27話 戦いを終えて
「そん……な。どう……して!?」
カロフの剣に刺されたアリスティウスは玉座からよろよろと降りていき、崩れるように倒れる。
「うっ……!? なんだ、体から力が抜けて……獣深化が終わったのか? 危なかったぜ」
カロフの獣深化もギリギリだったな……。最後の攻撃もリィナとカロフの二人で襲い掛かったが、突き刺さったのはカロフの剣だけだった。
おそらく奴は体中に対物理用の防御魔術を張っていたんだろう、そのため力の弱いリィナの剣はそれを貫通できなかった。
カロフも弱ってはいたが獣深化のパワーはそれほど凄まじかったんだろう。その反動のためか、カロフも今にも倒れそうだがな。
「あれ……あれ!? 終わったんですの? 一体どうなっていますの?」
ミレアも何が起こったのかわからないといった様子だ。犬を抱えながら私達の後ろでしゃがみこんでしまってるし。
まぁさっき何が起きたか知っているのは私だけだし、とりあえず解説だけしときますか。
「あの時……奴の魔術が我々に当たる直前に、私が最後の魔術を使ったんだ。自分が今いる空間と視界に入る空間を繋いでその間を瞬間跳躍する時空属性の超魔術……『
まったく、この程度の魔力総量で一日に二回も時空属性魔術を使うことなるとは。
あー、今すぐにでもこの場にぶっ倒れたい。
「空間? 跳躍? ……えっと」
「無理に理解しないでもいいぞ、詳しく説明しても多分わからないだろうからな」
「そ、そうですか……あれ? 気のせいでしょうか、なんか馬鹿にされた気が?」
「あの、ムゲン君。それよりもその……先に遺体の確認をしたほうが……」
おっとそうだな、まだ倒れるには早い。
それにこの状況を王様や他の味方してくれる貴族達に説明し、事態の収拾をしなければ真に自体が解決したとは言えないだろう。
しかし、私としては奴には色々と聞きたいことがあったんだがな……。あの激戦ではそんな余裕もなかったし仕方がないか。
だがここは勝利できただけでもよしと……。
「うぐ……ふぅん、空間跳躍ねぇ。まさかそんなことまで出来るなんて……完全に誤算だったわ。ゴフッ……! あー痛、まったく……完全に突き抜けてるじゃないこれ」
「なっ!?」
馬鹿な、カロフの的確な一撃によって確実に絶命していたであろうアリスティウスがむくりと起き上がり喋っているだと!?
「う、嘘だろ!? 俺はちゃんと心臓を貫いたはずだぜ! 手応えもしっかりと……」
「そうね、深々とやってくれちゃってまったく……。でも残念、実はアタシの心臓って二つあるのよね~。そっちの亜人君にはやられちゃったけど、そっちの子は力が弱くて助かったわ。二本とも刺さってたら流石のアタシもやばかったから」
心臓が二つだと……見誤った、もう私達には戦う力が残っていないぞ。
私はもう魔術を使える状態じゃないし、カロフも獣深化は愚か立っているのもやっとと言ったところだというのに。
ミレアと犬はどう見ても戦力外だしな。
「ふふ、そんなに警戒しなくてもいいわよ。実はもうこの国を支配することは諦めたから」
「どういう……ことだ」
「実はアタシの同胞……あなた達が新魔族と呼ぶ存在が支配してる大陸、第六大陸『シャトー』でちょっと問題が起きちゃってね。ちょっとうちの致傷から呼び戻しくらっちゃったのよ。だから、この傷の治療もかねて一旦戻ることにするってこと」
知将? 七皇凶魔であるアリスティウスすら従えるような存在がこいつらの本拠地には控えているというのか?
まだまだ分からないことだらけだ、だがアリスティウスが生きていたというのなら話は違ってくる。
「このまま私達が黙って逃すと思っているのか?」
今この場でアリスティウスは新魔族の繋がる唯一の情報源でもある。この国のためにも正直ここで逃がしたくはないのだが……。
「ハッタリはやめなさい。あなた達がもう満足に戦うことができないことはわかっているんだから。アタシも心臓を一つ潰されて全然力が出ないし。お互いこのままバイバイしちゃうのが一番でしょ?」
やはりハッタリは見抜かれるか。実際私達はもうこうして立っていることさえままならない状況だ。
「ムゲン! こんな奴の言うことなんて信用できないぜ! 俺ならまだ戦える……だから!」
「カロフ……」
まったく、足をガクガクさせながら言うセリフじゃないだろう。
まぁ、カロフにとっては親の仇みたいなところでもあるようだし……仕方なくもあるか。
だが……。
「わかった……アリスティウスよ、その提案を受けよう」
「なっ……!? ムゲン!」
「悪いなカロフ、後でいくら恨んでくれてもいい。だが今この国のためを思うなら……飲込んでくれ」
これ以上戦いを望めば戦火は大きくなり、どうなるかはもはや未知数だ。
アリスティウスが本当に帰るというのなら、今はその提案に乗りたい。
「私は……ムゲンの意見に賛成だよ。だって、争いを抑えることが……騎士の役目だと思うから」
リィナの言葉にカロフもどうするべきか考えこむ。そして、体を震わして怒りを感じながらも、カロフは一つの答えを示す。
「……くそっ! わあったよチクショウ! 好きにしやがれ!」
「サンキューカロフ。……さて、アリスティウス。帰る前に聞きたいことがある」
一度は死んだと思い諦めかけていた情報源だが……生きているなら都合がいい、こいつなら色々知っているかもしれないからな。
このチャンスを逃す訳にはいかない。
「いいわよ。だけど、アタシの質問に答えてくれたらだけど……ね」
「質問?」
「あなたがさっき使った空間移動魔術……どうにも腑に落ちないところがあるの。今さっきアタシが寝てる時説明してたわよね、『自分が今いる空間と視界に入る空間』って。でもあの時あんたの視界はアタシの魔術で完全に塞がれていたはず……これはどういうことなのかしら?」
やっぱり気づいていたか。だがそれは言えない……約束しちゃったからなぁ。
実はあれはドラゴスの力を借りていたのだ。
あの時……。
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あとはもう一人……この賭けに乗ってくれるかどうか。
(ドラゴス、今もこの状況を覗いているんだろう。頼む、力を貸してくれ)
(インフィニティよ、我とてお前に強力してやりたいが……これ以上の外界への干渉は我の存在が明るみに出てしまう可能性がある。言っただろう、我はもう表舞台には立ちたくはないのだと。それに、一番の心配はお前の体だ……これから何をするかはわかっているからな。今からでも我の力でお前だけは助けてやれるが……)
(すまない……だが、今ここでやらなければ一生後悔することになる)
(はぁ……やっぱりこうなるのか。ま、お前の無茶は昔からだ仕方ない。ただし、我の存在を決して外界に漏らさないことだけは……)
(ああわかってるさ、約束しよう! ではドラゴス)
(わかっている、視界の共有だろう。『
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……こうしてドラゴスと視覚を共有することで戦闘の状況を客観的に見ることができた訳だ。
そして、アリスティウスから私達の姿が見えなくなった瞬間を狙い『
だから種明かしをするってことはドラゴスの存在を奴らや皆に教えることになるわけで……。
「……」
「はぁ、そっちが言えないならこっちからも何も教えられないわね。それじゃ、アタシはこれでおさらばしましょうかね……ほいっと」
そう言って何か懐から取り出し砕いた……なんだ、突然強大な魔力反応があそこに。あれは一体!?
「嘘っ、あれって……特異点!?」
砕かれた石のようなものから私をこの世界に引きずり込んだのと似たような黒い渦が現れた。
いや、あの時とは大きさが違うが。
「やはり……特異点とはお前達新魔族が引き起こしていたのか!」
「うーん、半分ハズレで半分正解かな、教えてあげないけど。でも……あなた達とはまたどこかで会いそうな気がするわ。それじゃ、またね」
「ッ! 待て! それは一体どんな原理で……!」
居ても立ってもいられなくなり立ち上がろうとするが、やはり私の体には限界が来ていたらしい。
大声を上げた瞬間に、私の意識は途切れ闇の中へと沈んでいく。
(やっと、やっと日本に戻る手がかりを見つけたのに……体が言うことを……聞か……ない)
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「……ん、ここは?」
目が覚めると私は大きなベッドに横たわっていた。
そうか、魔力に慣れていない体で無茶な魔術を何発も使ったせいで倒れてしまったんだったか。
「って、ここはどこなんだ? あれから一体……」
「ワウ~ン!」
「おおう!? ちょ、おわっ!」
いきなり飛びかかってきた犬に対処できずそのままベットから転がり落ちてしまう。
まったくこの馬鹿犬め、私は病人だぞ。
と、私が犬とわちゃわちゃやっていると……。
「おっ、やっと起きたかよ! 三日も寝てるから心配したぜこの野郎!」
「そう言うカロフだって一日中意識がなかったでしょ? 何が「俺ならまだ戦える」よ。強がらないでちゃんと自分の限界を考えてよね」
「おお、リィナ! カロフ!」
無事な二人の姿を見て私はホッとした。よかった、どうやらあれから特に酷いことは起きなかったようだな。
しかし三日も寝ていたのか私は。
「まぁとにかく二人共無事でよかった。それで、あれからどうなったんだ?」
「うん、順を追って説明するね。あの戦いのあと、カロフとムゲン君二人共倒れちゃうからどうしたらいいのか焦っちゃって。だけど、そこに異変を察知した亜人保護派の貴族が駆けつけてくれたの。そこで私と姫様で今回の経緯を話したわ」
なるほど、運良く亜人保護派の貴族達が来てくれたのか。
「その後、病で伏せているはずの国王が寝室から出てきて皆びっくり。勿論今回の件を報告して、姫様の説得も相まって国王も納得し人族主義派の大々的なお家取り潰しが行われたの」
アリスティウスがいなくなった途端国王が元気になって出てきた……か。
やはりアリスティウスが近くで魔術を行使していたんだろう。もしかしたら、そちらに裂く魔力のおかげでアリスティウスは全力を出せていなかったのかもしれないな。
「国王の復活と『龍の山』事件の解決でトレス王国との関係も大分収まってきたし、もう戦争の心配も無いわ」
「そうか……よっと!」
勢い良くベットから飛び出す。うむ、別に体にはどこも異常は無いな。
「おいおい、もう動いて大丈夫なのか?」
「まだ安静にしてたほうがいいんじゃ」
「心配するな今回は前回の筋肉痛と違って過度な魔力放出だけだからな、これくらいどうとでもなる」
むしろ体を動かしていたほうが魔力の流れも良くなっていくしな。
健全な精神は健全な肉体に宿るってな……なんか違うか。
「それじゃあ、今夜のパーティーにも出席できそうね」
「パーティー?」
「いや、姫さんがこの国の脅威が去ったことを記念して国中で喜びを分ち合おうって」
「ほーう、いいじゃないか。こういう時は賑やかにやるのが一番だ」
私も昔はよくどんちゃん騒ぎをやったものだ、私も大いに楽しませてもらおう。
しかしパーティーの話になってから二人共何か口ごもっているな、何だ?
「えーっとねムゲン君、このパーティーにはもう一つ記念があって……これも姫様が提案したことなんだけど」
「記念、何だ?」
これ以上他になにかあるか?
「いや、その……その記念ってのは」
バァン!!!
「それは! この国に異世界からの勇者様がやって来たことですわ!」
突然ミレアが扉を派手に開け登場した。
いやそのことにびっくりはしたんだが、それ以上に驚く発言が。
「ゆ、勇者だって! マジか、一体何処に!? もう一度特異点が発生したのか?」
「またまたご冗談を、我が国の騎士と協力しこの大陸に潜む強大な悪を退けた勇者様はあなたのことじゃないですか!」
そう言ってミレアはまっすぐ私の方を向いてドヤ顔で目を輝かせていた。
……って。
「マジかー……」
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