第六章プロローグ

とかげくん【神様のこと】

 神様になってぼくはびっくりしたんだけどね。すいりゅうさんがお昼寝ばっかりしていたのには、ちゃあんと理由があったんだ。神様ってね。ごはん食べないんだよ!

 そういえば、すいりゅうさんがごはんを食べているのって見たことがなかったな。

 ごはん食べなかったら力が出ないでしょう。だけど神様って、すごく力を使うんだよ。なんと言っても、自然を操るんだからね。

 そんな力がどこから湧いてくるのかっていうとね。みんなから少しずつ分けてもらっているんだよ。花も木も。人もとかげも。川も空も風も光も。世界のぜーんぶから、少しずつ。


 だからね。必要のない力は使わない。なるべく動かないようにして、余った力は自然に還す。そうそう。すいりゅうさんから降ってきていた、あのきらきらしたやつだよ。

 あれは、使わなかった力をすいりゅうさんがみんなに還していたんだね。力を分けてくれたみんなの優しさと。使わせてくれてありがとうっていうすいりゅうさんの優しさと。そんな優しさで出来ているから、あんなにきらきらして心地好かったんだね。



 そういう訳で、ぼくもこの頃はお昼寝ばっかりしているよ。すいりゅうさんの松の木に巻きついて。

 もうすいりゅうさんはいないけど、ここにいるとなんだか安心する。それにね。知らないうちに小さな泉が出来ていてね。それを見ていると、離れたくないなあって思うんだ。なんでだろうね。おかしいね。





 毎日のんびりと過ごして。ひでりになったり大きな嵐が来たりしたらお出掛けしていって。神様は自分のためには動かないものなんだね。だって、みんなの力を使わせてもらっているんだもん。我が儘なんて言ったらだめだよね。

 だけどね。

 すいりゅうさんは、ぼくのためにいっぱい動いてくれたんだ。

 本当は、神様はあんなふうに動いちゃいけないんだよ。ぼくはすいりゅうさんのしてくれることが何もかも嬉しかったけど、それがいけないことなんだっていうのは知らなかった。ぼくはとても大切にされていたんだね。


 すいりゅうさんに会いたいなあ。

 いつかって、いつになったらくるのかなあ。


 松の葉っぱがさらさらと揺れる。クルミワリシジミが飛んできてぼくの鼻先でふわふわと遊ぶ。

 穏やかで、心地好くて。だけど寂しい。

 ぽかぽかとおひさまが照って眠気を誘う。

 ぼくは欠伸をして目を閉じた。


 夢のなかでなら、大好きなすいりゅうさんに逢えるから。

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