19話 ムゲンのラブラブ大作戦


 えー現在はアレス王国へ向かい進行中、そんでもってその途中で馬車を止め休憩中である。

 そんな中、その辺の草むらでこそこそと怪しい動きをする一人と一匹、誰だ? ……うん、私だ。


「さて、皆よく集まってくれた……」


「ワフ?」


(インフィニティよ、我はその場にいない上そこにいるのはその犬だけだと思うのだが……)


(うるせー、気分だ気分)


(まったく……それで? そんな所で一体何をしているのだ)


 む、ノリの悪い奴め。こいつ昔よりも頭固くなったんじゃないのか……。

 まあいい、とにかくドラゴスにもこれから始める一大プロジェクトの説明をしてやらねばなるまい。


(昨日のカロフとリィナの二人を見ていて思ったのだよ……このままではいつまで経ってもあいつらの関係は平行線だとな。カロフに関してはもう少し男らしい所を見せて欲しいとこだが……)


(そうだな、男の方なぞ「この戦いが終わったら、お前に伝えたいことがある」とかなんとか言ってたくせに……)


 カロフよ……お前そんな死亡フラグみたいなセリフを言っていたのか。

 しかしそこまで言っておいていざとなるとヘタれるとは……これは本格的に助け舟を出してやらねばならんだろう。


(そんなあいつらを助けるため考えた作戦がこれ! 『魔導師ムゲンのラブラブ大作戦! -ウブな二人をくっつけちゃおう!-大作戦』だ!)


(……)


(おいドラゴス、なぜ黙る)


(いや、そういえばお前は魔法関連のネーミングセンスは良かったがそれ以外のことに関しては壊滅的だったことを思い出していてな……)


 失礼な、完璧な作戦名だろうに……。天才とはいつの世も理解されないものなのだろうか。

 ……まぁその議論はまた今度決着をつけるとしよう。


(とにかく……ドラゴスよ、まずはお前の力でカロフをここまで誘導してくれないか。こう、術を使ってちょちょいとな)


(断る、我はこの山の中以外では魔力を使用しないと決めている)


 こいつ、協力する気ゼロか……変な自分ルール作りやがって。

 しかし弱ったな、まずはカロフをここへ誘い込むのがこの作戦の第一歩だというのに。

 他にいい手はないものか……。


(ん? おいインフィニティよ、どうやら我が協力せずとも向こうからやって来てくれたようだぞ)


(なに?)


 本当だ、見れば茂みの向こう側からこちらに向かってくるカロフの姿が見て取れる。


「おいムゲン、さっきからこんな所で何やってんだ。そろそろ休憩時間も終わりだっつーからさっさと戻って出発の用意でもしとけ」


 そう告げて馬車に戻ろうとするカロフ……だがここで逃す訳にはいかない! これはまさに飛んで火に入る夏の虫、作戦を実行させてもらうぞ!


「まぁまぁ待ってくれカロフ。その前に折り入って話したいことがある……お前とリィナのことだ」


「うっ……その話かよ。心配しねぇでもきょ、今日こそは告ってみせるさ」


 言いどもりながら目が明後日の方向を向いていまずよカロフさーん。いやーこれはまったく信用できませんね。

 ではラブラブ大作戦開始といくか。


「いやいやカロフ、そうは言っても昨日のお前を見た後では不安しか無い。そこでだ、ここはひとつ私に協力させてくれないか……いい作戦があるんだ。ちょいと耳を貸してくれ」


「……なんか胡散くせーな。でもまあ聞くだけ聞いといてやるか」


 少々疑いの眼差しでこちらを見てくるが、先の一件で信頼を勝ち得たことが幸いしてカロフが私に近づき耳を向けてくれる……。

 いやーカロフ、お前は本当にいい奴だよ……よし、か か っ た な ア ホ め !


ブスリ!


 ケルケイオンの柄をカロフの頭に突き刺してっと。

 ん、おや? この反応は……。


「ぎょわ!? ムゲン! てめぇいったい何を……!」


「おっと『意識撹乱バグマインド』!」


 有無を言わさず魔術発動!

 魔力攻撃に耐性などまったく持たないカロフは術が体に回ることでフラフラになりその場に崩れ落ちる。


「よし、作戦の第一段階は成功だ。しかしさっきのは……」


(おいおいインフィニティ、今のは闇属性の術だろ。耐性も持たないそいつに打ち込んで大丈夫なのか?)


(大丈夫だ問題ない)


 さてと、とにかく今は考え事してる場合じゃないな。まずはこのまま意識のないカロフを馬車まで運んで……くっ、結構重いな!


 引きずりながらもどうにか馬車まで運べたぞ……疲れた。

 よし、今度はリィナを連れてくるとするか。






「ムゲン君! カロフが倒れたって本当!?」


「ああ、何故か知らんがいきなり倒れたんだ。それでここまで運んできた」


 なんという迫真の演技……! だがこれも二人の幸せのため……仕方のないことなのだよ!


「リィナは暫くここでカロフを看てやっていてくれ。その間私が代わりに出発の準備を進めておく、では!」


「え、あ、ムゲン君ちょっと!?」


 スタコラサッサとお邪魔虫は退散しますよっと。

 ふっふっふ、これで二人っきりの空間の完成というわけだ。


 さーて、ではそろそろカロフの奴を起こしてやるとするか。ちょっとしたおまけ付きでな……。


「第一術式緩和、続けて第二術式展開、追加属性《生命》『微興奮アドレナル』」


 今掛けた術は軽い興奮状態を引き起こすものだ。

 でもって緩和したとはいえまだ少しクラクラしてる状態を残しておいた。

 そんな状態で馬車の中で二人きり……ここからが本番だ。




「うっ……ここは。一体俺は何を……?」


「良かった、目が覚めたのね!」


 目を覚ましたカロフにリィナが抱きつく。おおう、大胆だな。


 ドラゴスが見た感じではリィナとしてはいつでもバッチコイな状態らしいが、カロフが山で自分から伝えたいと言ってしまったため自分から告白し辛くなっているようだ。


「り、リィナ!? いったい何がどうなって……。(てか! か……顔が近ぇ! それになんだ……なんかわかんねぇけど胸がすげぇドキドキしてきたぞ!?)」


 お、顔が赤くなってきたな……段々と『微興奮アドレナル』が効いているのだろう。

 密室でドッキドキ作戦は成功のようだ。


「カロフ? どうしたの、どこか痛むの?」


「あ、いやその……(昔から思っていたが、やっぱりいい女だよな、顔立ちは整ってるし……ああ、あの綺麗な唇にむしゃぶりつきた……って、何考えてんだ俺は!)」


 ……ありゃ? これは、大丈夫か? カロフめっちゃハァハァしてるんだが。

 それに顔もトマトみたいに赤くなってるし。


「顔が真っ赤よ! やっぱりまだ寝ていたほうが」


「あ、あう……あ。(ちょ、そんな近づくな! それにしても結構胸あるな、鎧を脱いでいるとよくわかる……。昔よりかなり大きくなってんじゃねぇかこれ? こりゃ、随分といやらしい体に成長して……ッだから何考えてんだって!?)」


 あれれ~おっかしいぞ~。

 ちょっと走ったぐらいの興奮状態にしてやっただけのつもりなのに、目は血走ってるし毛も逆立っている。

 ついでにリィナは気づいてないがカロフのアレもビンビングだ。


(おいインフィニティ、さっきの術は体内に魔力を流し込むたぐいのものか?)


(そのとおりだが、どうかしたのか?)


 まさか私の魔術が失敗したのか? いや、そんなことは無いと思うのだが……。

 しかしどうやらドラゴスにはなにか心当たりがあるようだ、大人しく聞いてみよう。


(獣人は他の種族と違い術を使用する時体内で循環させてその能力を纏わせる奴が多かっただろう? 姿も獣に近くなり術の特徴が体に現れる)


(あー、なるほど。つまりアレか、元々体内への術に影響が出やすい獣人に適正でない属性の術を流し込んでしまったため少々暴走してしまった訳か)


 さっきケルケイオンをぶっ刺した時に感じた違和感はそれか。

 『肉体強化ブースト』を掛けた時は影響は少なかったみたいだから……生命属性ではなく闇属性が問題だったか。

 だがいくら適正でないとはいえ少し魔力を流しただけであそこまで暴走するとは……つまりカロフは当たりといった所かね。


(なぁ、冷静に分析するのはいいが……アレは放っておいていいのか?)


(え?)


「リィナ……! ハァ……俺は……もう……ハァ!」


「か、カロフ!?」


 っておおう! いつの間にかカロフがリィナを押し倒そうとしてる!

 いいぞ! もっとや……じゃなくて! これは流石に想定外。このままではR18タグをつけることになってしまう!


「第一、第二術式強制終了! 第三術式展開『鎮静化ダウナード』!」


「ハァ……ハァ……は! り、リィナ……す、済まない! 俺はなんてことを」


 しまったな、二人をくっつけるつもりが完全に裏目にでてしまった……すまんカロフ。


「わ、私! カロフなら……いいよ……ちょっと乱暴にされても」


 わぁおマジかい!? 確かにリィナはバッチコイだって聞いてたが、ここまでとは。


「だから、カロフがしたいなら……」


「ま、待ってくれリィナ! やっぱりこんな形で軽々しくヤるのはダメだ……」


 カロフのやつ、ここまできてまだヘタれる気か!? ……いや待て、これは今までとは様子が違う。


「元はと言えば俺が悪かったんだ、お前はずっと待っていてくれたのに俺が煮え切らなかったばかりに。だがもう逃げねぇ! 俺は覚悟を決めたぜ!」


「カロフ……」


「リィナ! 好きだ! 俺と付き合ってくれ!」


「う、うん! 私も……カロフのことが好き!」


 いやっふううううう!!

 聞きましたか奥さん! まったく、やっとカップル成立ですよ!

 見て下さいよあの二人の顔、デレデレしちゃってまあ……爆発しやがれ!

 ……まぁ何はともあれ。


「コングラッチュレーション! ……おめでとう! ……カップル成立おめでとう!」


「ワンワン!」


「え、む、ムゲン君!? なんでここに」


「おおおいテメェちょっと待て! お前何時から見てやがった! まさか最初から……!」


「い、いやいや! 今、ちょうど今来たところだ!」


 誰もカロフが盛のついた獣のようにリィナに襲いかかろうとしていたことなんて知らないぞ!


(白々しい奴め……)


「ま、まぁいいさ告白するところを見られたのは恥ずかしいがいずれはバレることだしな。それで、お前は何しにに来たんだ。何か用事でもあったんだろ」


「え!? あー、それは……」


 勢いで出てきてしまったから考えてなかったな。

 このままでは出歯亀していたことがバレるかもしれん……そうだ!


「お前、まさか本当はずっと覗いてたんじゃ……」


「いやいや! えーっと、そう! カロフに伝えたいことがあって来たんだった!」


「伝えたいこと?」


「ああ、カロフ……お前にはどうやら魔術の才能があるかもしれない。という話だ」


「は? 俺が、魔術の?」


 ふふふ……驚いているな。んでとりあえずごまかしは成功っと。

 だが驚くのはまだ早い! こうなったら愛に目覚めた戦士カロフを私の手でとことん鍛え上げてやるぜ!


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