ早速始め……。


「ふん、俺は今でも十分強い。今更特訓などする必要もない」


 ちょ、いきなり拒否るなよ!

 だがこの程度で引き下がる私ではない、じわりじわりと落としてやるぜ。


「でもこの前負けたじゃん」


「なっ、あれは貴様とサティの二人がかりだったじゃないか! 一人づつなら絶対に負けん!」


「どうかな? お前は実際私の岩石生命体ストーンゴーレムに翻弄されていたし、サティだって味方を守りながら戦う状況じゃなかったらもっとバンバン攻撃に集中できただろう」


 つまりは個々が全力で戦った時の勝敗はわからないということだ。


「事実、レイの魔術には若干隙がある」


「隙、だと?」


 若干煽るような台詞を吐くことでレイの意識はこちら側に惹かれつつある。

 よしよし、いい感じだ。


 それに、レイの魔術に隙があるのも事実だ。

 確かに一発一発はキチンと術式が組み込まれていて威力も狙いも正確だ……しかし所詮はそこ止まり、"次"に繋がっていない。

 一の回路から二の回路へ、でも打ち終わったらその回路は廃棄して新しく一を作るというとても非効率的な使い方だ。


「魔術は独学で覚えたんだよな?」


「人族の魔術書でな。不本意だったが強くなるためにはそれしかなかった」


「なら本には載っていない私の魔術の知識を見せてやろう。まずは……これできるか?」


 そう言って私は手のひらである術式を作る。


「なんだ、これは」


 私の手の中には透明な球体が出来上がっている。


「これは体内にある魔力を形にしたものだ。属性を介さずただ形にして出すだけの簡単なもの。どうだ、できるか?」


 これは魔法使いの間では初歩の初歩、基本の基本、親が魔力の扱いを覚え始めた子供達に最初に教えるのがこれだ。

 この魔力玉は触れるし魔力が続く限り存在できる、前に見た新魔族の魔道鎧が放った弾もほぼ同じ原理だ。


「ふっ! どうだ、できたぞ」


 そうこうしてるうちにレイが魔力玉を完成させていた。

 まぁ元々あれほどの魔術を使っていたんだ、これくらいは簡単にできて当然だろう。

 少々形がいびつなのが気になるが……。


「うーん……ま、オッケーだろ」


「ふん、この程度のことで……」


「でもこれはできるかな?」


ボウッ!


 私の手の中にある魔力玉が急に燃え出す。

 先ほどまでのふんわりとしていた玉は一転してパラパラのチャーハンが作れそうなくらいの火力を発していた。


「これは魔力玉に火属性を加えることで"炎を纏う魔力玉"にしたんだ」


 第一術式である『魔力玉』から第二術式の『フレイム』に魔力回路を繋げることで作り出したのだ。


「これから……火を出すのか」


「あ、別に火を出せって訳じゃないぞ。属性さえ乗せられればなんでもいい」


 レイの得意な属性は十中八九風だろう。

 魔力玉に風の術式を追加すれば周りには風を纏い、内部には風が小さな乱気流が生まれる。

 一言で言うなら螺○丸みたいなのができるってばよ。


「だったら、ふっ! うぐぐ……はぁ! ど、どうだ」


 レイの持つ楕円形の魔力玉は若干強い風を纏っている。

 魔力玉が歪なせいで中にある風が漏れてきている、レイも維持するのがキツイのか少々顔が引きつってるし。


「こ、これで終わりか!? き、貴様の言う魔術の知識とはこの程度ということか」


 プルプルと震えながら早口で対抗するレイ、必死だな。

 レイはすでにキツイみたいだが、まぁこの程度で終わるわけがない、むしろここからが本番だし。


「んじゃ次だ、そら」


 手のひらから放たれた玉が弾丸となって飛んでいく。

 壁に激突した炎弾は穴を開け、それでもまだ燃え上がっている。


「玉を打ち出しつつ魔力玉にある魔力をコントロールするんだ、そして」


 私はさらに新たな術式を展開する。


「第四術式展開、『火炎旋風ボーテックスフレイム』」


 炎はゴウッ、と勢いを上げて渦を巻き、周囲の壁をも抉りとっていく。

 第三術式で弾丸にして打ち出す術式、このとき自分の魔力と魔力玉との関係を切り離さないのがポイントな。

 そして、切り離さなかった魔力の線を伝わせて第四術式を展開、炎を変質させる術式を組み込んだ。

 術式が多いほど強い魔術ができるわけではないが、私としてはここまでできてようやく"魔の世界に片足を踏み込んだ"と言える。


「さて、できるか? その風を同じ様に飛ばし、肥大化させながら炸裂させるんだ」


「そ、そのくらい余裕だ……!」


 そう言いながらもレイの顔は汗を吹き出しながらヒクヒクとしている。

 まぁ魔術の展開式を初めてやるんだからこんなもんだろうな、本当は一術式安定がするまで何度も練習してから次の術式の練習に取り組むのが普通だし。


「ぬぐぐ……い、いくぞ」


「おう、早くやってくれ」


「ぬ、せぇい!」


 レイの放った歪な魔力玉は勢い良く壁に向かって放たれ……。


パァン!


 壁に激突すること無く途中で破裂してしまった。


「クッ!」


「ま、最初はこんなもんだろ」


 むしろ良くやった方だ。

 投げた瞬間に魔力の接続が切れて破裂すると思ったが意外にも途中までは回路が繋がっていた。


「やっぱりレイは筋がいいな。あそこで破裂したのは次の術式のイメージが上手く定まっていなかったせいで回路が生成されなかっただけだし……」


「うるさい! 『烈風拳ウィンドストライク』!」


「って、うおお! 危ねぇ!」


 レイの放つ魔術が私の鼻先ギリギリをかすめて飛んで行く。

 そのまま壁に激突しその一部を削り取る。

 私達さっきから考えなしに壁削っちゃってるけど後で怒られないかな……。

 まぁ今はそれよりも……。


「レイ、いきなり何をするんだ」


「何が魔術の知識だ! あんな面倒くさいことをしなくても俺はこうして魔術を使える!」


「いや、今のはちょっとした基本でお前に教えたいことはまさにここからで……」


「知るか! 今度は当ててやる、『烈風……」


 レイがもう一度同じ魔術を放とうとしている。

 怒らせてしまったことは少々予定外だったが、これは逆に都合がいいな。


「それだ!」


「なにっ!?」


 レイの行動を声を張り上げて静止させる。

 ふぅ、危ない危ない。


「レイ、今お前魔術名を言って先程と同じ魔術を使おうとしただろう」


「それがどうした? 魔術を使う時に魔術名を唱えるのは当たり前だろう」


 レイは自分の技術を魔導師の教本から学んだと言った、ということはやはり今の時代にはいちいち魔術を練り直しているのか。

 私の魔術が面倒くさいと言われたが、私としてはあっちのやり方の方が面倒くさいし燃費も悪い。


「なぁ、その魔術連続して撃てるか」


「あ、ああ勿論だ」


「インターバル……間隔はどのぐらいだ」


「大体二、三秒ってとこだな」


「遅いな」


「は? 無詠唱だぞ、むしろ速いだろう。本にも五秒以内の間隔で魔術を放てる術者は戦闘において重宝されるともあった」


 はぁ、今はその程度で重宝されるのかよ。

 多分レイが言ってるのは"パーティーで戦う場合"だろう。

 大方前衛にいる何人かの盾役が押し留めている間に安全な場所でバンバン魔術を撃てる者がそれに当たるんだろう。

 どんだけぬくぬくとした環境で育ってきたんだよ……そいつらの頭はハッピーセットかってんだ。


「ふぅ……レイ、ちょっと見てろ」


 そう言って杖を構える。


「今度は一体何を……」


「『烈風拳ウィンドストライク』」


ヒュン!


 先程レイが放った魔術と同じものが今度はレイの脇をかすめて飛んで行く。


「今のは、俺が使った……!」


「私のはこれで終わりじゃないぞ、更にお前の先をいく!」


 驚いているレイにもっと面白いものを見せてやる。

 これはレイの"可能性"であり"進むべき道"にもなるだろう……。


「術式01固定! ふっ!はっ!」


ヒュン! ヒュン!


 杖を振ると、その先端から同じ魔術が放たれる。

 インターバルなしで放たれる二発の風はまた放心するレイの脇を抜けていき壁を抉り取る。


「な、なんだ今のは……一体何をした」


「言っただろう、お前の魔術には無駄があると」


 この術式固定、単独で戦う術者には絶対に必須の技術だと私は思っている。

 私とレイの『烈風拳ウィンドストライク』の違いは 一度作り出した術式を捨てているかそうでないか という点にある。


 通常魔術はレイのように、術式を組む→発動する→終わり、を繰り返していく。

 が、私の場合は、術式を組む→術式本体を保存する→本体の術式をコピーして発動する(新たに術式を組み直す必要なし)→魔力が続く限り何度でもノータイムで使用可能。

 このように術式を固定しておけば単身の戦闘でも遅れを取ること無く戦える。

 術式は複数固定出来るが、余りにも強いものを置いたり調子に乗って置き過ぎると魔力が空になってしまうのでご利用は計画的に。


「更に面白いものも見せてやろう。固定01第二術式展開、『竜巻突槍トルネードランス』 はあっ!」


 杖先から放たれた風がドリルのような形になり回転しながら突き進む。


「『竜巻突槍トルネードランス』だと。しかも俺の術と違い自らに纏わず射出した!?」


 これが術式固定のもう一つの強み、固定されている術式には追加術式を行うことができる。

 術式本体に追加することで術を更新し、より強力に、よりその場に適したものに組み替えていくことが可能なのだ。


「どうだ? 毎回二、三秒はかかるお前の魔術と私のノータイムかつ強化されていく魔術。どちらが強いかは明白なんじゃないか」


「……」


 流石に煽り過ぎたかな?

 でも私も自分が編み出した技術を誰かに伝えていって欲しいのだ、私が日本に帰った後も。

 だから多少強引でも凄さを見せれば食いついてくるかも……って思ったけど、やっぱり駄目か。


「……ろ」


「え?」


 今何か言ったか?


「教えろと言ったんだ。あそこまで見せられたら流石に強さの違いくらいわかる。俺は強くならなくてはいけない、どんな強大な敵が来ても打ち倒せるような力が必要だ、姉さんを守りきれる力が。だから不本意でも貴様から教えてもらう。それが今の俺の最善だ」


「レイ……よし! じゃあ今日から特訓開始だ! 暇な時間は魔術の勉強会だ」


 私は嬉しかった、形はどうあれ前世の私が生きた証が受け継がれていくかもしれない。

 例え誰の記憶に私が残っていなくとも私はそこにいたということが感じられる。


「張り切るのもいいが、まずはここの片付けを終わらせ姉さんの様子を見てからだ」


 あ、そこは譲れないのね。






 そして、この後様子を見に来たリアに部屋の壁の惨状を見られ、私達はこっ酷く叱られてしまった……。


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