37話 夕飯と“七神王”


「近くに村や町は無い、日も大分傾いてきた……よし、今日は野営だ! お前ら、道の脇に逸れてテントを張れ!」


「「「ヘイお頭!」」」


 サティの合図でテキパキと野営の準備を始める男衆。

 めっちゃ手馴れてるな、あの勢いについていけるかわからんが私も手伝いに行った方がいいだろう。


「お兄ちゃ~ん!」


 お、ミミだ。

 歩いてる時はずっと離れてたから寂しかったんだろう、凄い勢いでこっちに走って……なんか嫌な予感が。


「とうっ!」


 やっぱり突っ込んできた!

 だがそう何度も同じ攻撃を食らう私ではないぞ!


「これでどうだ、『空気柔盾エアクッション』」


ボヨン!


「わぷっ! うわ~い、なにこれ? ぷよぷよ~」


 いつか使った『空気盾エアシールド』の応用だ。

 前回は自分側だけを柔らかくしたエアバック式だったが、今回は少しアレンジを加えてぷよぷよの壁にした。


「ミミちゃん、急に走っちゃダメって言ったでしょう」


 奥からリアが小走りでやって来た。

 あ、エプロンしてる……すごく似合ってるな、女性は主にご飯の支度か。


「お兄ちゃん、一緒にご飯つくろ~」


「ごめんね、ミミちゃんにお手伝する? って聞いたら、ムゲン君と一緒にお手伝いしたいって言うから」


「あ、いや、私は向こうでテント張りの手伝いでもしようかと」


「一緒にご飯つくりたいのに……」


 ヤバイ! ミミが泣きそうだ。

 今日はずっとかまってやれなかったからなぁ……うん、だめだ、この涙には勝てん。


「いやいや! 今のは冗談だ。今日は一緒にお手伝いしような!」


「ワウ……(ご主人は子供が出来たら絶対に甘やかしまくるタイプっすね……)」


 甘やかして何が悪い!

 しかしミミを見ていると、娘が出来たらこんな感じなんだろうな…と思える。

 そうだな、元の世界に戻って幸せな家庭が作り娘が出来て……。

 手塩にかけて育て上げ、いつまでもパパ、パパって私を慕ってくれて……。


「うおおお! 絶対に嫁にはやらんぞおおお!」


「ちょっと! どうしたのムゲン君!?」


 おっと、しまった……ナニがアレで気持ちが少しパージしてしまったようだ。

 ミミもちょっと怯えてしまっている、反省反省。


「スマン、ちょっとした発作みたいなものだ、気にしないでくれ」


「大丈夫ならそれでいいんだけど……」


 リアが心配そうな目で私を見ている、このままではお医者さんを紹介されてしまいそうだ。

 そろそろ話を戻さないとな。


「リア、それで何を手伝えばいいんだ」


「あ、うん、ムゲン君って魔導師なんだよね。火の魔術とか使える?」


 おいおい私を誰だと思っているんだい?

 かつてこの世界で魔法神と呼ばれた男だぜ、火はもちろんすべての属性なんでもござれのスーパー魔導師、その凄さに周囲の女性もメロメロに……。


「えっと、ほんとに大丈夫?」


「あ! スマンスマン。大丈夫だ、火の魔術は使えるぞ」


 また妄想の世界に入り浸るところだった、あぶないあぶない。


「じゃあこれ全部に火を点けて各々の指示に従って火力の調節をしてほしいんだけど」


「全部か?」


 目の前には5、6個の鍋やフライパン。

 料理担当の女性陣がまだかまだかといった目でこちらを見つめている。

 ついに私にもモテ期到来か……冗談だ、さっきまでやんわりとしていた視線がギラッとした鋭いものに変ってるし。

 「はよ点けろや!」ってことだろう……へいへいわかりましたよっと。


「『フレイム』……拡散5」


 私の魔術により五つの火が現れる。

 皆それに驚きつつ調理を開始。


「こっちもっと火強くしてー」

「こっちは鍋全体に火が当たるようにできる?」


「はいはいオッケイ」


 威力調整に形状変化っと。

 注文が多いな、でも美味い料理のために私も頑張らなければ。


「うえええん! 痛いよー!」


「ッ! ミミ!」


 どうやらミミが包丁で指を切ってしまったようだ。

 うおお!待ってろ、今私が回復魔術を…!


「大丈夫ミミちゃん! ……彼の者の傷を癒やしたまえ『傷回復(ヒール)』」


「ウッ……ヒグッ……! あれ? 痛くなくなった! リアお姉ちゃんありがとー!」


 手が離せない私に変わってリアが回復魔術をかけてくれたようだ。

 というか……。


「リア……魔術使えたんだな」


「使えるっていっても付与魔術の簡単なものしかできないから。私もムゲン君みたいにいろんな属性が使えればよかったんだけどね」


「いやいや、今の時代、魔導師ギルドに所属しない者が魔術を使うのは珍しいだろう」


「それを言ったらムゲン君だってそうじゃない」


 おっと、まったくもってその通り。

 リアに比べたら私の方がいろんな魔術を使う謎人物だ。

 まぁそのことはご飯の時に話すことにしてるから後で後で。


「お兄ちゃ~ん、こっちにも火ちょうだい」


「はいよ! ミミ、今度は怪我しないよう気をつけるんだぞ」


「は~い!」






 今日の献立はこの辺で採れる色とりどりの山菜のサラダに炒めもの、そしてこれまた山菜を入れてじっくりコトコト煮込んだスープ。

 それに加え道中サティが一撃でウェルダンにした暴れ牛の肉をどっさり、うーん……食欲がそそられる。

 皆肉やサラダに各々好きな調味料をかけて食べているが……でも、僕はオリーブオイル!

 肉によし! 野菜によし! 仕上げにドバァとかけるもよし! まさに最強の調味料!


「さあ犬よ! オリーブオイルをもてい!」


「ワウ(この世界にあるわけないじゃないっすか)」


 そうだった、テレビの某新感覚のキッチン・バラエティーに感化されすぎたせいで私が料理をするといつもオリーブオイルまみれになってしまっていたからつい、いつもの癖で。

 学校の調理実習なんかではマイオリーブオイルを持ってきて先生に怒られたっけ。


「うっすムゲン、調理場では大活躍だったみたいじゃないか」


 サティ達も自分の分の食事を持ってやってきた。

 私、ミミ、サティ、リア、最近お馴染みの四人が共に食事の席につく。


「ムゲン君、今日は本当にありがとね。調理用の火を起こす魔道具が全部壊れちゃっててどうしようか悩んでたの」


 魔道具はそういった家庭的なものも存在するのか。

 洞窟内を照らしていたものも魔道具みたいだったし…そちらの方も色々研究してみたいな。


「いやいや、このくらいならお安いご用だ」


「なら次の町で新しいのを買うからそれまでお願いね」


 どうやら火を起こす魔道具はそこら辺で普通に売ってるみたいだな。

 しかし……。


「それはいいが、ここには他に魔術を使える者はいないのか? リアはともかくサティは火属性の魔術を使えてる気がするんだが」


 馬車を襲った時や今日の暴れ牛を仕留めた時だってすさまじい勢いで爆炎を発生させてたし。


「私以外にはちゃんと魔術を使える人はいないの。私もかじった程度だしね。サティのは……ちょっと特殊かな」


「ん? ああ、爆炎斬か。アレはただなんとなくやってるだけで別に魔術をを使ってるとかは考えてなかったからなぁ」


 え、アレを無意識でやってるの?

 絶妙な魔力調節に威力の噴出の方向、角度なんかもプロ級だったぞ!?

 しかもそれを剣筋に乗せて発生させるのには相当複雑な回路を使用してるんだろうと思っていたのに。


「私も最初は名のある魔導師の人かな……って思ったんだけどね。

どうやら本当に感覚だけでやってるみたいなの。私も魔術については少し知識があるほうだったからびっくりしたわ」


「できるもんはできるんだからしょうがないだろ。でもアタシはアレしかできないから調理には使えないよ、鍋が吹っ飛んじまう」


 感覚だけであそこまで辿り着いたなら相当な天才だ。

 本格的に魔術を始めたらかなり優秀な魔導師になるんじゃないか?


「サティ、ちゃんと魔術の練習をしてみる気は……」


「ああ、アタシはそういうのパス。今更新しいこと覚えるのも面倒くさいし興味もない。戦い方を変える気もないしね」


 ありゃりゃ、勧誘失敗。

 でも今の時代、無理して覚えることのほどでもないようだしな。

 昔は誰もが修行に勤しんでいたのになぁ……。


「あ、私は興味あるな。子供の頃から魔導師にはちょっと憧れてたし」


「ミミも魔術つかいた~い! ぶわーってやってどどーんってするの!」


 エルフのお二人さんは興味がお有りのご様子。

 ふむ、リアは一応魔術は使えるし色々と教えればまだまだ伸びしろはありそうだし、ミミは私の放った魔力の波動が見える位だから結構二人共いい線いくんじゃないか?


「よし、じゃあ今度魔術について色々と教えよう」


「わ~い、お兄ちゃんが魔術教えてくれる~!」


 こらこら、食べながらはしゃがない、スープが飛び散っちゃてるし……フキフキと。

 うん、やっぱり子供っていいなぁ……私はロリコンじゃないからな!


「てか"はぐれ"なのにちゃんと教えられるのか? 歳だってエルフだってことを考えなきゃ二人共お前より年上なのに。ムゲンは一体何処で学んできたんだ?」


「そういえば私のことについて話すのを忘れていたな。ちょっと長くなるが聞いて欲しい」


「おう、いいぜ」


 さて、私が異世界人であることはいいとしてどこまで話すかな……。

 昔のことを話したとしても魔法神時代の私はこの世界ではお伽話だしな…よし。


「コホン……。えーまず初めに、私は異世界人だ」


「ええっ!」

「なっ……!」

「ほえ?」


 まぁこの世界において異世界人っていうのは有名だからな、この反応は当然といったところだろう。

 ミミはよくわからないといった様子で首を傾げているが。


「異世界人……ってことは、別世界から“特異点”を通ってやってきたってこと?」


「そうだ、私は地球という世界の日本という国から特異点に吸い込まれてアステリムに降り立った」


「なら今ムゲン君がここにいるのはどうしてなの? 普通なら特異点発生を探知して丁重に保護されるはずなのに」


「ああ、それはだな……」


 私はアステリムに帰還してからの経緯をざっくりと説明した。

 第三大陸で起きた事件やこの大陸に至るまでのこと、色々伏せる部分も多いが。


「と、いうわけで私は元の世界に帰るための方法を探しながら旅をしていたというわけだ」


「おもしろかったー! 特にドラゴンさんのところ」


 よかったなドラゴス、お子様に好印象だぞ。

 とりあえず私が魔術を扱えるのは『龍の山』に住む龍族……ドラゴスとあいつから貰ったケルケイオンのおかげということにしておいた。


「すごい体験だね。ムゲン君が異世界人だってことも驚いたのに、それよりも“七神王”の一角に出会ってたことの方が驚いちゃった」


「“七神王”?」


 なんだそりゃ? 初めて聞く単語だ。


「あれ? 七神王のことは知らないんだね、じゃあ教えてあげる」



リア説明中……



 ふむふむ……リアが言うには、七神王とはこの世界の各大陸に存在すると言われている神のごとき力を持った伝説上の人物や生物のことらしい。


第一大陸…“炎神えんじん

 第一大陸の火山地帯で確認された荒ぶる炎の神。火山が活発な時に火口から巨大な燃え盛る悪魔のような姿が確認されている。


第二大陸…“幻影神げんえいしん

 第二大陸の最東に人も魔物も寄り付かない深い森の中にいるといわれている。その場所に入り込むと数日後に骨だけになって森の入口に置かれているらしい。なので誰も姿を見たことがない。


第三大陸…“龍神りゅうじん

 第三大陸の霧の深い巨大山脈“龍の山”に太古から住んでいるといわれている龍族。彼のもとまでたどり着いた者は大いなる力を得ると言い伝えられている。


第四大陸…“精霊神せいれいしん

 第四大陸に存在する巨大な木、通称『世界樹ユグドラシル』に住み着いてる精霊。世界樹の周りは高濃度のマナが散布されており一般人はおろか腕の立つ魔導師でさえうかつに近寄ることはできない。


第五大陸…“天空神てんくうしん

 第五大陸の七神王と言われているが実際はその周辺を常に飛び回る巨大な空中を徘徊する島のことらしい。その上に何があるのか、誰か乗っているのかは解明されていない。


第六大陸…“魔神まじん

 その昔、第五大陸を侵略したすさまじい力を持つ新魔族と言われているが詳細は不明。勇者に倒された魔王とは別人らしい。


そして、中央第零大陸…“女神めがみ

 中央大陸の最王都、シント王国の『女神の神殿』にいるとされているがその詳細はこの世界の最高権力者達しか知ることができない。噂では現在の歴史を作り上げてきたこの世界の神だとか。




 なんだか思いがけない情報をゲットしてしまったな。

 聞く限りではどいつもこいつもこの世界では最強クラスの実力を持っているとか。

 つまり前世の私が死んだ後はこいつらが世界のトップだったってことか。

 まったく、私に代って神を名乗るとは。


 だが、あくまで噂でしか聞かないので存在しているかさえ分からない奴もいるらしい……でも“龍神”はどう考えてもドラゴスだよな、てか他にも少し心当たりあるしなぁ……。


 まぁとりあえず今は話を戻そう。


「ふふふ、つまり私はこの世界最強の一角、“龍神”の魔術を継承したということだ。どうだサティ、これで納得したか」


 まぁもともとドラゴスに魔術を教えたのは私だからあいつに教えてもらったって言うのはちょっと癪にさわるがな。


「……」


 サティから返事がない。

 どうしたんだ? 下を向いて考え込んでるようにも見えるが。


「ちょっとサティ、どうしたの? 考え込んで」


「え!? あ、ああ、悪い悪い。あまりの話にちょっとついていけてなかっただけだ。さて、面白い話も聞けたしそろそろ片づけて寝るか」


 うーんサティにはちょっと難しい話だったか?

 ミミはもうすやすやと寝息を立ててしまっているが。


「そうね、明日も早いしそろそろ寝ましょうか」


 サティの態度は少し気になったが私が気にすることではないだろう、何かあったらリア辺りが聞くだろうしな。


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